172:輝翼の塔は今こんな感じです!
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 51歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
今期――501期が始まってからは何かと忙しく、もう数ヶ月も経ったのかと思う今日この頃。
この分ではすぐに後期の塔主総会、そして年越し・新年祭とやってきそうじゃのうと時の早さに達観しそうになる。
里にいる頃が暇すぎた五〇年じゃったから余計じゃな。
塔主となってからの一年二年が忙しなく濃密に感じる。
Cランクへの昇格と【傲慢の塔】同盟の討伐を終え、最近はエレオノーラの【春風の塔】とそれに関連する色々な事を探る日々を送っておる。
自塔の管理がある程度は安定したから探るほうにもリソースを割けるということじゃな。
ランクアップした時は仮初の出来合い品だった塔も【傲慢】の報酬を得て一応の完成を見た。
眷属や魔物を増やし、それに見合った塔へと大改装を行ったわけじゃ。
まず行ったのはほぼ唯一の地上戦力であるフェンリルの眷属化。名は『フィルフ』とした。
これは現在五・六階層となっている『樹氷雪原』で
ボス部屋を撤去して階層の全面を雪にしたのでな。
二体とも基本的には階層の後半におるが自由に遊んでくれと、じゃから『ボスのような』という感じじゃな。
地上戦力と言えば【風見鶏】の報酬でグリンカムビ(C)とコッコ部隊もいるのじゃが置き所に困ってまだ召喚はしておらぬ。
斥候能力のある部隊じゃから使えそうではあるがのう。
次に召喚したのは【輝翼の塔】の固有魔物である【虹竜アイダウェド】。
どんなヤツが出て来るかと思ったら、鱗ではなく純白の体毛を持つドラゴンじゃった。厳ついし神々しい。
翼は蝙蝠の羽の膜の部分が透明で、尚且つ虹色に輝いていると言えばいいかのう。それが六翼。
体長も20m近くもあり、召喚で出てきた時には縮こまって丸まっておったわ。
名は『ブリング』とした。ここまでで報酬のTPはほとんど使ったことになる。
能力的にはターニア様に近い。飛びながら四属性魔法と光魔法を扱う。
もちろん速度と魔力についてはターニア様の方が上じゃ。
しかし竜であるが故に攻撃・防御・体力に優れておる。
それとわしが気に入ったのが<虹竜の咆哮>というスキルを有していたこと。
これは『魔法・スキルを無効化する』という効果らしい。
攻撃魔法を撃たれれば咆哮一発で消せるし、バフなどの効果も消えるそうじゃ。
しかもスキルを無効化できるということは、以前のシャルのように悪意のあるスキルをかけられても治せるかもしれぬと。
実際試していないので分からぬが――限定スキルは別物かもしれぬし――わしにとっては非常にありがたい代物じゃ。
ただ如何せんこの巨体。しかも飛んで戦うという。
そこでわしは【輝翼の塔】の七・八・九階層をぶち抜いた。
三階層分の連結じゃな。さすがにこんな暴挙をするCランクなんぞおらぬと思う。
『は? 全十階層で三階層ぶち抜き? なに考えとんねん』
『フゥさん、一・二階層はどうするんです?』
「元々二・三階層じゃった『霧の森』を持ってくる」
『え、じゃ、じゃあ『円形の森』はなくしちゃうんですか?』
『ちょっとお待ちなさい。そうしたら【輝翼の塔】は実質五階層になりますわよ?』
という一幕があった。皆からも呆れられたのう。
今の【輝翼の塔】は一・二階層が『霧の森』、三・四階層が『渓谷迷路』、五・六階層が『樹氷雪原』。
そして七・八・九階層を『森奥の広場』とした。ここがブリングの住処じゃ。
以前にあった『円形の森』とは真逆じゃな。階層の中央が拓かれていて、手前と左右が森になっておる。
もちろん森の部分にも魔物はおる。
神聖魔法が使えるヴィゾフニル(B)とかのう。ブリングを単騎で戦わせるような愚策はせん。
眷属で言えば、ゼンガー爺が十階の玉座の間、ブリングがその下の『森奥の広場』にいて、エァリスとフィルフが『樹氷雪原』となっておる。あとの眷属一枠は未定じゃ。
せっかくCランクに上がったのに実質五階層分の塔になってしまったわけじゃが――全五階層というとEランクと同じになるが――だからと言って難易度が低いかと言われると、わしはむしろ逆じゃと思っておる。自分で言うのもなんじゃが、これは難しいと。
階層数を絞るということは魔物の数も当然少なくなるし、その分強い魔物を配置することができる。
一・二階層の『霧の森』からしてEランクやDランクと同様にハイフェアリー(C)やスパルナ(C)が襲ってくるし、三・四階層の『渓谷迷路』ではグリフォン(B)やガルーダ(A)まで出て来る始末。
まぁガルーダはブリングと一緒に置いてもいいのじゃが神聖魔法が使えるし、グリフォンらのサポートをする隠しボスという意味で置いておる。
ボス部屋があるわけじゃないから、その気になれば素通りできるしのう。
そもそも今の【輝翼の塔】にはボス部屋というものが存在しないのじゃがな。
ボス部屋と区切ってしまっては【輝翼】の魔物の強みを消してしまうと思ったのじゃ。広々と戦わせるのが一番良い。
じゃからその気になれば『霧の森』を走り抜け、『渓谷迷路』を走り抜け、『樹氷雪原』を走り抜け、ブリングと戦うことも出来る。
まぁ不可能じゃろうがな。可能性はあるという話じゃ。
Cランクに上がってからは当然侵入者の力量も上がったのじゃが、未だに『渓谷迷路』の半分までも到達しておらぬ。ガルーダの出番さえない。
『樹氷雪原』まで到達すれば往復魔法陣が使えるんじゃがのう。そこまで行くのはいつになるやら。
まぁ行ったところで突破はできぬと思うがのう。
あの地形でフィルフとエァリスを相手取るのはAランクパーティーとて厳しいじゃろうし。
――と思いながら画面を眺めていたわしに、ファムからようやく吉報がもたらされた。
【煙水の塔】のファルタム・ズーロを見張っていたファムからじゃな。
この塔はバベリオ西部の大店を使ってマフィアのような真似事をしていたやつじゃ。【霧雨】ザリィドへの上納金のために金を集めていた愚か者。
何事かと聞けば、ファルタムと同じく同盟者の【泥沼】ベックリーニの会話で『エルフ』に関する話題が出たと。
どうやらファルタムはザリィドへの上納金に困っているらしく――例の商会が潰れたせいじゃろうが――それで泣きついたところザリィドから「金が払えないならエルフでも捕まえて来い」と言われたらしい。それをベックリーニと相談していたと。
闇奴隷として売るのか? とすぐに思ったわけじゃが、売り言葉のようにふっかけただけにも思える。そうしてでも金を作れと。
しかし気になったので一応同盟でも共有しておいた。
『うーん。それとエルフの塔を狙うのとは少し違うんとちゃう? だって
「エルフを狙う、という一点においては共通しておるくらいじゃな」
『やっぱりザリィドさんてお金にがめつい感じですよね。エルフの塔を狙うのもそれがお金に絡んでいるからだと私は思うのですが』
エルフの塔を斃すことで金になる、か。
単に金を稼ぐだけならTPを稼げばよい。そしてTPを稼ぐために
そうなるとTPとは無関係なところで金を稼ぐためにエルフの塔を狙うということになる。
なんか矛盾しとるのう。
『そ、そもそもエルフを捕まえて奴隷にって、で、出来るんですか?』
『普通は無理やろ。バベリオに闇奴隷商でもあるんちゃうか?』
『奴隷法については国により異なりますが一般的には犯罪者や債務者に対する処置としての奴隷ですわね。それ以外は犯罪。バベリオも自治都市ではありますがそこら辺は同じでしょう』
エルフは人間の闇商人に狙われやすいと里で聞いたことがある。
獣人やドワーフに比べて高値で売れるからと。
じゃから里の者は滅多に外に出ぬし、それでも出る者は相応の腕と危機管理能力が必須となる。
わしが普段ローブのフードを被っているのもそういった自衛のためじゃな。
エレオノーラなどは完全に危機管理能力がないわけじゃが……あれでよくバベリオまで来れたもんじゃのう。
『でもいいことを聞きましたわ。エルフの奴隷ですか。わたくしもそっちの線から当たってみましょう』
『メルセドウ王国にも奴隷はいるのですか?』
『ほとんどおりませんわね。それこそ犯罪者が鉱山奴隷になる程度ですわ。でも、だからこそ……というのも考えられますもの』
【魔術師】のケィヒルがエルフの塔を狙うのもエルフ奴隷が絡んでいると?
さすがに飛躍しすぎではないかのう。ファムが拾ったのはあくまで【霧雨】同盟の件じゃし。
【魔術師】が【霧雨】と同じ目的でエルフの塔を狙っているとは限らん。
……可能性はあるか。
しかし【魔術師】と【霧雨】の接点が見えぬ以上、『別々に動きながら目的が共通している』という風にしか見えんがのう。
そんなことあるか? と思う反面、完全に否定もできぬ。
まぁなんにせよ調査は継続じゃな。
今はまだ結論は出せぬし動きようもない。早く尻尾を出してくれればよいがのう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます