338:セリオさんも動き始めます!
■セリオ・ヒッツベル 24歳
■第499期 Cランク【審判の塔】塔主
悪夢のような一日と言っていいだろう。第502期の内定式が終わった。
伯母上が塔主になった時点でそこから先は僕にとって苦難の道なのだが、それが見事に確定した日となった。
もはや半分伝説となっているあの第500期よりも、もしかしたら厳しい面子なのでは? そう思えるほどの新塔・新塔主たちだった。
少しだけまとめておこう。
=====
●【恋人の塔】
塔主:シェイク・レンティス 青年
●【竜牙の塔】
塔主:ヴィラ・ヴェルガダーツ ミッドガルド騎士団
●【橙の塔】
塔主:エドワルド・フォン・バレーミア バレーミア前国王
●【正義の塔】
塔主:アダルゼア・ベリダス 神聖国家ペテルギア大司教
●【毒の塔】
塔主:メルティエンリ 女性
●【風雷の塔】
塔主:シフォン・ヒッツベル 僕の叔母
=====
まとめて呼称される名塔と
おそらく他にも貴族関係者や大商人などもいるはずだ。僕はそこまで詳しくはないが後で調べる必要がある。
この中に伯母上がいるということが幸いでもあるし、一方で悪夢でもある。
メイド姿の
そして内定式終了後すぐに送られてきた手紙で十割になった。やはりあの死神の同類かと。
仮に【女帝】のメイドと同格の存在だとして、戦闘面で言えばこれ以上ないほどの
群雄割拠となりそうな502期の中でもトップとなれる力を有していると言ってもいい。
500期のプレオープンでも『無の塔』だった【女帝の塔】をメイド一人の力だけで乗り切ったのだ。それと同じことが出来るのであれば、少なくとも伯母上が死ぬようなことはない。
だが、すでに【女帝】のメイドの関係者であることが判明している。他の誰でもない、【女帝】からの手紙によって。
間違いなくメイドの二人は知り合いだ。普通に考えれば近しい間柄……同じ屋敷で働いていた同僚メイドというところか。
それは即ち、互いの情報を持っているということに他ならない。
これを最大限に活かすのであれば不可侵条約といったところだろう。
互いに口外しないよう魔法契約等で縛る。それがベストの形と考える。
「最大限に活かすのであれば同盟では?」
「馬鹿を言うな。僕は近づくのも嫌だと言っているだろう」
本当は会談だってしたくないのだ。手紙のやりとりだってしたくない。
しかし伯母上があんなメイドを賜ってしまったのなら仕方ないじゃないか! なぜよりにもよってメイドなのだ! 普通の
……コホン、話を戻すが、あの二人のメイドが近しい間柄ではなく、逆に敵対している可能性もある。
メイド服が同じだからといって友好的な関係かどうかは分からない。異世界の常識など僕には分からないのだから。
そうであった場合、【女帝】との会談の意味合いも変わってくるのだ。
「いずれ【風雷の塔】は私が潰す。だから滅多なことを吹聴するんじゃねえぞ」と脅しの意味での会談なのかもしれない。
仮に
世間の人気を使った回りくどい手だって使えるはずだ。最悪、遠く離れたヒッツベルの街にまで被害が出る。
となれば敵対するのは悪手。かと言って近づきすぎるのも悪手だ。僕にとって。
だからこそ不可侵条約あたりが一番の平和的解決になるのでは、と踏んでいる。
「まぁ何はともあれ伯母上とメイド本人に会ってみなければな」
「そうですね。全ては確認と対策からです」
その日の夜。僕は伯母上と『会談の間』に向かった。もちろん
とりあえず伯母上が時間通りに【風雷の塔】から出て来てくれたことに安堵した。忘れられてそうで怖いのだ、伯母上の場合。
「セリオちゃん、ミリアちゃん、こちらティナちゃんよ。よろしくね」
「初めまして。シフォンさんの
ティナという娘は伯母上の背後に立ち、まさしくメイドといった立ち振る舞いを見せた。
やはりどこか【女帝】のメイドを彷彿とさせる。姿勢なのか手の組み方なのか分からないが。
僕は意を決して聞いてみた。
「【審判の塔】の塔主で伯母上の甥にあたるセリオ・ヒッツベルだ。よろしく。それでティナさんは異世界人……ということでいいのかな?」
「…………喋ってもよろしいですか? シフォンさん」
「え? ああ、はい、大丈夫よ。まあまあちゃんとしたメイ「メイドではありません侍女です」ごめんなさいね、侍女さんというのは大変なのね~」
どうやら侍女というのは主人の許可なしに喋れないものらしい。挨拶は別ということか。
そしてティナが伯母上に忠告したところでミリアが反応した。
眷属伝達で「あの死神に近い気配です」と言ってくる。「帰らせてくれ」とも。誰が帰すか。
「えっと、私はアイロスという世界の出身で、寿命で死んだのですが、気付けばこの世界に喚ばれていたという感じです。年齢も若返りまして」
「ほう、
どうやら
しかし記憶や装備品などは晩年のものになっているとか。ティナ自身もよく分かっていないような風だった。
いずれにせよ晩年のイメージで最盛期の身体を動かすのは難しいらしい。ティナも今現在は違和感ばかりのようだ。
「ちなみにだが…………エメリーという四本腕のメ……侍女を知っているか?」
「ええっ!? エメリーお姉ちゃんを知っているのですか!?」
やはりか。まぁ向こうが知っているのだから知っていて当然だ。
しかし『お姉ちゃん』ときたか……だいぶ近しいようだな。
「二年前、ティナさんと同じように
「そうなのですか! それは良かった……のですかね? その【女帝の塔】は斃すべき敵なのですか?」
「ティナさん自身はどうなのだ? エメリーという人との関係性が知りたい」
「えっとですね、私は前の世界で――」
そこから聞いたのはまた頭が痛くなるような話だ。
どうやらティナとエメリーは共に同じ『ご主人様』に仕えていたらしい。
しかも『ご主人様』はその世界最強の存在で、貴族でもないのに百人以上の侍女を抱えていたという。その中の二人がティナとエメリーというわけだ。
その『ご主人様』は組合員という、こちらの世界で言うところの冒険者のような活動をしていた。侍女はパーティーメンバーと同じような扱いらしい。
屋敷では主人の給仕等を行い、迷宮――こちらで言う塔のようなもの――に行けば共に戦う。異世界の侍女とはそうしたものらしい。恐ろしい世界だな。
エメリーは百人以上の侍女を束ねる侍女長だそうだ。そしてティナは古参ではあるものの優秀な侍女が多すぎたため、妹のようなポジションがずっと抜けずにいたらしい。
ちなみに『ご主人様』の最初の侍女がエメリーで、ティナは八番目。その時はわずか八歳だったと言う。だから侍女仲間の皆が姉のような存在だったと。
「ちなみにエメリーはとても強いと話に聞くがそれは本当か?」
「エメリーお姉ちゃんは最強ですよ。侍女の誰に聞いたって最強はエメリーお姉ちゃんって言いますし」
はぁ、と思わず深い溜息を吐いた。
それはそうか。最強の『ご主人様』の第一侍女で侍女長だものな。それで弱いはずがない。
これでもしティナのほうが上であったなら、また話は違ったのだろうが。
「あらそうなの~? ティナちゃんのステータスだってすごかったじゃない」
「そうなのですか、伯母上」
「ええ、Lv99だったしS+が二つとSが二つと……」
「ちょっと待って下さい! それ以上はいいです!」
どこに間者の耳があるか分からないのに、余計なことを言わないで頂きたい。
しかし少し聞いただけでもSランク固有魔物を余裕で斃せそうなステータスであることは分かった。
エメリーはそれ以上ということか? どんな化け物なのだそれは。
「えっと、あんまり言うのもアレですが、ある特定の条件下であれば私でもエメリーお姉ちゃんに勝てます。でも模擬戦では負け越していますし、エメリーお姉ちゃんが最強なのは間違いないですよ」
「仮に【女帝の塔】と【風雷の塔】が戦うとなった場合、ティナさんはエメリーと戦えるのか?」
「それは戦いますが……どうでしょうね。確実に勝つとは言えないです。一対一の状況に持ち込んで、あとは時の運という感じでしょうか」
「なるほど。とりあえず分かった」
悲観するほどの力量差ではないということだな。六:四でエメリーという所にしておこう。それが分かっただけでも僥倖だ。
「ちなみに【女帝の塔】と敵対するか友好的になるかはまだ何とも言えない。仮に敵対することになっても【女帝の塔】と戦うつもりはない、と言っておく」
「ほっ、そうですか。それは良かったです」
「実はその【女帝】から手紙が来たのだ。ティナさんがエメリーに会いたいと言うようならば連絡をくれとな」
少なくとも敵対する道は減ったと見ていいだろう。
【
ティナがエメリーにとって身近な存在であるならば【風雷】に仕掛けるような真似もしないはずだ。……おそらく。
であれば会談とするのも
こちらとしてもティナの能力を吹聴してもらっては困るのだからな。どうにかして口外させないように持っていくべきだろう。
「それは私としてはエメリーお姉ちゃんに会いたいですけど……塔同士のあれこれがよく分かっていないので……シフォンさんにお任せします」
「あら、会っちゃえばいいじゃな~い。異世界に来て一人ぼっちなんて可哀想だわ。お仲間なんですから仲良くするべきだもの」
「コホン、僕としてはある程度の距離をとったほうがいいと思っている。どの塔であっても敵対する可能性があるからな。しかし会わないという選択肢もない。それは互いのためにも」
「難しいわね~」「難しいですね」
「それは追々説明する。バベルの内情というのは非常に複雑なのだ。とにかく僕が言いたいのは″会うには会うが、仲良くはしすぎないよう注意しろ″ということだな」
まずバベルにおける塔同士の関係やルール、
その全てを鑑みて、どれほど近づくか、どれほど遠ざけるかを決めるということだ。
というか伯母上には八割方教えたのだがな……ティナに教えるついでに復習させよう。
ともかく一度会うつもりでセッティングするか。
なるべく早いほうがいいだろう。お互いのためにもな。
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