418:圧倒的に制圧します!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



「うわっ、ホントに来よったで……アデルちゃんやるなぁ」


「確実に退くべきですがね……突破を読み切るとは、さすがアデル様です」


「退く判断が出来るのならば三階層あたりで退いていますわよ。押せる理由を探してもう無理矢理にでも押すしかないのですわ」



 【潮風の塔】に侵入している私たちの攻撃陣は向こうから見ても強力なはず。

 敵防衛陣総出で何とか守れるか? という判断をマキシアさんはしているだろうと。


 ならば退いて攻撃陣を再編したところでその戦力はたかが知れている。

 だから退かない。退けない。強行突破して【女帝の塔】の最速攻略を目指すしかないと、そうアデルさんは予想しました。

 五・六階層に上がったタイミングで戦力を見せても問題ないだろうと。



 私だったら絶対撤退させますけどね。ドロシーさんやシルビアさんも同じ考えでしたが。

 もはやそういった正常な判断が出来なくなっているのかもしれません。

 四階層までで散々やったのが一因なのでしょうか。



 私たちは最初から五・六階層に全ての戦力をつぎ込むと決めていました。上層ではなく下層で。


 理由としては色々とあるのですが、一つは魔物のいない階層を素通りさせても時間の無駄だということ。

 罠や戦術の検証は四階層までで終わりますからね。


 そうなると″削り″くらいしか目的は残らないのですが、こちらが小部隊を出したところで斃されるだけ。

 ならば一気に斃したほうがいいだろうという判断です。



 となると戦力を広げられる階層を選ぶ必要がありますし、一番の目玉を出せる階層が必要となるわけです。それが五・六階層の『城裏の森』しかなかったということですね。


 一番の目玉というのはパルテアさん(★S)の騎乗した虹竜アイダウェドブリング(★S)です。

 ドロシーさんとフゥさんの最高戦力による共闘。これがしたいと。


 【忍耐の塔】には飛竜がいませんから、今までパルテアさんの本気は見られなかったのです。竜人の本領は竜に乗ることで発揮されますから。それにフゥさんが協力したわけですね。


 フゥさんからしてもブリングがどれほど強化されるかというのは興味あるところでしょう。

 何より今後の同盟戦ストルグを見据えれば、試しておかないわけにもいきませんから。

 やるなら今しかないですし、出すなら一気に殲滅まで持っていくべきです。



 というわけで五・六階層を『決戦場』に決め、ほぼ全ての防衛陣をかき集めました。

 陣容としてはこのような感じです。



=====


【女帝の塔】シャルロット(B)

 妖精女王ターニア(★S)+ハイフェアリー(C)

 ウィッチクイーンベアトリクス(A)+ハイウィッチ(B)

 白翼天使アラエル(★A)+権天使プリンシパリティ(C)

 白雷天使ラミエル(★A)+大天使アークエンジェル(C)

 蒼騎士サグラモール(★A)、アスラエッジ(★A)


【赤の塔】アデル・ロージット(B)

 マナガルム(★S)、スコル(★A)、ガルム(★A)

 セイレーンパタパタ(★S)+ストームイーグル(B)


【忍耐の塔】ドロシー(C)

 竜人将パルテア(★S)、スクイッシュドラゴン(★A)

 スフィンクススフィー(A)+ガーゴイル(B)

 ウィッチクイーンフワリン(A)+ハイウィッチ(B)


【輝翼の塔】フッツィル(C)

 彩鳥シムルグエァリス(★A)+ヴィゾフニル(B)

 虹竜アイダウェドブリング(★S)、ネクロトレント(★A)


【六花の塔】シルビア・アイスエッジ(D)

 クロセルクロウ(A)+ブリーズイーグル(B)


=====


 計五百以上もの部隊になりました。壮観というよりも絶望です。


 空を飛べる部隊は全てブリングたちと並べています。

 そして森の中にはマナガルム部隊ですね。最初は隠しておきます。

 万が一突破されたら困るので、階層の最終地点にはネクロトレント、スクイッシュドラゴン、サグラモールさん、アスラエッジを並べて階段を封鎖しています。


 これで主力は全て出しきった格好ですね。

 一応保険の意味で七階層以降にも百体ほど置いていますが、この分ではおそらく出番なしでしょう。

 ちなみにリッチディーゴの部隊はすでに最上階に帰還しています。それが本当の最終防衛線になりますね。



「こ、こんなの……どうやって突破するのですかね……絶対不可能ですよ」


「強めの魔物をブリングやターニア様に当てて、その隙に鳥部隊が突破するであるとか、<影潜り>を使った斥候が突破することはありえますわ」


「しかし敵攻撃陣にはそんな魔物はおらんと。【空城】にも【潮風】にもSランクの鳥はおるはずじゃがのう」


「それよりもヴァルキリー部隊を優先させたということですか。気持ちは分かりますが……」


「強いて言えばゴーストの指揮官くらいやないか? どうにかできそうなのは」



 敵攻撃陣の固有魔物は四体。空と地上の指揮官は単純な騎士系魔物に見えますのでそれほど脅威には感じません。

 ドロシーさんの仰るように、何か出来るとすればゴーストの指揮官でしょう。虎も一応は警戒対象ですけどね。

 おそらく【夢幻】の固有魔物ですが、あれがSランクだった場合、固有スキルでどうにかしてくるかもしれません。


 ただ……どうみても多勢に無勢ですよね。


 私たちも実際に配置するまでここまでの軍勢になるとは思っていなかったのです。

 いざ配置してみたらこんな絶望的な布陣になってしまったわけでして。


 さすがの私も負ける気がしませんし、「現状の戦力で【節制】同盟も斃せるのでは?」と思い上がってしまいそうです。



 そうこう言っている間に敵攻撃陣は勢いよく進軍して来ました。

 どうやら中央と左右に部隊を分け、森の中を突破しようとしているようです。

 それくらい空が怖いということですね。戦いをなるべく避けたいと。


 しかし部隊がどう分かれたのかは見えていますし、集団で走っていれば森の中だろうとすぐに場所がバレますからね。空から全く見えなくなるわけじゃないですから。


 ただ各個撃破しやすくなっただけで悪手には違いありません。

 指揮官の指示なのかマキシアさんの指示なのか分かりませんが、さすがにこれはダメでしょう。



「パルテア、エンシェントヴァルキリー(S)を頼むで。そいつらが一番厄介やから」


「クロウもヴァルキリー部隊だ。抜けさせるなよ」


「パタパタ、マナガルムたちは虎部隊を狩らせなさい。貴女の部隊はその補助を」


「ではエァリスはスレイプニル部隊じゃな。指揮官に気を付けるように」


「ターニアさん、天使部隊と一緒にゴースト部隊をお願いします」



 これで大体大丈夫ですかね。全体的に数的優位とランク優位になったと思います。

 ここまでやって抜けられるようなら、それはもう相手を褒めるしかありません。

 まぁ抜けたところでサグラモールさんたちが待ち構えているのですが。


 ブリングの咆哮から始まった五・六階層の戦いは、乱戦とか決戦と言うより、大虐殺という感じでした。


 Aランク以上が80体、精強な相手に違いありません。

 それがこんなにも脆く壊滅するとは、塔主戦争バトルが始まった当初の私たちでさえ思っていなかったのです。



 特にパルデアさんを乗せたブリング、スコルとガルムを従えたマナガルム、ここら辺はちょっと次元が違いましたね。

 相手がまともに戦おうとせず突破を優先したというのもありますが、明らかに高ランクの魔物を蹂躙する様子は、それを見ている私たちでさえ引いてしまうほどのものでした。


 エンシェントヴァルキリーの部隊を最初から犠牲にして空から当たらせておけば、まだ可能性はあったかもしれません。

 少なくとも数少ない魔物がサグラモールさんのところまで辿り着くことは出来たでしょう。


 しかし最後まで突破を許すことはありませんでした。

 ペガサスに乗る指揮官はブリングにやられ、軍馬に乗る指揮官はエァリスとフワリン、ベアトリクスさんから集中砲火を浴びました。

 虎の固有魔物はマナガルムたちの連携で殺され、ゴーストの指揮官もターニアさんとアラエルさん、ラミエルさんの魔法により消滅。


 結局、敵攻撃陣は五・六階層の半分程度しか進めず、その姿を消すこととなったのです。





■マキシア・ヘルロック 50歳

■第477期 Aランク【空城の塔】塔主



「そ、そんな馬鹿な……」

「マ、マキシア様、こ、これは……」



 私たち四人は画面に映る光景が信じられず、何も喋れなくなっていた。


 魔物総数千体のうち四分の一をつぎ込んだ高ランクばかりの攻撃陣だった。

 これならば【女帝の塔】を攻略できると踏んでいた。

 敵攻撃陣の精強さから防衛に配置している魔物はそれほど強くはないと高を括っていた。

 実際、Aランク以上の数を比較すれば勝っていたはずだ。


 しかし倍の数を相手に惨敗したのだ。

 いや、数だけの問題ではない。

 質で勝っているならば他にもやり方はあったはずだ。


 エンシェントヴァルキリーの部隊を最初から竜にぶつけていれば勝てたかもしれない。

 敵固有魔物に狙いを定め、部隊で仕掛けていれば斃せていたかもしれない。



 なぜ私は戦おうとせず、部隊を分け、突破を優先させてしまったのだ。

 なぜ私はサルマットたちを信じてやれなかったのだ。

 後悔ばかりが今になって湧いてくる。正しく後の祭りというものだ。


 私は必要以上に恐れたのだ。【女帝の塔】を。あの同盟の軍勢を。


 【女帝の塔】の四階層までで植え付けられた危機感――塔主戦争バトル慣れした塔主、奇策を用いた戦術、見た事もない塔構成、【女帝】の試合巧者ぶりを見せつけられ、私は気圧されていたのだ。


 【女帝の塔】は危険だ。この同盟は危険だと逃げ腰になっていた。


 そして五・六階層で空に布陣する敵戦力を見て、心は絶望に支配されたのだ。

 だから早く終わらそうとした。だから戦いを避けようとした。

 それを一方的に狩られたのだ。我々の攻撃陣と共に私の心も――。



 しかし……しかしだ。まだ塔主戦争バトルが終わったわけではない。

 私は不安気な三塔主に向かって声を掛けた。



「防衛に全力で当たるぞ。敵攻撃陣を殲滅して再び攻撃陣を編成する」


「し、しかしマキシア様……」


「防衛さえ凌げればこちらが有利になる。敵方の戦力は九割以上判明しているのだ。あとはそれに勝てるだけの部隊を整えれば確実に勝てる」


「は、はい」



 言っていて空しくもなるが無理矢理にでも士気を上げないと始まらない。

 ここで諦めるわけにはいかんのだ。

 ノイア、ゼメット、ラグアン、そしてラッツェリアの未来を奪わせるわけにはいかん。


 二十五年に及ぶ私の塔主人生、その全てをぶつけよう。

 何としても斃さなければならん。この同盟だけは――。



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