309:やっぱり仕掛けてきたようです!
■アデル・ロージット 19歳
■第500期 Bランク【赤の塔】塔主
『なんか【影の塔】から
突然、シャルロットさんが全体通話でそんなことを言ってきました。
シャルロットさんは斥候系の魔物が欲しいということで目星をつけて方々に申請していたのですよね。
【隠者】【隻影】には却下され、次は【探求】に申請してみようかな、というところだったはずです。
そこに、その後申請するはずだった【影】から逆に申請されたと。
「まぁよろしいんじゃありませんの? 元々戦うつもりだったでしょうし。願ったり叶ったりじゃありませんか」
『いやそれはそうなんですけど、逆になんか怖いなと……』
『この前の諜報型限定スキルか? エメリーさんが退治したっていう』
『仮にそうだとするなら【影】のサミュエは【女帝】の塔構成やら魔物構成やら承知した上で申請してきたことになるのう』
『つ、つまり【女帝】の戦力を知った上で、それでも勝てるってことですか……』
『だとすれば危険極まりないですね……』
エメリーさんが″それっぽい気配″を感じてナイフを投げつけたとは聞きましたがね。
それはあくまで勘だそうですし、仮に本当に限定スキルを使われていたとしてもそれがサミュエの仕業と考えるのは早計です。
ただ申請のタイミングが良すぎるのでそう勘繰ってしまうのも仕方ないのですが。
それでなくてもサミュエ・シェールはバラージ王国の公爵令嬢。生粋の貴族主義者ですからこちらを狙うのは自然なことです。
わたくしでなくシャルロットさんを狙うというのも「同盟ごと潰したい」という現れでしょうしね。
だったら最初に同盟内トップから狙うと、それは正しい判断かと思いますわ。もちろん相応の力が必要なのですが。
「そうでしょうか。わたくしは仮にそうなら逆にチャンスかと思いますが」
『どういうことです?』
「まずその諜報型スキルがサミュエのものだった場合、
『あー、【魔術師】や【空白】みたいな限定スキルのほうが厄介やもんなー』
エリアや階層、複数の魔物を指定したバフやデバフというのが危険ですからね。
一方で諜報型の場合ですと平時の情報収集や
フッツィルさんのファムのように
それが出来るのはエメリーさんが持つ<並列思考>のような強スキルをお持ちの方に限られるでしょう。
そのような塔主が滅多にいるとは思えませんし、Sランク固有魔物でもターニア様のような情報収集が得意な魔物くらいしか無理なのではないかと思います。
従って諜報型限定スキルは
「それと仮に【女帝】の戦力を見られているとしましてもSランク固有魔物とエメリーさんの能力は分かるはずもないですから。まさか諜報型限定スキルに<人物鑑定>まで付随しているとは考えにくいですしね」
『ありえんとも言えんのが限定スキルの怖いところじゃが……確かに反則すぎるな』
『あ、【青】のコパンさんの諜報型限定スキルより性能が良すぎますからね……』
まぁ
しかしハルフゥさんは無理でしょう。魚のような鰓はありますが、まさか神聖魔法使いだとは思えませんし。
エメリーさんなんて仮に<人物鑑定>でステータスやスキルを覗こうものなら恐ろしくて絶対に申請なんてしないはずです。
それでも申請するようなお馬鹿さんならば余計に戦ったほうがいいですしね。絶対勝ちますから。
元々シャルロットさんは【影の塔】に
十六年目Bランク、21位の強者であると分かっていても。
そこには「最終的にはエメリーさんの力でどうにかしよう」という思惑もあったはずです。
そう考えれば、仮に【女帝】戦力が暴かれていようが変わらないのでは、と思ってしまいますね。わたくしは。
ファムで調べられずとも、【影の塔】に関して分かっていることもあります。
例えば侵入者の最高到達地点が九階層であるとか、下層三階層は連続して暗闇階層であるだとか、斥候系魔物が多くゴースト系と悪魔系も多いだとか、約二年前にBランクの【深き森の塔】を斃しているのでその魔物を持っていそうだとか。
そういった情報を持っているのですから余計に「最前線に斥候役のエメリーさんは必須だな」と思うでしょう。
結局はエメリーさんに頼った
ならば何も変わらないでしょう? とわたくしは思うのですよ。
『なるほど……まぁそうですよね。むしろ申請が来て良かったと思うべきですか』
『せやな。却下されずに済んだと思っとったらええねん。油断はあかんけどな』
「そういったわけでシャルロットさん、申請を受けるタイミングが分かったら教えて下さいな。わたくしもその後、受けますので」
『えっ、受けるって……何をですか?』
「わたくしの元にもついさっき
『『『ええぇぇぇ!?』』』
そうなのですよね。わたくしも驚きましたが。
【黄神石の塔】は十四年目のBランク。ランキングは31位。わたくしの一つ後ろです。
塔主はミッドガルド王国の伯爵夫人、オーレリア・ブルグリード。
ここが宣戦布告してくるのは想定内でもあり想定外でもあります。
オーレリアも貴族主義だというのは分かっていました。それこそサミュエ以上にバベリオの街では貴族然としていたようですわね。
だからこそ反貴族を謳うわたくしを狙う理由も分かるのですが、約一年も放置しておいて今さらかとも思うわけです。
なぜこのタイミングになったかと考えれば思い当たるのは【竜翼の塔】のジュリエット。
それがドロシーさんに仕掛けて返り討ちになった。だからこそ【影】のサミュエも【黄神石】のオーレリアも動き出したのではないかと思うのです。
サミュエは大陸西、砂漠の国、バラージ王国の王都出身。父のシシェール公は宰相でもあります。
その東にミッドガルド王国。ブルグリード領は中央の鉱山を所有している大都市です。
さらに東にスルーツワイデ王国。ローゼンダーツの街は交易都市です。
そういった貿易関係でつながる国と都市。同じような貴族主義のご婦人三名。何も関係がないとは思えません。
まぁ同盟を結んではおりませんので、「他国のご婦人方と仲良くしておきましょう」というような貴族的考えのもとに集まった知り合い同士とわたくしは見ています。
友人であっても仲間ではない。仲は良いけど国同士の線引きがある。そのようなものかと。
そしてその中で【竜翼】のジュリエットが先走るようにして【忍耐の塔】に仕掛けてしまった。
結果こそ敗戦でしたが、サミュエもオーレリアもそれに焦りを感じたのは間違いないでしょう。
国の面子、貴族の面子のためにもこれ以上、先んじられては堪らないと。
サミュエとオーレリアが互いに急いで申請した結果、同じタイミングでシャルロットさんとわたくしの元に申請が来たのではないかと。
まぁそう考えなければ、あまりにタイミングが良すぎますからね。
結託したわけではなく、各々が急いだ結果だろうと。
――というわたくしなりの考えを皆さんにお伝えしました。
『なるほどなー。でも本当にウチらを斃したかったら三塔で同盟を結んだらええのに』
『で、ですよね……そうしたら
『他国の貴族同士が手を結ぶと国内で問題になるのではないでしょうか。メルセドウでさえ派閥で同盟が分かれているのですから』
『めんどくさいのう。メルセドウ王国派がいかに寛容か分かる話じゃ』
『アデルさんとシルビアさんが珍しい部類なんですね……はぁ』
それはそうですわよ。だからこそ反貴族を謳ったわたくしに敵意が集まるのですし。
まぁそう仕向けたのもわたくしなのですがね。
シルビアさんは冒険者であったが故に柔軟なお考えをお持ちなのだとは思いますが。
『ちなみにアデルちゃんは【黄神石の塔】に勝算はあるんか?
「正直戦いたくはない相手ですわね」
【忍耐の塔】は防御・状態異常・天使という感じですが、物理防御に特化した塔ならば今までにも【宝石】などがありました。
【黄神石の塔】はその最上位といっても良いでしょう。名前からして硬いですからね。
これを打ち破るためには相応の攻撃力が必要です。
物理攻撃となるとまともに戦えそうなのはジータだけになりそうですし、そのジータにしても剣は同じくアダマンタイト。
圧倒的有利とはならないでしょう。
おまけに限定スキルもお持ちでしょうからね。ファムでも探れませんし、そういう意味でも戦いたくはありません。
しかし選り好みしているわけにもいきませんし、シャルロットさんがこれだけ戦っているのにわたくしが指をくわえて見ているわけにもいきませんので。受けるしかないでしょう。
これこそよく考え、作戦を練らなければいけませんわね。
わたくし一人で動くのではなく、皆さんにも相談したいですし、何ならレイチェル様やクラウディアさんからもアドバイスが欲しいくらいですわ。
そこら辺を含めてご相談しましょうかね。
「まぁいずれにしましてもシャルロットさんのすぐ後にわたくしも
『分かりました』
去年の五連戦は最後をシャルロットさんに持っていかれましたからね。
今回はわたくしが後にさせてもらいますわ。それくらいの役得はよろしいでしょう?
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