216:輝翼の塔も頑張っています!
■ケィヒル・ダウンノーク 50歳
■第483期 Aランク【魔術師の塔】塔主
怨嗟の声を上げてノービアは【宝石の塔】と共に消えた。
五月蠅い上に大した時間稼ぎも出来ず……。
いくら何でも攻略されるのが速すぎだ。足止めに徹すれば如何様にもやれただろうに……全く最後まで役に立たない男だったな。
唯一の収穫はメイドとヴァンパイアのクイーンの力を見られたことくらいか。
ウィッチクイーンは私の所にもいるから問題ない。しかしヴァンパイアのクイーンとは聞いたことがない。おそらく固有魔物のはずだ。
見た感じでは純粋にヴァンパイアの強化版。それに指揮能力が加わったというところだろう。
ヴァンパイアがAランクであることを考えれば必然的にSランクとなる。
【女帝】はもう一体、フェアリーのクイーンもいるはずだがそちらもSランクの固有魔物に違いない。
全く、二年目のCランクで二体のSランク固有魔物を召喚しているなど規格外にも程がある。
その上あのメイドまでいるのだからな。やはりこの同盟において【女帝】が最も危険なのは間違いない。
そのメイドだが【宝石の塔】での戦いを見た感じ、斥候能力・指揮能力もあるようだが、やはり戦闘能力がバカげているようだ。
ベンズナフがあれほど警戒するのも頷ける。
特に攻撃・敏捷はSを超えるはずだ。
ジュエルヒュドラのブレスを避け続け、攻撃すればあの硬さが無意味の如くズバズバと斬られる。
弱点としては魔法が使えないことが大きい。
従って対策するならば多方向からの遠距離魔法斉射となるだろうな。
避けられないほどの範囲魔法を撃ちこめばあのメイドであっても無傷とはいくまい。
となればこちらの防衛陣を崩すわけにはいかん。
一階層から魔法の斉射を試みてメイドの対応を見る。同時に敵部隊にもダメージを当て削りに専念する。
上層に行くにつれ魔物は強くなるから魔法の威力も増す。
それでも上がって来るようならば眷属に加えて私の限定スキルを使うしかあるまい。
問題はその分【赤の塔】に回す戦力がなくなるので今の攻略速度を継続することになるが……まぁメイドを優先して処理するべきだな。
一~二体、Sランクを回すことも出来るがメイドに対する防衛が薄くなる。
今の攻撃陣でも【赤の塔】は攻略可能だしな。そこで焦る必要はない。
それと自由になった【女帝】がどこの援軍に入るかが重要だ。
【赤】に属するならば【赤の塔】に攻め入っている私の軍勢をまず斃しにくるはず。
あの攻撃陣ではメイドを斃すことはできないだろう。即ちそれは攻撃陣の壊滅を意味する。
ならば先んじて攻撃陣を厚くするか……いや、まだ私の塔に侵入してくるのがどこの塔か判明していない。
仮に今の防衛陣を崩して【赤の塔】に送り込んだとしよう。
【女帝】が【忍耐】に属し、その【忍耐】が【魔術師の塔】に攻め入るとなれば薄くなった防衛陣でメイドを相手にすることになる。
その場合はメイドの足止めに専念し、【赤】の攻略を全力で……ダメだな。メイドの攻略速度は異常だ。【宝石の塔】での動きを見る限り私の塔が攻略される危険性が高い。
そもそも私が【赤の塔】を攻略したところでメイドは生き残るのだ。遅かれ早かれ攻略されてしまう。
となればやはり今のまま継続するしかないか……。
メイドを確実に屠り、その上で【赤の塔】を潰すと。それが一番いいだろう。
そう考えて眷属に指示を出し終えたころ、画面のザリィドが声を上げた。
『くそっ! メイドがこっちに来やがった!』
次は【霧雨】か……!
しかしどこに属したのか判断が……これで【赤】ならば私の攻撃陣が殲滅されるかもしれん。
第三陣を送るかどうかを決めたいところだが……。
「コパン、ザリィド! 敵方の一階層に見張りの魔物を入れよ! 【女帝】がどこに属するのか見極めるのだ!」
『承知しました!』
『了解! 雑魚を少しだけ置いときますぜ!』
我々の画面で見える敵の塔の情報は『自分の魔物の様子を見る』ことでしか得られない。
自塔ならばともかく敵の塔では視点を自由に変えられるものではないのだ。
【女帝】の援軍が味方の防衛陣と合流するつもりならば、その塔の一階層の転移門から現れるはず。その確認のために魔物を配置しておかなくてはならんというわけだ。
これで【赤】【忍耐】【輝翼】の転移門に我々の魔物が配置された。
どこかから【女帝】の軍勢が入って来れば、そこに属すると判明する。
それによってこちらの打つ手が変わる、が……後手に回っている感は否めんな。
【宝石】をとられた時点でリードを許してはいるのだが、だからと言ってこのままズルズルと行くわけにはいかない。
メイドさえどうにか出来れば……いや、【女帝】が【霧雨】を攻めているのなら、今のうちに【赤】を全力で攻撃すべきか?
その場合、【女帝】が【赤】の防衛陣に加わろうとすれば……私の第三陣のみとぶつかるか。
【赤の塔】で戦わせるよりは【魔術師の塔】で戦わせたいが……くそっ! 不確定要素が多すぎる!
<青き水鏡>で事前に全ての情報を得ているはずなのに、戦略を隠され続けているせいで向こうに有利な状態を作られているのだ。
これを逆転するにはどこかで大きな痛手を与えるしかない。
願わくばその痛手がメイドの討伐であれば……その為には――。
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 51歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
一階層の転移門からフォッグスネークが入って来た。【女帝の塔】でも使われておるFランクの魔物じゃ。
攻撃陣の第三陣というわけではあるまい。
間違いなく目的は監視……【女帝】がどこの塔に属するかを見極めたいということじゃろう。
それは即ち、向こうが『まだどうするか決めかねている状態』だと言うことじゃ。
エメリーの存在に怯え、その対策を講じたいがどうすべきか悩んでおると。
こちらとしてはその情報を与えたくはない。【女帝】の属する先を教えたくはない。
しかしそれは防衛の援軍が来ない、もしくは遅らせると同じじゃ。
自分で自分の首を絞めるのと変わらん。
監視役のフォッグスネークを斃した上で【女帝】防衛陣を入れさせるという案もあるが……これは無理じゃな。
斃すためには眷属伝達経由で魔物に指示しなければならぬし時間が掛かる。
それに斃したところで第二の監視役はすぐに入って来るじゃろう。Fランクの魔物ならば無駄になろうがいくらでも使うはずじゃ。
ならば【女帝】防衛陣の投入を極力遅らせるか……いや、さすがに厳しいか。
【霧雨】の攻撃陣は現在、五・六階層の『樹氷雪原』。
雪道と吹雪は行軍の足止めとしても優秀じゃが、それで余裕があるかと言われるとそんなことはない。
守りを固める策として七・八・九階層にガルーダ(A)や
逆に言えば迎撃の手を緩めている形じゃ。削るにも限界がある。
向こうの陣容を見れば大戦力を維持したまま上って来るのは間違いない。
指揮官はおそらくスピリットレギオン(S)。
その他スペクター(A)、スピリット(B)、ファントム(B)などゴースト系が最も多い。
さらに飛行部隊としてファントムイーグル(B)やクラウドクロウ(D)、地上にはラミアクイーン(B)に率いられたラミア(D)部隊に加え、アシッドナーガ(A)も見える。
ここまでの軍勢が相手では
ゴースト系が多いのが辛い。物理は効かぬし、魔法で攻撃するにしても向こうの数が多い。
まぁ向こうはこちらの情報を持った上で編成しておるから厳しいのは当たり前じゃがな。
センガー爺と
さすがに【宝石の塔】の攻略に続き、【霧雨の塔】の攻略も全て任せるというわけにもいくまい。わしの手勢も使わねば。
……うむ、やはり普通に援軍を出してもらうか。
その上で速やかに【霧雨の塔】を攻略するほかあるまい。
シャルとは【宝石の塔】が攻略し終わったタイミングでこのようなことを話し合った。
◆
「シャル、攻防の編成はどのようにするつもりなのじゃ?」
『攻撃にエメリーさんとターニアさん部隊、パトラさん部隊、ラージャさん部隊。防衛にはヴィクトリアさん部隊、ナイトメアクイーン部隊、ウィッチクイーン部隊を考えています』
防衛は分かる。ヴィクトリアを眷属伝達要員と考えておるのじゃろう。
しかし攻撃にパトラとラージャを使うということは……攻略が遅くなるのではないか?
『アスラエッジ、サジタリアナイト、マンティコア、カーバンクルとユニコーン・ヴァルキリーも攻撃に回します。おそらくエメリーさんとターニアさん部隊が先行するような形になるかと』
なるほど。部隊を前後に分けるつもりか……本来ならば愚策も愚策じゃが利点も確かにある。
先行するエメリーとターニア様に最低限の露払いをさせ、疑似的な第二陣で詰めるということじゃな。
ならばわしの攻撃陣は先行部隊に同行させるとしよう。
「あい分かった。こちらからはゼンガー爺とフィルフ、フレスベルグ(A)を十体、ヴィゾフニル(B)を二十体出すぞ。後から送り出す形となるが先行部隊に追いつかせる。エメリーに使わせてくれ」
『えっ、大丈夫なんですか、そんなに出して』
「元々攻撃陣と想定していたからのう。痛いは痛いが【女帝】の援軍もあるし召喚しておいた魔物もおる。それで何とか食い止めてみせるわ」
『分かりました!』
「それに思っていたより【霧雨】にはアンデッドが多い。神聖属性の手は多いほうが無難じゃぞ」
◆
と、このような内容じゃな。
昨日までに決めておいた策もあるが実際に戦ってからの変更点というのも多い。それを逐一修正しながら戦わねばならん。
向こうの陣容も予想はしていたが意外な部分も多くある。
攻撃陣でこれほどアンデッドを使っておるのじゃ。【霧雨の塔】の中にもおそらく多くいるはず。
【霧雨】がどういう魔物を扱うかは事前に予想はしておったが、水属性以上にゴーストが多いとは意外じゃった。
さすがにBランク上位の塔。一筋縄ではいかぬ。
さて、【女帝】が【輝翼】に属すると分かれば向こうはどう動くか……。
ドロシーやアデルにも伝えておかねばならんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます