409:戦争の気配がしています!
■アデル・ロージット 19歳
■第500期 Bランク【赤の塔】塔主
『え、えぇっ!? く、【空城】同盟も私たちを!?』
『【重厚】のラグアンから聞いた限りではな。具体的なことはまだじゃがそう遠くない話じゃろう』
フッツィルさんに頼んでファムで探っておいて頂きましたが、どうやら正解でしたわね。
予想が当たって嬉しいというより、頭が痛くなりますわ。思わず溜息が漏れます。
メルセドウにおける中立派貴族粛清の兆し。それを受けて【節制】同盟はわたくしたちに
それを受けるのか、それとも受けないのか。
受けるのならばどうすれば勝てるのか。条文はどうすべきか。
様々なことを予測し対策会議を行う日々なのですが、わたくしにはもう一つ気掛かりなことがあったのです。
国が乱れるのが確定しているような状況であれば、他国が介入してきてもおかしくはないのではと。
早い話が戦争です。武力か計略か、何かしらの手段で侵略してくるのではないかと思ったのです。
そう考えた時、一番可能性があり一番嫌な相手がラッツェリア公国。
メルセドウの東隣に接しており、大公を始め多くの貴族がメルセドウを目の敵にしていると専らの噂です。
だからこそ最も警戒すべき国境を我がロージット家が守っているというわけですわ。
わたくしにはスーロン侯の動きまでは読めませんでしたが、どうやら彼は中立派粛清の噂を聞きつけ、即座にラッツェリアのクロック伯と接触したようです。
そこら辺はさすが蝙蝠の如き中立派の筆頭ですわね。方々に手を回すのが非常に巧い。
スーロン侯がどのようにクロック伯を口説いたのかは分かりません。
メルセドウを手に入れるチャンスだとか、ロージット領を奪うチャンスだとか、中立派と手を組もうだとか、おそらくそんな事を言ったのだと思います。
その後、スーロン侯が大公陛下に接触したのか、それともクロック伯から大公陛下に伝わったのかは分かりませんが、いずれにしても大公陛下はメルセドウを攻めることに乗り気になったのでしょう。
そしてその先駆けとしてまず【空城】のマキシア・ヘルロック伯爵に指示をした。――【赤】のアデルを斃せと。
同時にクロック伯は実子である【重厚】のラグアンに同様の指示をしたらしいですわね。
わたくしを斃せば王国派の勢いを削ぐことが出来る。「王国派が負けた」と印象付けることが出来ると。
いつの間にわたくしは王国派の象徴のようになったのですかね。
まぁBランク塔主が英雄視されるというのは聞く話ですがたかが三年目の新人塔主ですからそこまで騒がれるようなこともないと思いますが。
もしかしたらメルセドウ国内ではすでに人気者なのかもしれません。
わたくし自身はそこまで実感がないのですがね。
ともかく、ラッツェリアは中立派の扇動によりメルセドウと戦争を起こすつもりでしょうし、最初に標的となるのは国境であり王国派筆頭でもあるロージットとなるでしょう。
その為にもわたくしを消したいのでしょうし。
わたくしたちが
『アデルさん、ご実家は大丈夫なのですか?』
「手紙が来ない程度には大丈夫だと見ていますわ。陛下やお爺様が予測していないわけもないと思っております。何も考えず中立派貴族を粛清するわけもないですしね」
『私もそう思います。元より陛下は国を乱すことを良しとしないお考えのはず。であれば例え中立派粛清により国が乱れることがあってもそれを最小限にしようと思って動いていらっしゃるはずですから』
「シルビアさんの仰るとおりですわね。ラッツェリアは当然警戒しているでしょうし、その対策も行っているでしょう。ロージット領に関してはお爺様がいる限り問題ありませんわ」
何なら陛下やお爺様はスーロン侯を動かすためにわざと中立派粛清の噂を漏らしたという可能性すらあります。
危機に陥ったスーロン侯はラッツェリアを頼るはず。それはもう間者だとかそういう次元ではなく売国人であると確定します。
罪を表面化させることで中立派粛清を滞りなく行うと……いえ、考えすぎですかね。さすがにそこまではしませんか。
いずれにしてもメルセドウやロージット領のほうは、わたくしとしてはあまり心配しておりません。
それに心配したところで塔主であるわたくしにはどうにも出来ませんしね。
バベルの中で出来ることをただやるしかないのです。わたくしは【赤】の塔主なのですから。
「わたくしたちが考えるべき問題は目先の
『【聖】同盟とも本格的にバチバチになった。【節制】同盟も仕掛けてくる。そこに【空城】同盟やろ? こんなんボスラッシュやん』
『【聖】同盟は当分無視じゃろ。先に考えるべきは【節制】同盟と【空城】同盟じゃろうな』
『出来れば先に【空城】同盟と戦いたいですよね。あっ、もし戦うとすればですけど』
ちなみに【聖】同盟からはすでにシャルロットさん宛てに
形式は
手始めとしてありきたりな条件から、というところでしょう。
こんなものは考慮するまでもなく却下です。次の条文提出を待ちましょう。
そしてシャルロットさんの言う通り、もし戦うとすれば【節制】同盟より先に【空城】同盟を処理したいとわたくしも思っております。
【空城】同盟のほうが弱いですしね。それを足掛かりに【節制】同盟と戦うというのが理想です。
皆さんで情報共有しておきますと、【空城】同盟はラッツェリア公国の四塔同盟。
筆頭は【空城の塔】マキシア・ヘルロック伯爵。昨年後期のランキングでは16位のAランクです。
第477期ですから二十六年目ですか。【暴食】と同期ですわね。
二番手に【潮風の塔】ノイア。彼はパイレス子爵家の家人だそうです。平民ですわね。
二十年目のBランク39位。パッとしない感じなのは一部が『海の塔』のせいでしょう。
三番手、【夢幻の塔】ゼメット。彼もアバランス子爵家の家人ということで平民です。パイレス子爵家と同様、ヘルロック伯爵家と親交があるようですわね。
九年目のCランク78位。ここもあまりパッとしません。
最後に四番手【重厚の塔】ラグアン・クロック。メルセドウとの国境領主であるクロック伯の長子ですわ。
こちらはシルビアさんの同期でプレオープン三位ですわね。
それだけ聞くと優秀ですがDランクに上がったばかりの240位ということで無視して問題はないでしょう。
ちなみに
ラッツェリアの貴族としてはヘルロック伯よりクロック伯のほうが上だそうです。
おそらく貴族同士の付き合いで同盟に引き入れたのでしょうが、ヘルロック伯にとってはある意味残念でしたわね。
ヘルロック伯は穏健派、クロック伯は強硬派と言われているらしく、どうやら派閥は違うらしいのです。
メルセドウの王国派・貴族派のように火花をぶつけ合っているという感じではなさそうですがね。一応分かれていると。
おそらくヘルロック伯は戦争反対でしょうし、クロック伯は戦争大歓迎でしょう。
そして大公陛下もまた戦争に乗り気になってしまった。
だからヘルロック伯もわたくしと
【重厚】のラグアンを同盟に引き入れたのだから仕方ない部分もあるでしょう。
ヘルロック伯からすれば
そのほうが確実に【赤の塔】を消せますから。最もそういう申請が来たら却下していましたけれど、それはさておき。
しかしラグアンというかクロック伯に気を使って
なんとも人の良い貴族がいたものですわね。消すには惜しい塔主ですわ。消しますけれど。
『【空城】同盟はABCDですか。やっぱり怖いのは【空城】ですかね。【魔術師】ほどじゃないと思いますけど……』
『シャルロット殿、それはさすがに感覚が麻痺しすぎでは……私も【空城の塔】には挑んだことがありますが、非常にしっかりとした王道の塔という感じでしたよ』
「わたくしも塔創りが上手くクセがないという印象ですわね。逆に言えば尖っていない分、戦いやすいのですが、それでなくても限定スキルを考えれば油断はできません」
『【潮風】だって持ってるやろうしな。限定スキルは』
『じゃ、じゃあその二塔だけですかね、怖そうなのは……』
『【重厚】は無視でも良いが【夢幻】は状態異常を多用する魔物が多いからそこだけ注意じゃな。ファムで戦力は分かっておるが固有魔物も一体持っておる』
戦力的には【空城】が飛び抜けていると思われますが、
こちら六塔分の戦力と比較すれば十分に戦える、と言いますか、むしろこちらが上回っていると思います。
となれば問題は限定スキルだけと考えて良いのではないでしょうか。
そうなるとあとは条文次第ですわね。
こちらから提示するような真似は致しません。あくまで向こうが仕掛けて来てこちらはそれに対応したと見せかけます。
でなければファムで覗いていることがバレますからね。
おそらく向こうはあまり時間を置かずに申請してくるでしょうし、なるべく早く
早くしないと中立派粛清が始まったり、戦争が始まったりしますからね。
その前にわたくしを消しておきたいはずです。まぁそれは【節制】同盟のほうこそ思っていることでしょうが。
成立させることが第一であれば条文は向こうが圧倒的に有利なものにはならないでしょう。
せいぜい五分と思える程度のものを出して来る。
それに対しこちらは修正案でどこまで有利に持っていけるか。おそらくかなり譲歩して下さるのではないでしょうかね。
出来れば『限定スキル使用不可』が盛り込めれば大成功といった所なのですが……そうなるとわたくしの<赤き雨の地>も使えないのですよね。
おそらく【空城】同盟が狙うのは【赤の塔】だと思いますし。若干痛手です。
向こうは【空城の塔】を使いたいでしょうが、【女帝】【忍耐】【世沸者】あたりが代表塔となるのは避けたいはずです。
そうなると【空城】vs【女帝】といったトップ同士を代表塔とするような条文にはなりえません。
【赤の塔】ならば【女帝の塔】とランクも同じですし、代表塔とするにも違和感はあまりないと言えます。
だから【赤の塔】を使わせようとしてくるのでは、と思っております。
あとはどのような条文を出して来るか、それによって対応を決めましょう。
いずれにせよわたくしたちにとって【空城】同盟戦というのはチャンスなのです。
その後に控えた【節制】同盟戦のためにもTPを稼いで塔を強くしなければいけないのですから。
【空城】同盟にはせいぜいわたくしたちの糧となって頂きますわ。
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