106:防御vs攻撃、というわけでもないようです!



■ニフィスト 35歳 

■第493期 Cランク【打突の塔】



 攻撃陣は【忍耐の塔】を進んでいる。が……罠がきちい。


 調べはついていた。【忍耐の塔】は罠が危険だってな。

 魔物は大したことねえが罠が鬼畜でそれにヤられる侵入者がやたら多いと。


 俺のとこには<罠察知>なんか持ってるヤツはいねえ。

 その代わりに<嗅覚強化>と<危険察知>を持ってる狼どもを大量に出した。


 そいつらが先頭で斥候代わりになり、仮に罠が発動しても本隊は守られるって寸法だ。狼ならば安いし量がある。



 しかしそれにしたって罠の数が多すぎる。


 一階層と三階層は迷路みたいなもんだが、屋内型なのをいいことにこれでもかって罠が置いてある。

 爆発したり、槍が突き出てきたり、矢が飛んできたり、天井が落ちてきたりと様々だ。


 これじゃ部隊全員が避けるなんてできねえし、<危険察知>が効かねえようにスイッチと罠を離してたりもする。スイッチを踏んだのは先頭なのに罠に掛かるのは遠く離れた後衛だったりだ。


 こんなの侵入者相手に仕掛ける罠じゃねえ。明らかに今回の塔主戦争バトル用の罠だ。



 二階層の湿地や四階層の沼地もそうだ。

 やっと拓けた場所に出たかと思いきや今度は毒ガスだの麻痺だの。

 魔物なんて小せえ蜘蛛とか蛇とかしかいねえ。全く強くねえのにひたすら状態異常ばかり狙って来やがる。


 俺の部隊の力を振るう機会もないし、体力自慢の魔物たちでも毒ダメージが洒落にならなくなってきた。


 それでもさっさと抜けようと五階層に行けば――今まで以上にとんでもねえ罠ばっかじゃねえか!



 なんだこりゃクソがあああ! さっさと殴らせろコラァ! なぁにが防御が売りじゃコラァ!!!




■ドロシー 24歳 ドワーフ

■第500期 Dランク【忍耐の塔】塔主



 相手は攻撃力と体力のバカ高い魔物ばかり。そんなんがうじゃうじゃいる。

 それに真正面から当たれば勝てる見込みなんてない。

 せやから【忍耐の塔】での戦いは、はなから罠で殺すと決めとった。


 向こうの弱点は明確な上に多い。戦士しかいないパーティーみたいなもんや。


 魔法もないし、遠距離攻撃もないし、ちゃんとした斥候もないし、回復手段も乏しい。

 パワーで押しつぶすことしか考えてへん。まぁそれが強いから困ってるんやけど。



 ともかく通常以上に罠を多く、そして大部隊用に整えた。

 おかげで四階層の時点でほぼ半壊。先頭の狼だけじゃなくウェアウルフやオーガもかなりやられとる。


 まぁそこを狙うように仕向けてんけど。


 さすがに指揮官はまだ生きとるな。仮にあいつらが毒になっても薬くらい支給されてるやろ。

それでも全員分の薬があるわけじゃないし、こんだけ毒ダメージやら罠ダメージが入れば薬も尽きる。



 そして五階層『罠の回廊』ここが正念場や。

 巨体ばっかの向こうの陣営にとっちゃ地獄やろな。

 狭いし、長いし、罠の数が一番多い。


 ここの罠で壊滅させるくらいの気持ちでないとあかん。


 なんせこの先――魔物はほぼおらんからな。


 本来なら六階層の『砦』に配置していた主力はぜーんぶ攻撃陣に回した。弱めのゴーレムしかおらん。


 一応時間稼ぎとして【世沸者の塔】を真似た数字合わせみたいな扉を用意したけど、あんな複雑な謎解きはうちの塔で出来へんし、少し探索すれば誰でも開けられるようなやつやな。

 それに期待するのもなんやし、やっぱり五階層で仕留めるしかない。


 もし突破されたら……うちが【返怨の大盾】で守り切るしかないわ。



『む? ライカンスロープが毒ったか?』


『これで落とせればいいのでしょうけどさすがに薬を――』


『いやアデルさん、あれ薬持ってなくないですか?』


『えっ、そんなはずないでしょう。先ほど腰に下げた小袋から……』


『さっき使ってましたよね? 回復薬も解毒薬も。もうなさそうじゃありません?』


『は? あれっぽっちしか持ってきてませんの?』



 確証はない。でも確かに持ってそうには見えん。

 念の為で少しだけ持たせた感じか? うちがこんなに毒を多用するとは思わんかったか?


 なんにせよ好都合や。一番怖いオーガキングも狭い通路に苦戦しとる。

 あとはスフィーたち次第やな。今のところ順調やけど。





 【打突の塔】下層にいるウェアウルフやマーダーグリズリーなんかは問題ない。

 所詮はCランクやし、単発で突っ込んで襲ってくるだけや。


 ちゃんと陣形組んで事前に察知して遠距離攻撃しつつゴーレムが受けて仕留めると。ふつうのパーティー戦闘みたいなスタイルで十分斃せる。


 まぁそれを部隊で動かすのが大変やろうけど、スフィー・キラリン・ノーミンが頑張ってくれとる。



 問題は上層の巨人系やな。やっぱ。


 土精霊ノームの魔法攻撃じゃほぼ効かんし、邪魔する程度にしかならん。

 アラクネやベノムヘッジホッグの毒が決まればいいけど確実ではない。

 集団で来られたらミスリルゴーレムだってやられてまう。


 巨人系に対抗する手段のなさ。それは最初から問題視されていた。

 うちには決定的に火力が足りないと。


 ゴーレム軍団とガーゴイルでいい勝負はできても巨人の数の暴力には負ける。

 そこを打開するための攻撃力が必要や。



 案としてはいくつかあった。

 例えば同盟からTPを借りて、固有魔物の【フレアドレイク(魔杖の塔の戦利品)】や【忍耐の天使ウリエル】を召喚する。


 同盟内でTPを『あげる』のは禁止やけど『貸す』はできる。条件付きやけど。

 ただみんな厳しい塔主戦争バトルを控えてるしTPに余裕はない。


 昨日フゥが獲得したTPを借りるってのも考えたけど、それがどれくらいの多寡なのか分からん以上、計画に入れられんし。



 第二案として出されたのが、今スフィーが背負ってる大剣や。

 言うまでもなくエメリーさんの武器やけど、それを今回は借りた。

 同盟内で魔物や眷属の貸し借りはできないけれどアイテムなら可能やからな。


 もちろん事前に練習した。スフィーを『訓練の間』に連れて行って、エメリーさんにも説明を受けつつ立ち会ってもらった。





『わたくしが持っているのとは別の魔剣を模したものを造ろうとしたようなのですが、これはその過程でできた失敗作・・・なのです』


『失敗作?』


『結局普通の魔竜剣になってしまったと鍛冶師がしょぼくれてましてね。ならばわたくしが貰いましょうと』


『全く意味わからんけど。普通の魔竜剣てなんやねん』


『相手がトロールの群れだとしてスフィーさんが空から撃つのであれば最適でしょう。多少は削れると思いますし。ただ味方とは離れたところに撃ってくださいね』


『は、はぁ……』





 ホントは大ボスのヘカトンケイルまでとっておきたかったけど、そうも言ってられへん。

 巨人の群れを相手にしたらジリ貧や。



「スフィー! 撃ったれ! 場所に気ぃつけや!」


『ハッ、行きます! <炎の破城矢フレイムバリスタ>!』



 背中から真っ黒の大剣を抜き、横薙ぎに振るいつつ魔法名を唱える。


 ただそれだけで上空から特大の<炎の槍フレイムランス>が雨のように降り注ぐ。



 ――ドドドドド!!!



「『うわぁ……』」



 その声は同盟みんなもそうやし、撃ったスフィー本人もそうや。もちろんうちも。



『ふむ、やはり一撃で全滅とはいきませんね』



 冷静なのはエメリーさんくらいなもんや。

 うちは慌てて追撃の指示を出した。



 ……これで負けようもんならこのドギツイ武器が相手に渡ってまう。


 あかんあかんあかん! それだけはあかんで! 絶対勝たんと!



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