417:【空城】同盟攻撃陣が【女帝の塔】を進んでいます!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
マキシアさんの持っている<空虚なる城>という限定スキルは、『敵塔の塔構成を見る』ものだと思っていました。
ここまで見ていて判明しているのは、『地形と罠は全て分かる』『魔物はおそらく分からない』『調べた時の状態でしか塔構成は分からない』という感じですかね。
とりあえず迷路系の階層はほぼ無駄ですし、罠は直前に弄ったもの以外全て無駄ということになります。
今まで一度もお披露目していない『帝都』の大通りルートにある罠も避けられていましたからね。
水路の中に仕込んで発見しづらくしていたのに、そして<罠察知>を持っていそうな魔物もいないのに避けられましたから。
二階層の様子を見ていてもそれが偶然ではないと分かります。
二階層『エントランス』から魔物は全て消しましたが、罠は全て残してありました。
小部屋に入る前の通路にある罠も、扉を開けたら発動する″斥候殺し″の罠も、全てが警戒された上で的確に避けられました。
三階層『地下牢獄』は足元が水浸しで霧が立ち込めた牢獄迷路です。
罠も多いのですがそれはあまり期待できそうにないですね。
ここには霧を出す用のフォッグスネーク(F)を二十体、遠距離から感電させる目的で
この階層はとにかく進軍しにくい構成となっていまして、通路も狭いですし連続小部屋状になっている牢屋もいちいち鍵を外さないと通れない仕組みになっています。
その扉にも罠が仕込んであるのですがそれは置いておきましょう。どうせ無駄ですから。
敵部隊はどうしても長くなりますし、飛行系魔物はほとんど地面を歩いているのと変わらない高さまで下がります。
指揮官やヴァルキリーは馬やペガサス、グリフォンに乗っていますがそれもダメですね。下りないと牢屋に入れません。
そうして陣が乱れているところに
壁が牢屋となっているのを利用するわけですね。視認も出来るし、魔法は通るし、水も繋がっているし、でも近づけない。
もちろん向こうからも魔法を放つことは出来るのですが、霧のせいでろくに見えません。
遠くにいる霧の中の一体の
一方、
敵攻撃陣は雷魔法に晒されながらも迎撃は無理だと判断し、さっさと突破しようとしたようです。
しかし罠付き・鍵付きの扉で思うように進軍出来ず、雷魔法を延々と撃たれ、最終的には天井から降ってくるアシッドスライム(C)の群れもまともに食らうはめになりました。
<気配察知>で分かると思うのですがね。天井など気にする余裕がなかったのかもしれません。運が良かったと思っておきましょう。
「いやこれはお見事ですね。さすがはシャルロット殿です」
「ダメージを見越せないただの嫌がらせで思いがけない大戦果やったな。超低コストで時間とダメージを稼ぐとか最高やん」
「わしもここまで有用な階層だとは思っておらんかった。二年間『地下牢獄』を弄り続けた成果じゃろう。牢屋の特性をよく知っておる」
「【赤の塔】で牢屋が使えないのが口惜しいですわぁ」
皆さん大絶賛で私も鼻高々です。クイーンの皆さんに伝えてあげましょう。女王会議で考えたものですからね。
とにかく雷魔法で全体的にダメージが入ったのと、一階層でのダメージが蓄積されていたのもあってスレイプニル(C)三体がここで斃れました。
アシッドスライム(C)の奇襲を受けたヴァルキリー(B)も一体ダウンですね。その他軽傷多数という感じです。
ボス部屋の魔物は消してあるので敵攻撃陣はそのまま四階層『トラップ回廊』へ。
ここはもう色々と弄ってあるのですが、基本的には『対・飛行系魔物』を狙った罠が多くなっています。
迷路は迷わないと思いますしある程度の罠は避けるかもしれませんが全てを避けるのは不可能でしょう。
狭い通路で陣は縦長になり、低い通路で屈むようになり、体格の良い虎部隊やスレイプニル(C)はどう足掻いても罠に掛かります。
グリフォン(B)なども同じですね。飛べば天井付近の罠に掛かりますし、歩いても地面の罠に掛かるだけ。
むしろこの階層は侵入者のほうが有利なのですよ。
人型ならば斥候次第で楽に突破できる。魔物だから余計に苦労するという設計なのです。
途中に油の敷いた下り坂があります。平時だと油は敷いていませんがね。
敵攻撃陣は坂に足を踏み入れるのに躊躇し、坂上は密集状態になりました。
そこで背後から
スケルトンナイト(C)五体、デスリーパー(A)一体、リッチ(A)三体の計九体だけです。
気配に気付いても無駄です。布陣も出来ませんから。
団子状態の敵攻撃陣は狭い通路で闇魔法に晒され、最後衛のグリフォン(B)が餌食となりました。
グリフォンが突進してきてもスケルトンナイトが止め、デスリーパーが狩る。風魔法はリッチに無効。
神聖魔法が使える
リッチ部隊の迎撃は不可能と見たのか、敵指揮官は急いで坂道を進むように指示をしました。油で滑りながら下る様はとてもAランクの塔の主力だとは思えないほど無様なものです。
アデルさんとドロシーさんは爆笑していましたよ。私は笑えませんけどね。顔が引きつるだけです。
ディーゴさんには敵攻撃陣を坂上から見送った後、壁にあるスイッチを押してもらいました。
すると坂の下では天井と壁から炎が出ます。これは普段坂下にあるスイッチを上に増設しただけですね。
これで敵全体がまた火あぶりにされることとなります。
侵入者がスイッチを押すのではなくこちらがスイッチを押すことで発動する罠。これも脱Cランク病の取り組みの一つです。
「【火刑】のシャルロットとか異名がつきそうじゃな」
「さすがに上手くいきすぎですわね。もちろん塔構成が優秀なのはそうなのですが」
「や、やっぱり斥候不足じゃないですかね……警戒が疎かになっていると思うのですが……」
「限定スキルを過信したのでしょうか」
「それか編成を重視したのかもしれん。【女帝の塔】を攻略するなら力のある魔物を揃えなあかんしな」
結果、斥候系魔物が少なくなったということですか。
だとすると本当にマキシアさんは『
今までこれで勝ててきてしまった、ということでしょうか。
……あと【火刑】のシャルロットは止めて下さい。有効な戦術を使っているだけですから。皆さんだって使ってますし。
■マキシア・ヘルロック 50歳
■第477期 Aランク【空城の塔】塔主
【女帝の塔】は想像以上に困難な塔だった。
<空虚なる城>で調べておいてこれなのだ。塔構成や罠だけに囚われない
二年間、延々と戦い続けたせいなのかもしれぬ。
濃密な
しかも四階層まででおそらく魔物を百体も使っていないのだ。
高ランクと呼べるのはリッチ(A)とデスリーパー(A)だけ。あとは全て低ランクの魔物だろう。
まともに戦っていればこちらが圧勝していたに違いない。
しかしまともに戦うことなど一度も許されず、全て戦術の前に敗走させられている。
結果的に進めてはいるが想定以上の被害と言ってもいいだろう。こんなはずではなかった。
この先も困難な階層があるとすでに分かっているのだ。
十・十一階層の『砦』ではおそらく大型魔物がいるだろうし、十二・十三階層では海階層が控えている。
十四階層ではおそらく大部隊が待ち受けているだろう。
はたしてこの調子でそこまで行けるのか? もしくは今のうちに第二陣を送るべきか?
そんなことを考えているうちにサルマットたちは五・六階層に辿り着いた。
この階層は『森』だ。【女帝の塔】らしからぬ階層。
きっと飛行系魔物や森から強襲してくる魔物がいるに違いない。
とは言え罠は皆無だし、上層に魔物を集めるならば強襲してくる魔物も少ないだろう。
――そう思っていたのが間違いであると、私はすぐに悟ることになる。
それはサルマットが部隊を布陣し直し、五・六階層の攻略に進んだところで起こった。
階層の中央、森の中から上空へと舞い上がる白い巨体……それは竜だった。虹色の翼を持つ白い飛竜がそこにいた。
どう見てもSランク固有魔物だ。それがこんな序盤に?
竜など最上階付近に配置すべき魔物のはずだ。連結階層が必要というのであればせめて十・十一階層に置くべきだろう。
それがなぜ五・六階層で……
……と考えているうちに事態は悪化の一途を辿る。
森から舞い上がったのは竜だけではない。左右の森からも次々に魔物が空へと上がっていった。
ウィッチクイーン(A)二体とハイウィッチの部隊。有翼の女性魔物とハイフェアリー(C)の部隊。もう一人有翼の女性魔物とストームイーグル(B)の部隊。スフィンクス(A)とガーゴイル(B)の部隊。白い大鳥とヴィゾフニル(B)の部隊。クロセル(A)とブリーズイーグル(B)の部隊。最後尾には固有魔物と思われる天使が二体とその部隊もいた。
おそらく五百ほどいるのではないだろうか。森の上空を埋め尽くすほどの軍勢。
固有魔物もおそらく六体はいる。Aランク以上の魔物が少ないのが救いではあるが、いくら何でも数が多すぎる。
正面からぶつかり斃して進むのは不可能。
つまり退くか、強行突破するかの二択しかない。
一度【潮風の塔】まで退き、防衛陣と合わせて敵攻撃陣を挟撃。それを斃してから再度攻撃陣を編成して【女帝の塔】を攻略する。それが良さそうにも思える。
しかしまたあの一階層から四階層までを攻略するとなると被害なしとは考えにくい。
そしてまたこの軍勢と相対するのだ。再編した攻撃陣でも正面から斃すことは出来ないだろう。
となれば今、強行突破するしかない。
平野はダメだ。空から数で襲われる。行くならば森を突っ切るしかないだろう。
それも固まっていては一網打尽にされるだけ。ならば散会して進ませるか……。
そうして敵の攻撃を潜り抜け、無理矢理にでもこの階層を突破できれば、後に残るのは二百体程度の魔物しかいない。
固有魔物や高ランクの魔物もいないだろう。ここでこれだけの魔物を出しているのだから。
であればやはり最速で攻略を目指すべきだ。突破した先に勝利は見えている。
『マキシア様……これは一度撤退すべきでしょうか』
「いいやサルマット、これはチャンスだ。よく聞け。まずは――」
私はサルマットに指示を出した。部隊を分けて森を進むようにと。
なるべく早く、この階層を突破せよと。
ここさえ……ここさえ突破出来れば必ず……!
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