第十八章 女帝の塔は三年目に入ります!
337:第502期の内定式(正規ルート)です!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
「なるほど。昨年もこうして情報を得ていたのですか」
「別でも手配はしていますわよ? ですが情報はいくらあっても良いものでしょう?」
第502期内定式。その日は全ての塔が休塔日となり、塔主は外出を禁じられる。
そういえば私の内定式の時も、広場から【六花の塔】まで案内されたがバベルの中では誰一人として見かけることはなかった。
私もバベルに挑んでいた身なので全塔休塔日なのは知っていたが、塔主まで外出禁止になっているとは知らなかったな。
そして私は今、【女帝の塔】にいる。
同盟の六名がテーブルを囲み、それぞれに紙とペンを用意して準備を整えていた。
どうやらフッツィル殿と
そうやって新塔主の情報を逸早く得ているのだと。
なるほど、これはこの同盟ならではの力技だな。確かに集まったほうがいいだろう。
「始まるぞ。一人目、ポクァス。小太りな中年。商人かのう」
「
「既出の塔ですわね。特に目立った塔ではないでしょう」
フッツィル殿が塔主の名前と容姿、ターニア殿が
皆はそれを紙に書き、他に情報があればそれも記す、という流れだ。
これはありがたい。改めてこの同盟に入って良かったと思えるところだ。
ただ今年はどうやら少し大変らしい。
なんと95人もの新塔主がいるのだ。これは昨年の72人を大きく上回る。
第500期ほどではないにせよ、かなり多い部類に違いない。はたして何枚の紙を使うことになるのだろうか。
そして内定式が進むにつれ、様々な驚きが私たちを襲った。
人数だけの話ではない。その内実もまた衝撃的なものだったのだ。
まずは8人目でいきなり
【恋人の塔】。塔主はシェイク・ランティスという青年。おまけに
「アイアタルは【春風の塔】でも主力として使っておるが、有能な悪魔じゃぞ。エレオノーラには勿体ないほどのな」
とはフッツィル殿の談。
私も名前くらいしか知らないマイナーな悪魔だ。それ故に相手からすれば脅威とも言えるだろう。
続いて20番目で
数月前にドロシー殿が【竜鱗】を破ったが、これでまた三塔の
塔主はヴィラ・ヴェルガダーツ。
「騎士鎧に盾と十字の国章が入っておるな」
「おそらくミッドガルドの騎士団ですわ。ヴェルガダーツ……ひょっとして大物かもしれませんわね。後で調べておきましょう」
「相変わらずよく知ってるなぁ、アデルちゃん」
本当だ。私も一応は学院で習ったがここまですぐに出てはこない。
アデル様が知識を補填してくれるので、詳しい情報を得ることができている。素晴らしい環境だな。
続いて41番目。ここが問題の一つ目だ。
「塔主はエドワルド・フォン・バレーミア……ん?」
「ちょっと! バレーミア王国の前王陛下じゃありませんの! 塔主になりましたの!?」
すでに退位しているらしいが、一国の主と言っても過言ではない。それが塔主に選ばれるというのは異例も異例だ。
しかも塔は【橙の塔】。
だが衝撃は続く。それは52番目のこと。
「塔主はシフォン・ヒッツベル。平民の女性……いや、ヒッツベルとはまさか」
「【審判の塔】のセリオ・ヒッツベルの関係者かもしれないですわ。要調査ですわね」
「え~、
「「「えっ!?」」」
ついに出たかと声を上げたが、【審判】の関係者だとすると話は変わる。
二月ほど前にノノア殿が
向こうもこちらを敵視していると思われるので、その関係者に
だがその
「まあ、エメリーさんと同じ侍女服ですね~」
「っ! ターニアそれは本当ですか! 侍女の
これほど慌てているエメリー殿を見るのは初めてで、私たちは皆、エメリー殿の様子を伺ってしまったのだ。
それでもエメリー殿はターニア殿に掴みかかるようにして問いかける。
「はい~。兎の獣人の方で~」
「兎!? 武器は! 腰に得物を佩いていますか!」
「えっと~、腰の左右に剣を~。双剣ということですかね~」
「はぁ…………そうですか、分かりました」
「ちなみに【風雷の塔】です~」
エメリー殿は頭を抑え、しばらく下を向いていた。酷く悩ましい様子だ。
いつもあれほど冷静なエメリー殿がこれほど取り乱すのだ。大変な事態になっていると見て間違いないだろう。
「エメリーさん、もしかしてその……お仲間ですか?」
「おそらくは。ティナという
「そのティナさんもエメリーさんと同じような方なのですか? 戦いもできる侍女さんという感じの」
「侍女としては及第点といった所ですが、戦闘面に関しては別格です。百人以上いた侍女たちの中で一番の強者ですから」
「「はあ?」」「えっ、エメリーさんよりも強いのですか!?」
「一対一の全力勝負であれば負けますね。【剣聖】の異名を持っていたほどの双剣士です」
皆、開いた口が塞がらなかった。エメリー殿より強いという事実が信じられなかったのだ。
以前にエメリー殿から聞いたことがあった。
エメリー殿は異世界で百人以上の戦闘侍女集団をまとめる侍女長の役割だと。
しかし戦闘面に限って言えば部隊長にすぎず、それは攻撃・敏捷・防御も特段秀でていなかったからだと言う。私たちからすれば「どこだが!」と言いたいところではあるが事実らしい。非戦闘種族であるが故の限界があるとエメリー殿は仰っていた。
そしてティナという兎獣人の
敏捷は侍女内で第二位。攻撃に関してもトップクラスで、さらに主武器は【魔剣】だそうだ。
エメリー殿の持つ【魔剣グラシャラボラス】とは効果が違うらしいが、強力な武器には違いないだろう。
そのような規格外が新塔主のもとへ現れた。しかも【審判】の関係者と思われる者のもとへ。
「今ファムで確認した。やはり【審判】の身内のようじゃな」
「シャルロットさん、内定式が終わったら【審判】に手紙でも書いたほうがいいですわ」
「そんなことしたらエメリーさんとの関係がバレてしまわないですか?」
「すぐにバレますわよ。そして向こうの
「……そうですね。分かりました」
そうか。そのことを失念していた。
エメリー殿がティナという
それが【風雷】の塔主から【審判】に伝わればこちらにとって痛手になる。
互いの
かと言って同盟に引き込むというのも……【審判】には二回も喧嘩を売っているのだしな。難しいのではないだろうか。
そんな混乱がありつつも、内定式は進んでいる。
じっくり話し合うのは後にするべきだ。
若干の中だるみの後、87番目にまた
しかも【正義の塔】。二年前にシャルロット殿が落とした塔だ。それがたった二年で再登場してきた。
さらに驚くべきはその塔主、アダルゼア・ベリダス。
彼は神聖国家ペテルギアの大司教だ。それは豪奢な神官服を見ればすぐに分かる。
本の
おそらく【聖の塔】同盟に組み込まれるのではないかと思う。
Fランクのままでは弱すぎるが、かといって大司教位の大物を放置はできまい。
そうなると【聖】の
これだけ色々とあったのだから腹いっぱい。もうこれで終わりだろう。
そんな気配だったところで最後の衝撃が待っていた。ラストを飾る95番目のことだ。
塔自体は【毒の塔】と大したことはない。既出の塔だ。
塔主も分厚い眼鏡と汚いローブ以外は普通の女性。名前はメルティエンリというらしい。
しかし
「えっと~、兎獣人……ではないですね。薄紫の髪の女性が、白い兎みたいなフード付きのケープを着てます~」
「兎のフード? 他に何か特徴は?」
「グローブもブーツも兎さんみたいで~、背中にジータさんみたいな特大剣を背負ってます~」
随分と特徴的な風貌だがそのような英雄は聞いた事がない。
となるとまた異世界人か。はたまたゼンガー殿のように名の知られていない強者か。
いずれにしても
これで95人全ての新塔主が内定したわけだが、まとめてみると別の驚きも見える。
「ちゅうか人種多すぎちゃうか? ドワーフ2人はありがたいけどもやな」
「エルフも2人、獣人が3人、人間が88人か。例年ではありえん多さじゃな」
「何かしら神の意図があるのでしょうね。今年は少々悪戯がすぎる印象ですわ」
獣人はまだしもエルフとドワーフは年に一人いればいいほうなのだ。それが今年は二人ずつ入った。
これでバベル内にエルフが七人、ドワーフが四人となる。一気に増えたな。
それでなくても
どれも注目に値するが……はぁ、神は一体どういうつもりなのだ。まさかこれも悪戯のつもりか?
こちらの身にもなって欲しい。荒れる未来しか見えないではないか。全く困ったものだ。
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