257:六花の塔、階層プレゼン大会です!



■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主



 後日、【六花の塔】の最上階に先達の五塔主が集まった。

 考えてみればアデル様以外は初めてお招きするのでいささか緊張する。

 【女帝の塔】のように華美な玉座の間ではないし大風呂などもないのだがそこは勘弁してもらおう。


 今回は皆様に【六花の塔】の階層を考えて頂くということだが、発端となっているのは私の不甲斐なさなので申し訳ないという気持ちが強い。

 しかし思いの外わいわいと盛り上がっているので娯楽の種にでもして頂ければとも思う。



 あの後詳しくノノア殿に伺ったが、今の【世沸者の塔】の原型を創ったのは他の四塔主だったらしい。

 同盟に入る前までは平凡な塔だったらしいのだがそれをどうにかしようと知恵を出し合い、そうして生まれたのが今の『知力の塔』だと。

 今でこそほとんど全てのギミックをノノア殿が手掛けているわけだが、きっかけは皆で話し合い、相談した結果なのだそうだ。



「そ、そういったことがまた出来ればなぁと思ったんですけどね……まさか自分が案を出す側になるとは考えていませんでしたよ、アハハ……」



 どうやらノノア殿は他四名の塔主に丸投げするつもりだったらしい。

 しかし皆様に言い包められ、今回は同じように構成案を考えて頂くことになった。申し訳ない。

 私からすればノノア殿の頭の柔らかさというか発想力というか、そういったものに期待している部分もある。


 もちろん他の皆様にしても同じだ。それぞれの塔は素晴らしい発想力の結晶のようなものなのだから。

 私の持ちえない思考と、思い浮かばない発想というのを見てみたい気持ちがある。



 遊び半分で塔の構成を考えるというのは塔主ならではの楽しみなのかもしれない。私はまだその境地には至れていないが。

 出して頂いた案を採用するかどうかは私の好きに、とは言われているので自由に楽しんでもらえれば私はそれでいい。



「ではまずリストを見せて頂けます? 塔構成、魔物、罠と」


「分かりました」


「おー、見事なまでに『寒冷の塔』やな。こりゃ腕がなるでえ」


「ふむ、しかし思っていたよりも種類が多いのう。塔構成一つとっても幅がある」


「はぁ~、か、寒冷の塔と言っても色々あるのですねぇ……」


「シルビアさん、魔物調べたって仰ってましたよね。その資料も見せて下さい」



 というわけで早速始まった。

 リビングに宝珠オーブごと移動し、五塔主が机を囲むようにしてメモ紙を広げている。


 私は基本、宝珠オーブ操作だけなのだが、ただ待つだけというのも申し訳ないので私なりに階層案を考えてみる。


 【六花の塔】で使っているのは『雪道の森』『雪原』『樹氷の森』などの屋外階層と『氷の洞窟』『氷晶鉱山』などの屋内階層。

 魔物は弱い獣系が多く、中にはCランクなどもいるが数は少ない。

 罠は屋外の場合、弱い魔物と併用するような形で雪に隠して配置している。屋内は多めだがありきたりで使いやすいものばかりだ。



 こうして見るといかにも『よくある寒冷の塔』という感じがして、私からしても「安直だな」と思わざるを得ない。


 難易度はDランク相応だと思うのだが『寒冷の塔』がそもそも難易度が高い地形なわけで、そこを魔物の弱さや罠の少なさで下方修正しているといった形だ。

 総合的に見ればDランク相応じゃないかと思ってはいる。


 しかしそれが正解かと言われると自分でも首を傾げる。

 寒冷装備をつけた冒険者に対しては難易度が低くなるだろうし、ではもっと難易度を上げるべきかと考えてもそれは果たしてどうなのかと。


 寒冷装備をつけていて尚難しいとするか、地形に縛られない考えが必要なのか、むしろ魔物主体の塔構成にすべきなのか……と悩むわけだ。非才の私ではあまり良い考えが浮かばない。



 さてどうしたものか、と唸っていたところで声が上がった。



「できましたわ」


「ええっ!? もうですか!?」



 早い。いくらなんでも早い。さすがアデル様。

 しかし他の四名も次々に「できた」と仰る。先にある程度考えてきたといっても限度があるだろう。



「まぁただの案ですからね。それを皆さんで修正したりするのが面白いのですし」


「そういうものですか……」


「そうして出来上がった案がシルビアさんの塔運営の一助になればそれで御の字ですわよ」



 ありがたい話だ。ますます頭が上がらない。

 ともかく出来上がった案を順に発表していく流れになった。



「ではまずわたくしから。ざっくりとした案ですが」



=====


■氷雪の丘


 魔物:ホワイトゴート(E)、アイスゴート(C)、キングゴート(B)、アイスバード(D)、スパルナ(C)、ウェンディゴ(C)etc


 構成:緩やかな上り坂と台地を組み合わせて奥に行くに従い昇っていくような階層。地面はうっすら雪の積もる氷の大地。

 魔物は平野に適していて尚且つ坂道を苦にしないものが望ましい。鳥系でも可。罠は置かない。


=====



「皆さんどうせ罠を使った構成をお考えでしょうし、わたくしはあえて罠なしの階層にしてみましたわ」


「滑りやすい上り坂が罠みたいなもんやな。そこで戦うとなれば相当しんどそうやで」


「見通しが良すぎではないか? いや下手に障害物を置いては坂の強みが消えるか……」


「そ、それこそ吹雪とかで誤魔化せないですかね……」


「あえて遮蔽物を置いてそこに罠とかでも良さそうですけど」



 いきなり使えそうな案が出てきた。さすがアデル様。

 坂道を主軸とした階層というのは少し想像しただけで難しそうだ。それでいてコストが安い。

 中ボスのつもりでキングゴートを置いたのだろうが、それがなくても機能はするだろう。

 大胆な塔構成でもあるし話題性もある。なるほど安直ではない塔構成とはこういうものか。



「んじゃ次はウチな。ウチは逆に魔物をほとんど使わず罠主体の階層。まぁ【忍耐の塔】でやってるヤツの【六花】版やな」



=====


■滝の氷穴


 魔物:アイスラット(F)、アイスアント(E)、アイススネーク(E)etc


 構成:地面には氷筍、天井にはツララで狭く探索しづらい迷路階層。途中に滝があり水しぶきにより余計に寒くなる。

 ツララが落ちてきたり氷筍に隠した地面系の罠もあるが、壁や氷筍に手をついて探索することが多いはずなので、そこに罠のスイッチを設置する。滝の脇を通る時も走り抜けるか屈むかはするはずなので、それも罠に利用。


=====



「ウチの『尖岩洞窟』の氷版やけど罠の配置は普通の洞窟より厭らしくできるから、ツララや氷筍を使ってもいけると思う」


「あとは滝がポイントですわね。寒い洞穴の中で滝の水しぶきというのはかなりの嫌がらせですわ」


「無視して探索はできぬじゃろうな。注目は滝に集まるからそこを罠にはめるということじゃな」


「ぬ、濡れたままで次の階層が吹雪いてたりしたら地獄ですよね……」


「滝つぼの中から水棲魔物に襲わせるとかどうです? リストにいますよね?」



 これもまた発想力がすごい。普通の『氷の洞窟』にいくつも手を加えた格好だ。

 既存の階層に何を加えるかというのもセンスなのだろう。少なくとも私には滝という発想は出ない。

 それほどの案に対しあれこれと口を挟むのもまたすごいと思う。すぐさま改良などよく思いつくものだ。



「次はわしじゃが、そんな凝ったことはせんぞ」



=====


■迷いの樹氷森


 魔物:アイススプラウト(F)、アイストレント(C)、ホワイトクロウ(D)、アイスバード(D)、アイスラット(F)etc


 構成:迷いの森の樹氷版。真っすぐ進めなくなるような樹氷の配置と同じような景色が続くのがポイント。

 小さい魔物を徘徊させ空から鳥を襲わせる。罠も相応に配置。霧や粉雪で視界を悪くしたほうがより良い。


=====



「やろうとしているのは至って普通の『迷いの森』じゃな。これは木々の配置の勉強にもなるし、侵入者の動きを見ていても参考になる。結構おすすめじゃよ」


「フゥらしいなぁ。【輝翼の塔】の『霧の森』みたいな感じやろ?」


「そ、それの『寒冷の塔』版ですよね……寒くて遭難しそうですけど……」


「木々を樹氷とすれば普通の『迷いの森』より厄介ですわね。一面白銀の世界でしょうし」


「魔物は鳥だけでも良さそうですよね。あとは地形と罠だけでどうにでもできそうです」



 樹氷で『迷いの森』とは恐れ入った。これでは斥候職もお手上げだろう。

 しかし『迷いの森』は創ろうと思って創れるものではない。塔主の配置センスが求められるからな。

 これを創るとなればフッツィル殿のご指導願ったほうがいいだろう。



「ええと、私の案ですが……一応こんな感じで考えてみまして……」



=====


■氷河の分岐路


 魔物:魔物の数を多めに。飛行系魔物が望ましい。


 構成:氷河に張られた氷の上を歩く。一面に張られた氷ではなく、バラバラの氷塊という感じ。

 押し出す壁を使い、定期的に地面の氷を動かすことでルート分岐させる。侵入者相手ならルート選びで時間稼ぎができ、塔主戦争バトルなら大軍を分散できる。【女帝の塔】のダンスホールの氷河版というイメージ。


=====



「私の塔の三階層とか【忍耐の塔】の『砦』とかも似た感じなんですけど、分岐と広間の組み合わせとしては【女帝の塔】の『ダンスホール』に近いほうがいいのかなぁと……」


「面白いな! 押し出す壁の使い方が斬新や。なるほど地面を動かしてまうのか!」


「氷河の地面がひび割れて動くのを利用したわけじゃな。組み上げるのが大変そうじゃがやれたら面白いのう」


「単純なルート分岐をさせずに『寒冷の塔』ならではの演出にしたのはさすがですね」


「問題は大広間に配置する魔物の数ですわね。氷河の所は鳥系でいいでしょうけど」



 これは見た事も聞いた事もない階層だ。氷河を水棲魔物のためではなく、単に地面を動かすためだけに使うとは。

 定期的に『押し出す壁』を使い水流を変える。そうすることで地面を動かし、強制的にルートを変えるということか。


 なるほどこれは面白い。

 ただ私にその構成を創れるのかというのが一番の問題だ。



「なんか最後になっちゃいましたけど、じゃあ私のを……せっかくなので私らしくクイーンを主軸に置いてみました」



=====


■氷の神殿


 魔物:フロージアクイーン(A)、フロージアジェネラル(B)、フロージアナイト(C)、フロージア(D)、ウェンディゴ(C)、イエティ(B)etc


 構成:雪原の中央にある氷の神殿。雪原は吹雪いていて神殿が目視できないくらいが望ましい。逆に神殿の近くは見通しがいい。

 神殿の周囲は氷の階段で上るのが大変。上からフロージア部隊の氷魔法が飛んでくる。


=====



「階段の上からフロージアとクイーンの氷魔法。階段を昇って来させないようにジェネラルとナイトが守るという感じです。この魔物系統は前衛と後衛がはっきり分かれているようなのでそれを活かしてみました」


「フロージアとクイーンが後衛で他が前衛なんか。たしかに部隊は組みやすいやろなぁ……」


「ただDランク相当じゃありませんわよ。下手したらCランクの上位ですわ」


「せ、雪原部分にも魔物は配置するでしょうしね……魔物のコストが高そうです……」


「視界がどうこう言うのは近づいたらドーンと迫力を出すための演出じゃろうが……まぁみなまで言うまい。」



 他四名の塔主には不評だが、シャルロット殿らしい階層だと思う。

 クイーンを中心としコンセプトを前面に打ち出すというのは【女帝の塔】ならではだ。

 それを【六花の塔】でやろうとすればこうなると……確かにTPが掛かりそうだな。


 しかし階層だけを創っておいて魔物の配置を後回しにすることは今でも可能だ。クイーンの代わりにフェンリルシルバを置いても良いのだし。

 そう考えれば案を捨てるのは惜しい気がする。



「どうです、シルビアさん。何か参考になりそうなものはありまして?」


「ええ、ありがとうございます。参考と言いますかその……




 ……全採用……ですかね」


「やっぱりかい」


「言うと思ったわ」


「義務ではないと言いましたのに」



 だって仕方ないだろう! 全て私では考えつかないような構成案だったのだから!




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