153:二つのエース対決が始まりました!



■シャクレイ・アゴディーノ 30歳

■第489期 Aランク【傲慢の塔】塔主



「くそっ! 私の眷属たちが……! やつらめ絶対許さんぞ!」


「シャクレイ殿、グロウズ侯爵! どうぞ我らの眷属の仇を!」


「ああ、任せておけ。其方たちの無念は私が晴らす」



 とは言っておくが、そもそもバリトン子爵やスェラ男爵の魔物が弱いのが悪いのだ。ニャンダル男爵など問題外。


 ろくな働きもせずやつらをおめおめと上げてしまった。

 それでこちらに泣きついてくるとは何と情けない。



 やつらはすでに十八・十九階層。

 一方、傭兵たち攻撃陣は八階層。


 一階層分の差か……と思っていたがどうやら向こうの布陣を見る限り、八階層に全戦力を集結させているらしい。


 あの分では九階層に魔物を置いているかも怪しいものだ。

 九階層が極端に狭いのか? まぁよい。都合がいいことには変わりない。



 しかし攻撃・防衛共に乱戦の様相を呈しているから、私一人の画面で全てを見ることなどできんな。

 せめて片方ずつであれば良かったものを、何ともタイミングが悪い。


 まぁ攻撃陣は傭兵に任せると共に、それこそバリトン子爵たちの眷属を通して指示を出すしかあるまい。

 バリトン子爵たちはもう攻撃側にしか眷属が残っていないのだからな。その目は攻撃側に向くだろう。



 私が見るべきは防衛側だ。

 そして一番の懸念がウリエル率いる天使部隊。


 やつらが我々との塔主戦争バトルを想定し、無理してTPを使い用意したのは確実。

 つまりは【傲慢の悪魔ルシファー】への対抗手段としての【忍耐の天使ウリエル】。

 これをどうにかするのが優先だ。当然、ルシファーにもその旨は伝えている。



 ――しかし画面を見てみれば、ルシファーに近づくのは例のメイドただ一人。


 ウリエルはスクイッシュドラゴンへと仕掛け、天使たちは悪魔部隊と戦っている。

 この地竜は他の塔との塔主戦争バトル報酬で得たAランクの固有魔物。

 ウリエルがSランクであることを考えれば分が悪い。


 ……いやそれどころではない。ウリエルはルシファー対策ではないのか!? まさかメイド一人に戦わせるつもりか!?



 混乱する私にルシファーからの眷属伝達が入る。



「――何!? 下層の魔物を貸せだと!? どれほど使い込む気だ貴様!」





■エメリー ??歳 多肢族リームズ

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄サンクリオ



「クククッ、やはり余の下に来るのは貴様か、メイド」



 【傲慢の塔】十八・十九階層。案の定と言うべきかそこは広く、高い石造りのフロアがあるのみでした。

 十七階層と同じように魔物の包囲網が布かれ、そしてそれは前階層よりも精強です。



 わたくしはそんな魔物たちを無視して正面の玉座へ。

 そこにはオーガを思わせる巨躯の美丈夫がおりました。


 肌は黒紫、捻じれた角。見下すその目は正しく【傲慢】です。



「塔主は天使ウリエルに警戒しろなどと言っていたが、クククッ、こうも″差″があると面白くもある。なるほどマモンが負けるわけだ」



 ステータスを見ているのでしょうが余裕の表情は崩れません。益々警戒ですね。


 本当ならばさっさと片付けたいのですが……いえ、皆さんを信じて我慢しましょう。



「塔主よ、そういうわけだ。下層の者どもを借りる・・・ぞ。なぁに終われば返すから安心しろ」



 眷属伝達……塔主から許可を得た? 下層の者を借りる?

 まさか召喚する気ですか? 【傲慢の塔】十四階層以下にいる魔物たちを。


 この広いフロアを魔物で埋め尽くし圧倒的物量で我々を――と思考がまとまらないうちにルシファーが声に出します。



「<傲慢の聯合>」



 玉座から立ち、スキルの詠唱。それと共に、ただでさえ大きいルシファーの身体がさらに大きくなっていきます。


 それだけではありません。

 身体からボコボコと浮かび上がるのはデーモン、アーマー、スケルトンなど【傲慢の塔】でよく見た魔物たち。


 それらがまるでルシファーの鎧となるように纏わりつき、ルシファー自身を肥大化させているのです。



 その大きさは8m……10mを越えて尚止まりません。


 なるほど。十八階層が十九階層と繋がっていたのはドラゴンや飛行する魔物のためではない。


 ルシファーのスキルの為だったというわけですか……!



「全員わたくしから離れなさい! ターニアはフォローを!」



 急ぎ指示を出しました。こんな巨体の近くで戦えば確実に巻き込みます。敵味方問わず被害が出るでしょう。


 ターニアはまだ透明のままわたくしをフォローしてもらいます。

 おそらくわたくしのステータスを見て、それ以上の強さと設定・・してのあの巨体なのでしょうし。



「クククッ、ここまでの力を得るのはさすがに初めてだな。感謝しておこう【女帝】のメイドよ」


「なるほど。それがわたくしのステータスを超える強さ、というわけですか。過分な評価ですね」


「貴様一人でどれだけの友軍を使った・・・ことか。まぁ存分に楽しませてもらおう」



 やはり『わたくし一人』に対しての身体の変化ということですか。近くにいるはずのターニアなどは考慮していない。あくまで一対一を想定したスキルということ。


 問題は『召喚・融合めいた強化』の対象が『友軍』のみであるか。もし我々も取り込まれたら……。


 ……いえ、それはないですか。それが可能であればわたくしを『使えば』いいのですから。


 おそらく『敵を斃すため、敵より強くなるために味方を使う』というスキルなのでしょう。一端結論付けておきます。



 それと武器を創り出すとかもしないようですね。わたくしの持っている魔竜斧槍も見ているはずですが。

 魔竜斧槍も考慮しての巨体なのか、それともわたくしのステータスのみを考慮しただけか……これは分かりません。


 いずれにせよルシファーは無手。肉弾戦と闇魔法というところですかね。

 まぁその肉弾戦も、地団太を踏むだけで脅威の攻撃になりそうですが。



 魔剣はあまり使いたくありません。マモンの時は早々に見せて後悔しましたからね。

 万が一ですがルシファーが次回の【傲慢の塔】で召喚された時、今回の記憶を持ったままですと困ります。それを見越した強化などされたら堪りませんからね。


 まぁおそらくない・・とは思いますが念の為。……いざとなれば使いますがね。



 というわけで武器は魔竜斧槍。それと――ドロシー様からお借りした【返怨の大盾】で臨みましょう。


 これを出すことで……向こうの変化はなし。

 神授宝具アーティファクトの情報は<アイテム鑑定>で見えているはずですけれどね。



「クククッ、そのような借り物の盾で余の攻撃を食い止められるはずがなかろう。潰せば終わりだ」



 なるほど。まぁ盾がいかに立派でもそれを持つわたくしを潰せばいいと。その理屈は分かります。

 大悪魔から見れば今のわたくしなど矮小な虫けらでしょうし。


 いずれにせよターニアにはわたくしより周りのフォローをするよう指示を出しておきます。



「さっさと死ねえい!!!」



 ルシファーはわたくしを踏み潰そうと右足を振り下ろしてきました。

 まるで巨木がそのまま天から襲ってくるような光景。

 さすがに迫力が違います。今までに味わったことのないような感覚。


 わたくしも遊んでいる暇はありません。今できる全力でお相手しましょう。


 見下すばかりの【傲慢】に、【女帝】の侍女としての矜持を――。





■ジータ・デロイト

■【赤の塔】塔主アデルの神定英雄サンクリオ



 ――ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!



 何度目かの連撃を受けきり、やつ――シシェートは少し距離をとった。

 視界にはあちこちで戦っている光景が入るが、それを無理矢理に遮る。

 俺はこいつから目を離しちゃいけねえ。



「なるほど正しく英雄というわけか。やれやれ、動揺の一つもしてくれず、尚且つ私の攻撃に付いてくるとは」


「お褒め頂きありがとうございますとでも言えばいいか? 異世界人様」


「はぁ、この世界じゃ私の剣技は少なからず驚かれるんだけどね。そっちのメイドさんだって私とは別世界だろうし」



 こいつの世界に多肢族リームズはいねえってことか。まぁ四本腕なんて目立つだろうしな。



「ああ、その世界にも別の【Enchanter】がいるかもしれないのか。なるほどね」


「いんちぇん……なんだ? よく分からねえな」


「ふふっ、まぁいいさ。仮にいても私ほどの使い手ではないだろうし。これでも私はちょっと名の知れた【Magic Knight】だったんだよ」


「そりゃ神定英雄サンクリオに選ばれるんだから英雄級なんだろうさ」


「そんなに偉くはないけどね。でも――英雄ジータを斃せば……英雄を名乗ってもいいかな」



 構えが変わった。何か仕掛けてきやがるな。

 おそらくさっきの風と炎だけじゃねえ。別の属性も使って来やがるのかも――。



「<Double Enchant=Wind&Water>! <Enchant=HiFire>! さあ行くよ!」



 そのスキルだか魔法だかを唱えるとシシェートの様子は一変した。

 剣に纏っていた炎はさらに大きく。離れていてもその熱量が伝わるほどだ。


 しかも身体に纏うのはおそらく風と水の魔力。


 俺は<魔力感知>なんて持ってねえから視覚でしか判断できねえが、まず間違いねえ。

 その動きは速さに加えて流麗にもなった。流れるような身のこなしだ。


 なるほど、こりゃあ英雄級に違いねえ。

 攻撃こそ軽いがそれを炎で補っている。剣技は達人とも言えるだろう。


 しかし時々俺が右手を離す動作を見せるとやつは警戒している。

 あの魔竜短剣を気にしてるんだな。残念ながらもうパトラに返したぜ。

 だが牽制の材料としては有効だ。



 ったく、シャルロットの嬢ちゃんに【付与魔法】をかけてもらっておいて正解だぜ。

 おかげで炎耐性も出来ている。こうして熱さを気にせず打ちあえる。


 それに――いくら速かろうが、いくら剣技が上手かろうが――



 ――こっちは姉ちゃんエメリーと模擬戦やってんだぞ! てめえの方が強いわけねえだろうが!




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