386:決着!そして…ついに取得です!



■ドロシー 25歳 ドワーフ

■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主



 本当はアタランテを真っ先に斃したかった。

 向こうがヘルキマイラを狙うように、こっちが狙いたかったのはアタランテや。これを斃せば即ち勝ちやと。


 しかし群れの中にウリエルやヘルキマイラを突っ込ませることは出来ん。

 周囲の魔物に襲われるってのもあるけど、アタランテがまだシュルクエールの神授宝具アーティファクトを持ってるかもしれんからな。



 【忍耐の塔】での一戦で、アタランテはパルテアの右腕を斬り飛ばした。

 いくらアタランテの『筋力』が高くても一撃でパルテアの腕を斬るほどの力があるわけない。

 武器である手斧――シュルクエールの神授宝具アーティファクトに何かしらの秘密があるに違いないはずや。



 実際に斬られたパルテアはこう言った。


「触れた瞬間に<統率>と<竜闘気>が解除されたように感じました」と。


 <統率>は配下の魔物の強化スキルみたいなもんや。それはいい。



 問題は<竜闘気>のほうや。これはパルテア自身のバフスキルで、これによって竜人というのは竜と同じような攻撃力・防御力を有しているらしい。

 パルテアは体術で戦うからそのスキルでもって、剣相手でも拳で戦えているわけやな。


 ところがその<竜闘気>が神授宝具アーティファクトによって解除された。だから簡単に斬られたのだと。

 従ってあの神授宝具アーティファクトには『スキル封じ』の効果があると一応は結論付けた。


 ただ本当にそれだけか? とも思うわけや。

 思い当たるのはフゥのとこにおる虹竜アイダウェドブリング。あいつの<虹竜の咆哮>にはスキルと魔法を封じる効果がある。


 じゃあシュルクエールの神授宝具アーティファクトにも同じように『スキル封じ・魔法封じ』の効果があってもおかしくはない。

 何なら別のナニカを封じる可能性もある。その上で攻撃力がバカ高いと。



 考えすぎかもしれんけど警戒はしておくに越したことはない。

 だからウチはなるべくアタランテに近寄らんように命令した。ウリエルはそれに従った上で、ヘルキマイラを守っとるわけや。


 ウリエルがアタランテの攻撃から守り、スフィー部隊のサポートも入り、天使部隊の回復もある。

 こうなるともうヘルキマイラの独壇場や。


 もちろんフワリンのハイウィッチ部隊も敵天使部隊に攻撃しとるし、地上はリザードマン部隊が奮闘しとる。

 まぁヘルキマイラの炎があるから持ちこたえられてるのは間違いないけどな。



 まず固有魔物の天使二体が斃れた。ヘルキマイラが狙ったのもあるけど、フワリンとスフィーが同時に狙ったのも良かった。

 これで飛行部隊は大天使アークエンジェル(C)のみとなり烏合の衆と化す。


 天使の掃討はフワリンの部隊に任せ、今後は地上部隊の殲滅に集中した。

 空からヘルキマイラがブレスを放ち、ウリエルは守り続ける。

 ただそれだけで草原は焼け、木々の葉も燃え、敵地上部隊にとっての地獄が出来上がる。



 もちろん塔構成で創った森が簡単に燃えるわけない。ただ一時的に火がついてすぐに元通りになるだけや。

 しかし一時的とは言え、熱くもなるし煙くもなる。少なからず火のダメージが入るのは間違いない。

 それは獣もフォレストドラゴンもアタランテも精霊も同じや。


 精霊は風魔法で炎を防いだり、たまに攻撃したりもしとる。

 フォレストドラゴンも風のブレスを使うらしい。でもヘルキマイラを狙ったところで飛び回っとるしな。当たっても天使の回復があるし。


 いかにSランクのドラゴンと言っても、Sランク固有魔物のヘルキマイラには勝てん。ブレス一つとってもな。

 ただでさえ地対空は空が有利なのに地力差まであったらもうどうしようもないやろ。



 本当にヘルキマイラを隠しといて良かった。【忍耐の塔】で見せてたら対策されてたかもしれん。

 相手が『森の塔』でヘルキマイラが火・風属性ってのも良かった。

 つまり、ヘルキマイラの召喚権利を譲ってくれたシャルちゃんに感謝と、もうそれに尽きる。



 空からの一方的な攻撃は続き、やがて終わる。

 最後はやっぱりアタランテとフォレストドラゴンが残ったけど、ヘルキマイラのブレスは止むことがなかった。


 こっちも天使とかリザードマン部隊にかなりの被害が出たけど、大勝と言ってええやろ。そうして決戦は終わった。



 最上階に行くとシュルクエールは大層暴れた様子やった。

「よくも俺の天使を殺しやがって」とか何とか聞こえるが、近寄るのも気持ち悪いんで、ウリエルに遠くから宝珠オーブを割らせた。


 神授宝具アーティファクトはアタランテが持ってたのは知っとるけどな。消えたところに落ちてたし。

 限定スキルを二つ持っている可能性も一応は考慮して……



 ……ああ、そうそう。限定スキルで一つ気掛かりなことがあってん。


 おそらくシュルクエールの取得していた限定スキルは『眷属を自分のもと(もしくは自塔のどこか)に戻す(もしくは移動させる)』もんやったと思っている。


 ならなぜ十三・十四階層の決戦時にそれを使わなかったんやろ。

 序盤からヘルキマイラに荒らされて常にピンチの状態やったし、使わん理由がない。



 例えば、アタランテを自分のもとに緊急避難させ、再び階段を下りて別角度から攻撃させるだとか。

『引き戻す』じゃなくて『移動させる』スキルならもっと便利や。ヘルキマイラの背後にでも移動させたらええ。


 あの限定スキルを使えば、いくらでも勝ち筋はあった。

 だからウチもウリエルたちもずっと警戒してたんやけど……結局は一度も使わなかった。



『使わなかった』と言うよりは『使えなかった』が正解やろうとはウチにも分かる。

 まさか『敵の塔にいる間しか使えない』とかではないやろ、さすがに。他に理由があるはずや。


 TPを消費するタイプのスキルでTPが切れたちゅうのはない。それはバベルジュエルに入ってた報酬TPが多かったから断言できる。


 じゃあ例えば回数制限かと。


『一日三回しか使えない』だとすると、なんで攻撃役に眷属三体選んでたんやちゅう話になる。二体にしとけ馬鹿が、と。


『眷属一体につき一日一回しか使えない』だとすると、熊やフォレストドラゴンは眷属とちゃうんかいという話になる。



 どうにもちぐはぐや。

 最初から最後までシュルクエールに踊らされてた感がある。勝つには勝ったけどモヤモヤが残っとるような感じで嫌やな。



『まぁ考えていても仕方ないですわよ。答えなんて一生分からないのですから』


「それはそうやけど……」


『そんなことより報酬TPはどうするんじゃ? 限定スキルか、それともアタランテを召喚するか』



 ああ、そうやな。

 今まで溜めこんでたTPにバベルジュエルのTPと魔石のTPを足して……。

 今回の塔主戦争バトルで喪った魔物の補充分を引けば……約41万TPか。


 もともと限定スキルの取得が第一目標やったから取得はしておきたい。TPがあるうちに。

 魔物も欲しいのが多いな。これもまた悩みどころや。



 アタランテと天使二体は最低でも欲しいけど眷属化は枠が足りないから無理やな。

 召喚するだけでもアタランテだけで51,000TP……いけないこともないけどって感じやな。

 なんせ限定スキルがどれも高いし。


=====


□忍耐の精神/300,000TP:自軍の耐久力を増す

□忍びの守り/320,000TP:指定した魔物の姿を隠す

□天元耐性/580,000TP:耐性を超強化する


=====


 取得可能なのは<忍耐の精神>と<忍びの守り>。

 元々狙ってたんは汎用性のありそうな<忍びの守り>やな。

 これがあったから「シュルクエールの限定スキルも姿隠しかもしれん」と警戒しとったんやけど。



「うーん、やっぱ<忍びの守り>かなぁと思うんやけどどう思う?」


『防御型のやつが限定スキルを防げるものなら真っ先に取るべきなんでしょうけどね……』


『耐久力を増すと書かれていてはどうしても防御力のことかと思ってしまいます』


『ぼ、防御力も増すには増すんでしょうけどね……プラスアルファがあるかどうかってなりますと……』


『それは賭けじゃな。わしの<輝翼の扇>とて想定外の効果があったからのう』


『わたくしの<赤き雨の地>もそうですわね。取得してからでなければ本当に使えるスキルなのか、分からないものですわ』



 そうやねんなぁ。いざ自分が取得するとなったらなかなか難しいもんやで。


 限定スキル対策は第一や。同盟のみんなが抱えてる問題やし、未だにそれを防ぐ術はない。

 可能性があるのはウチのリストにある防御型限定スキルくらいなんやけど……スキルに関することなんか一つも書いてないねんな。

 どう見ても防御力とか状態異常耐性とか属性耐性とか、そっち方面のスキルのような気がする。



「う~~~ん……やっぱ<忍びの守り>にするわ。みんなには悪いけど」


『いえ、ドロシーさんの都合で考えるべきですよ。好きに取得しちゃって下さい』


『そうじゃな。わしらも好きに取っておるからのう。ドロシーだけに防御型の取得を強制するつもりはない』


「分かった、んじゃ早速取得してみるわ」



 思い立ったが吉日や。ウチは画面を操作し、限定スキルのリストから<忍びの守り>を取得する。

 まぁ選んだだけで何の変化もないんやけどな。これはみんなに聞いてたとおりや。

 早速自分のステータスでスキルの内容を確認してみる。



=====


□忍びの守り/320,000TP:指定した魔物の姿を隠す


 【効果①】

 操作画面の【塔内魔物・罠配置設定】から自塔の魔物を選択し【忍びの守り】の効果を付与する。

 指定された魔物は一分間、不可視・不察知の状態となる。操作は侵入者が塔内に入っている状態でも可能。

 一度に一体しか指定できず、連続して同じ魔物を選択することはできない。

 但し眷属については20,000TPを消費することで鐘一つ分(約三時間)設定することができる。

 こちらは上記の魔物とは別に設定可能。連続選択も可能。


 【効果②】

 操作画面の【塔内魔物・罠配置設定】にある【忍びの守り】タブからエリアを選択し、そのエリアにいる自塔の魔物を不可視の状態にする。

 1エリアは10m×10mで1,000TPが必要。最大10エリアまで。

 設定後に移動することは可能。しかし削除してもTPの返却はない。効果は永久に続く。


=====



「ほうほうほう……」


『うわぁ……またややこしいスキルですね……』


『ドロシー向きではないか? わしの想像していたものとはちと違うが』


『バフっぽいと言うよりトラップっぽいですわね。防御型でないのは確定ですか』



 うん、単に姿を隠すってのとはかなり違うな。

 ウチが想像してたのと比べて使い勝手の良い面と悪い面がある。

 とは言え、なかなか面白いスキルっちゅうのは間違いない。これは当たりとちゃうかな。


 まずは色々と検証が必要や。それでどうやって活かすかを考えなあかん。

 あとは魔物の召喚も考えとかなあかんし、今回の塔主戦争バトルでまた【忍耐の塔】の改善点も見えたからそこも修正せんといかん。


 あー、忙しくなってきたでぇこれはぁ!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る