109:炎vs水の戦いは激しいです!



■アデル・ロージット 18歳

■第500期 Cランク【赤の塔】塔主



 なぜ【昏き水の塔】の難易度が高いと言われているのか。

 なぜ八年目の強い塔がCランクの75位に留まっているのか。


 答えは『海に特化しすぎている』とただそれだけです。



 侵入者からすれば海の魔物などそうそう戦う機会もないですし、塔の内部はそのほとんどが海。

 魔物は海から攻撃を仕掛けるけれど、侵入者が近づいて攻撃することはできない。


 水棲の魔物は海にいることで移動も速くなりますし、敵に魔法を撃たれても海に潜ればいいわけです。常に速度上昇のバフと<水の壁ウォーターウォール>が掛かっているようなもの。


 だから評価は高いものの人気がない。



 おそらく塔主のリアクアさんはご苦労したことでしょう。人が入らない、TPが足りない、戦力補強しようにも水棲魔物しかいないと。

 それでもコツコツやってきてクラーケンやシーサーペントまでをも召喚したことは褒められるべきです。



 尖ったコンセプトを持つ塔は強い。極めれば無敵となり得ます。

 しかし弱点もまた多い。六元素エレメンツの塔などが分かりやすいですわね。


 【昏き水の塔】もまた多くの弱点を抱えています。現段階で無敵とはほど遠い。


 例えば塔構成。基本的に『海』なのは当然です。ほとんどの魔物が水棲なのですから。


 しかし海の深さ・・を創るために階層を繋げなければいけない。【輝翼の塔】と同じですわね。あそこは空の高さの為ですが。

 シーサーペントなど大型の魔物もそうですが、マーマンなども自由に泳ぐには相応の深さが必要です。



 そして塔を作成する上での絶対的ルールとして、侵入者が進む為の『陸』が必要です。


 本来であれば階層の全てを『海』にして、侵入者には「泳いで渡れ」としたほうが強いに決まっています。

 しかしルール上それができない。


 転移門から宝珠オーブまで遮るものがあってはならない。つまり″『道』がつながってなければならない″ということです。


 従って、魔物用の『海』と侵入者用の『陸』を創らなければいけないのです。



 一階層では沈没船を模した甲板の上を進むような構造でした。船にはスケルトン、海からは水棲魔物と。

 二階層は浜辺。浜にはロッククラブなど、海からも水棲魔物の攻撃。


 四階層以上は二階層分を繋げています。

 通る道はほとんど一本道で、左右は海。そんな階層が続きます。



 一見すると困難です。しかし『侵入者が乗る為の陸がある』というのは逆に言えば『水棲魔物が攻撃する為には必ず水面から顔を出す必要がある』ということ。


 侵入者が攻撃すべきタイミングを教えているようなものです。

 それを見逃すジータではないですし、だからこそメェメェ自ら悪魔部隊を率いて行ってるわけですね。

 トカゲンを連れていってるのも水魔法から皆――特にジータを守る為です。



 なんにせよ【昏き水の塔】において『陸』の存在がデメリットになっているのは間違いありません。

 そしてそれは【赤の塔】に乗り込んでいる部隊の方がより顕著になっている。


 陸を歩いて進軍するというのは、もうそれだけでデバフみたいなもの。

 スキュラなど海で戦うほうが何倍も危険に決まっています。


 現に一階層『紅葉樹の森』でもレッドキャップの速さについていけず水魔法に頼るはめになりました。


 二階層『レッドクリスタル洞窟』でも同じ。レッドリザードマンとファイアウィスプに対し水魔法のみです。


 ちなみにここにはドロシーさん監修の罠が設置してあります。先頭が踏むと後衛に被害が出るタイプのもの。

 狙いはひたすら水精霊ウンディーネです。



 そして三階層『赤岩石砂漠』。ここから本腰入れて斃しにいきます。


 地上のヘルハウンド、空のレッドインプ、共にとにかく動いて避けつつ行けそうな時だけ攻撃するよう指示を出しています。

 今はまだ無理に斃す必要なし。とにかく撃たせる。とにかく足止めする。


 そして地中からレッドスコーピオンが襲い掛かります。もちろん狙いは水精霊ウンディーネ



 四階層『赤砂の砂丘』。まだあまり情報は得られていないであろう階層ですわね。

 やっと砂漠を抜けたと思ったら、さらに困難な砂漠が待ち構えています。


 砂浜を歩くことには慣れていても砂丘は別物。干からびそうな大地をぐるりと遠回りしてもらいます。



『えげつないなー。いい性格しとるで』



 褒め言葉と受け取っておきましょう。

 出て来る魔物はほぼ同じですが、上空には強襲用のヘルコンドルを追加。

 最終地点にはレッドワームを地面に潜ませてあります。どこだかのサイクロンワームほど大きくはないですがね。Bランクですし。


 さあここを打開するにも水魔法しかありませんよね。しかし水精霊ウンディーネはどんどん削られていきます。

 スキュラの水魔法はどうですか? やはり水精霊ウンディーネのように魔法特化とはいきませんよね。

 ならばルサールカの闇魔法。なるほどさすがAランクゴースト。しかし闇魔法では火力不足じゃないですかね。

 最終的には肉弾戦ですか。それが正解です。ナイトと名の付く魔物が大勢いるのですから数の暴力でどうにかなります。

 まぁその分被害も出るのですが致し方ないでしょう。さあさ、五階層に進んで頂いて。



『おーい、アデルー、ジータが頑張っておるぞー、応援せんでいいのかー』



 え? ああ、そうでしたわね。ジータはともかくクルックーには頑張って貰わなければ。




■リアクア・マリーナ 27歳

■第492期 Cランク【昏き水の塔】



 私たちは苦戦している。それは認めなくてはいけません。



「ニュエル! 大丈夫!?」


『だ、大丈夫ですっ! まだ戦線は崩れていませんっ!』



 一階層、二階層は順調だったのです。魔物は多いですがランク差もあり、ほとんど被害もなく進めました。


 しかし三階層からその様子が変化しました。

 砂漠の熱でジリジリ焦がされていくように削らされて、中ボスのレッドワーム戦では多くの犠牲が出ました。



 百三〇体いた部隊も八〇体ほどに。特に水精霊ウンディーネは残り十数体しかいません。


 【赤の塔】は水魔法に弱い。それは侵入者ならば誰もが持っている情報。

 だからこそ水精霊ウンディーネを畏れ、それを狙ってきた。


 部隊はこれから五階層。まだ半分です。

 ルサールカルカが大ボスと当たる時、護衛がどれだけ残っているか……。

 スキュラナイトニュエルには急がせなければなりません。



 そう思っていた矢先、五階層の光景が画面に映りました。



『こ、これは……』



 洞窟型の迷路……いえ、ただの洞窟ではありません。

 通路の端に溶岩が流れ、赤く煌々と光る洞窟。

 先ほどまでの砂漠が涼しく感じるほどの熱気が画面からも伝わります。



「ニュエル、罠に気を付けながら早めに抜けなさい。この場所では向こうの魔物も限られます。素早く動いたり、飛んだりできませんし、大型の魔物はいませんよ」


『わ、分かりましたっ!』



 厳しい地形には違いない。ただ苦しめられてきたヘルハウンド、インプはこの洞窟には適さない。おそらくレッドリザードマンのような『歩兵』が活きるはず。


 中ボス部屋などが大きくとられていれば考えものですが、今は急がせるほうを優先させます。



 ――これが【赤の塔】か。


 百人もいる新塔主の中で1位や2位をとっているのも分かります。構成と戦略が新塔主ばなれしていますもの。

 このまま手をこまねいては焼き殺されるだけ。なんとか流れをこちらに持ってこなくては。



 防衛側はそろそろ六・七階層。進みが速い。

 この速さ、これだけの突出を考えればやはり先遣ではないのですね。見誤りました。


 つまり地上戦力は英雄ジータ一人で十分だと。


 他は飛べる魔法要員。最小限の手勢で攻めてきたわけですか。――さすがに嘗めすぎでは。



シーサーペントネイティス、ジータを海に叩き落しなさい。それでもう勝ちです」


『キュゥゥ!』



 アデル・ロージットは英雄ジータの力に依存している。どんな魔物相手でも勝てると。

 実際にその力はあるのでしょう。本当か嘘か、ドラゴンを斃したという逸話もあるほどですから。


 しかしそれは地上の話。海に入れば英雄もただの人です。

 どんな強者も海中の戦いとなればDランクのマーマンにだって負けます。


 そしてジータさえ海に沈めば、残りの空中戦力はせいぜいBランク。

 シーサーペントネイティスには勝てませんし、仮に飛んで逃げて上層に行ったとしてもクラーケンスクーラがいます。


 精神的支柱であるジータが敗れればアデル・ロージットも相当焦るでしょう。

 そうなれば勝敗の天秤はこちらに傾く。必ず。



 ――六・七階層にジータたちが入ってきました。


 海上に浮かぶ木板の桟橋。これがこの階層の『地上』です。

 ジータは一直線に走ります。明らかに足場の悪い階層だから急いで抜けようというのでしょう。

 しかしそうはさせません。



『キュゥゥゥゥウウウ!!!』


 ――バシャァァァン!!!



 シーサーペントネイティスがその巨体をもって暴れることで起こした波は、大きな壁となってジータの真横から襲い掛かります。


 いくら英雄であっても逃れるすべはない。勝った――そう思いました。



『クルゥゥォォォォ!!!』



 突然それは起こりました。

 ジータの肩に止まっていた炎の小鳥――それが一瞬のうちに巨大化し、ジータを掴むと空へと逃げたのです。



「な……なんですかあの魔物は……」



 ファイアーバードではないと思っていました。しかしまさか――固有魔物!?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る