156:やっぱりうちの侍女長様は最強です!



■エメリー ??歳 多肢族リームズ

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄サンクリオ



「くっ……! なぜ潰れぬ! 貴様の筋力はSのはずだろう! 今の余はS+だ! それがどうしてこうも強く……!」



 ルシファーの攻撃は踏みつけや上空からの殴り。時折軽くジャンプしての踏みつけなども含みますが、大抵そんなものです。


 それをわたくしは【返怨の大盾】を用いて、時に防ぎ、時にはじき、時に受け流しているわけです。



 そうして時間をかけて色々と確かめさせて頂きました。

 来年以降、また【傲慢の塔】が生まれるかもしれませんからね。


 そして【傲慢の塔】のSランク固有魔物は【傲慢の悪魔ルシファー】で確定とのこと。

 ならば将来の為にも今ここで探っておくべきでしょう。



 もっともお嬢様達の召喚可能リストに塔主戦争バトル報酬のルシファーが載るわけですから、その状態で【傲慢の塔】が生まれるのかは分かりませんけれども。


 もしかすると生まれると同時にリストから消える、なんてこともあるかもしれません。用心に越したことはないですからね。



 ともかく検証の結果、分かったことがいくつかあります。

 一つは『わたくしのステータス(F-~S+表記)のみを参照し、それ以上となるよう強化している』ということ。


 つまりS+以上の上がり幅は見えておらず、尚且つ魔竜斧槍なども考慮されていない。<アイテム鑑定>は持っているようですけどね。



 さっきからなぜなぜと五月蠅いですが、装備品の防御力のことを何も考えていないのですかね。

 ドロシー様の大盾も、わたくしの特注侍女服も、アダマンタイトより防御力は高いのですよ。


 それを無視し、魔竜斧槍の攻撃力も無視し、ただわたくしのステータスのみを対象とした強化をしているわけですね。


 なぜも何もないでしょう。

 わたくしが聞きたいほどです。なぜ装備品を踏まえた強化をしないのかと。

 出来るのか出来ないのかは知りませんが。



 それと攻撃に関してですが、恐ろしいことに全く闇魔法を使いません。使えてこその悪魔であるというのに。


 どうもその強化された身体に絶対の自信があるらしく、それで叩きつければそれでいい、というような攻撃ばかり。

 これではトロールなどの方が戦闘技術的にまだマシと言えます。



 ただ防御に関しては非常に優秀ですね。

 身体を形成する多くの魔物は『生きながらにして死体の鎧』のような状態になっているようで、まず腐食が通りません。これはリビングアーマーやアンデッドに対するものと同じです。


 そして魔物をいくら傷つけたところで、当のルシファーには何の痛痒もない。

 ルシファー本体のサイズは変わっていないのでしょう。肥大化している部分は全て他の魔物ということになります。


 そのくせ自分の手足のように動かせるようですから、普通に考えれば攻防一体となった良いスキルと言えますね。



 まぁその良いスキルを使う肝心の頭が色々と不足している、という結論です。わたくしなりの。

 ということで早々に片付けに入りましょう。



「くそう! いい加減死ねえい!! ――何っ!?」



 今まで攻撃を受けて溜めておいた【返怨の大盾】で振り下ろしてきた足をシールドバッシュ。左足の膝から下が吹き飛びました。


 それで「何!?」と言っているところを見るに、これほどの大ダメージでも痛みはないと。



 当然ルシファーはバランスを崩し、倒れ込みます。

 チャンスですね。私は唯一出ているルシファーの本体――顔を目掛けて突貫します。


 マジックバッグを使っての高速換装。【返怨の大盾】を仕舞い、【魔剣グラシャラボラス】を出します。

 一気に片付けますよ。



 ――ザシュ!!!


「ぎゃああああ!!!」



 咄嗟に魔物の鎧で顔を塞ごうとしましたが、その上から魔剣の刃は入りました。

 仮に刃が顔に届いていなくとも腐食を発生させる闇の魔力は届いたでしょう。


 と言いますか、魔物の鎧をそのように動かすこともできるのですね。最後に良い発見です。



 悶え苦しむルシファーですが、顔から腐食されれば脳まではすぐに到達します。

 魔物の鎧も消え、あとに残ったルシファーも地面に溶けるように消えていきました。


 ……あの魔物たちは下層に帰ったのでしょうかね。

 魔石が落ちていないですから死んだ扱いになっていないのかもしれません。

 それか下層の配置場所に魔石が落ちている、とかもありえるでしょうか。確かめようがありませんね。



 時間は掛かってしまいましたが最大の懸念材料であったルシファーは斃せました。

 一安心ではありますが今はまだ戦闘が継続中。わたくしも応援に回りましょう。


 差し当たっては大型の魔物――クルックーが戦っている三つ首の獣、ウリエルが戦っている地竜、これらは魔剣で斬りつけておけば大丈夫でしょう。



「クルックー、ウリエル! わたくしが一撃入れます! あとは任せます!」


「クルルゥ!」「承知しました!」



 問題はターニアの相手、巨大トレントですね。

 ターニアは妖精たちのフォローもありますからあまり手が付けられていないようです。

 しかもトレントとなると魔剣も効くのか分かりません。



「ターニア! わたくしがトレントをやります! 貴女は他を!」


「わかりましたぁ~」



 魔竜斧槍四本のほうがいいですね。巨木を伐るつもりで攻撃していればいけるでしょう。

 さてこれでどの程度ダメージになるか。



 ――カァァァン!



 これは見事。物理防御力だけならばピカイチですね、この魔物は。


 枝のような腕と根を伸ばした攻撃をしてきますが……こちらは今一。速度が足りません。

 もしかしてアンデッドですかね、このトレントは。であれば神聖魔法や火魔法の方が効くかもしれませんが――



 ――カァァン! カァァン! カァァン!



 このまま伐ってしまいましょう。下手に魔法を見せる必要もないでしょうし。





■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



「よっし! やった! エメリーさん!」


「すごいです! あんな大きい悪魔を斃しちゃうなんて!」


「よおし、よくやった! これで流れは完全にこっちじゃな!」


「ウチの大盾も使ってくれたで! これで一矢報いたったわ!」


「クルックー! エメリーさんが終わりましたわよ! あと一息です!」



 防衛側ではジータさんがシシェートさんを破り、そのジータさんが自由になったおかげで流れをつかみ取れました。


 そしてエメリーさんも最大の脅威であったルシファーを討伐。

 これでエメリーさんはフリーとなり、方々への援護が可能となります。


 時間は掛かりました。犠牲も多かった。

 でもやっとこれで勝ち目が見えました。


 しかしだからと言って気を抜いてはダメです。もう一度集中しましょう。まだ戦闘は終わっていません。



 ルシファーを斃したエメリーさんはその足で三つ首の獣に向かって行きました。クルックーの相手ですね。

 これをすれ違いざまで魔剣の一撃……だと思います。私には見えませんが獣が痛みに悶えているので。


 エメリーさんはそのまま放置して次は地竜へ。こちらはウリエルさんの相手。

 これもまた同じように一撃加えて去っていきます。



「ドロシーさん! アデルさん! 三つ首と地竜にとどめを!」


「あいよ!」「分かってますわ!」



 エメリーさんは次に巨大トレントに向かいました。広い階層を駆け回り、通りすがりで斃したりもしています。



「あれがエメリーの本気か……まったくとんでもない動きしよって……」


「ふ、俯瞰の画面で見るのがやっとですよ……本当にすごい速さです……」



 トレントに対しては魔竜斧槍で戦うようです。魔剣では相性が悪いと見たのでしょうか。

 木も腐食しそうに思えますが……いえ、エメリーさんなりの考えがあるのでしょう。


 魔竜斧槍を四本同時に横薙ぎ。それも身体ごと回転させるような強烈な攻撃を繰り出せば、カンカンと硬質な音が鳴り響きます。


 あれで折れないところをみると相当の硬さですね。

 まぁ直径5mとかありそうな巨木ですし、見た目どおりの頑丈さということなのでしょう。



「エメリーさん、それが終わったらサジタリアナイトをお願いします!」


『承知しました。あと一分お待ち下さい』



 一分で伐れるものなのですか……いえ、そういうことなら皆さんに指示を伝達してもらいましょう。


 この分では防衛側より攻撃側のほうが早く終わりそうですね。

 勿体ぶる必要はありません。さっさと塔主戦争バトルを終わらせましょう。



「ヴィクトリアさん、パトラさん、ラージャさん! エメリーさんがルシファーを斃しました! もうすぐ攻撃側は片付きます!」


『了解です!』『分かりましたわぁ!』『りょーかいっ!』



 すでにお三方の部隊は壊滅済み。

 残ったお三方も傷だらけです。生きているのが不思議なほど。


 早く終わらせて回復させてあげないと……。もう少し我慢していて下さい。




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