237:レイチェルさんに報告します!
■レイチェル・サンデボン 70歳
■第450期 Sランク【世界の塔】塔主
彼女たちの勝利を知らせる一報を受け取ったあと、私はシャルロットさんに祝辞を送りました。
そしてあまり日を置かずにお茶会の運びとなりました。
焦らせてしまったようで申し訳ないですね。
「まずは勝利おめでとうと言っておきましょう。どうでしたか? 実際に戦ってみて」
「ありがとうございます。勝つには勝ちましたが大変でした。今までで一番大変でした」
そんな挨拶から始まりましたが、シャルロットさんの表情が物語っていますね。
「それはそうでしょう」とか「だから言ったでしょう」とか言いたいところですが、まずは色々と伺ってみます。
もちろん言える範囲でしか聞けないですがね。
そこから詳しい話となったのですが、どうやら条件提示の段階から心理戦が行われていたようですね。
【魔術師】側は【青】のスキルで覗き見をして、さらに【霧雨】を加えたことで必勝の確信をもって条件を提示した。
【女帝】側はそれに修正を入れることで塔の個別撃破を狙った。
さらにメルセドウ王国の件をチラつかせることで動揺させた、と。
「結局メルセドウはどうなったのですか?」
「先日動きがあったようです。結論が出るのはまだ先だと思いますが貴族派が衰退するのは間違いないかと。バベリオまでそれが伝わるのは速くても半月くらいは掛かると思いますが」
「では【節制】の動きに注目、といったところですか」
「早めに大きなアクションを起こしてくれるといいのですけれど……いえ、悪くもあるのですが」
【節制】かメルセドウ内の中立派が早くに動くようなら、それは何かしらの手段で情報を入手している証拠でもあります。
市井の者が知るタイミングで動きがあるようならば手段がないと考えてもよいでしょう。
もし手段を持っていて動かないというのであれば【節制】は相当な策士ですね。それがありえそうなのもまた困ったところです。
そして先日のメルセドウの動きを知っているということは即ち、シャルロットさんたちが何かしらの情報入手手段を持っているということでもあります。
口を滑らせがちですね、シャルロットさんは……聞かなかったことにしておきましょう。
「アデルさんはご実家に連絡を?」
「はい、
知ることはできても伝えることはできない、と。
いえ、いけませんね。あまり勘繰るのはやめておきましょう。シャルロットさんの背後の御方が怖いですから。
【赤】【忍耐】【輝翼】の三塔は守るのみ。最初は【女帝】が【宝石】を速攻で落とす。
それから【輝翼】の援軍に入り【霧雨】を落とし、【忍耐】【輝翼】【世沸者】が【青】を、【女帝】【赤】【六花】が【魔術師】を攻め立てた、と……。
【青】の
それはまた珍しいタイプに思えますがよく勝てましたね。
詳しいお話は聞けないそうなので分かりませんがゼンガーさんとやらが相手したのでしょうか……。
と、そこまではある程度順調だったそうです。
やはり鬼門は【魔術師の塔】だったと。
「ケィヒルさんはまず『味方の魔法の威力を異常に高める』限定スキルを使ってきました。これでほぼ守勢に回されました」
「なるほど。【魔術師の塔】は魔法に偏った性質ですからかなり有効なバフ効果ですね」
「範囲も二階層分の味方全体でしたし、そこに魔物を集めていたおかげで苦労した感じです」
おそらくAランク以上の魔物が多いでしょうからね。その魔法威力が高くなるとなれば、シャルロットさんたちの魔物では守るのも難しいでしょう。
「十九階層に至っては『敵の魔法とスキルを使用不能にする』限定スキルを併用してきまして」
「まあ! 二つの限定スキルを同時に、ですか」
「はい。ですので高威力の魔法を防ぐ術もないですし、こちらの魔法部隊もろくに攻撃できないですし、本当に厳しかったです」
それは厳しいで済む話ではありません。
シャルロットさんたちは【魔術師の塔】に魔法を多用する魔物が多いと分かっていたからこそ、魔法で対抗できる布陣にしていたはずです。
それなのに魔法が使えなくなるというのは戦力半減どころの騒ぎではないでしょう。Aランクの魔物もただのお荷物になってしまいます。
その上、敵の魔法が強力になっているのですからね……。
超強力なバフと超強力なデバフの二重掛けですか……想像以上に危険な相手だったようですね、【魔術師】は。
「向こうは高位アンデッドも多かったのでしょう? エメリーさんも得意ではないと伺っていましたし……よくご無事でしたね」
「無事ではなかったですよ。ケィヒルさんは必要以上にエメリーさんを警戒していましたし、アンデッドの闇魔法をまとめてエメリーさんに掛け続けていましたからね」
それは私が【魔術師】の立場でもそうします。おそらく闇魔法のデバフ……それも高威力のものを掛け続けたということなのでしょうが、エメリーさんさえ自由にさせなければと考えるのは当然です。
逆に自由にさせれば負けが濃厚と考えるはずですから。
【魔術師】はエメリーさんがアンデッドが苦手とは知らないはずですしね。
「どうやって勝ったかは詳しくお話できないのですが勝因は相手がエメリーさん一人に集中しすぎたことと、ケィヒルさんが戦場に留まっていたこと。それとこちらにアデルさんがいたこと、ですかね」
「なるほど、メルセドウ王国派がメルセドウ貴族派を討ったということですか。それはアデルさんにとっても同盟にとっても良い結果でしたね」
エメリーさんが封じられアデルさんが策を打ったとなればその手は英雄ジータか神獣フェニックスくらいのものでしょう。
おそらく後者ですね。ジータさんでは高位アンデッドの群れ相手にどうしようもないですから。
神獣の特性を利用して塔主を直接叩いた、というところでしょう。
危機的状況にあったのは容易に想像できます。
その場面でそうした策を出せたというのが非常に大きい。
アデルさんは私の思っていた以上に優れた塔主なのでしょうね。
それを仲間に引き込んでいるシャルロットさんも、ただ運が良いだけとは言えないのですが。
「いずれにせよ一塔も欠けずに勝利を得たのですから完勝と言って良いでしょう。申し訳ないですが私は負けが濃厚と見ていました。それを覆したのですから見事と言うほかありません」
「ありがとうございます。……ですが私も眷属を三体喪いましたし、ギリギリなんとか勝てたというところです」
「そうですか……それはBランクのクイーン三体ですか」
「はい」
アラクネクイーン、サキュバスクイーン、ラミアクイーンですね。それは仕方ないかもしれません。
Aランクの【魔術師】相手に出すのは危険と思っていながらも出さざるを得なかったのでしょう。
シャルロットさんはまだそこまで高ランクの魔物を抱えているわけではありませんし、【青の塔】も同時に攻略していたそうですから。戦力を捻出したのですね。
シャルロットさんは眷属を喪うのは初めてのはずですし、さぞ悲しかったことでしょう。
表情で見る分にはある程度立ち直っている反面、引きずっている部分もありそうです。
しかし眷属を喪うのは塔主にとって必然でもあります。
中には
シャルロットさんはまだお若いですから、後にそういった事も知っていくでしょう。
「それで新しい眷属にナイトメアクイーンとウィッチクイーン、それと【青の塔】の固有魔物にいた海姫ハルフゥという魔物を眷属化したのですがレイチェル様はご存じですか?」
「海姫、ですか……いえ知りませんね。海王ならば知っていますが」
「似た種族なのですかね? 手足に鱗があって耳が鰓のようになっているのですが……海の魔物の指揮官で」
「ならば大体同じと見ていいでしょう。私の所にいる【海王ポセイドン】がまさにそのような感じですよ」
「ええっ!? レ、レイチェル様がお持ちなんですか!?」
海王ポセイドンは元々【世界の塔】のSランク固有魔物ですからね。当然、召喚・眷属化しています。
そうお伝えしたらかなり驚かれました。
特に隠していたつもりではありませんよ。【世界の塔】の特性はご存じでしょうし。
と言いますか、その海姫を眷属化したということは【女帝の塔】に海の階層を創るつもりなのですかね。
だとすれば【女帝】らしくない塔の創り方に思います。先任のエルレットも『海』は使っておりませんでしたし。
意表を突くという意味ではいいかもしれませんけれど。
「Bランクに上がったら海階層を創りたいと思うのですが、その時にアドバイスを頂きたいのです。同盟には海階層を持っている人もいませんし……」
「もちろん構いません。ですが【女帝の塔】で召喚できる海の魔物などいないのでしょう? 【青の塔】でどれだけ魔物を斃したのか、それ次第で塔構成が変わると思いますよ」
「はい、また改めてリストをお送りします。階層を繋げるかどうかも悩んでいますので……」
海の魔物で高ランクとなれば巨大なものが多くなりますからね。シーサーペント(A)などが良い例ですが。
ああいった魔物は二階層分は最低必要ですし、水深が深くなればなるだけ動きが変わってきます。
スキュラやマーマン程度ならば一階層分だけでも工夫すれば問題ないとは思いますがね。
それはシャルロットさんがどのような魔物を使いたいかをお聞きしてから考えるとしましょう。
頼られるのは嬉しいものです。
私に出来ることなど限られていますし、それが若い塔主の力となれば幸いです。
シャルロットさんにはこの先何十年と頑張って頂きたいですからね。
私はその礎となれるように……それだけが今の私の望みです。
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