419:【潮風の塔】を攻略していきます!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 【潮風の塔】は全ての階層が屋外階層となっています。

 水属性と風属性の魔物が多いというのがその原因でしょう。もしかしたら限定スキルも絡んでいるのかもしれませんが。

 水棲魔物と鳥系魔物が多いわけですから、必然的に連結階層も多くなります。


 つまり私たちからすれば進軍しやすい。

 敵からしても大部隊を布陣しやすい塔構成なのだと思います。


 おそらく上層に防衛陣を布陣していることでしょう。いつもの如く大部隊同士の乱戦が起こるのではと私たちは予想しています。



 197体の攻撃陣、その進軍速度は遅いです。

 ヨギィ、ハルフゥさん、スキュラ部隊が遅いですからね。それに合わせている格好です。

 ただそれでも階層はどこも広々としている上、連結階層も多いということでそこまで時間は掛かっていません。


 魔物もほとんどいないですしね。

 攻撃陣に250体を使っているということは【潮風の塔】には750体しかいないということです。

 そのほとんどが上層に詰め込まれているはずなので、下層にはほとんどいないのですよ。

 それもあって進軍速度はそれほど遅くなくなっているというわけですね。



 今回の塔主戦争バトルの全体的な流れとして、まず【女帝の塔】での防衛を成功させ、その後で【潮風の塔】の攻略に注力するという予定を立てていました。

 双方が攻め合う、侵入しあう交塔戦クロッサーの形式で、尚且つ決戦時の時間差をつけたかったということです。


 攻撃陣も防衛陣も部隊数が多いですから、もし同時に決戦となると、私たちとしても画面を見るのに大変ですし指示も出来なくなってしまいます。


 【傲慢】同盟戦で懲りました。あれは狙いもあってやったことですが、やらないに越したことはないと。

 ですから今回は先に防衛を片付けて、余裕をもって【潮風の塔】を攻めようということです。



 それもあって私たちは【女帝の塔】の決戦場を五・六階層と設定していました。

 下層の終わりと言うか中層の始まりというか、いずれにしても通常よりもかなり低い階です。


 しかし四階層までは時間のかかる塔構成になっていますし、いくら魔物を消したところで劇的に進軍速度が上がるわけではありません。

 実際に【女帝の塔】での決戦時、【潮風の塔】では六・七階層まで到達していたのです。こちらの攻撃陣の進軍速度ほうが早かったのですよね。

 だからハルフゥさんにさらに進軍速度を落としてもらうか、かなり悩んでいました。結局はそのまま行ってもらいましたが。



「こ、これ敵攻撃陣があの時撤退していたらどうなっていたのですかね……」


「【潮風の塔】の上層で挟撃を狙うやろな。ここの塔構成ならどこだって大部隊を布けそうやし」


「まぁそうなったらこちらの防衛陣も送り込みますがね。第二陣として」


「第二陣というには豪華すぎる面子ですね。そうなった時の【潮風の塔】も少し見てみたくはあります」


「千体同士が挟撃しあう大乱戦じゃな。そうなったらどこの画面を映せばいいのか分からなくなるぞ」



 防衛しきれて良かったですね。第二陣の編成をするのも大変だったでしょうから。


 敵の魔物が本格的に出始めたのは八・九階層からです。

 広い草原に林のある階層。見るからに風属性ですね。


 【潮風の塔】は水と風が極端に分かれている印象です。この階層は風、この階層は水と。

 やはり『海の塔』が人気ないというのも一因なのだと思います。

 かと言って『鳥の塔』も人気がないのでバランスが難しいのでしょう。塔運営の辛さがにじみ出ているようです。



 襲ってきたのはまずスリーピーモス(C)、パラライズモス(C)、テンプエイプ(B)といった状態異常を得意とする魔物。おそらく【夢幻】の魔物です。

 そしてガルーダ(A)、グリフォン(B)といった飛行系魔物。これは【空城】か【潮風】の魔物でしょう。

 状態異常に掛かったところに強襲するような作戦だったと思います。


 ただまぁ……無理ですよね。全て近づく前に斃してしまうので。


 スカアハさん(★S)が察知してヘルキマイラ(★S)やマンティコアフレイム(★A)あたりが攻撃すればすぐに壊滅します。

 鎧袖一触とはこのことですね。微塵も危な気ないです。



 十階層からはまた少し様子が変わりました。

 ここも草原なのですが連結階層ではありません。飛行系魔物はいないと。

 代わりに布陣していたのはロイヤルシリーズです。【空城】の魔物でしょうが【重厚】の魔物も一部入っているかもしれません。


 前衛にロイヤルナイト(A)、ジェネラルナイト(B)、ガードナイト(C)。

 遊撃にロイヤルジェスター(A)とクラウンスカウト(C)。

 後衛にロイヤルビショップ(A)、ロイヤルプリースト(B)、ロイヤルウォーロック(A)、ロイヤルウィザード(B)。

 まさに【女帝の塔】で使っている部隊ですね。これが計100体ほど。


 さらに前衛の中央に大盾を持った大柄な騎士の姿がありました。固有魔物ですね。

 正直「十階層でもう大部隊を出してくるのか」という感じです。

 一気に本格化したな、本気で防衛しにきたなと私たちにも緊張が走りました。



『防衛陣を組みます! バートリ部隊、ランスロット部隊は前へ! 他は後方から魔法と援護に留めて下さい!』


『『『おお!』』』


『スカアハさんだけは敵後衛への奇襲を! 狙いは回復要員です!』


『了解』



 ハルフゥさんも様になってきましたねぇ。

 私やエメリーさんは何も指示を出していません。口出ししていないところを見るとハルフゥさんの判断は正しかったようです。


 おそらくこれまでほとんど出番のなかった前衛部隊に頑張ってもらおうということでしょう。

 バートリさんなんかは敵に文句言っていましたからね。もっとガンガン攻めて来いと。


 そしてスカアハさんだけは<影潜り>したまま背後に回って奇襲させるようです。

 もう隠す必要はないという判断でしょうか。てっきり最後まで隠し通すつもりかと思っていましたが。

 ちょっと疑問に思ったのでエメリーさんに聞いてみました。



「一度姿を見せておくのも有効です。敵は今後影を気にし続けますからね」


「なるほど」


「それと今後出て来そうな敵を考えますと<影潜り>も意味を為さないでしょうから。わたくしとしてもここで手札を切るのは賛成です」


「えっ、この先の階層のことが分かるのですか?」


「おそらく【空城】は飛竜か鳥の固有魔物を持っているでしょうし【潮風】は海の固有魔物を持っているでしょう。となれば残りの十一~十四階層は連結階層が二つ並んでいると見るべきです。そうなるとどちらにしても<影潜り>が有効な敵とは言えないですからね」



 はぁ~なるほど。言われてみればその通りですね。

 エメリーさんもハルフゥさんもそんなこと考えているのですか。さすがは指揮官です。

 これには同盟の皆さんも感心した様子でした。



 戦闘のほうに目を向けますと、前衛同士がぶつかる感じには一応・・なっています。

 ランスロットさんの前衛指揮が光っていると言いますか、攻撃役のヴァンパイア(A)たちもまとめて動かしているように見えました。


 本来ヴァンパイアを統括すべきバートリさんはと言うと……案の定、敵固有魔物に単独で仕掛けていました。


 いやまぁ適材適所だとは思うのですがね。せめてハルフゥさんやランスロットさんに一言言ってから仕掛けて欲しかったです。

 これは後でエメリーさんのお説教が入るでしょう。反省はしないと思いますが。



 百体にも上るロイヤルシリーズの群れは鉄壁にして多彩。

 攻撃はいまいちですが防御・遊撃・魔法・回復とバランスの良さがウリです。

 本来でしたら攻めづらく怖い相手には違いないのですが……さすがにこちらの攻撃陣が強すぎますね。


 ハルフゥさんはイカロス部隊とウリエル部隊に魔法防御を指示し、空からの攻撃はヘルキマイラとマンティコア部隊に任せました。

 敵遊撃部隊にはシルバ、ペロ、ヨギィで対応。これで近づけさせません。

 こうした陣を組んでしまえば敵はどうやっても攻め落とすことなど出来ないでしょう。数も質も違うのですから。


 防衛が得意なロイヤルシリーズは私たちの防衛陣を攻め落とすことなど出来ず、百体もの魔物は溶けるように消えていったのです。


 陣を組めた、攻撃陣をまとめた、というのがポイントですね。

 ハルフゥさんもそうですし、各部隊の指揮官たちもよく動いてくれたと思います。



 攻撃陣はそのまま十一・十二階層へと進みます。そこは案の定『海階層』でした。

 【昏き水の塔】や【青の塔】でもあったような、『海上に架かる大橋』というような地形。

 海から襲って来るぞと言われているようなものです。


 ただ海の魔物だけではなく飛行系魔物の姿もありました。

 ピンクデーモン(A)、ピンクデビル(C)、サキュバスクイーン(B)、ハイウィッチ(B)、ウィッチ(C)など。おそらく【夢幻】の魔物でしょう。

 ということはサキュバスクイーンは神造従魔アニマですね。指揮官ということですか。



 橋を渡れば空からそれらの魔物が襲って来るというわけです。海にはどのような魔物が潜んでいるか分かりません。


 こちらにも飛行系魔物は豊富ですから空同士の戦いであれば圧勝でしょう。

 ただ地上部隊は橋を通るしかありませんからね……どうやって攻略するのかと画面を見ていたのですが。



『では皆さんは入口で待機しておいて下さい。飛行系魔物が攻めてきたらランスロットさんの指揮で迎撃をお願いします』


『承知しました。ご武運を』



 そう言って、ハルフゥさんはスキュラ部隊を引き連れ、海へと潜っていきました。

 スキュラ部隊もスキュラクイーン(A)5+スキュラナイト(B)20と一応は揃えてあるのですが……おそらくお一人でほとんど片付けるつもりですね。

 今まで指揮に専念してきましたから戦いたかったのかもしれません。ハルフゥさんも魔物ですし。


 私たちが見る俯瞰の視点では海の中まで見ることは出来ません。

 ただ何かがとんでもない速さで泳いでいるのは分かります。あれ絶対、スキュラ部隊置き去りですよね。バートリさんの事を言えなくなってきましたよ。



「うわぁ……改めて見るととんでもないな。海じゃ無敵やん」


「その上、指揮も回復も水魔法も出来るからのう。まぁ指揮はエメリーの<教育>の賜物じゃろうが」


「ターニア様と同じく規格外のSランク固有魔物ですわね」


「【青の塔】で斃してくれたゼンガーさんとウリエルさんに感謝ですよ。ありがとうございます」


「ほっほっほ、海に潜られなくて良かったですな。地上にいてくれて助かりました」



 本当ですね。おそらく地上部隊の指揮をしていたから地上で戦い続けたのだと思いますが、遊撃的に使われていたら海に潜りながら戦っていたでしょう。

 そうしたらゼンガーさんやウリエルさんにはどうにも出来ないですからね。多分、斃せず終いだったと思います。

 斃せたから召喚権利が生まれたわけですから、私はただ感謝するのみですね。



 あとから聞いた話ですが、海の中には大きなペンギンの固有魔物とシーサーペント(A)、マーダーシャーク(B)、スキュラナイト(B)の部隊などがいたようです。


 シーサーペントが潜んでいたならハルフゥさんに先行してもらって正解ですね。橋を渡る時に大事故になっていたかもしれません。

 合計で百体近くいたということですが、その八割ほどがハルフゥさんの手で斃されたそうです。

 暴れましたねぇ。水中だと性格が変わるのでしょうか。



 一方、敵飛行部隊は入口に陣取る私たちの攻撃陣に襲い掛かっては来ませんでした。

 あくまで橋を渡る時に邪魔をする役目だったようです。


 ハルフゥさんの水中殲滅劇を見て慌てていたようですが、だからといって介入することも出来ず、飛行系魔物だけで入口の攻撃陣に仕掛けても斃されるだけ。

 というわけで上層に逃げていきました。この階層での迎撃は不可能と判断したのでしょう。正しいと思います。



 やがて殲滅し終えたハルフゥさんたちが入口に戻ってきました。

 あとは悠々と橋を渡り、階段を昇るだけですね。


 残るは十三・十四階層。おそらく連結階層になっていてそこが決戦場だと思います。

 最後ですね。気を引き締めて臨みましょう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る