167:なぜか春風の塔も強化します!
■エレオノーラ・グリンプール 51歳 エルフ
■第498期 Eランク【春風の塔】塔主
あたしの【春風の塔】は四年目を迎えた。
でもこの前のランクアップでもDには上がれず未だにEランクだ。
何とか生き延びているってギリギリの状態なのは自分でもよく分かっている。
初年度からやっぱエルフだからって注目を浴びたみたいだし、侵入者もそこそこ多かった。
そこが一番きつかったなぁ、プレオープンでも二回くらい殺されたし。
でもどうにかこうにか生き延びて、二年目以降は客足が減ったおかげでこうして生き残れている。
じゃあもう安心かと言われるとそんなことはなく。
やっぱりエルフだからって目を付けられて攻め込まれるなんてこともしょっちゅうだ。
じりじりと攻め込まれ、変な塔主にも目をつけられ、もうダメだって時に
噂の500期同盟の一つ【輝翼の塔】のフッツィルだ。
街で見かけた時はラッキーだと思ったし、その後のあいつの話に耳を傾ければいくらでもアドバイスが出て来る。
ああ、こんな人だからこそあの同盟はとんでもない戦果を挙げ続けているのか、天才っていうのはこういう人のことを言うのかと素直に思った。
……まぁ見るからに十歳とかそこいらなんだけど。天才児ってわけね。
それから何度か手紙を交換しアドバイスをもらっていたわけだけど、これがものすごく細かい。
魔物の配置一つとっても、どの魔物をどこに置き、どのタイミングで仕掛けさせるか、すっごく細かく指定される。
実際その通りにやると侵入者にダメージを与えられたり、時には討伐したりと結果が出て嬉しくもあったんだけど、すぐにお手紙が来て、なんで毎日位置を修正しないんだ、同じ場所で同じ事をやらせ続けるなと怒られる。
え……こういうのって毎日修正するものなの?
と驚いたわけだが、どうやらそういうものらしい。
それからはちょっとずつ動かしたりするようにしている。
で、そんなある日、フッツィルからお手紙で『会談の間』に来いと呼び出しがかかった。
あれほど会いたがらなかったヤツが珍しいと思いつつ、あたしは言われた時間に『会談の間』へと向かった。
部屋に入れば確かにフッツィルがローブ姿でいたんだけど、その隣には――
「ク、クラウディアさん!?」
Aランク【緑の塔】の大先輩エルフだ。なんでここに!?
驚くあたしに「いいから座れ」と促したのはフッツィルだ。すでに二人は座ってお茶をしていた。
「エレオノーラと会う前からクラウディアとはすでに会っていたのじゃ。お主と会ったこともその後のアドバイスについてもある程度は話しておる」
「聞いた時は驚いたぞ。お前がまさかフッツィル様に助言を頂いているとは……この件に関しては私からお前に連絡するのを禁じられていたので今まで手紙の一つも送れなかったのだがな」
混乱するあたしに二人はそんなことを言う。え? クラウディアさんに色々とバレてるの?
っていうか何でクラウディアさんはこいつにそんな
「はぁ……お前はこれだけお近くにいて何も感じないのか? どこまで愚鈍なのだ」
「ふっふっふ、それだけわしの変装が上手いということじゃろ。というかクラウディアとてヴィヴィアンがおらねば分からんかったろうに」
「そ、それは申し訳ないです。しかし今ならばその溢れる高貴な波動をこの目でも――」
「ああ、よいよい。そういうのはやめじゃ。普通に接しろと言っておるじゃろ」
「はい……申し訳ありません」
え? 何これどういうこと? フッツィルって偉い人なの?
でもどう見てもフードを被った怪しい子供にしか……。
「どうじゃ、これで分かるか?」
と、フッツィルは指を一本立てると、その指先を光らせた。
この光は……精霊? えっ、精霊を操るだなんて……まさか!
「あ、あ、あんた……ハ」
「そこまでじゃ。皆まで言うな。これでも一応隠しておるからのう」
「エレオノーラ、あんたとは何だあんたとは! この御方をどなたt」
「クラウディアも黙れ。接し方はそのままでよい。むしろ恐縮されると目立つし何も話せなくなるじゃろうが」
え? つまりフッツィルって……ハイエルフなの!?
いつの間に産まれてたの!? 里じゃ全然そんな話聞いてないんだけど!?
隠されてたの!? だから今も隠してるの!?
ハイエルフなんてエルフの中でも御伽話の存在だ。いや、エルフの中だからこそ神様みたいに扱われている。
そんな人がいるとも思わないし、塔主になってるとも思わないし、偶然会うなんて思うわけないじゃない!
……ああ、だからスーパールーキーだったってこと!? いやまぁハイエルフ様なら納得だけど……。
「エレオノーラよ、おぬしを呼んだのは【春風の塔】を大々的に修正する必要があると思ったからじゃ。手紙でチマチマ助言しても改善はほど遠いからのう」
「は、はぁ……」
「そして会って話すとなればクラウディアに話を通さんわけにはいかん。わしの正体をバラしたのも、おぬしとクラウディアの間に齟齬がないようにというわけじゃ」
「お心遣い感謝いたします」
「クラウディア、おぬしはもう少し楽に話せんのか」
「これでもだいぶ崩しているのですが……人前ではこのようなことのないよう気を付けますので」
「人前だったらわしの方が無視するわい」
えっと、つまり……あたしの塔の修正と改善のためにハイエルフ様のフッツィルとクラウディアさんが助けてくれるってこと?
うわわ、頭痛くなってきたわ……。
「まずはこれを見てみい」
そう言ってフッツィルは机に紙を広げる。
「これ、あたしの塔の地図じゃない! ……ですか!」
「普通に喋れといっておる。今までどおりで構わん。クラウディアも変に遮るでないぞ」
「はい、分かりました」
いやまぁじゃあ口調に関しては許してもらうとして、ってそうじゃないでしょ! なんでこんな詳細な地図もってんのよ!
そんな心の叫びを無視してフッツィルとクラウディアさんは地図を見る。
「クラウディア、どう見る」
「なるほど、フッツィル様が大々的に修正が必要と仰る意味がよく分かります。私を呼んだ理由も」
「ど、どういうことです?」
「今日一日でやれるだけはやるが到底完成はしないということじゃ。わしはこうして会うことの方が稀じゃがクラウディアならばわしよりは頻繁に会えるじゃろう」
「つまり私がエレオノーラの指導を引き継ぐということだ」
「えええええっ!?」
ク、クラウディアさんがあたしの指導!? 恐れ多いんですけど!
……い、いや、フッツィルの方が恐れ多いのか? もうよく分かんないよ!
「放り投げるつもりはないぞ。ただ直接教える時の為にクラウディアが必要というだけじゃ」
「は、はい、すみません……」
もうなんか謝ることしかできないんだけど。
「で、クラウディア、【春風の塔】の一番の問題点はどこじゃと思う」
「端的に言えば難易度が異常に低い、ということでしょうか。魔物や罠の配置も甘いですし、そもそも順路が分かりやすい。おそらく侵入者も毎回同じルートを通っているのでは」
「そうじゃな。その結果、四階層の奥まで攻め込まれるし、順路外の魔物や罠がことごとく無駄になっておる。じゃが一番の問題はその侵入者の動きに気付いていないエレオノーラじゃ」
あ、あたし!? い、いや気付いてますって! いつも同じとこ通ってくるなーとかちょっとは思ってますし!
でも無駄とかどうこうはあんまり考えてないですけど……。
「もし気付いていながら放置していたとなれば修正力が皆無ということじゃからそっちの方が問題じゃな。生きたいのか死にたいのかよく分からん」
「す、すみません……」
「じゃから儂はもうルート固定型の塔にしたほうがよいのではないかと思う」
ルート固定型? えっと、つまり侵入者にルートを選ばせないってこと?
一本道ってことかしら……連続小部屋みたいな。
「フッツィル様、【春風】の強みは屋外構成と風属性です。一本道にしてしまうと広くはとれませんし、その強みを消してしまうのでは?」
「そうじゃな。じゃから侵入者は一本道、魔物は自由に行き来できる、というのが望ましい」
「……なるほど『迷いの森』ですか」
迷いの森? 森で迷路を創るってこと?
「正しくは『迷わない迷いの森』じゃな。魔物は小さいやつを上下左右から襲わせる感じで」
「それならば低ランクの魔物が活きそうですね」
「罠もその強襲に合わせれば無駄とはならぬ。攻め込ませるにも時間をかけさせる。一石何鳥か分からんが得るものは多いはずじゃ」
「素晴らしい策かと」
……なんかもうあたしの分からないところで話が進んでるんだけど。
「これの問題は斥候と盾役が揃っているパーティーに弱いということじゃな。まぁEランクであればそうそう居ないじゃろうが」
「二階層以降はどうしますか? まさか四階層まで全て『迷いの森』というわけにも」
「コンセプトは変えん。あくまで″エレオノーラでも管理できる″というのが大前提じゃ。つまり二階層は――」
……ホントすみません。色々考えてもらっちゃって。情けないですあたし。
……でもこんな塔構成、あたしにちゃんと創れるのかなぁ……。
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