175:アデルさんが限定スキルを取得しました!
■ドナテア 42歳
■第484期 Bランク【色欲の塔】塔主
「ハハッ! こりゃ面白いお便りが来たもんだ」
「んー? どしたのドナテア」
「これだよ。見てみな、プリエルノーラ」
その手紙の送り主は【霧雨の塔】のザリィド。なかなか珍しい相手だ。
昔から時々手紙は来ていた。同盟申請とかも何回かあったね。
まぁうちに喧嘩を売るような馬鹿ではないってことだ。
ザリィドの素性はよく分からない。あたしの情報網を駆使しても何も見えてこない妙なやつだ。
だが手紙の内容や塔主となってからの動きである程度は想像がついている。
おそらくザリィドは″闇″の人間だってね。
だからどこの国のどこの街出身なのかも出てこない。戦えそうな風格はしてるのに冒険者でもないってわけだ。
あたしの店は娼館の大店だからね。
各国に散らばる奴隷商や娼館主とのつながりもあるから、あたしの名前なんて調べようと思えばいくらでも調べられる。別に隠しちゃいない。今はバベリオの街にも一つ娼館を出しているしね。
職業柄″闇″の連中とも関わりはあるから、ザリィドの雰囲気から察することはできた。
当時のザリィドはあたしのつながりからの情報を欲していたようだね。
まぁ適当にあしらっておいたが。
あたしは情報屋じゃないし塔主となった今じゃ金も別に欲しくない。自分でTPを稼げるしね。
とは言え無下にするほど利用価値がないわけじゃないってことで″適当に″ってわけだ。
あたしが欲しいのは金じゃなくて塔と塔主の情報だ。
塔主として生きる為にはそこが一番重要なんだよ。
ザリィドを泳がせることでそこいらが手に入らないかってことだね。
で、今回久しぶりに手紙が来たわけだ。
どんな内容なんだと見てみれば「エルフの奴隷はいないか」と。
「ドナテアの店にはエルフどころか奴隷もいないんじゃないのー?」
「そりゃそうさ。うちは健全な娼館だからね」
そんなことは百も承知だろう。
なのにこんな手紙を出してきたってことは、あたしがそんな情報を持ってないかとただ聞いてきているだけ。
仮にエルフの奴隷がいるとすれば限られた国の闇商人が関わっているくらいだろう。
つまり、そういった輩と繋がってないかと勘繰っている。
まぁ安直なことだ。だからこそ利用しがいがあるとも言える。
「なんなのこれ。最近はエルフが流行りなのかい? ひゃひゃひゃ!」
「なかなか興味深い共通点だね。というよりザリィドの目的に関わってるんだろうさ。まさかザリィドもあたしのトコに先に連絡が来てるとは思ってないだろうしね」
「間抜けだねぇ~、ひゃひゃひゃ!」
さてこの情報をどう扱うかだね。
どちらか一つでは価値が低くて何の興味もないことだが二つも揃えば話は別だ。
これをどうすれば一番良い形にできるか。ちょっと考えてみようか。
■アデル・ロージット 18歳
■第500期 Cランク【赤の塔】塔主
「なんか想像してたのより微妙だな」
「そうですの? わたくしは少し安心しましたわよ」
TPに余裕が生まれたところでわたくしは限定スキルを取得しました。
後期の塔主総会でBランクに上がる為には絶対に必要――と勝手に思っているだけですが――なものですからね。無理矢理にでも早めの取得に踏み切りました。
取得した限定スキルはこれですわね。
=====
□赤き雨の地/230,000TP:自塔屋外エリアに赤い雨を降らせ継続ダメージを与える
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不安な点はいくつかありましたが、少しでもTPの獲得に繋がればいいなと期待しての選択です。魔物や罠を使わないダメージTP獲得手段として。
先にシャルロットさんが限定スキルを取得していたおかげで、取得してからステータス画面で確認しないと細かい効果は分からないと聞かされておりました。
最初に取得する画面では説明不足にも程がありますからね。
まぁ【風】のヴォルドックからも同じような情報を得てはいましたが。
ともかくわたくしも高TPを叩いて取得し、それからステータス画面で<赤き雨の地>の詳しい効果を確認したのです。
=====
□赤き雨の地/230,000TP:自塔屋外エリアに赤い雨を降らせ継続ダメージを与える
効果:
操作画面の【塔内魔物・罠配置設定】にある【赤き雨の地】タブを開いて自塔内屋外階層に設定エリア・雨量・発生率を指定する。『霧』にすることも可能。
赤雨は『弱毒』と同じ扱いであり皮膚に触れている間は継続ダメージを発生させる。
拭き取り、乾燥等で水分が消えれば効果は消える。解毒薬や回復魔法では消えない。
着色はなし。衣服に付いた場合は効果なし。自塔戦力及び同盟戦力に効果なし。
=====
「『弱毒』なんかダメージっていうほどのもんじゃねえぞ。痛みも感じないだろうし、せいぜいヒリつく程度だろう。そんなんで得られるTPなんか微々たるもんだぞ」
「痛みなんか感じられた方が困りますわよ。客足が激減しますもの」
もし赤雨が侵入者にとって明確にダメージと感じるものであれば確実に客足は減ります。
ただ雨に打たれるだけでダメージを負っていたら探索など出来ませんからね。
【赤の塔】に入って赤雨が降っていれば、じゃあ今日はやめておこうとなるでしょう。
しかし『弱毒』程度であればダメージと気付かず探索はできるでしょう。
わたくしの方で雨量や発生率をいじれるらしいですから、最初は時々降る程度にしておけばより気付きにくくなるはずですし。
着色なしというのもいいですね。
衣服や装備品が赤雨に打たれて真っ赤になってしまったら、それでも客足は減るでしょうから。
ただの水分として皮膚に触れているだけで『弱毒』扱いになるのなら願ったり叶ったりです。例えそれが微々たるものであっても。
『自塔戦力及び同盟戦力に効果なし』というのも気にしていたポイントです。
わたくしの魔物までダメージを負ってしまっては使えませんし、
その不安を払拭できたのは大きい。
「まずは一階層で時々弱く降る程度。そこで様子見したいですわね」
「もしその反応が悪かったら?」
「一階層では使いません。三階層から使い始めますわ。そこまで行けば物見遊山の侵入者もいないでしょうし。仮に赤雨を不快と思っても探索を続行するでしょう」
二階層を屋外構成にするという案もありますがね。
大改装はBランクに上がるまで行うつもりはありません。
侵入者に周知されている二階層を階層移動というわけにもいかないでしょう。
「理想は上層に行けば行くほど雨量と発生率を上げる。『霧』というのもアリですわね」
「赤い霧ってことだろ? 視界がやべえことになりそうだな」
「霧になった場合、ダメージTPに差が出るかもしれません。それも検証してみませんと」
皮膚に水分が付着することでダメージTPになるのであれば、雨より細かい霧の場合、取得TPが上がるのか下がるのか。どちらも可能性は考えられます。
まぁ結局はTPの多寡で判断するのではなく「どちらが探索しにくいか」が主点になりそうですがね。
それでも数字は検証しておいて損はないでしょう。
「まずは色々と画面をいじりつつ探って……おや?」
<赤き雨の地>の設定画面を開いていたところに何やら通知が入りました。
そう思って開いたのですが……。
「……これはこれは、珍しいところからお手紙ですわね」
「珍しいところ?」
「【色欲の塔】のドナテア、ですわ」
「はあ?」
■ドナテア 42歳
■第484期 Bランク【色欲の塔】塔主
「ひゃひゃひゃ! やっぱアデル・ロージットか。そりゃそうだね」
「別に【女帝】でもいいんだけどね。角が立たないほうを選んだまでさ」
【魔術師】ケィヒル・ダウンノーク、そして【霧雨】ザリィド、あんたらはあたしを嘗めすぎだよ。
娼館主を奴隷商やら闇商人と同じに思われても困るんだよねぇ。こちとら真っ当な商売人なんだ。
そしてその上で塔主でもある。
おそらくあんたらよりも真っ当で塔主らしい塔主だろう。
俗世に縛られ過ぎてるのがあんたらの最大の弱点だ。
まぁじっくりと甚振られながら悔いるがいいさ。バベルの深い闇の中でね。
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