343:大改装の成果が気になります!
■セフロス 26歳
■Bランク冒険者 パーティー【九極幻想】所属
内定式が終わって七日後には新塔主のプレオープンが始まる。
この時期は世界各地から若者が大挙して訪れる頃合いだ。
Fランクパーティーがこぞって新塔主を狙うということだな。
夢があって非常にいいものだが、何百人も死人が出ると思うと「やめておけ」と言いたくなる。
まぁ俺も昔はあんな風に無茶をしていたので、余計な苦言はしないつもりなのだが。
本格的に祭り騒ぎになるのはもう少しあとだが、ギルド内ではすでに新塔主の話題で持ちきりだ。
特に今年は波乱含みと言うか、派手な内定式だったからな。盛り上がる気持ちも分かる。
やれ
その上、エルフも二人いるし、ドワーフも二人いると。話題性には事欠かない。
Fランクの連中は今からどの塔を攻めるか作戦会議だろう。頑張ってくれとしか言えない。
俺たちはBランクパーティーなのでそういった騒ぎとは無縁なのだが、他のEランク以上のパーティーはあまりにギルドが混雑するため、バベルに挑むのを控える者も多い。休み期間だとな。
じゃあ俺たちも休むか……とはならない。
なぜなら挑戦し続けている【女帝の塔】がこの時期に大改装を行ったからだ。
内定式の日からは第502期の始まり。それに合わせて心機一転、改装を行う塔は他にもある。
おそらく【女帝の塔】もその部類なのだろうが、あの【女帝】のことだ。何かしら驚かされる事態になってもおかしくはない。
そう思った俺たちは、どんなものかと勇んで挑んでいった。
結論を言おう。
下層がとんでもないことになっている。らしい。
俺たちは往復転移魔法陣で五・六階層からの挑戦だから実際に体験したわけではないのだが、一階層から探索をしているパーティーがギルドで騒いでいた。
単純に五階層まで辿り着けていないパーティーや、塔と同じように心機一転で502期から挑戦し始めたパーティーたちもいる。
そうした冒険者たちが皆口々に言うのだ。「変わりすぎだ」「聞いてた話と違う」と。
詳しく聞いたが、各階層の基本構造、コンセプトは今まで通りで変わっていないと言う。
帝都⇒エントランス⇒地下牢、と。
まず一階層だが、順路が大きく変わったらしい。街並みをほぼ創りかえたのでは、という話だ。
道は極端に狭くなり、それこそ帝都の裏道を探索している感じだそうだ。
そのくせ罠は厄介で、空からは例の如くハーピィ(D)やサンダーバード(D)が飛んでくると。
難易度自体は「若干上がった」くらいのものだが、大幅に改装されていると感じるそうだ。
問題は二階層からだ。
ここはボス部屋に入る為の『証』を手に入れるのに階層中の小部屋を順次探索していくのだが、その小部屋の難易度が跳ねあがっていると。
扉を開けるとトラップが発動するらしく、どの小部屋にしてもまず入るのに苦労する。
実際に多くのパーティーが被害にあっている。小部屋に入れず撤退したパーティーもあるそうだ。
入ったら入ったでまた罠があったり、魔物の強襲にあったりという厳しさ。
まぁ運が良ければそんなに小部屋を巡らずとも『証』が手に入るので、パーティーによっては余裕で突破もできるだろうがな。
ボス部屋も変わっていないようだし。Cランク十体の群れだから厄介は厄介なのだが。
そして三階層。ここはもう全くと言っていいほど変わっているらしい。
まず床が全て水浸し。霧が籠っている状態で、特に床付近は目視も厳しいとのことだ。
つまりは罠に嵌りやすいということだが、その罠も増えているようで凶悪なことこの上ないと。
牢屋ごとの連続小部屋と通路で構成されているのは変わらないが、その迷路構造は様変わりしている。
なんでも牢屋の小部屋を通り抜けるのに鍵を外す必要があるらしい。鍵と言ってもすぐに外れるような仕組みらしいが。
意味のない仕掛けではあるものの、逃げ出したい時や早く進みたい時には厄介に感じるだろう。地味な嫌がらせのように思える。
一階層から探索を始めたパーティーは今のところ三階層が限界らしい。
これまで四階層を探索できていたパーティーも三階層で退却したと。
特に斥候職の者が困っているようだな。罠の難易度が上がり過ぎてパーティーに少なからず被害を出してしまうと。
そう聞くと、俺たちは【女帝の塔】がBランクに上がってすぐに挑戦し始めて正解だったな、と思うわけだ。
おかげで鬼畜化した下層を無視して五・六階層から挑戦できる。
まぁそうは言っても中層は中層で厳しいし、挑戦するたびに「ちょっと難しくなったか?」という変化が起こる、それが【女帝の塔】の恐ろしさなわけだが。
俺たちは最前線の八階層まで探索を行っているが、シャドウアサシン(C)が出て来るようになり、クラウンスカウト(C)と組んで背後から強襲してきたりもするようになった。
魔物の質が変わったわけではないが、組織立って殺しにきている感覚が増した。
それでなくてもデュラハン(C)ガードナイト(C)などは斃しにくいし、ロイヤル系統の魔物の群れは冒険者パーティーを相手にしているようなものだ。八階層は簡単に攻略できるところではない。
そうして正面の敵に苦戦しているところで背後から斥候系の魔物が襲ってくると。
このパターンで何度退却を迫られたか分からない。
しばらくは探索を続け、慣れていくしかないだろう。そうパーティーメンバーと話している。
願わくば中層は大改装しないままでいて欲しいものだが……【女帝】だからな……望み薄か。
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
「三階層は今のところ良さそうですが、二階層は手直しが必要ですね」
「学習すればすぐに対応できるということだな。侵入者に情報を与えすぎというのも気になる」
「最初は良かったんですけどね~。いっぱいTP入りましたし~」
「ん……肝心の斥候が殺せていない……」
「扉を開ければ必ず罠が発動すると、そういう認識がすでに植え付けられておりますね」
「通路にも罠を置くべきですネ。扉を開ける直前に仕掛けるであるとカ」
「なるほど。その時ならば油断を誘えますか」
大改装の直後、八女王会議はいつもにも増して活発になっています。
一階層から四階層までを
一階層は大通りルートを開けていないので検証も何も出来ないのですが、侵入者ルートに限って言えば、ちゃんと迷路として機能しているようです。
ただどうしても距離的に短くなってしまいますがね。階層の半分近くが大通りルートにとられているわけですから。
その分、罠を密集させたり、魔物を密集させる形になったので良くもあり悪くもありといったところ。ここは様子見です。
二階層が問題ですね。最初こそ討伐TPやダメージTPを稼いでいたのですが、あっという間に警戒されてしまいました。さすがはBランク侵入者です。
警戒したところでダメージを負ってしまうというケースもあるのですが、思っていたほどの成果は出ていません。
通路の罠をどうするか、小部屋の中はどうするか、よく考える必要があるでしょう。
あと地味なところで、アシッドスライム(C)が天井から大量に降ってくる部屋ですが、討伐自体は問題ないものの、落ちたアシッドスライムが天井にまた上るのが大変でして、そこが考えものです。
四階層にも同じ罠を使っているので早く何とかしないとダメですね。スライム用のスロープでも付ければ大丈夫でしょうか。
三階層は今のところ問題なし。ちゃんと成果が出ていると思います。
侵入者は少人数のパーティーですから良い斥候が一人いるだけで対応できると思いますけど、
あとは
召喚数制限もあるので乱用はできないのですが、一応そのつもりでいます。
残る検証は四階層がどうか、ですね。ここの侵入者が入って来た時の反応がどうなるか。非常に気になります。
飛行系魔物に対する罠が多いので侵入者に対してはあまり効果がないのですが、それでも新しい罠を多く取り入れていますので、それは確認しておきたいですね。
「スカアハさんの斥候部隊は調子良さそうですね」
「恐れ入りまス。まだ動きは荒いですが一応、強襲の形はとれていますネ」
スカアハさんには斥候部隊を全てお任せしています。
今まで斥候系魔物をあまり使っていなかったので、スカアハさんの眷属化を機に部隊化し、指揮・教育を行ってもらいました。
【女帝の塔】のリストで言えばクラウンスカウト(C)ロイヤルジェスター(A)シャドウ(E)などが斥候専門です。
それに加えて【影の塔】で召喚権利を得たシャドウアサシン(C)アサシンリンクス(C)なども使っています。
それぞれ八階層と五・六階層に配置していますね。
召喚数制限がありますのであまり前に出すという感じではありません。シャドウアサシン(C)などは基本的に<影潜り>をさせていますし。クラウンスカウト(C)の影に隠れる感じで組ませています。
ただそれらの魔物は【影の塔】の主力でもありましたのでね。四~五十体はいますし前に出たところであまり気にしないようにしています。
はたして八階層を突破する侵入者はいるのか……いても当分先になりそうな予感がしています。
八階層のボス部屋にヴァンパイア(A)とかロイヤルジェスター(A)とかいますし。Bランクの侵入者がどこまでやれるのかというのも注目しています。
突破の前に大改装が入るかもしれませんけどね。
時間の関係で四階層までしか大改装を実施していないのですが、五・六階層以降もやらないわけにはいきません。
あくまで今回の大改装は第一弾。
第二弾では四階層までの修正に加え、五・六階層以降も色々と変える予定でいるのですよ。
そうして徐々に
私の思い描く【女帝の塔】に近づけていく。
毎日の地道な積み重ねが塔主の仕事なのだと、最近は特に痛感しています。
終わりが見えないんですよね……でもまぁやるしかないのですが。
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