96:いよいよパレード出発です!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
「おお、愛しの君っ! まさかこんなところで――」
「黙れ。貴様は下がっていろ」
その声に振り返ると案の定【傲慢の塔】の同盟。
貴族らしいと言いますか、ずいぶん遅くに来ましたね。
まぁ早くから集まっている高ランク貴族が多いのですけど。
シャクレイさんはこちらを見下し、フンと鼻を鳴らして言います。
「まさかあのレイチェル・サンデボンと繋がりがあるとはな。どうやって取り入ったのかは知らんが。どうせ平民らしく卑しい手でも使ったのであろう」
「あら、レイチェル様も平民でしてよ? 取り入るも何もございませんでしょう。ねえ、アゴディーノ伯爵家長子のシャクレイ様」
アデルさんが私とシャクレイさんの間に入りました。
これ「父親は伯爵だけどまだ継いでないから貴方は貴族じゃないですよね?」って言ってますよね、うわぁ。
おまけにレイチェルさんを上位に見たシャクレイさんに対して、私たちは同等ですと言い張った。仲の良さアピールですか。アデルさん言いますねえ。
というか打ち合わせもなしにアデルさんが前に出たのでもう任せちゃいますけど。
「ふんっ、メルセドウの小娘が小賢しい。おいそこの平民、貴様だ。大人しく奪った外套を寄越せ」
視線がこちらにきましたね。毅然とした態度で臨みましょう。
「外套? ああ、当方の侍女が持ち帰って来たあの外套ですか? 何やら土汚れがひどかったので捨てましたが」
「何?」
「お貴族様がまさかあのようなみずぼらしい外套を大事になさっているとは思わず」
「まあ、それはそうですわね。しかしなぜそのようなものをお召しになっていらしたのでしょう。まさかグロウズ侯爵が土いじりなどするはずがありませんものね」
「くっ……!」
アデルさん、よく合わせてくれますね。さすがです。と言いますかイキイキしすぎです。
「盗人猛々しいとはこのことよ。平民が貴族のものを盗むなど極刑ものだ。一族郎党な。どこぞの田舎街にもその旨は伝わるだろう」
「すでに父母は他界しておりますし身寄りもございませんのでご心配なく」
「チッ」
別に両親がまだ生きていても変わりないと思いますけれどね。
知らない土地に住む民を処刑するとか、この人や伯爵にそんな力があるとは思えないです。
「それに罪ある者が処されるとするならば、どうぞご自身を危惧なさったほうがよろしいかと」
「……何?」
「どこに目耳があるとも限りません。知られていないと信じるは愚かな事。バベルにおいて
「…………」
シャクレイさんは舌打ち一つ、彼らを伴って去っていきました。
私たちも一度【世沸き者の塔】に戻ります。ふぅっ。
◆
「シャルちゃんやるやん。完全に【女帝vs馬鹿貴族】やったで」
「どっと疲れましたよ。普通にやりあえてるアデルさんがすごいです」
以前にグロウズ侯爵を強襲した時、これでどう転んでもアンデッド操作はしなくなるだろう。そう思っていました。
実際にパタッと動きは止まったのですが、実はすこし前に一度だけアンデッドを操作するのを発見したのです。
それは一応警戒していたというフゥさんのお手柄なのですが、その時に創ったアンデッドの足取りを追ってみたところ、なんと【死屍の塔】に入ったというのです。
そして入ったきり出てくることはなかった。
【死屍の塔】はファムで探れませんので詳しいことは不明なのですが、何かしらの目的があったのだと思います。
そうした動きを警戒させる意味で最後に脅したつもりです。
これで動きが鈍くなるか、止まってくれればいいのですが。
「あ、あれ、でもファムのことが知られちゃうんじゃ……」
「あの言い回しですと【諜報型限定スキル】を想像するでしょうね。しかし信じる信じないはどちらでもいいですわ。どちらにもメリットがございますし」
私の言ったことを信じて限定スキルを警戒するならば、アンデッドを動かすのはやめるでしょう。
信じなければアンデッドをまた創るはずなのでそれを監視すればいい。何らかの手掛かりが掴めるチャンスと。
もしかすると信じるグロウズさんと信じないシャクレイさんで対立が起こるかもしれない、とアデルさんは言います。
……もちろん私はそこまで考えていません。ただ忠告したかっただけです。
「ちなみにじゃが、まさか本当に外套を捨てたわけではないじゃろ?」
「もちろん。エメリーさんが持ってますよ。ただ――」
怖くて試せないというのが正直なところです。
神の力が宿った武具ですからね。何が起こるか分かりません。
「でしたら今度、ウッドソルジャーあたりで試してみては? それで効果が出るようでしたらエメリーさんでも問題ないでしょうし」
「ですかね。帰ったらやってみましょうか」
◆
「【女帝の塔】のシャルロット様!」
時間を潰すことしばし、いよいよ私の番になりました。
【付与魔法】も掛かっている。ターニアさんにもファムを通じてずっと見ていてもらっています。
エメリーさんを少し見て、軽く頷きました。さあ行きましょう。
少し急な階段を未だに慣れないドレス姿で上り、屋根に立てばなかなかの高さです。
すでに大通りが目に入ります。そしてゆっくりと魔導車は動き始めました。
私は背中にエメリーさんの存在を感じつつ、まっすぐ前を見て姿勢を正したまま。凛として臨みます。
――私が【女帝の塔】のシャルロットです。そう皆さんに知らしめるように。
『うおおおお! 【女帝】だ!』
『もう今期の新塔主が出てくるのかよ!』
『キャー! シャルロット様―!』
沿道には本当に多くの人。内定式でも多くの人に注目されましたが、あの時とはまるで違います。
沸き上がる歓声と羨望の眼差し。
バベリオの民にとって塔主とは英雄であると、真に感じられる瞬間でもありました。
高揚感はものすごく、一歩間違えば調子付いてしまいそうになるほど。
自分を諫め、女帝であることを意識しなおし、レイチェルさんの言葉を反芻します。
私は私らしくまっすぐに――。
『シャルロット様―! こっち向いてー!』
『おいあれが噂の女帝かよ! それと噂のメイド!』
『おーい! こっちだー! 女帝さーん!』
……手を振りかえすのはダメですよね? 女帝っぽくないですよね?
いややっぱり手を振るくらいが『民衆に愛される女帝』って感じでいいですかね?
でもやっぱり変ですよね? 凛としてちょっと冷たい感じのほうが女帝っぽいですよね?
「わーい! じょていさまー! じょていさまー!」
……子供に微笑むくらいならいいでしょう。うん。可愛らしいですから。
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