173:反逆の塔は止まりません!
■ダンザーク 33歳 狼獣人
■第490期 Cランク【反逆の塔】塔主
「チッ、やっぱりやりづれえな」
あれから少し経ち、俺は【払拭の塔】からの
狙いを変えるつもりはない。標的はあくまで【聖の塔】同盟だ。
これは単にヤツらに恨みがあるから、というわけではない。
ヤツらが人間至上主義なのは知っているし
だが、だからと言って自分の命を投げ出してまで恨みを晴らすかと言えば、答えは否だ。
目標は人間至上主義の排斥ではなく、塔主として上り詰めること。
その為に一番狙いやすいのが【聖の塔】同盟であると、ただそれだけだ。
ヤツらは『亜人排斥』の為に是が非でも俺を潰したいだろう。こちらが抱いている恨みより、向こうが抱く恨みの方が強いはず。
それを利用する。
利用した上で、
そうして迎えた【払拭の塔】との
相手は【聖の塔】同盟でも一番下のCランク。
一番下でも俺よりランキングが高いというのがこの同盟の恐ろしいところだな。
同盟の総合的な強さであればバベルで一番なのは間違いない。だからこそ狙いたいとも言えるが。
【払拭】の攻撃陣が転移門から入って来ないのだ。こちらの攻撃陣はすでに入っているのに。
だがこれで確信した。
【大軍師】シュレクト・ササーは<反撃の狼煙>の能力をすでに掴んでいると。
【純潔の塔】との
その上で<反撃の狼煙>の効果を使い、ステータスをありえないほど上昇させて斃したのだ。
<反撃の狼煙>は
だったら攻め込まなければいいと、そういう結論に至ったのだろう。
おそらく【払拭】はひたすら防衛でこちらの戦力を削るはずだ。どんなに長期戦になろうとも。
そして削りきったのちに大軍で攻め込んで来る。
攻め込んだ時に<反撃の狼煙>の効果は出るが、大軍で一気に襲い掛かれると
向こうの狙いはそこだろう。
こちらとしてはいくつか対策をしている。
仮にその手で来られても
しかし――わざわざその手を見せる必要はない。
相手が【払拭】で、今の【反逆の塔】の戦力を考えればやりようはある。
シュレクトに今一度<反撃の狼煙>を見せず、その上で勝てる。
「ラグエル、第二陣を率いて向かってくれ。先行しているミスリルゴーレム部隊と合流だ」
「分かりました」
そう。【純潔の塔】を斃したことで【純潔の天使ラグエル】が召喚可能となったのだ。
当然ながら【純潔の塔】のバベルジュエルから得られたTPは異常に多く、すでに天使部隊も創ってある。
他の魔物は貧弱なままだが、隠し玉と言えるラグエルの部隊にはTPを惜しまず使っているのだ。
召喚に際し「【純潔】の時の記憶も持っているのでは」と期待半分、恐怖半分だったのだが、どうやらそういうこともないらしい。
全く同じ見た目だが、『別のラグエル』となっているようだった。
未だにバベルの召喚というものはよく分からない怖さがある。
これを隠したまま勝てるのならばそれでもいいが、それ以上に<反撃の狼煙>をこれ以上見せたくはない。
それにラグエルを見せることでヤツらは思うだろう。
「早く【反逆の塔】を潰してラグエルを回収しなければ」とな。
【翡翠の聖女】を殺し、ラグエルを奪取した創界教にとっての怨敵。
そう思ってくれるならばこの先も色々と仕掛けやすい。
おそらく【聖の塔】塔主のアレサンドロならば簡単に乗るだろう。
となれば後に残る問題はお前だけだ――【大軍師】シュレクト・ササー。
端から俺の敵はお前だけなんだよ。
■アレサンドロ・スリッツィア 63歳
■第472期 Sランク【聖の塔】塔主
【払拭の塔】のブロゥワ司祭が【反逆】によって斃された。
これで【純潔の塔】のパゥア司教に次いで二人目の殉職者だ。
我が同盟もSABBの四塔にまで減ってしまった。
【反逆の塔】許すまじというのは同盟の総意だ。
そこにシュレクトの策を合わせ実行に至ったのだ。
相手の持つ限定スキルの予想しうる条件と効果。
現段階で確定しているもの、予想できるものは数多い。
それを同盟で共有し対策と打開策を図った。
しかし、それでも負けたと。
この結果に消沈する者、憤る者と反応は様々なのだが、シュレクトに至っては「計算通り」と思っていることだろう。
私とてブロゥワ司祭の死は悲しいし、悔しいし、怒りもする。
とは言えシュレクトの「計算」を承知していたのも確かなのだから、なんとも度し難いものだ。
「まず前回の
「二月に一度しか使えない限定スキルか」
「ただ可能性があるといってもかなり低い。ほとんど考える必要はないでしょう」
塔主の力を増す、特上のバフ効果とも言える限定スキル。
強力なものであるが故に時間的制約もあるかと思ったが、それを考える必要はないと。
シュレクト曰く、仮にその条件があったとしても効果のわりに期間が短いし、二月という期間は
通常、
力に差のある新人塔主などの場合を除いて。
だから、時間的制約のある限定スキルであってもそこを気にする必要はないということだ。
「次にこちらが攻め込まなかったのに対し、向こうは少数の攻撃陣を最初に送り込み、その後すぐにラグエルの部隊を合流させました」
「やはりラグエルの召喚は行っていたな。全く盗人猛々しい」
【純潔の塔】の固有魔物である【純潔の天使ラグエル】を斃したことで【反逆の塔】には召喚権利が生まれた。
向こうが戦力補強を考えた場合、最初に考えるのがラグエルだろう。
だからこそすでに召喚している可能性も考慮していたのだ。
それがあのような悪逆な亜人の下にいるとは……さすがに腹立たしい。
ますます【反逆の塔】をどうにかせねばならん。
「気になったのは合流までの早さです。あれはこちらが攻め込まないと承知していたから出来た手でしょう」
「亜人が読んでいたというのか? こちらの策を」
「攻め込まないと分かっていたから準備しておいた。分かっていたから最高戦力であるラグエル部隊を最初から投入してきたわけです」
なるほど。あの亜人がある程度の知恵者だと言いたいのだな。
業腹物だがシュレクトの言い分も分かる。
とは言え亜人のくせにそこまで考えるものか、とも思うわけだが。
「こちらはそれを読んで罠を多く配置し、防衛陣の守りも固めました」
「【払拭の塔】で出来る限り、ではあるがな」
「ラグエルこそ斃せなかったものの、そのおかげでミスリルゴーレム部隊を含む多くの敵戦力を削れました。これでは今回の報酬で過剰な戦力を増やすことなどできません」
ラグエルは紛れもないSランク。そしてそれは部隊を率いてこそ真価を発揮する。
Cランクである【払拭の塔】では防ぎきることは出来なかったが、ブロゥワ司祭は最後までよく戦ってくれた。
その結果、相手をほぼ壊滅状態まで追い込めたのだからな。
ラグエルの神聖魔法さえなければと悔やんだが仕方ない部分ではある。
シュレクトの言うとおり、あれだけの戦力を失えば【払拭の塔】のバベルジュエルからTPを得ても赤字の可能性がある。
戦力の増強はもとより、下手すれば補充するのもままならないはずだ。
「【反逆】の戦力の底は知れました。そして限定スキルもほぼ判明したと言えるでしょう」
「限定スキル? 今回の
「使っていない、ではなく、使いたくなかったが正しいですね。それはもう答えが出ているのと同じです」
【反逆】は『こちらが限定スキルの条件を知っている』と思って策を練っていた。
だからこそこちらの動きに対処した。ラグエルを即座に前に出した。
そして限定スキルが使える状態だからこそ、ラグエルという最高戦力を防衛の切り札には使わなかった。
逆説的に言えば、こちらの考えが正しいからこそ【反逆】はそのような手をうった、ということになる。
【反逆】は恐れたのだ。これ以上限定スキルを見せつけるわけにはいかないと。
それがラグエル以上の切り札であると、自分自身で言っているのだ。
「正攻法で斃すならば今回の
「正攻法でないとすれば?」
「周りから攻めたり、内部から攻めたり、偽Cランクの侵入者を作るのも手でしょう。まぁそれが通れば、ですが」
下手すれば【
まぁ手がないよりかはマシではある。
「確実を期すならば【聖の塔】か【雷光の塔】ですが、【鏡面の塔】や【鋭利の塔】が正攻法で挑んでも勝てる勝負だと思います。ただやはり最低二月は見た方がいいとは思いますが」
「なるほどな」
これはまた同盟の会議で話し合うか。
さすがにいつまでも野放しにしていい存在ではない。
早々に消すためにもどうにかせねばな。
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