297:忍耐の塔vs竜翼の塔、決着です!



■ドロシー 24歳 ドワーフ

■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主



 竜人の騎乗する飛竜ちゅうのはウチが思っていたよりもはるかに凶悪やった。

 Sランクの竜が固有魔物と眷属化でSSランクだとしたら、竜人を乗せたそれはSSSランクってなもんや。


 別に攻撃力や耐久力が高くなるわけやないし、速くなるわけでもない。

 でも反応速度・判断速度・察知警戒能力、そういったものが確実に上がっている。フゥの虹竜アイダウェドブリングの戦いもこないだ見たけど、正直比較にならんわ。

 その上竜人も騎乗しながらブレスとか吐けるから攻撃手段が増えとるわけや。ただ乗ってるだけやないと。



 ヘルキマイラ(★S)はそんな竜相手でも正面に居続けてくれた。完璧な壁役やったと思う。

 それでも力負けする場面も当然あって、そこはウリエルが上手くフォローしてくれた。

 時にガードしたり、時に回復したりと【忍耐の天使】に相応しい立ち回りやったわ。


 ハイウィッチやガーゴイルは何体か落とされた。

 そらあれだけ竜が動き回って仕掛けてきたら、後衛だろうが遊撃だろうがまともにくらう時もある。天使部隊の回復かて追いつかんのはしょうがない。


 でも、それでも――



「よっし! 今やウリエル、行ったれ!」


『ハッ! おおおっ!!!』



 こちらに回復の枚数が揃っている限りヘルキマイラが落ちることなどありえん。

 遠距離魔法やヘルキマイラの攻撃はチマチマとしたもんかもしれんけど、向こうはそれを回復できん。

 いくら竜が天使に強くてもこっちの大天使は守備特化や。守りを固めたウリエルはそう簡単にやられんしな。



 最初は飛竜のほうが限界を迎えた。

 じわりじわりと体力を削られ、次第に飛行速度もおち、見るからに傷ついていった。


 そしたら今度は竜人が竜から離れよった。自分の背中から竜の翼を出して飛び始めたんや。

 傷ついた飛竜を後衛に回し、竜人が攻撃に回ると。


 これはこれで厄介なもんや。

『一組のSSSランク』から『二組のSSランク』になったようなもんやからな。

 飛竜のほうがかなり弱っているとはいえ、二体の強者を相手にするのは正直しんどい。



 これに対してウリエルが竜人の相手をすることになる。向こうがウリエルを狙っとったからなし崩し的にそうなった感じや。

 もちろんそれだけでは不利やから天使部隊とスフィンクススフィーのガーゴイル部隊も援護に回った。


 一方で飛竜の相手はヘルキマイラが継続。ウィッチクイーンフワリンのハイウィッチ部隊が掩護に回った。

 そこまでやればあとは押し切るだけ。

 度重なる攻撃に飛竜は沈み、竜人も粘ったがウリエルの剣に沈んだ。



 もしウリエルと竜人が一対一の状況だったらこうはならなかったと思う。

 天使部隊の援護とスフィーらのフォローがあったからこそ危な気なく勝てたんやと。


 ともかくこれで八・九階層は片付いた。

 これであとは最上階にいるジュリエットを斃せばそれで終わり……とはいかん。



「ウリエル、スフィー、フワリン、どうや? まだいけるか?」


『問題ありません。当初の予定通りに行動します』


「分かった。適度でええからな。くれぐれも被害を受けることのないように」


『ハッ』



 ウリエルは部隊を引き連れて七階層へと下りていった。

 そこから始まるのは塔内に残る魔物の掃討や。


 ほとんど素通りしてきた五階層と六・七階層の魔物たち。これを斃し、魔石と魔物の召喚権利を得る。

 まぁシャルちゃんみたいな殲滅はできんけどな。上空・遠距離から一方的に斃すだけや。

 もちろん魔力や体力の関係もあるから「適度に」としか言えんけど、安全にできる範囲でやるだけやろうと。



 これはこちらの防衛策が実らず【竜翼の塔】に攻め込むとなった時にやろうと考えていたことや。

 向こうに有利な状況で戦わざるを得なくなるのだから被害も相応にでるはず。ならば何かしらで補填しなければならないとな。

 体力や魔力があるうちに大ボスを斃し、掃討するのはそれからにしようと、そう話していたわけや。


 ちなみに四階層に置いてきた部隊はとっくに掃討を始めている。

 クリスタルゴーレムキラリンを中心にミスリルゴーレム部隊で突っ込めば四階層にいるCランク程度の魔物くらい敵ではないしな。じっくりと階層を巡ってもらった。



 特に欲しいのはAランクのドレイク種、Bランクのリザード種、B・Cランクのドラコ種、それと蛇やな。蛇はE~Aランクまで幅広い。

 ゴブリンやワイバーンなんかはあんまり使えなさそうやな。ウチの塔では。ゴブリンを使うくらいなら【打突】の巨人系を使うし。

 ともかくそこら辺を中心になるべく斃してもらうと。



 フゥ曰く、ジュリエットは飛竜と竜人が負けた時点で完全に塞ぎこんでたみたいや。

 それなのに引導を渡すまで時間をかけて申し訳ないとも思ったけど、そんな情けをかけること自体、塔主戦争バトルに持ち込んじゃいかんのよな。

 ウチらはバベルの塔主で、塔主同士は争い合うもんなんや。そう言い聞かせた。



『はいしゅ~~~りょ~~~! 【忍耐の塔】の勝ち~~~!』



 結局、全てが終わったんは夜や。時間がかかったんはしょうがない。でもやれるだけやったと思う。



『受理する前はもっと楽に勝てると思ってましたけどね。さすがは五竜王ドラゴニアという感じでした』


『シャルからヘルキマイラを貰っておいて正解じゃったのう』


「ホンマやで。みんなして『ドロシーさんなら勝てるでしょ』みたいに言うとったけどな、ウチはずっと不安やったんやで? 保険かけて良かったわ、ホンマ」


『ちなみにヘルキマイラなしで戦うとしたらどうしてましたの?』



 そら引き籠るしかないやろ。二日でも三日でも引き籠ったるわ。それでジュリエットが先に音を上げるまで待つ。正しく【忍耐】勝負になるとこやったな。

 でもこっちの塔に竜人でも引き込めればそれで勝ちや。ヘルキマイラがいなくても100%勝てる。

 あとは総力で飛竜を斃せばいいだけやしな。



『……やっぱり勝てるプランはお持ちじゃありませんか。心配して損しましたわ』


『召喚権利あげるべきじゃなかったですかね……』



 いやいやいや、向こうが先に音を上げるとは限らんわけやしな、不確定要素を盛り込んだ策なんておかしいやろ? それに二日も三日も塔主戦争バトルなんて見てるみんなも辛いやん? せやからウチなりに早く確実に終わらせる方法をやな――





■オーレリア・ブルグリード 42歳

■第488期 Bランク【黄神石の塔】



『神様通信

 本日行われた塔主戦争バトルにて【忍耐の塔】が勝利!

 【竜翼の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』



「まあ! なんということ……!」



 突然の一報に思わず声を上げました。

 ジュリエット様がいきなり消えるとは……混乱しそうな頭を冷やすように額に手を当てます。


 わたくしとサミュエ様、ジュリエット様でお茶会をしている際、そういった話は出ていました。

 ここ一年ほどは毎回です。アデル・ロージットを、彼の同盟を何とかしたいと。



 国から言われているのもそうですが、わたくしたち個人としてもあの連中は野放しにできませんし、どうにかして潰せないかと話し合ってはきたのです。


 とは言えわたくしたちは同盟ではありません。

 同じ志を持っていても、所属する国が違いますし、それぞれの国の貴族という立場があります。下手に同盟など組めないのですよ。


 ですからジュリエットさんが【忍耐】に仕掛けたのも知りませんし、その準備をしていたのも知りません。

 気付いた時にはすでに遅く、【竜翼の塔】は消えていたと……。



 しかし【竜翼の塔】はCランクでもトップクラスですし、Sランク固有魔物二体をすでに召喚済みだという話は聞き及んでいます。

 それを打ち破るとは……やはり【忍耐の天使ウリエル】が主軸なのでしょうが、それだけではないということですわね。


 【忍耐】は彼の同盟の三番手。

 にも関わらず【竜翼の塔】を打ち倒すだけの力をすでに持っていると。二年目、Cランクで。

 この分では【女帝】と【赤】がどのような力量か、想像するのも嫌になりますわね。



 とは言えわたくしも仕掛けないわけにはいきません。

 おそらくサミュエ様も仕掛けるでしょうし、この一報を機に焦ることも考えられます。サミュエ様からしてもわたくしより先にと考えていらっしゃるでしょうから。


 わたくしたちが狙いたいのは【赤の塔】。

 ジュリエット様はその先駆けとして天使部隊を手に入れるために【忍耐の塔】に仕掛けたのでしょう。【竜翼】が唯一不足しているのが回復部隊ですから。


 そしてそれはわたくしの【黄神石の塔】も同じ……。

 ならばわたくしも【忍耐】から仕掛けるべきか。はたまた【赤】を直接狙うべきか……何とも悩ましいところです。



「すぐに仕掛けるのですか、オーレリア様」


「いえ、もう新年祭ですからね。年明けになるのは間違いありません。年始の賑わいが過ぎた頃……おそらくサミュエ様も仕掛けるとすれば同じようにお思いでしょうしね」


「承知しました」


「もし【赤】とやりあうようならジータの相手は任せますよ――【黄神騎士ランスロット】」



 わたくしはそう言って隣に立つ、魔物の騎士を見やりました。




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