296:ドロシーさんは策を講じます!
■ジュリエット・ローゼンダーツ 22歳
■第497期 Cランク【竜翼の塔】塔主
敵攻撃陣は足取り遅くも順路をひたすら進み、【竜翼の塔】四階層まで上ってきました。
結果としてペースは速いほうかもしれません。
こちらが奇襲をかけて削りに行ってもその悉くを一蹴しているのですから。ゴーレムは歩みを止めることなく進めると。
ヘッジホッグ部隊の索敵や
とは言えそれはこちらの魔物――下層に配置している魔物がDランク程度であるが故。
四階層ともなると主力はCランクですし、Bランクも相応に混じってきます。
空には
それが当たって削りに行けば……と思っていました。
しかし【忍耐】の攻撃陣が硬い。
「ヘッジホッグなどは削れますがね……あの程度の雑魚を削っても大勢に影響はないでしょう」
「せめて小天使や
押し切るにはまだ不足という感じが拭えません。
やはり本格的な戦闘は五階層以降になりますか。
五階層ではリザードキング(A)やエアロナーガ(A)、エアロサーペント(B)なども配置しています。
そして六・七階層ではワイバーン(B)、ワイバーンロード(A)、フューリードレイク(A)など。
そうなるとヘッジホッグやウルフ系の斥候役も
そうした上で八・九階層、パルテアと翼蛇竜アンピプテラ(★S)で仕留めると。やはり当初の目論見通り、その作戦でいきましょう。
――という話をパルテアにしていたところで、一階層の画面に変化がありました。
転移門から侵入してくる一団が目に入ったのです。
増援!? このタイミングで!?
主力を固めた敵攻撃陣は侵入してからかなりの時間が経過しています。
こちらが【忍耐】に攻め込まないことなどとっくに分かっていたでしょうに。
防衛のために残していた戦力を第二陣として編成し増援とするならば異常な判断の遅さ。
第一陣との距離がありすぎて増援が増援になっていません。愚策もいいところです。
一瞬そう考えたのですが、その増援の陣容を見て驚愕しました。
ウィッチクイーン(A)が一体、ハイウィッチ(B)が二〇体、ガーゴイル(B)が五体、
そして三つ首のマンティコアのような魔物が姿を現したのです。
「パルテア、あの魔物は……」
「分かりません。考えられるのは【忍耐】の固有魔物、ですかね。だとすればSランクが確定ですが」
【忍耐】の固有魔物はウリエルと防御力特化の魔物だと思っていました。おそらく巨体で防衛にしか使えないだろうと。
しかしあの三つ首が″もう一体のSランク固有魔物″だとすれば防御力特化には見えない。状態異常系の魔物ということでしょうか……あのような見た目で……。
いずれにせよこの魔物を持っていながらなぜ最初から第一陣に組み込まなかったのか、なぜ今になって投入してきたのかと、不可解なところだらけです。
計三二体、少数の増援部隊。しかしその全てが飛行系。移動速度は第一陣の数倍にもなります。
それらは順路の分かっている迷路を飛び、リスポーンされたリザードマンたちをハイウィッチの遠距離魔法で処理しつつどんどんと進軍します。
この時点で第一陣にアンピプテラをぶつけることができたならば良かったのですが相手は未だ四階層に入ったばかり。
五階層のゴブリンキングを急いで嗾けたところで大して削れず、増援との合流を果たさせてしまいます。ワイバーンなどは階層移動もできませんしね……。
わたくしは歯噛みしながら四階層と一階層の画面を見ていました。
ジリジリとしか進まない第一陣。高速で迫る第二陣。それは四階層の最終地点で早くも合流することとなったのです。
分厚くなった敵攻撃陣。それがまたジリジリと五階層を攻略しにくるのか――と思っていたのですが、ここでもまた予想外の動きを見せました。
クリスタルゴーレムを含む全ての地上部隊を四階層に残し、飛行戦力だけで五階層に上り始めたのです。
つまり第一陣から五階層に向かったのはウリエルの天使部隊とスフィンクスのガーゴイル部隊のみ。
第二陣と合わせて計七〇ほどの魔物だけです。
だけといっても
およそ半分が神聖魔法使いで、正体不明の固有魔物もいると……わたくしは背中に冷や汗が流れるのを感じました。
パルテアが騎乗したアンピプテラは無敵に違いありません。
Sランク固有魔物の竜人と飛竜。これはどんな固有魔物が相手でもまず問題なく勝てるはずです。そう心に言い聞かせました。
ただその前に削っておくに越したことはない。
五階層と六・七階層でどれだけ削れるか……もし半数でも削れればパルテアたちの勝ちは揺るがないでしょう。
そう期待していたのですが――。
「なっ……! ヤツら、まともに戦わないつもりですの!?」
「天井スレスレを高速で……! しかも順路以外進む気なしとでも言うような……!」
五階層はゴブリンキング(A)が守護する森。
六・七階層も同じです。ワイバーン(B)とドレイク(A)リザード(B)が主力ですから平野が基本となっています。
それら全てを無視するように敵攻撃陣は飛び続けました。
途中、ワイバーンなどが襲い掛かっても遠目から魔法を撃つのみ。斃さずとも進めればいいとでも言うようにひたすら真っすぐ飛び続けます。
意地でもその戦力でアンピプテラに当たりたいのでしょう。
竜と当たるまでは無駄な戦闘もしないし、無駄な消費もしたくない。
今にして思えば四階層までヘッジホッグや
「…………パルテア、頼みましたよ」
「ハッ!」
決意の表情でパルテアは玉座の間を後にしました。
あの敵部隊と正面から戦うしかない。まともにぶつかって勝つしかない。
勝機は十二分にあります。パルテアとアンピプテラが負けるはずがないのですから。
わたくしもまた決意の表情で画面を見つめました。
■ドロシー 24歳 ドワーフ
■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主
本当は【竜翼】の攻撃陣を【忍耐の塔】に引き込んで殲滅してから【竜翼の塔】に乗り込みたかった。
その方が確実やし単純やし、ウチの塔が
しかしジュリエットは意地でも引き籠りたかったらしい。
時間を空けて適度な攻撃陣を放り込んでも、それでも防衛策を続行した。
ウリエル以外はAランク以下、Dランクも多い、しかもゴーレムの足並みで進軍が遅い。
これを勝機と見て主力を下層に差し向けるだとか、今のうちに【忍耐の塔】を攻略しようだとかしてくれればまたやりようはあったんやけどな。それもせず、徹底して守り続けた。
随分と冷静で胆の座ったお嬢様やで。また評価を少し上げたわ。
結局、こちらの攻撃陣で八・九階層に行き、竜と竜人を斃すしかないっちゅうことで
突入するタイミングは四階層到達時。合流するタイミングは四階層最終地点。これは計算通り。
五階層から先はAランクの魔物が出て来るし、そうなるとウチの魔物はかなりやられてまう。CやDが多いからな。
それを避けるために五階層以降は飛行系のみで仕掛け、極力戦闘せずに八・九階層を目指そうと。
どうせ竜と竜人を相手にするには地上部隊が足手まといになるからな。だったら四階層に置いておこうと。
そういった流れは申請を受理する前から計算に入っといたんやけど、ウチの飛行系魔物を集めたところで竜と竜人――Sランク固有魔物コンビを斃せるのかと不安やった。
仮に勝っても被害は相当出るやろうし、
だから竜と正面から戦える魔物、それも攻撃に使えるSランククラスの魔物が欲しかったわけや。
でもそんなのウチのリストにないし……と悩んでたらシャルちゃんが提案してくれた。
「私が召喚権利を持っているヘルキマイラ(★S)を使いますか?」と。
ヘルキマイラは【傲慢の塔】の固有魔物や。アデルちゃんの
シャルちゃんは召喚報酬で第一候補に挙げてたし、近々召喚したい魔物としていつも名前に挙げていた。マンティコアと組ませたいちゅうてな。
でもそれをウチに召喚させてくれると言う。その代わりに次に
ホントにありがたい話や。ウチは「その時は必ず」と約束してヘルキマイラの召喚権利をもらった。
TPはある。でも残り一つの眷属枠は指揮官用にとってある。
ちゅうわけでヘルキマイラは眷属化を見送った。Sランク固有魔物としたらもったいないけどな。シャルちゃんもナイトメアクイーン(★S)を眷属化せずに戦わせてたし、眷属化せずとも十分戦えるのは知ってたしな。
というわけで今は
ハイウィッチ部隊の指揮と合わせてヘルキマイラを運用するのはしんどいかもしれんけど、なんとか頑張ってもらうしかない。
兎にも角にもこれで勝ち筋が明確になった。
竜と竜人に正面からぶつかってもヘルキマイラが壁となり、ハイウィッチ部隊が遠目から魔法、ガーゴイル部隊が遊撃、天使部隊が回復と、万全の形が出来上がったわけや。
これで負けようもんなら笑い話にもならんで。
シャルちゃんに報いるためにもしっかり勝たんとな。
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