238:フゥさんのエルフ会議です!



■エレオノーラ・グリンプール 51歳 エルフ

■第498期 Eランク【春風の塔】塔主



 あたしとフッツィルが出会ってから五月くらいになる。

 その間、クラウディアさんも交えて色々と魔改造……いや、直してもらったり、説教……いや、アドバイスを貰ったりしてきた。


 塔構成はガラリと変わって、それから侵入者はまだ二階層までしか来られていない。

 そのくせ侵入者の数はトントン拍子で伸びてるし、TPはガンガン入るようになっている。


 それまではガラガラのくせにギリギリで生きていたから助かったというのは本当だ。感謝もしている。ホントホント。



 二年間全くやってこなかった塔主戦争バトルも短期間に四回もやった。

 Eランク二塔とDランク二塔。あたしじゃそもそも戦おうともしなかった相手に連戦連勝だ。

 まぁ言われたとおりにやっただけだから達成感もないし、調子に乗りようもないんだけど。


 で、その相手なんだけど四塔とも【霧雨】同盟の連中とかで、そいつらはエルフの塔を狙っているらしいと後から知った。


 だからあたしの塔にも塔主戦争バトル申請をしてきて、返り討ちにしてやったわけね。

 その後の三塔はあたしのほうから申請したんだけど。



 どうやらそいつらはエルフの塔主を斃すついでにエルフの里の情報を聞き出して、闇奴隷を大量に手に入れようとしている悪党集団ということで、フッツィルもクラウディアさんも困っていたらしい。


 でもランク的にフッツィルやクラウディアさんでは戦えないとかであたしが戦う感じになったと。


 よくよく聞けば【霧雨】同盟だけじゃなくて【魔術師】同盟って連中も同じようにエルフを狙っているらしく、あたしが【霧雨】同盟の四塔を斃してもそいつらは残っちゃうってことでまた悩んでた。


 【霧雨】はBランクだし【魔術師】はAランク。その同盟にはBとCがいるらしい。

 どれも高すぎてあたしじゃ無理だ。つまり四塔を斃したところでお役御免ってわけね。



 でもエルフを狙う悪党ってのは斃さなきゃだし、あたしじゃ何もできないけど気にはかけていたんだ。

 フッツィルの同盟が戦うのか、クラウディアさんが戦うのかは分かんなかったけど。


 どっちにしても相手は四塔とも強そうだし、どうなっちゃうんだろうなあ……って思ってた。そこからは全く情報がない。



 動きがあったのは神様からの全体連絡。

 突然、【霧雨の塔】が【魔術師】同盟に加入した。

 つまり狙ってた四塔が固まったってことだ。


 ラッキーだね! 斃しやすくなったじゃん! とあたしは思ったんだけど後から説教されることになる。

 それはフッツィルの同盟が勝ったっていう連絡のあと、久しぶりに三人で会った時に聞かされた。



「はぁ~~~貴様という奴は何を言っているのだ! 【霧雨】が【魔術師】同盟に入ってラッキーなわけないだろうが! フッツィル様がいかに困難なことを成し遂げたのか、貴様は何も分かっていない!」



 出だしはクラウディアさんの怒鳴り声から。

 なんかよく分かんないけどとりあえず謝っておく。すいません、ごめんなさい。



「落ち着けクラウディア。エレオノーラは高ランクの塔がどのようなものかを知らぬのだ。想像もできないのだから差を計ることなどできまい」


「はい……申し訳ありません、フッツィル様」


「エレオノーラよ、Cランクの塔の戦力がどのようなものか想像はつくか?」



 えーっと、あたしが斃したDランクの塔にはBランクのボスがいたから、Cランクの塔になればAランクの魔物を抱えていてもおかしくはないでしょうね……。


 それが大ボスでBランクは五体くらいいるのかしら。さすがに強すぎ?



「Sが零~一体、Aが二~五体、Bが十~二十体。高ランクの魔物はこんなとこじゃ」


「えっ!? Cランクってそんな強いの!?」


「Cランク上位かBランク下位くらいはありそうですが……」


「もちろん前後するがのう。ちなみにわしらの同盟はどこもランク詐欺とか言われておるから当然それ以上の戦力は持っておる」



 フッツィルの同盟ってCランクが四塔でしょ!? そんなの超強いじゃない!

 だったら斃せて当然って思っちゃうんだけど、違うの?



「大体で言うが今回戦った【魔術師】同盟、四塔を合計するとSが十体以上、Aが五十体以上もおる」


「はあっ!?」


「その上で固有魔物やら限定スキルやら持っている相手ということじゃ。もう一度戦えと言われても戦いたくない相手じゃよ」


「本当によく勝てましたね……どのような策を打ったとしても勝てる見込みがありませんよ」



 ABBCの同盟ってのはあたしが考えてる何倍も怖いものらしい。

 Sランク十体とか意味不明すぎる。もう雲の上すぎてよく分かんなくなるよ。


 でもそれに勝ったフッツィルの同盟はやっぱりどこかオカシイってことだよね……。


 500期のスーパールーキー同盟がヤバイってのは前々から知ってたけど、そんな化け物にも勝てちゃうくらい化け物揃いってことだ。


 フッツィルだってあたしから見れば化け物だし、これで同盟では四番手なんでしょ?

 どんだけふざけた集団なのよ、ホントに。



「まぁともかく一連のエルフ闇奴隷の件は一応の解決を見た。メルセドウで捕まっているエルフもいるとは思うがアデルの実家に任せてある。これ以上悪いことにはならんじゃろ」


「ありがとうございます、フッツィル様。私からも他のエルフに通達しておきます」


「わしのことは内密に頼むぞ。なんならクラウディアの手柄とでもしておけ」


「そ、それはさすがに……」


「今回の件はわしらが元凶を斃したのもそうじゃがエレオノーラに連戦してもらったのもそうじゃし、クラウディアに動いてもらったり相談したりといったことも全て関連しておる。お主らも無関係というわけではあるまい」



 ともかくエルフを狙ってた連中は一網打尽にできたってことよね。

 フッツィル曰く、表立っていないだけで他にエルフ狙いの悪人がいるかもしれないから注意はしておけってことだけど。


 クラウディアさんは【聖樹】のアリシアさんとか【紺碧】のミケルさんにも伝えるらしい。

 あの二塔も【魔術師】同盟や【霧雨】から申請きてたりしてたみたいだから説明しておくと。


 エルフの里にも連絡しておくのかしら。あたしは連絡の仕方がよく分かんないからお任せするしかないんだけど。



「で、″エルフ闇奴隷″のほうは一先ずいいとして、″エルフ好きの変態″のほうが今日の本題じゃ」


「あー……」


「別の意味で危険ですね。野放しにはできません」



 そう。今日集まったのは別にフッツィルの戦勝報告が理由ってわけじゃない。


 あたしのとこに塔主戦争バトル申請がきたのだ――【忍ぶ者の塔】から。



 ずーっと前からあたしに変な手紙を送りつけてきたり塔主戦争バトル申請をしてきたり……正直怖い。

 フッツィルと出会う前からあたしにとっては最大の敵だったし、そいつから守るためにフッツィルに塔の強化をお願いしていたところもある。


 途中でエルフ闇奴隷の一件が入っちゃったから後回しになったけど、あたしにとっての敵はずっと【忍ぶ者】なのよね。


 フッツィルからは「次に申請があったら受ける」って言われてたんだけど、その前にあたしが四連戦してDランクの塔とかにも勝っちゃったから、もしかすると【忍ぶ者】も怖気づいて申請してこなくなるかも……って思ってた。

 それならそれがいいなぁ、ってちょっと期待していたんだけどね。


 来ちゃったのよ。これが。

 まーた見たくもない変な手紙が添付されて。

 んで、フッツィルに連絡して今に至るってわけ。



「それで【忍ぶ者】の情報じゃが、まずはこれが戦力とこっちが塔構成じゃな」


「まーたあんたはとんでもない情報をポンポンと……」


「クラウディア、どう見る」


「やはり斥候系の魔物が多いですね。質も高いですし塔の創りを見てもDランク上位なのは間違いないかと」



 えっ、Dランク上位なの!? それってつまりあたしが斃した【偶像】と【北風】より強いってこと?



「エレオノーラが斃した四塔は塔主としての力量がない故に【霧雨】に縋っていた連中じゃ。独力で塔を存続させている【忍ぶ者】とはランクが同じでも全く別物じゃよ」


「だから【忍ぶ者】の前哨戦としてあれらと戦わせたのですね。ご慧眼です」


「あれらの戦いを経て【春風の塔】の質も上がった。戦力差で見ればこちらに多少の分があるし、わしの情報と合わせればまず勝てるはずじゃ」



 おお! じゃああたしの【春風の塔】はDランク上位より上!? つまりCランク並みってこと!?



「とは言えランクや戦力差など簡単にひっくり返るのがバベルの塔主戦争バトルというもの。ましてや塔主の力量で負けておる以上、全くもって油断ならん」


「ちょっ! そりゃあたしはバカかもしんないけど相手だって変態なわけだし……」


「変態でも塔主としてはまともだから困ったもんじゃ。なので相応の準備と策は必要じゃな」


「同感です。普通に戦えばアイアタル(A)が奇襲を受けてやられ兼ねませんね」



 ええっ!? あたしのアイアタルがやられちゃうの!? Aランクなんですけど!?

 あたしには【忍ぶ者】の戦力とか塔構成とか見ても、とてもアイアタルが斃されそうには見えない。

 でもフッツィルもクラウディアさんもかなり危険だと言う。


 えぇぇ……そんな強い相手だったの? 【忍ぶ者】って。

 そりゃ最初っからDランクは格上だとは思ってたけどさ、今まで斃したDランクとそんなに差があるだなんて思ってなかったし……。


 なんか余計に戦いたくなくなってきたんですけど……。




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