344:新塔主の情報が徐々に出てきました!



■ドロシー 25歳 ドワーフ

■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主



 シャルちゃんのところは一気にドカンと大改装をしたが、ウチは少しずつ色々と試している。せやから大改装はしない。


 大改装は派手で集客も上がるんやけど、準備が大変な上に、新しい罠が侵入者に見破られやすいんよな。騒ぎになりやすいから。

 まぁ一長一短やからそれをシャルちゃんに言うことはないんやけど。

 あくまでウチは毎日少しずつ変えると、そんな感じや。


 新しい【女帝の塔】にもウチ考案の<罠察知>対策を仕込んでもらったけど、ウチでももちろん使っているし、その成果も出ている。

 まぁCランクの侵入者相手やからそれが塔主戦争バトルでどこまで有効かっちゅうとまた別の話になるんやけど。

 今のところはいいイメージを持ててるってとこやな。



 そういった改装作業や罠の考案に関しては順次行っていくとして、今の時期は内定式のあれこれで普通にバベルが慌ただしい。

 侵入者も街民も大変やろうけど塔主側も大変や。知っとかなあかん情報が一気に増えるからな。


 特に今年は色々と面倒事になりそうな新塔主が多い。

 神様がわざとそうした面子を選んでるのは間違いないやろ。相変わらずいい性格しとるわ。



 中でもウチらにとって一番の大ニュースだったのは【風雷の塔】やな。

 塔主のシフォン・ヒッツベルは【審判】セリオ・ヒッツベルの叔母。

 神定英雄サンクリオはエメリーさんのお仲間のティナちゃんっちゅう兎獣人。


 色々と思うところはあるが、とりあえず敵にならないと確定したんで一安心ってトコやな。

 エメリーさんクラスの化け物が敵対するとか死ぬ未来しか見えんし。


 【審判】が申請却下してくれててホンマ助かったわ。

 下手したらウチやノノアちゃんはシフォンさんの仇敵になるわけやしな。危ないで。



 新塔主の情報で良かったのはそれくらい。あとはもう面倒の方が勝る感じや。



『どうやらヴィラ・ヴェルガダーツはミッドガルド王国騎士団の副長を務めていた男のようですわ』


『ヴィラ……確か【竜牙の塔】ですよね。三塔目の五竜王ドラゴニア


『副長とは随分と位が高いのう。貴族なのか?』


『侯爵家ですわね。【黄神石】のオーレリアが伯爵家ですから一つ上ですわ』


『うわぁ……また嫌な感じの繋がりですね……』



 ヴェルガダーツ侯爵家の下にブルグリード伯爵家っちゅうことか。貴族の上下はよく分からん。

 ミッドガルド王国もメルセドウ王国みたいに派閥があるんやろか。仮に【竜牙】と【黄神石】が同じ派閥やったら厄介やな。

 まぁアデルちゃんに喧嘩を売ったところで返り討ちやろうけど。



『それと今のところ入っている情報ですと、【白光の塔】のザマースィ・ザマッスィリア。これはエルタート王国、ザマッスィリア伯爵夫人ですわね』


『えっ、うちの貴族なんですか』


「例によってシャルちゃんは自国の貴族なんか知らんと」


『田舎の街娘が知ってるわけもないですよ。でもあれですね……エルタート貴族と言うと嫌な感じしかしないのですが……』



 【傲慢】同盟やな。バベルの中にエルタート貴族はあの五人しかおらんかったし。

 五人が五人とも典型的な貴族やったからなぁ。貴族絶対主義と言うか差別主義と言うか。

 そのザーマスィとかいうのも同じ感じなんかな。それとも夫人やから少しは大人しいんやろか。



『あとは【黄道の塔】ですが塔主のスィル・クゥアンはバラージ王国の大商人。砂漠を渡る貿易キャラバンの元隊長らしいですわ。今のところ情報はその程度ですわね』


『この数日でそれだけ情報が入るのもすごいと思いますが……さすがアデル様です』


『他にもアデルが把握できていない貴族関係者やら金持ちがいるに違いないと。チェックする連中が多すぎじゃろ』


『さすがにファムでも無理ですよね。絞らないと把握もできませんよ』



 すでに情報がパンクしとるわ。どんだけ警戒せなあかんねん。

 こりゃいくら【風雷】にティナちゃんがいてもかなり厳しいんとちゃうか?


 エメリーさんのおった【女帝】でもプレオープン2位やろ? 【風雷】は下手したら5位とか6位くらいになるかもしれん。

 まぁそれでも十分高いとは思うけど。神定英雄サンクリオを賜った塔なんて大体1位とか2位やしなぁ。



『ドロシー、ドワーフの二人はどうするんじゃ?』


「どうも出来んな。もしかしたら手紙で挨拶するかも、くらいや」



 今年はドワーフが二人も新塔主になっとる。これは神定英雄サンクリオ以上に珍しいことや。

 バベルにいるのはウチと【土】のゴルドッソさんだけやったしな。まぁその時点で少なすぎだとは思っとったけど、いきなり二人追加は驚くやろ。


 【岩壁の塔】のダッダドンゴ。【誘惑の塔】のトラビジア。


 二人ともウチと同じ集落じゃないはずや。少なくともウチは知らん。

 ドワーフは世界各地に集落を構えとるから少ないくせにバラバラやねん。

 エルフみたいに結束が強いわけじゃない。だから塔主の数も減ったのかもしれんけどな。


 とは言え、頼まれれば協力はしたいし、同盟には入れないと思うけどアドバイスくらいはしたい。

 まぁドワーフは一人で黙々とやるのが好きなタイプも多いしあんま無理強いするつもりもないけど。

 だから手紙を出すか、新年祭で挨拶するか、くらいかなと思っとる。



「そういうフゥはどうなん? 互助会に誘うんか?」


『クラウディアとも手紙のやりとりはしたが、一応誘ってみるとのことじゃ。しかし今現在は連絡もとれんしプレオープンは自力で頑張ってもらうしかないからのう』


『あぁ……攻められちゃいますかね……』


『才能と運の勝負じゃろうな。いずれにせよ塔主総会後には手紙を送る段取りになっておる』



 エルフは結束が固いなぁ。まぁ住んどるのが同じエルフの里やろし、人間たちから身を守る意識が高いらしいからな。

 そこら辺がドワーフと大きく違うところでもある。良し悪しは別として。


 エルフの新塔主は【清泉の塔】エルメリア・ファンデワース、【守り人の塔】キーリオ・ホルレイクの二人。

 これでバベルの中に七人のエルフ塔主がいることになる。内一人はハイエルフやけど。


 互助会で集まるにしてもさすがに七人は多く感じるな。

 もういっそのこと同盟を結んだらええのに、と思ってまう。

 でもエルフにはエルフの考えがあるし、あんまり余計なことは言えんけどな。



『ノノアさんは獣人の新塔主に知り合いとかいないんですか?』


『い、いえ、いないですね。同じセブリガン獣王国の出だとは思うのですが、街が違うかもしれませんし、私は引き籠りでしたし……アハハ……』



 獣人の新塔主は三人。これは別に普通やな。毎年二~五人くらいの割合で新塔主になっとる。

 エルフやドワーフとは数が違うしな。まぁこんなもんやろ。


 ちなみに三人は【剛力の塔】サガット、【流浪人の塔】ノゥビズ、【音響の塔】シューテ。

 塔の名前を見てもあんまり強そうには見えへん。まぁノノアちゃんと関わりがないならそれでいい。



 個人的に気になるのは【毒の塔】やな。神定英雄サンクリオを賜ったもう一つの塔。

 この神定英雄サンクリオ次第で502期の動きが変わるような気がしてる。


 なにせ情報が皆無やからな。この世界の英雄なのか、異世界の英雄なのかも分からん。

 これがもしエメリーさん級の神定英雄サンクリオだとしたら……どうなってまうんやろ。502期は相当な波乱になるで。






■メルティエンリ 23歳

■第502期 Fランク【毒の塔】塔主



「おお、なんだこれ。リアルタワーディフェンスバトルじゃん。やばぁ……」


「なんだいピーゾン、君はバベルの仕様に詳しいの?」


「いいや全く。気にしないでちょうだい。私の知ってるヤツに似てるってだけだから」


「ふぅん、まぁ気付いたことがあったらアドバイス頂戴よ。私も初めてだからね」


「あいよ」



 バベルの塔主に選ばれるというのは喜ばしいこと。

 でも私にとっては残念なお知らせだった。だって錬金術に耽っていた暮らしが好きだったから。

 塔主になったら錬金術とは疎遠になるだろう。それは私にとって耐えがたい苦痛に思えた。


 とは言え神の意思に逆らうことなど許されず、内定式に来てみれば95人中95人目だ。最後も最後。

 実は間違って呼ばれただけなのではと期待したが、最後でやっぱり呼ばれてしまった。


 期待値とは逆で、結果を見れば最高だった。それが恐ろしくも思えるほど。

 まさか私なんぞが神定英雄サンクリオを賜るとは思ってなかったから。



 で、その神定英雄サンクリオ、ピーゾンという同年代の女の子と一緒に【毒の塔】へと向かったわけだ。

 【毒の塔】ね……今まで錬金術で毒薬を作り続けた私への当てつけかと。少し納得したのも事実だ。


 そして宝珠オーブに触れ、ピーゾンと共にバベルの仕組みや塔の創り方を学ぶ。そうしないと七日後にはプレオープンがあるらしいからね。私も自分の塔を創らないといけない。


 しかし目を通していくうちに自分の瞳が輝いていくのを感じる。

 ドンドンと私の知的好奇心が刺激されていくのだ。なるほどこれは面白い。

 錬金術は好きにできなくなったけど、塔創りは好きにできるじゃないか。塔主とは最高だな。



 そうして私はひたすら宝珠オーブを弄り、考察を重ねていく。

 頭の中で試作・検証・実践を繰り返していく。もう私は塔創りに夢中になっていた。



「そこの罠だと甘くない? こっちのが敵が攻めてきた時に死角になるじゃん」


「おお、神定英雄サンクリオらしいアドバイス助かる。もしかして玄人?」


「んなわけない。初見だよ。私はただの冒険者だし」



 その兎姿で普通の冒険者なわけあるか。

 まあいい。ピーゾンとは気が合うし、なぜだか塔創りも詳しそうだ。これからも二人、協力体制でやっていこうじゃないか。



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