215:宝石の塔を速攻で攻略します!
■ノービア・ウェルキン 28歳
■第490期 Cランク【宝石の塔】塔主
「ケ、ケィヒル様! まだですか! メイドがもうそこまでっ!」
『こちらは全力で攻略を進めておる。もう少しで援軍へと行ける。それまでなんとか耐えるのだ』
「そ、そうは申しましても!」
メイドの勢いが止まらない。すでに八階層の終わり。残すは九階層と最上階に僕がいるだけだ。
九階層の『大広間』には僕の眷属を揃えてはある。
それでも今までのメイドの破竹の勢いを見れば、たった一階層でどこまで耐えられるか……。
普通なら一階層から八階層まで攻略するのに丸一日掛かるだろう。
仮に【魔術師】の戦力が僕の塔に攻め込んでもある程度保たせる自信はある。
しかしメイドたちは鐘一つ分(約三時間)もかからず九階層まで来ようとしているのだ。こんな異常な速度、予想できるわけがない。
だから焦って報告もしているし、画面共有でずっと見せているのだ。これほどの危機だぞと言っているのだ。
だがケィヒルは「攻略中だ」「もう少しだ」と言うばかり。
画面も見せず、一体どれほど攻略が進んでいるのかも分からない。
ケィヒルでこの調子だからコパンやザリィドなど問題外だ。
それ以上に攻略が進んでいるとも思えないし、援軍に来られるとしたら【魔術師の塔】しかない。
だと言うのに……! くそっ!
焦りながらも
画面に映る戦いを見て、歯噛みするしかできない自分がもどかしい。
それでも眷属伝達で指示は飛ばす。
「いいか! メイドだ! メイドに全力で当たれ! これ以上好きにさせるな! 一斉に飛び掛かって押しつぶしてしまえ!」
そうこうしているうちに九階層にメイドたちが上がって来た。
敵戦力は最初と全く変わっていない。ただの一体も斃せてはいない。
削ったのは体力と魔力のみ。それもどの程度のものか……想像もしたくない。
僕の魔物たちが襲い掛かる。まずは階段付近にいたルビーリザード(B)やサファイアリザード(B)といったジュエルヒュドラの配下から。
3mを超えるオオトカゲの群れ。それが先頭のメイド目掛けて飛び掛かり――
――一瞬のうちにバラバラの肉塊となって散らばった。
「バ……バカなっ!!!」
血肉のカーテンが地面へと消え、そこに残るのはハルバードを振るったメイドの姿。
すぐ後ろにいるクイーンが戦った様子もない。まさかたった一人でヤったというのか……!?
あのリザードたちはBランクの中でも強者のはずだ。
防御力は最硬だし、体格に伴った攻撃力もある。
ジュエルヒュドラの指揮下でもあるから動きも良くなっているはずだ。
仮に英雄ジータでも一撃で斃すことなど不可能なはずのそれを……一瞬で群れごと斃したというのか! ふざけるな! そんなことがあってたまるか!
そんな僕の叫びも空しく、前の空いたメイドたちは悠々と陣を布き、僕の魔物たちと相対した。
もちろんリザードたちに続いて次々に魔物は攻め立てている。
どれも足は遅いが波状攻撃とばかりにゴーレムたちが攻め、最後尾にはジュエルヒュドラ、ダイアモンドタートル、カーバンクルとありったけの戦力が同時に向かっているのだ。
しかしゴーレムたちにはヴァンパイア(A)とハイウィッチ(B)が固まって当たり、ダイアモンドタートルにはクイーン二体が同時にぶつかる。
メイドはジュエルヒュドラと単騎でぶつかっていった。
いかに
仮にベンズナフが相手でもジュエルヒュドラが有利なのではないかと思う。
元より桁違いの防御力と体力を誇り、長く伸びる五本の首の動きは捉えどころがなく、その上で様々なブレスを放つのだ。
相手が軍であっても勝てるし、単騎ならばそもそも勝負にならない。僕のジュエルヒュドラとはそういう魔物なのだ。
だがメイドは目に追えない速度で動き回り、五本の首とブレスを避け続け、ハルバードを振るえば首を狩る。
さすがに一撃では落とせないようだが二撃三撃と立て続けに攻撃されれば、いかにジュエルヒュドラの防御力をもってしても耐えられるものではない。
途中、カーバンクルからの回復に気付いたのか、ヒュドラに背を向けカーバンクルに仕掛けた。
これ幸いとヒュドラに追撃の指示を出したが……ヒュドラの攻撃が入る前にカーバンクルが落とされた。
小柄で素早いカーバンクルでも逃げられない速度で一瞬にして僕の
絶望に打ちひしがれた僕は――もう何もできなかった。
ただ次々と倒れていく魔物たちを眺めることしかできなかった。
ヒュドラはメイドに斃され、ダイアモンドタートルもクイーン二体相手に善戦していたようだが、そこにメイドが介入したことでやはり斃された。残ったゴーレムやリザードたちも無残なものだ。
結局、僕の魔物では【女帝】の軍勢、ただ一人も斃せなかった。
結局、ケィヒルも間に合わなかった。
結局、僕は――
「あああああ! ケィヒル! どうなってんだよクソが! 何がもう少しだ! 何が援軍に向かうだ! 全然来ないじゃねえか何やってんだこのドン亀が! おい聞いてんだろ! 何とか言えよオイ! てめえのせいで僕は――」
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
「お疲れさまです、エメリーさん。皆さんは大丈夫そうですか?」
『クイーン二人は問題ありませんが配下に疲労が見えます。次も使うのであれば一先ず防衛がよろしいかと』
【宝石の塔】の攻略は終わりました。まだ三の鐘が鳴る前ですから想定よりも速いです。
これならば多少は余裕が生まれるかもしれません。
頑張ってくれたエメリーさんやクイーンのお二人、そして配下の皆さんに感謝ですね。
戦闘は極力エメリーさんが前に出ていたこともあって消耗も少ないようです。
【宝石の塔】を攻略したと言ってもまだ初戦ですからね。
次の戦いがすぐに控えているのです。まだ全然油断できません。
「ヴァルキリーとユニコーンはどうです?」
『そちらは問題ありませんね。そもそも保険で連れて来ただけですし体力・魔力共に十分でしょう』
「分かりました。では布陣については相談してみます。そちらは接収後に転移魔法陣で帰還をお願いします」
『承知しました』
【宝石の塔】がすぐに消えてしまうのか、
ですので最上階にいる今のうちに接収は済ませます。あまり時間は掛けられませんが。
その隙に私は皆さんと話し合っておきませんと。
「皆さん、【宝石の塔】が終わりました!」
『速い! さっすがエメリーさんやな! 助かるで!』
画面共有で繋いではいましたが一応報告します。
「皆さんの防衛はどのような感じですか!」
『ウチは四階層。まだ余裕あるで!』
『こっちは五・六階層まで来ておる』
『こちらはまだ四階層ですわ。大丈夫ですわよ』
【忍耐の塔】は四・五階層とトラップだらけですから確かに余裕はありそうですね。
【輝翼の塔】はもう『樹氷雪原』ですか。あの階層を抜けるのは困難でしょうがそこを抜けられると、あとは七・八・九階層のワンフロアのみ。さすがに厳しいですか。
【赤の塔】が予想以上に健闘していますね。あの【魔術師】相手に。
「アデルさんはまだ大丈夫なんですか?」
『相手の地上部隊の足が遅いですからそれに歩調を合わせているというのもありますわ。それに六階層からは屋外ですからより時間稼ぎは出来るはずです。シャルロットさんは予定通りにお願いしますわ』
屋外地形ならば<赤き雨の地>が使えるということですね。
【魔術師】の攻撃陣を考えると不安が残りますが……いえ、アデルさんが大丈夫と言うのならそれを信じるのみです。
「分かりました。では予定通りにフゥさんの援軍に行きます! フゥさんお願いします!」
『うむ、こっちこそ頼むぞ!』
「どうしますか、最初にそっちを攻めている攻撃陣を殲滅してから【霧雨の塔】を攻めますか? それとも……」
『いや、時間が惜しい。防衛側に援軍も多少は欲しいが【霧雨の塔】の攻略を優先してくれ』
となると【輝翼】の攻撃陣はあまり考えないほうが良さそうですか。
いや後から合流かもしれませんが、いずれにせよ最初は私だけで攻めるつもりで組みましょう。
【輝翼の塔】が攻めるのは【霧雨の塔】と決まっています。向こうは知らないでしょうが。
まだ私以外はどこにも攻め込んでいないので選ぶことはできるのですがね。
例えば【輝翼の塔】の防衛をしつつ、【魔術師の塔】に攻め込むといったことも可能なのです。その場合はフゥさんも【魔術師の塔】以外に攻められなくなりますが。
しかしアデルさんが「予定通りに」と言うのであれば【霧雨の塔】に仕掛けるとしましょう。
これで攻略できれば【女帝】と【輝翼】が自由になります。
「分かりました。部隊を編制し終えたら【霧雨の塔】と【輝翼の塔】にそれぞれ送り込みます!」
『ああ! すまんが頼むぞ!』
さて、エメリーさんが帰って来るまでに編成は終わらせておきましょう。
エメリーさんの負担がとてつもない感じですが……涼しい顔してますね。本人はやる気なのでお任せしちゃいましょう。
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