258:六花の塔、大改装しました!
■ケニー・ルフロン 18歳
■Dランク冒険者 パーティー【天耀乱舞】所属
俺たちがバベリオに来てから二年が経った。
子供の頃から冒険者を目指して共に訓練していたメンバーだから地力はあるほうだと思う。
地元である程度の経験を積んでからバベルに挑戦すべくやって来たわけだ。
最初こそ色々と分からないことだらけで苦労はしたが、さすがに慣れた。
バベルに挑む冒険者はバベルの仕組みや塔のことなんかも勉強しなくちゃろくに戦えないんだ。
そこら辺を知り、経験し、それでやっとまともに活動できるようになる。
今では俺たちもDランクの中じゃ上位のほうらしい。
これが地元の冒険者ギルドだったらそこそこイキれそうなもんだが、ここバベリオにおいては初心者に毛の生えたようなもんだ。
周りを見ればAランクやらSランクやらいるわけで、Dランク程度じゃ雑魚と同じなんだよな。
とは言えそんな雑魚にも特権がある。
高ランク冒険者じゃ挑戦ができない、CランクやDランクの塔に入れることだ。
いくら人気があってもいくら興味があってもランク制限のせいで入ることができない。それがバベルの面白いところだよな。
というわけで俺たちはその特権を活かすべく【
高ランク冒険者が入りたくても入れない塔の代表みたいなもんだ。特にここ一~二年は。
【女帝】と【赤】がBランクに上がっちまったことで俺たちは挑戦できなくなったが、あれは元々難易度が高いから俺たちはあまり入っていない。
今期の始めにCに上がった【忍耐】【輝翼】もキツイな。【傲慢】同盟を斃したあとくらいから急に難易度が高くなった。
そうなると【世沸者】しか残らないというところだったが【六花】が上がってきたので助かった。
【世沸者】も時々は行くけど金にも功績にもならないしな。主戦場には向いていない。
そんなわけで後期の塔主総会が終わってからは【六花の塔】を主戦場にしている。
最初こそ滅多に足を踏み入れない『寒冷の塔』ということで戸惑ったが、防寒具やブーツを仕入れて本格的に探索を開始した。
やはりここは地形が一番厄介なだけで魔物や罠はそれほどでもない。
【
だからこそ探索にも熱が入り、三階層あたりまでは進むことが出来ていた、のだが……。
「は? また大改装?」
「ランクアップの時にしたじゃねえか。それでもう大改装かよ」
「二日の休塔日だけじゃ足りなかったんじゃねえの? そういうのよく聞くぜ」
まぁそれは俺も知っているが【六花の塔】に関しては完成しているように見えたんだけどな。
四階層以上が未完成だったとかそういうことだろうか。
疑問を残したままその日は大人しく別の塔へと行き、翌日改めて営業再開した【六花の塔】へと行ってみることにした。
転移門をくぐって入れば……そこは改装前と同じ一階層だった。
地面に雪が敷き詰められた森だ。
進んではみたもののこれといった変化は見られない。
やはり四階層以上の未改装域を改めて改装しようということだったのか。
そう思っていたのだが……二階層に着くなり様子が変わる。
「洞窟じゃなくて森になってやがる。木も凍ってるし」
「しかも吹雪いているな……そんな酷い量じゃないが」
「一階層を残して二階層を改装ってどういうことだよ」
何はともあれ探索しないという選択肢はない。俺たちは警戒しながらも森に足を踏み入れた。
細かい雪が横殴りの風と共に襲ってくる。量がないのは幸いだが視界の邪魔だし口を開くのも億劫になる。
地面も木々も真っ白、この状態ではたして魔物や罠を見つけられるものか……少し不安になった。
案の定、魔物は襲い掛かってきたが弱い魔物で助かっていた。
空から鳥の強襲というのがまた厭らしいところだがこれだけ木々が密集した森なのだからウルフ系統でもまともに戦えまい。だから鳥や小さい魔物に限られるということだろう。それは重畳だ。
しかし探索を進めているうちにふと気付いた。
「……これ、本当に前に進めているのか?」
森を真っすぐ突っ切って三階層への階段を目指していたつもりだがいつまで経っても辿り着かない。
似たような景色ばかりで同じところをぐるぐると回っているような錯覚に陥る。
一旦引き返すべきかとも思ったが帰り道も不明だ。
これは……思っていたよりも厄介な階層だぞ。
「最初から壁伝いに大回りするのが正解だったか」
「そんな分かりやすい答えあるか?」
「罠があるか外壁沿いには行けなくしているか……その可能性は高いな」
「わざわざ大改装するわけだぜ。って言うかランクアップした時になんでやらなかったんだ」
そんな愚痴をこぼしながら探索を進め、かなりの時間を掛けたが森を抜けることができた。
精神的な消耗が激しく、俺たちは三階層の転移魔法陣で帰ることにした。今日の探索は打ち止めだ。
チラリと覗いた三階層は元々二階層にあった『氷の洞窟』と同じような入口だったが、よくよく見ると洞窟の中にはツララや氷筍が至る所に見える。
歩きづらそうだし、戦いづらそうだし、転んだりしたら刺さりそうだ。
おそらくここも大改装されているに違いない。そう話しながら俺たちはギルドに帰還した。
ギルドの掲示板で一応【六花の塔】の調査依頼が出ているか目を通す。
人気の塔だけに案の定依頼は出ていたが、その内容は『四階層までの大改装の詳細』というものだ。
往復転移魔法陣までの道中を調べ上げろってことだな。
俺たちが今持っている情報では足りないな。今日のところは引き下がるしかない。
明日以降でまた挑戦し徐々に探っていくとしよう。
差し当たっては二階層のルート開拓、そして三階層がどのようになっているかを知ることだ。
そう思ってギルドを出ようとした時――ギルドの中から大声がした。
「うわあああ!! ふざけんじゃねえよクソが!! やってられねえよ!! 俺一人で乗り込んでやるからな!!」
酒の入ったグラスを床に叩きつけ、何やら叫んでいる。
パーティー内で喧嘩でもしているのか? ……と思ったらどうも様子がおかしい。
そいつの仲間は酒に飲まれた様子もないし、怒鳴っているそいつに対して戸惑っているようだった。
暴れ叫んでいたそいつは周りの冒険者たちに取り押さえられギルドの一室に連れて行かれたが、そいつのパーティーメンバーは取り残された。
いきなり何がどうなったんだと誰かが聞く。
「い、いや、本当に急に暴れ出したんだよ。明日は別の塔に挑もうかって相談してただけだぜ?」
「酒に酔ったんじゃねえのか?」
「違うよ。あいつが飲んでたの果実水だぞ。そもそも普段は無口なやつなんだ。あんなの俺たちも初めて見た」
鬱憤が溜まっていてそれが爆発したとかそういうことなんだろうか。
若いパーティーの喧嘩ならそこら中で見るけど、あいつらはそんなに若くはないしな……。
俺たちも反面教師にしないといけないな。
よく話し合ってから探索するようにしよう。
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
「やはり諸先輩方の創った階層はすごいな……一階層がみすぼらしく見えてしまうが……」
一階層と二階層以降で差がありすぎる。これは私の手で一階層をどうにかせねばなるまい。
とは言えすぐにやることは出来ない。
連続して大改装したばかりだし、一階層が急変すると「難易度がいきなり上がった」と思われてしまう。
二階層まで誘い込んだのちに難しいと思わせるくらいの塩梅が今はちょうどいい。
諸先輩方に出して頂いた案はどれも素晴らしいもので、私からすれば″目から鱗″のものばかりだった。
個性的であり、話題性があり、難解であり、コストが安く出来ると。まるでお手本のような構成案だったのだ。
私よりも【六花の塔】を熟知しているかのような思考。
それを取り入れることに恥はない。むしろこの素晴らしい案を形にして侵入者どもに見せたいという欲が勝った。
ご指導頂きながら再び大改装を行い、二階層をフッツィル殿の『迷いの樹氷林』、三階層をドロシー殿の『滝の氷穴』、四階層をアデル様の『氷雪の丘』(魔物が弱い版)、五階層をノノア殿の『氷河の分岐路』とした。
滝の水しぶきを受けてから『氷雪の丘』で風に晒されるとしたほうが辛いだろうと。
そして往復転移魔法陣から以降は難易度を上げる意味で『分岐路』としてみた。
そしてシャルロット殿の『氷の神殿』が六階層だ。
構成も魔物もコストが掛かるので今は未完成だが、ボスを置くにふさわしいとも思うので最上階手前からは動かさないつもりだ。
『氷雪の丘』も上層向けだとは思うのだがな。今はお披露目の意味で四階層に置いている。
つまりは一階層のみが私が一から創った階層なのだ。これは手直しする必要があるだろう。
せっかく良い階層を創って頂いたのでそれを活かし、応用したものを考え創り出さなければ申し訳ない。
TPは
それを使って新しい【六花の塔】を創らねばな。
……と思っていたらピロンと通知音が鳴った。
どこからか手紙でも来たかと見てみたのだが――。
「
ランクが上がったからそこを狙われるというのは聞く話だ。
「価値が上がったから戦おう」だとか「バタついているはずだから狙い目だ」とか。
申請が来るとすればその類かと思っていたのだが……これはおそらく違う。
【黄昏の塔】とは私と同じ501期の新塔主――Fランクの塔なのだから。
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