157:同盟戦、決着です!



■エメリー ??歳 多肢族リームズ

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄サンクリオ



 十八・十九階層の掃討がようやく終わりました。


 被害は……半壊とまでは言いませんが相当な数の魔物を失っています。

 指揮官としては非常に不本意ですね。


 いくら相手が強かろうともっとやりようがあったのではないか、そう思ってしまいます。

 しかしそう悔いることは戦死者に対して最大の侮辱。

 貴方たちのおかげで勝てましたと胸を張って言うべきです。わたくしもまだ未熟ですね。



「防衛側はまだ戦っているようですが早々に終わらせよとのお達しです」


「そのようですな。こちらにも来ましたぞ」


「打ち合わせどおりわたくし一人で向かいますので皆さんはまず回復を。それと出来れば魔石の回収をお願いします」


「分かりました。魔物たちに指示をし、儂は階段で待機しておきますぞ」


「ええ、お願いします」



 わたくしは魔竜斧槍を四本構えたまま階段を上ります。

 Aランクの塔、二階層分の長い階段。それをやや駆け足で上ります。時間は掛けられません。



「き、きたっ!」



 どなたかの声が響きました。最上階二十階層。そこは立派な玉座の間。

 彫刻やら壁飾りやら、やや悪趣味と言えるほどの豪華さです。


 エルタート王国の城はこのような感じなのでしょうか。あまり真似たいとは思えません。


 赤い絨毯を歩けば正面には五人の貴族。

 中央の玉座にシャクレイ。壇下の左右に四人の塔主が並びます。一番の若輩者が一番偉そうですね。



「貴様……! 亜人めが……っ!」



 そう言いながらシャクレイが下りて来ました。

 わたくしに近づきながら右手をこちらに向けます。



「ふざけるなよ、平民どもがああ!! <頭ガ高イ跪ケ>ええい!!」


「!?」



 ――ドスンッ



 シャクレイが叫ぶと同時にわたくしの身体は地面にうつ伏せで押さえつけられました。

 見えない何かに上から圧迫されているように、ピクリとも動けません。


 声も出せず、指も動かず、何も――。



 限定スキル――何かしら持っているとは思っていました。だからこそ用心し、警戒した状態でいたのです。


 シャクレイとの距離も十二分にありました。仮に何か攻撃をされても余裕をもって避けられるほどに。


 しかしこれは……!



「どうだ亜人め動けまい!! 私の視界に入ったのが運の尽きよ!! いかに異世界の強者だろうが関係ない!! 貴様はもう私の前で平伏すしかできないのだ!!」



 つまり視界に入りさえすれば強制的に平伏させると……!


 全く限定スキルというのは非常識なものばかり……!



「スェラ男爵! 【砂爆の槍】を持ってその亜人をやれ!」


「ハ、ハッ!」


「案ずるな! 私がそいつを動かさぬ! そしてその槍ならば確実に仕留められるぞ!」


「わ、分かりました!」



 マズイですね。【砂塵】の神授宝具アーティファクトですか。

 この状態では身動きもとれず、為すがままに――



 ――とその時、私の背後から声がしました。



「<光の奔流ライトストリーム>!」



 ――バシュゥゥゥン



「なっ!?」「ぎゃあぁぁ……」



 放たれた光魔法はわたくしに近づいてきていた二人――シャクレイとスェラを飲みこみ吹き飛ばしました。


 共に上半身に深刻なダメージ。倒れ込んでいますが生きているのか死んでいるのか分かりません。


 と同時にわたくしの身体も自由になりました。ふぅ、命拾いしましたね。



「助かりましたよ、ターニア」


「うふふ~どういたしまして~。見えないと効果ないみたいでしたね~あのスキル~」



 やっと外套を脱いだターニアがいつもの呑気な表情でそう言います。



「だ、誰だ貴様! いつからそこに……!」

「ああっ! そ、それは私の【幻視の外套】っ!」

「シャクレイ殿っ! スェラ男爵っ!」



 残ったグロウズ、バリトン、ニャンダルですね。

 あとに残る不確定要素はグロウズの限定スキルのみ。

 確かめるまでもないですね。さっさと終わらせてしまいましょう。



「時間を掛けるつもりはありません。防衛で戦っている味方もおりますので。即刻退場願います」





■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



『はーいしゅ~~~りょ~~~! こっちの同盟の勝ち~~~!』



 はぁ、と大きな溜息を吐き、玉座に深くもたれ掛かります。視線は自然と上へ。

 どうやら並ぶ皆さんも同じような感じですね。


 ようやく終わった、とにかく疲れたと。



 最後の場面、シャクレイさんが何かしらの限定スキルを所持していることはほぼ確定していました。一つか二つは。


 ですので一番対応力のあるエメリーさんが一人で向かい、そこから離れて透明状態のターニアさん、さらに後ろの階段にゼンガーさんたちという布陣で最上階へと行ったのです。


 結果はエメリーさんでも対応不可能な限定スキルだったと。


 視界に入れた者を平伏させる、ですか。

 何かしらの制限があるのかは不明ですが決まればほぼ無敵みたいなスキルです。


 やはり限定スキルは恐ろしい。レイチェルさんがあれほど警戒するのも分かります。

 そしてターニアさんがいて本当に良かった。ただそれに尽きます。



 【女帝の塔】で戦っていた敵方の攻撃陣は塔主の方々が亡くなるのと同時に消えました。


 それをもって戦闘は終了。

 ジータさんが勝鬨を上げ、ヴィクトリアさんたちも喜びながらその場にへたれ込むといった様子が見えました。

 パトラさんもラージャさんも何とか無事。キラリンなどはヒビ割れが酷く限界寸前でした。



 今回の塔主戦争バトルでは多くの主力を失いました。


 ドロシーさんは土精霊ノーミンとミスリルゴーレムなど多くの魔物を。

 フゥさんはクリアパピオンシィル火精霊アグニ、そして多くの鳥たちを。

 アデルさんはブラッディウォーロメェメェックの他にも多くの魔物を。

 ノノアさんはエンジェルスライムパルク以外全てのスライムを。その中にはアシッドスライムジルを含みます。



 私も五階層から七階層に配置していた魔物は全滅。その中にはミスリルヘラクレスやビークイーン、ハイウィッチなどもいました。


 眷属こそ失っていませんが八階層の乱戦ではシルバーファングとグレイオーガを失い、攻撃陣にいたハイフェアリーも多く失いました。



 やはりランク差とその数がきつかったと。Bランク以下で見れば生き残れている眷属の方が少ないのです。


 クイーンの皆さんがギリギリでも生き残れたのは訓練のおかげなのか、連携のおかげなのか、それともエメリーさんからお借りしている魔竜剣のおかげなのか。


 いずれにせよ残った戦力の少なさが今回の塔主戦争バトルの大変さを物語っています。


 それでも悲しみ悔いる前に、私は塔主として労わなければなりません。

 眷属全員に通信をつなげて言います。



「皆さん終わりました! 私たちの勝ちです! ありがとうございます!」


『はい!』

『やったわね!』

『終わったあああ!』

『いえ~い!』

『お嬢様もお疲れさまでした』



 私の様子を見て同じように同盟の皆さんも眷属を介して労っていました。


 一通り声を掛け終わると私たちは五人で集まり、無言の苦笑いでハイタッチを交わしたのです。



=====


シャクレイの限定スキル設定

<頭ガ高イ跪ケ>:指定した敵を平伏させる

<傲リ故ノ力>:指定した味方が敵との戦闘時、ダメージレースで勝った場合はTP二倍、負けた場合はゼロとなる。

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