256:シルビアさんも悩んでいるようです!



■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主



『随分持ち上げたなぁ、シルビアちゃ~~ん』


『な、なんか恥ずかしいんですが……』


『若干情報が洩れ気味なのが気になりますわね……』



 新聞記事が掲載された翌日、皆さんからそんな言葉を結構言われた。

 大変申し訳ないとは思うが、私にも言い分がある。

 あれは記者の方が私の言葉を改変し、色々と削った結果なのだ。あれをそのまま私が喋ったわけではない。


 お一人ずつの印象に関してもあの十倍以上は喋っているし、アデル様のことについてはそれだけで新聞が埋まるほど褒めたたえている。

 それが要約され、削除された結果があのような記事になっているだけで私の本意では――



『益々ダメじゃありませんの。この分ではどれだけ情報が洩れていることやら』


『やっぱり六人同時が良かったのですかね。新加入のシルビアさんを特集したいってことでお一人になりましたけど』


『六人で喋ったら三号連続じゃ済まないぞ。十号くらいの掲載量になるじゃろ』


『まぁこれも経験やな。インタビューは簡潔にってこれで分かったやろ』


「はい、勉強になりました」



 冒険者の時にはインタビューされたことなどなかったからな。

 新聞で特集を組むにしても取材を受けるのはSランクパーティーがほとんどだ。

 バベリオのギルドはレベルが高すぎてAランクであっても特別視されることは少ない。


 初めての取材だからこそ一人で臨むのは嫌だったのだが……諸先輩方に背中を押されたからな。



 元々取材の話自体はそれこそオープン直後からずっとあったのだ。501期のトップとなったから当然と言えば当然なのだが。


 しかし塔運営は毎日忙しいし、取材よりも勉強を優先したかったし、何より偉そうに取材に答えるというのも烏滸がましいと。それ故に断り続けてきたのだ。


 そして同盟に入り、【魔術師】同盟との塔主戦争バトルがあり、ランクアップを経て現在に至る。


 世間的に【六花の塔】の注目度が増し続けている状況だからこそ取材を受けろと、そうアデル様は仰ったのだ。

 鉄は熱いうちに打てと。

 侵入者の増加している今、さらに増やす一手を打てと。



 思い返してみれば【彩糸の組紐ブライトブレイド】の新聞記事もギルドが盛り上がっている最中に掲載されていた。

 塔主戦争バトルで大戦果を挙げ、世間のニュースとなっている時に新聞記事になっていたのだ。

 ともすれば収まりそうだった盛り上がりが、それによって再燃し、人気がずっと継続していたように思う。



 つまりそれも人気の獲得――侵入者を増やし続けるための策だったということだ。

 なにも派手な塔主戦争バトルをしているばかりではない。

 新聞で情報をばら撒くことも塔運営の施策にしていたと……。


 おそらくアデル様の案に違いないな。貴族社会に通じるところがある。

 私が不得手なところでもあるのだが。



 と、そんな新聞のことは置いておこう。

 そういったことに頭を使うより、私は塔のほうをどうにかしなければいけないのだ。



 後期の塔主総会で私の【六花の塔】はDランクとなった。皆様のおかげであるからして感謝するのは間違いない。


 Bランクになったお二方は随分と頭を悩ませていて「Bランクの塔運営が難しい」と仰っていたが、私も同じようなものなのだ。

 EランクからDランクに変わったことで大改装も必要だったし、営業再開してみれば客層が変わると。

 私は私で思い悩んでいる。現在進行形で。


 もちろんCランクからBランクに上がるほうが大変だろうと想像はつく。

 EからDなんて五人全員が経験しているし、色々とアドバイスを頂けるだけ私は恵まれた状況だ。

 とは言え何も戸惑わないということもないのだ。その答えは未だ出ていない。



 アデル様とシャルロット殿はオープン時からDランクということで準備期間が一週間もあった。

 アデル様はプレオープンで出来上がっていた塔の改良となり難易度を上げてオープンに臨むとそれだけだったらしい。

 シャルロット殿に至っては『無の塔』から創り上げた格好なのでこれもまた私の参考にはならない。



 ドロシー殿とフッツィル殿は私と同じく一年目の後期でDランクに上がっている。同じタイミングで【女帝】と【赤】がCランクに上がったので冒険者目線で言えば印象は薄かったのだが、これも相当早いランクアップだった。


 どのような大改装をしたのかと伺えば、やはり「難易度をいきなり上げすぎた」とのことだ。

 Eランク侵入者よりもDランク侵入者の方が強いのは当たり前だし、それに見合う塔にすべきだと。


 【風】同盟とのいざこざの真っただ中というのもあったらしい。

 Bランクの強者と戦うことがほぼ確定していたので戦力も増やしておこうということだ。


 結果としてその目論見は成功したわけだが、それは【女帝】【赤】という比較対象があったからだとお二人は言う。

 侵入者は「確かにDランクの塔としては難しいが【女帝】や【赤】と比べれば楽に違いない」と見ていた。

 だからこそ侵入者のほうが順応し、塔運営が滞るようなことはなかった。お二人はそう分析している。



 ノノア殿に関しては二年目前期でDランクに上がったわけだがFランクからのジャンプアップということでこちらは大変どころの騒ぎではなかったそうだ。


 どう考えても大改装は間に合わないし、今まで顧客にしていたFランク侵入者が全く入らなくなる。

 完全にパニックの中、無理矢理に二階層分だけを完成させ営業再開させたようだ。


 【世沸者の塔】は特殊なのでこれまた参考にはならないのだが、それでもランクアップに苦労したという点では誰より大きい。

 未だ五階層も完成していないそうだから大改装の難しさは現在進行形で味わっているだろう。



 そうした諸先輩方の意見を聞き、私も自分の塔運営に活かしたいところなのだが、話をまとめると「とりあえず難易度を上げておけばどうにかなるよ」という結論になってしまうのだ。それがどうにも納得できない。



『シルビアさんは完璧主義者というより潔癖症ですわね。ミスの一つも許せないのでは?』


『アデルちゃんのが完璧主義者やけど大胆なところあるもんなぁ』


『侵入者のほうが塔に慣れるってシルビアさんが仰ってくれたじゃないですか。……あっ、あれはBランクだからですか』


『Dランク侵入者の思考が読めないというのもあるじゃろ。シルビアは高ランクじゃったわけだし』



 非常に耳が痛い。

 シャルロット殿には偉そうなことを言っておいて、自分のこととなると思い悩むのだからな。



『か、完璧なものにしないと怖いんですよね、私はちょっと分かりますよ……皆さんの足を引っ張りたくないなって思っちゃいますよね……』



 ノノア殿の仰るとおりだと思う。

 才ある先達のお近くにいるためには今できる最高の塔を創らねばならない。

 そう自分に言い聞かせて日々運営しているのだから。


 とは言えいくら考えても最高にはほど遠く、非才の我が身を呪うばかりだ。

 一応は難易度を上げる意味で順路を弄ったり、魔物や罠を増やしてはいる。

 ただ塔構成は私から見ても安直に間違いない。いわゆる『寒冷の塔』の基本形をなぞっているようなものだ。



『じゃ、じゃあ、皆さんに一階層分デザインしてもらうとかは……私の塔なんて皆さんに創って頂いたようなものですし……』


「そうなのですか? いや、さすがにそれはご迷惑では……」



 いきなりノノア殿がそんなことを言い出した。

 皆様のお手を煩わせるなど私には恐縮すぎるので断ろうと思ったのだが――



『面白そうじゃのう。わしは構わんぞ』


『ウチも。【六花の塔】でやりたいことなんかめっちゃあるからなー』


『シルビアさんの塔ですから遊ばないで下さいよ、ドロシーさん。ああ、わたくしももちろん参加しますわ』


『じゃあシルビアさんの塔に集まりましょうよ。リスト見ながら考えたいですし』



 勢いに飲まれるようにそういった話になってしまった。

 何と言うか非常に心苦しい。特にアデル様とシャルロット殿は私と同じくランクアップ直後なわけだし。


 そうは伝えたのだが「気分転換にちょうどいい」と。

 他人の塔の構成を考えることが気分転換とは……塔主の職業病のようなものだろうか。



『シルビアさん、先に言っておきますがわたくしたちのはあくまで″案″ですわよ? 言われたのだからそうしなければとか思わないで下さいませ?』


『ははっ! 言いそうやな~! 義務とちゃうからな!』


「はい、分かっています。ありがとうございます」



 とは言ったものの……私ならばやりかねんな。

 突拍子もないものが出てきたらどうすべきだろうか……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る