176:色欲の塔も色々考えているみたいです!
■アデル・ロージット 18歳
■第500期 Cランク【赤の塔】塔主
【色欲の塔】のドナテア。
彼女は大陸中央部にあるスルーツワイデ王国の王都に店を構える娼館主です。
スルーツワイデ王国は我がメルセドウ王国の西端と一応は隣接しておりますわね。山脈越しではありますが。
王国各地に娼館を展開している大店。そこの店主がドナテアです。
バベリオの街にも『ドナテア娼館』が一つあったはずです。塔主となってから出したのでしょうけど。
大商人ではありますが店が店ですから、あまり良い目では見られておりません。
当然のように貴族との繋がりもあるのでしょうが、一方で闇組織とも繋がっているでしょうし、ある意味で娼館主というのはアンタッチャブルな存在であるとも言えます。
もちろんわたくしとの接点など皆無です。塔主総会の画面越しと新年祭で顔を見かけた程度。
あとはシャルロットさんが
メルセドウに店舗を出してもいないはずです。メルセドウの同業者との接点はあるのかもしれませんがね。
そんなドナテアから手紙が来たことにも驚きましたがその内容にも驚かされました。
=====
(前略)
前置きはこれくらいにして本題に移らせて頂きます。
私の掴んだ情報によるとベルゲン・ゼノーティア公爵閣下はなかなかに独特な御趣味をお持ちのようですね。
裏から他人種を買っては楽しんでいらっしゃるとか。
最近では特にエルフにご執心のようで様々な伝手を使っては探しているようですわ。
なるべく多くのエルフをご所望とのことですから、もしかしたら買ったエルフを
当然ですが貴族派――ゼノーティア派閥であるケィヒル・ダウンノーク伯爵閣下もそのお手伝いに駆り出されているようですわね。
【魔術師の塔】の運営もありますのに大層ご苦労なさっておられるのでしょう。おそらくメルンゲム商会も使っておられるのでしょうが、私のところにもエルフの捜索依頼をするくらいですからよほど大変なのでしょうね。ご苦労お察ししますわ。
私としては一介の娼館主に分不相応な依頼を出されても困るということで、こうしてアデル様へのご連絡とさせて頂いた次第です。
アデル様やロージット公爵閣下であれば何か良い解決案があるのではと。
それともう一つ。【霧雨の塔】のザリィドにも同じような動きが見られます。
こちらはエルフを手に入れることで【魔術師の塔】【青の塔】【宝石の塔】に取り入るか、もしくはもっと上、つまりベルゲン・ゼノーティア公爵閣下に取り入ろうとしているようです。
ザリィドはバベリオの闇組織に近しい人間ですので、そこからゼノーティア派閥の動きを掴んだのだと思われます。
ザリィドと【魔術師の塔】同盟が今現在つながっているかは分かりません。
ただ私の元へ別々に手紙が来たことから、まだつながってはおらず、各々独自に動いているのだと思います。
とは言え今はまだつながっていなくとも近い将来接触するのは確実でしょう。
こちらも合わせてアデル様のお耳に入れておいたほうがいいだろうと愚考しご連絡させて頂きました。
いきなりこのような手紙が来たことで困惑されているかと存じますが、今後は私からアデル様へのご連絡は控えたいと思っております。私はこれ以上本件に関わることはありませんので合わせてご了承頂ければ幸いです。
【色欲の塔】ドナテア
=====
「――ということですの」
『『『はあ?』』』
皆さんジータと同じようなリアクションになりましたわね。
気持ちは分かりますわ。わたくしも同じようなものでしたし。
『ふーむ、気になるのは内容どうこうより先に、誤情報ではないかということと、仮に真実だったとしてなぜアデルに、ということじゃな』
「わたくしも色々と考えましたがまず誤情報ではないと思いますわ。こちらの持っていた情報と合致しすぎていますもの」
『ファムと似通った方法でウチらの情報を盗んだっちゅう線は?』
「それでしたらこちらにそれをバラす必要もないでしょう? それはただの間抜けですわよ」
『それもそうか……』
わたくしたちの持っていた情報とは、クラウディアさんから得られた「【魔術師】同盟と【霧雨】がエルフの塔を狙っている」という情報と、フッツィルさんがファムを通して得た「【霧雨】が同盟塔にエルフ捕獲の指示を出していた」ということ。
ドナテアの手紙の内容はこれと正しく合致します。
まずメルセドウ王国の貴族派筆頭、ベルゲン・ゼノーティア公爵がエルフを狙っている。
手紙の内容を見るにおそらく闇奴隷のエルフを収集でもしているのでしょう。仮に人間至上主義の貴族であったとしても大層な御趣味と言えるでしょうが。
わたくしが先んじて実家に「エルフの奴隷について調べてくれ」と伝えてありますが、それと符合する形になりましたわね。
貴族派閥の者はゼノーティア公の御趣味を知ってエルフを探し始めたのでしょうね。覚えめでたくなるでしょうし。
そして【魔術師】ダウンノーク伯も探すはめになった。
ダウンノーク伯は第二位の地位にはおりますが国から離れたバベルの塔主なのですから決してゼノーティア公と近しいとは言えません。それでも上位には違いありませんが。
地位を安泰なものとするためにはこの地でどうにかエルフを捕らえられないかと画策するでしょう。
それがバベリオの闇組織であり、そこからザリィドとドナテアにバレたと。ドナテアにはダウンノーク伯が直にお聞きになったようですがね。
ザリィドに関してはお金にがめつい印象だけがありました。
それがドナテアの手紙によれば闇組織と接点があり、【魔術師】同盟かゼノーティア公に取り入ろうとしていると。
お金集めがエルフの買い付けかゼノーティア公への上納の為であるならば少しは話が分かります。
TPをお金に変換すればいいだけだとも思いますが、それが『即金』や『見せ金』であるならばTPとは別に現金として保管するのもありうるでしょう。
ザリィドが【魔術師】同盟に取り入りたい――正確には「利用したい」だと思いますが――理由は塔としての価値を上げる為と、お金にがめつい性格を考慮するならば【青の塔】も絡んでいるのかもしれません。
【青の塔】コパン・メルンゲムのメルンゲム商会は紛れもなくメルセドウの大店です。
それこそダウンノーク伯以上にお金を持っていてもおかしくはないのですから、ザリィドはそことも近づきたいのでしょう。
ともかく、そうした諸々を考えるとドナテアの手紙は誤情報ではないと思います。
まぁ隠している部分はあるでしょうがね。嘘はついていないと。
「それとなぜわたくしに、ということですがこれも分かりやすいですわね」
『貴族派と対立する王国派だからですか?』
「それはそうなのですが大前提として『なぜ自分で情報を利用せずにわたくしに伝えたのか』が重要です」
さらには大店の娼館主であり市井の情報には手も目も耳も広い稀有な人物。それがドナテアです。
そのドナテアが得た情報は明らかな『弱み』。
これを利用して例えば自分が【魔術師】に取り入ったり、逆に脅したり、【霧雨】に攻撃を仕掛けることも可能なはずなのです。
なぜそうしなかったのか。なぜわたくしに伝えるという方法をとったのか。
答えは『その方が自分の利になる』ということでしょう。
わたくしが思うにドナテアは『塔の価値を上げる=ランク・ランキングを上げる』という塔主的思考の持ち主です。
【魔術師】ダウンノーク伯は『塔の価値を上げる=メルセドウ貴族としての地位向上・維持』と見ているはず。
【霧雨】ザリィドは『塔の価値を上げる=高ランクに取り入る≒金稼ぎ』という具合でしょうか。
近しいようで相容れられないものがあるとわたくしは感じました。
「ドナテナはわたくしに情報を伝えることで、こちらが動くことを望んでいるのだと思いますわ」
『それは
「どちらもですわね」
大貴族による闇奴隷エルフの大量所持などというメルセドウ王国内の不祥事……いえ、大事件と言ってもいいほどのリーク情報ですから、わたくしから実家に伝わるのは当然。
それが事実であれば貴族派は窮地に陥るでしょうし、ダウンノーク伯爵家もただではすみません。もちろん【宝石】のウェルキン子爵家も、【青】のメルンゲム商会もです。
そしてそれは【魔術師の塔】同盟の弱体化につながる。
何ならメルセドウで動きがあったタイミングでバベリオに情報を流してもいいのですから。
ドナテアにとってはそれくらい造作もないでしょう。
さらに我々【
もし我々が勝てば【色欲】より上位の【魔術師】【青】【霧雨】が消える。
もし我々が負ければ今一番勢いに乗っている目障りな【
「――つまりドナテアにとっては自分が動くよりも我々を動かしたほうが利は大きいのですわ」
『なるほどのう。なんとなく裏もありそうじゃが、正しくはあるのじゃろうな』
『こ、怖い人だったんですね、ドナテアさんって……』
『私、申請を受理されないで正解だったかもしれないです』
ドナテアという人物の評価が高いのは以前から同じなのですけれどね。
だからこそ早めにシャルロットさんに潰して頂けると助かったのですが。
『そんでアデルちゃんはどう動くん?』
「ドナテアの策に乗りますわ。まずは実家に連絡をとってからですけれどね」
お爺様に頑張って頂きまして色々調べて頂きましょう。ネタが上がっているとすれば動きやすいでしょうし。
その真偽の結果でこちらの動きも変わります。
まぁどちらにしても【魔術師】同盟も【霧雨】も我々の敵には違いありません。
結果で変わるとすれば――【色欲】を攻めるかどうか、ですわね。
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