166:聖の塔と反逆の塔がバチバチです!



■アレサンドロ・スリッツィア 63歳

■第472期 Sランク【聖の塔】塔主



 【反逆の塔】による【純潔の塔】の敗北。

 長年バベルの塔主をしているが、これほど頭を悩ませる事件というのも珍しい。


 これは単に『獣人の手により我が同盟の一塔が消された』というだけでは済まないのだ。



 第一に【純潔の塔】が気高き七美徳ヴァーチュの一塔であるということ。


 創界教の立場で見れば、六元素エレメンツである私の【聖の塔】よりも一つ価値が上となる。

 神聖の象徴でもある天使を使役する。その中でも七美徳ヴァーチュの大天使というのは別格なのだ。



 第二に【翡翠の聖女】ミュシファの存在だ。


 聖典にも残るほどの真の聖女。その名は創界教だけに留まらず世界に広く知られている。

 見目も良く、民からの信も厚い。これもまた象徴的な存在だった。



 第三にそれらがよりによって亜人の手によって斃されたこと。


 それも通常の塔主戦争バトルではありえない、塔主自らが直接手を下すという形で。

 これが我が同盟の誰かから漏れる可能性は低いが、【反逆】の同盟から世間に広まることもありうる。



 それを受けて民衆はどう思うか。

 聖女が殺されたことを嘆くか、亜人の謀反を称えるか。いずれにせよ大きな騒ぎになるであろう。


 特にこのバベリオは人間に限らず亜人も同居を認めている街だ。

 種族がどうであれ、塔と塔との戦いであれば勝者が称賛されるものという常識が植え付けられている。

 すでに三〇年ほど私も居るが、なんとも愚かな街だと毎度思う。



 ともかく此度の敗北は我々にとって、ひいては創界教にとって大きな痛手となった。

 これを払拭するには早々に【反逆の塔】とその一派を潰さなければならない。


 なんならCCCの三塔同盟と我が【聖の塔】一塔との塔主戦争バトルでもよい。

 その旨を書いて申請を出したが、答えは却下であった。まぁ当然と言えば当然なのだが。



「先日の様子から【反逆】がこちらを敵視しているのは確実です。それで受けないのはおそらくランク差のせいでしょうが、もう一つ″勝つ条件を満たせないから″というのもあるかもしれません」



 となりのシュレクトがそう言う。条件とは?



「【反逆】が勝てたのはあの奇怪な限定スキルのおかげです。そしてそれを使用するには条件があったはずです。僕はそれを″指示せずに攻め込ませることで塔主の能力を上げる″ものだと思っています」


「指示せずに攻め込ませる、か」


「あの時の【反逆】は様子がおかしかった。攻めも守りも魔物に遊ばせているだけ。わざと負けようとしているのかと思ったほどです」



 確かにな。攻撃陣はチマチマと牛歩のごとく。防衛陣も普段の侵入者に対するものと同じ。いやむしろそれより弱かったかもしれない。



「そうしてギリギリまで粘って限定スキルを発動。これにより塔主はSランクの大天使を一撃で斃せるほどの力を手にしたのです」


「単純なステータス上昇ではないだろうな。バフというレベルではない」


「はい。ですので僕の考える条件というのはこのようなものです」



① 魔物に指示を与えてはいけない

② 自塔に攻め込ませる必要がある

③ 一年に一度などの時間的使用制限がある

④ 命の危機を対価になどの使用制限がある



「①や②であれば分かりやすいです。あの時の状況がそのまま条件となるのですから」


「それだけで発動するならば攻め込まなければいいだけだな」


「そうです。しかし③が原因でこちらの申請を受け付けないということも考えられます」



 なるほど。そうなると向こうの条件が整わない限り塔主戦争バトルは行えないとなってしまう。

 こちらとしては早々に潰しておきたいのだがな。



「あとは④ですが、ギリギリまで攻め込ませたのが″自分の命の危険を増長させる為″だったとし、″それに見合う対価としてのバフ効果″という線も考えました」



 ラグエルに攻め込まれほとんど死んだも同じだったからな。

 死の間際という状況だったからその分反動で強くなったと。辻褄は合う。



「その他、単純に″寿命を削って強化する″なども考えられます。その場合は極端な使用回数制限となりますが」


「分かりやすく強力ではあるな。しかし、であるならば同盟トップの【聖の塔】を先に排除したいのではないか?」


「さすがにSランクは躊躇うでしょう。相手も十年以上塔主でいるのですから、その壁の高さは分かっているはずです」


「Cランクから見ればBランクが精々であったと」


「Aランクの【雷光の塔】とて無理でしょうね。Aランクに勝てるCランクなどどこかの【女帝】くらいしかおりませんでしょう」



 ふざけ半分でそう言うが、それもそれで腹立たしい。


 新米が徒党を組み、次々に下剋上を成し遂げているとそこまではいいのだが、その同盟には亜人もいる。

 アデル・ロージットは反貴族を唱え、種族差別反対などと宣っている。

 なんと愚かなことだとも思うが人気がありすぎる為、民衆の支持を得続けているというのがまた頭が痛い。


 やつらを神罰の対象にしようかと思っていた矢先に【純潔】の事件だ。

 全く上手くは回らないものだな。バベルの塔主というものは。



「シュレクトよ、其方ならばどう仕掛ける」


「僕ならばまず【払拭の塔】に申請させます」


「犠牲にしろと言うのか?」



 Bランクの【純潔の塔】が敗れたのだぞ? Cランクの【払拭の塔】では首を差し出すようなものではないか。



「まず申請を受けるかどうかで使用条件を見極めます。そして塔主戦争バトルとなればその様子でもまた見られるでしょう。どういったスキルなのかを調べるのが先決ですから」


「はぁ、【払拭の塔】を勝たせるという策は?」


「もちろんお渡しします。それで対処出来ればよし。出来なければ……」


「ブロゥワ司祭には神罰の生贄になってもらう、か。なんと勿体ない」



 全く、好きに塔主戦争バトルが出来ればいいのだがバベルには色々と不都合なことが多い。

 勝つまでの手順が掛かりすぎるのだ。

 結果、遠回りもするし犠牲も出る、と。


 本当にままならないものだな。バベルの塔主というものは。





■ダンザーク 33歳 狼獣人

■第490期 Cランク【反逆の塔】塔主



「来たぞ。【払拭の塔】から申請だ」


『うわぁ……』



 俺が【純潔の塔】を斃してからすぐ、【聖の塔】からの申請が来た。

 すぐにでも飛びつきたいところだったがグッと堪えた。


 さすがにSランクの塔だと俺の<反撃の狼煙>がどれほど効くのか分からない。

 おそらく【大軍師】シュレクト・ササーの手によって馬鹿げた難易度の塔構成になっているだろうからな。


 斃すにしても下から。Cランクから順々に斃し、最終的には【聖の塔】を斃す。そのつもりでいる。


 その申請は却下したが、それから定期的に【聖の塔】から申請は続いた。しつこいほどに。

 焦っているのが丸わかりだ。そりゃそうだろうがな。


 待って、待って、やっと来たのが同盟最下位Cランクの【払拭の塔】というわけだ。



『どうする? 受けるのか?』


「……まだ我慢だ」



 ここへ来て【払拭の塔】からいきなり申請だなんてどう見てもおかしい。何かしらの理由がある。

 おそらく<反撃の狼煙>の対抗策を準備しているはずだ。【大軍師】の指示を受けて。


 それは何か。思惑はどこか。こっちも色々と考えなきゃいけねえ。

 早々に受けず焦らしまくるってのも手だ。こちらのほうが時間的猶予はある。


 まぁいずれにせよ戦うのは決まっているんだがな。


 それがいつかは俺が決める。主導権は握らせねえぜ? 創界教さんよ。



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