136:こっちはスキルの事とかで忙しいんですけど!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
<帝政統治>の試験運用を始めました。
同盟の皆さん、特にドロシーさんとよく相談し、とりあえず今は三か所に設置しています。
一階層の城門前広場。侵入者たちとこちらの部隊がぶつかる所。
二階層のボス部屋。少し入ったよく戦闘が集中する所。
三階層のボス部屋。同上。
今は3エリアだけですがこれだけで3,000TPですからね。無駄にはできません。
これをエリアなしの状態と比較し、日々確認し、徐々に最良の位置を見つけていくと、そういう作業になります。
やはり一番いいのは罠とセットで考えるか、ダメージの見込めるボス部屋か、という今のところの結論です。
ただし罠は斥候がいれば回避されますし、いなくても一度覚えられると避けられやすい。それはこちらが日々修正してもです。
従って「分かっていてもくらってしまう罠」というのが理想でして、それをドロシーさんや皆さんと考えながらやっています。
これにより私は、より侵入者の動きを注視する毎日になりました。
今までがただ眺めていただけとは言いませんが、何と言いますか真剣みが増したのです。
「このエリアでダメージTPを発生させるためには、どう侵入者を動かして、どこに魔物を配置してどこに罠を置けばいいか」
それは塔主として基本的な考えなのかもしれません。
しかし私はこのスキルを手にし、今になって改めてその難しさに気付かされたのです。
おそらく弱小商店の娘であった影響だと思います。
スキルの取得に370,000TPもかかり、エリア一つに1,000TPかかっている。これを絶対黒字にするためにと普段以上に頭を使っているのです。赤字は嫌だ赤字は嫌だと。
まぁ黒字になるのは当分先でしょうが、なるべく早くこのスキルの『最適解』を見つけたいなと。
どういう塔構成、どういう順路、どういう配置などなど。ついでに言えば客足も必要です。
理想の塔運営をするために悩み、動かし、模索すると。
なるほど<帝政統治>とはよく言ったものだなと思いました。
為政者というのは大変なのですね……。街娘には荷が重いですよ。
……と、若干の現実逃避をしていたら、画面に変なものが映りました。
「ん? ……騎士団ですか?」
入口からゾロゾロと二〇人ほど。同じ装備を身に着けた騎士たちが入って来たのです。
「あの紋章はニーベルゲン帝国ですね」
「は?」
エメリーさんの言葉に思わず振り返りました。
え? ニーベルゲン帝国って【正義の塔】のラスターさんとか【力の塔】同盟とかのあそこですか!?
何で今さら!? 軍隊で攻めてきたんですか!?
混乱する私に、いきなり同盟の全体通話が繋がりました。大声を出してきたのはノノアさんです。
『ききき、騎士団が攻めて来ましたあ!』
えっ、そっちもですか!?
『安心せい、こっちもじゃ。ニーベルゲンの騎士団が二〇名』
『あらそちらもですの? こちらにも来ましたわよ』
『え、え、ちょちょちょ……ああホンマや! ウチも来とる!』
えっ、皆さんのところにも!?
■ドイワース・ニーベルゲン 40歳
■ニーベルゲン帝国 軍務卿
「気を抜くな! ここは戦地である! これは塔への挑戦ではない! 討伐である!」
『ハッ!』
「目標は我らがニーベルゲン帝国の怨敵【女帝の塔】とその一派! これを決して許してはならない!」
『ハッ!』
「本日は先遣に留め、計略を立てた後、本格的な侵攻作戦に移行する! 皆の者心しておけ!」
『ハッ!』
一年前、第三皇子ラスター殿下がバベルの塔主となって皇帝である兄はまるで世界を制したような気になっていた。
しかし蓋を開ければたった一月で死亡。
期待が大きかった分その落胆は酷いものだった。国の運営がほぼ止まったと言ってもいい。
私としてはチャンスだった。
兄になり代わり皇帝の座を得る、そのチャンスだと。
戦争も起こせぬまま勲功も得られず、ただ存続するだけの軍務卿で居続けるのはもうごめんだ。
私は上申した。ラスター殿下の仇を討つべきだと。軍を動かせてくれと。
宰相などは「バベルに軍を持ちこむなど言語道断」などとぐちぐち言ってきたが皇帝が頷けばこっちのものだ。
そこから私は動き出す。
しかし最初に私が送り込んだ暗殺部隊は【女帝】を討てず、バベルの塔主であったストルス・ガーナトンらにも仕掛けさせたがどうやらそれも失敗。
やはり私自身が軍を率いてバベルに向かうしかないと、はるばるバベルまで出向いたのだ。
さあ覚悟しておけ【女帝の塔】とやら。
私が皇帝となるその礎にしてやろう。光栄に思うがいい。
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
『ほっとけばいいんじゃありませんの? そんなおバカさんは』
『辛辣っ!?』
フゥさん曰く、バベリオにニーベルゲン帝国の騎士団が約千人来ているそうです。
その中から選抜されたのか、ただの先遣なのか、とりあえず二〇人ずつで侵入して来ていると。
で、他の騎士の人たちはバベリオの外で夜営をし、上官クラスの人は宿屋で泊まっているみたいですね。
「なんで全員宿屋さんで寝かせてあげないんですか?」
『いくらかかると思ってますの? 普通でしたらニーベルゲンからバベリオに行軍するのも軍費的に無理がありますわ。その上攻略に何日かかるかも分からないバベリオに駐屯させるなどありえません。予算が通らないはずですわよ。それならまだ隣国と戦争するほうがマシですわ』
とアデルさんはお怒りです。バベリオに軍を持ってくること自体が国としてありえないと。
なるほどそういうものですか。
『それにしては総大将がかなり高級な部屋に泊まっておるようだがのう』
『おそらくドイワース軍務卿ではなくて? 皇帝陛下の弟君だったはずですわ』
『うわー、部下は街の外でテント暮らし。上官は高級宿かい。可哀想になぁ』
『あ、あの、バベリオの街の外って魔物が繁殖しやすいって話じゃ……』
ですよね。バベリオは自治都市ですから騎士団の間引きもないし冒険者の魔物討伐もない。
だからスタンピードが起こりやすいって話だったと思います。
街のそばはさすがに大丈夫なのかもしれませんが、それにしたってテント暮らしは怖いでしょう。
『ニーベルゲンは今、国として機能しているかも怪しいですわ。皇帝が壊れているか、行政の崩壊か、軍部のクーデターか、それに近い状態なのだと思います』
「きっかけはやっぱり私がラスターさんを斃したせい、ですか」
『国が壊れた理由はどうでしょうね。しかしそれをきっかけに騎士団がこちらに来たのは間違いないですわ。それがただの理由付けだとしても、ですわね』
国が壊れた理由と騎士団が来た理由が違うということですか?
理由付けとは……? ちょっと私には分かりません。
『にしても遅ないか? 【正義の塔】をやったのは一年近く前やし、【力の塔】も半年以上前やし』
『早いくらいですわよ。本来軍を動かすのはもっとかかるはずですわ。この短期間だからこそたった千人で済んでいるのでしょう』
『ふむ、そういうもんかのう』
確かに一国の軍が千人というのは少ない気がします。
精鋭を選抜してきたのでしょうか。
……ん? Fランクの【世沸者の塔】にも来ているのですよね? 精鋭?
「すみません、騎士団の人たちはどうやってランク分けられているのです? 冒険者ランクとか持ってないですよね?」
『今さらですわねぇ。バベル一階の受付でバベルカードを登録する時に勝手にランク付けされますわよ。神様のご意思で』
『それが冒険者ランクと大体符合するっちゅう話やったな』
あー、じゃあバベルの塔に挑めるランクは神様が決めているということですか。それがカードに表示されていると。
「ん? そうしたらいわゆる『偽Fランク』みたいな人たちは」
『登録した時にFであれば更新せん限りFであり続けるということじゃろう。バベルに入る時はカードを見せるだけじゃからのう』
『普通は更新するものですけれどね。早くに高ランクの塔に挑みたいというのが侵入者の心情でしょうし』
なるほど。そういうことですか。
もうすぐ一年が経とうとしているのに私はよく知らないままでした。
……あれ?
……偽Fランクじゃなくても騎士団が大量に来ちゃったら、【世沸者の塔】まずくないですか?
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