321:その後の周りの反応です!



■セリオ・ヒッツベル 24歳

■第499期 Cランク【審判の塔】塔主



『神様通信

 本日行われた塔主戦争バトルにて【赤の塔】が勝利!

 【黄神石の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』



「また何をやっているのだ、あの同盟は……」



 二月ほど前には【輝翼の塔】が【人形の塔】を斃した。ここはいい。Cランク同士だが順当な結果だろう。

 そのすぐ後に【忍耐の塔】が【竜翼の塔】を斃した。ここでまず「はあ?」となる。


 【竜翼】は497期のトップを独走し続けていた五竜王ドラゴニアの一塔だ。

 Cランクでもトップクラスには間違いないだろう。

 塔主はスルーツワイデの伯爵令嬢、ジュリエット・ローゼンダーツ。豊富な資金援助があったのも間違いない。


 その【竜翼】が斃された。相手は【忍耐】。【彩糸の組紐ブライトブレイド】の三番手だ。


 確かに連戦連勝で下剋上を為している【彩糸の組紐ブライトブレイド】だが、それでも【忍耐】が【竜翼】を破るというのは予想外すぎるしインパクトも大きい。



「【忍耐】がウリエル以外の固有魔物を持っているという証明ですね」



 ルサールカミリアがそういうのも間違いないだろう。天使だけでは竜に勝てないからな。

 おそらく【忍耐】はウリエル以外の固有魔物、それも攻撃として使える魔物を持っている。

 だからこそ申請を受け、その上で勝利したに違いない。



 それから新年祭を経て、今度は【女帝の塔】が【影の塔】を斃した。

 こちらは紛れもなくBランクトップクラスだ。

 塔主はバラージ王国公爵令嬢、サミュエ・シェール。貴族令嬢としての格ならば【竜翼】以上だな。


 Bランクに上がったばかりで二年目の【女帝】が十六年目の【影】を斃すというのは下剋上でもあるし立派な偉業でもある。

 ところがこれが大ニュースとはならなかった。


 ランクアップ直後に【轟雷】同盟を【女帝】単体で落としたので、そのほうがインパクトが大きかったというのもある。

 もしくは【女帝】の下剋上に世間が慣れ過ぎたのか。僕自身、毒されている感は否めない。



 そしてその直後に起きたのが【赤の塔】が【黄神石の塔】を斃したというニュース。

 これが世間でどのような反応をされるかはまだ分からない。


 おそらくその真意より、【女帝】【赤】の連続勝利ということばかりが注目されるのではないかと予想する。

 去年もこの時期に同盟五連戦をしたしな。あれほどのインパクトはなくても話題に上るのは間違いない。



 あとは、また『反貴族主義による貴族討伐』とかは言われるだろうな。

 【竜翼】【影】【黄神石】はどこも大物の貴族令嬢が塔主だ。それこそバベリオの街でも有名なほどに。


 それがまとめて斃されたのだから【彩糸の組紐ブライトブレイド】の人気はまた上がることだろう。まぁ彼女たちが狙ったものではないだろうが。



 今回の塔主戦争バトルはどれも申請を受けて返り討ちにしたものだと思われる。

 おそらく【彩糸の組紐ブライトブレイド】側から申請したものではないと。

 反貴族を謳っていたが故に目の敵にされ、その結果戦うはめになったに違いない。


 なぜなら彼女たちに明確なメリットがないからな。彼女たちからすれば下剋上と呼ぶには敵のランクも低いし、そもそも【女帝】も【赤】もランクアップ直後で塔は不安定なままだろう。


 喧嘩を売られたから買っただけ。その程度の考えに違いない。

 彼女たちから狙うとすれば、【節制】同盟あたりになるのではないかと思われる。【聖】同盟はどうあがいても勝てないだろうしな。



 話を戻すが、【赤】が【黄神石】を破ったことについてだ。正直、これは偉業だと思う。立派な下剋上だと。

 【女帝】が【影】を破ったことについては順当だなと思うが、【赤】が【黄神石】に勝つのは順当とは言えない。



「ジータにとっても戦いにくい相手のはずですしね」


「アダマンタイトの剣でアダマンタイトの魔物を相手にはしたくないだろうな。いくらジータでも」


「となると魔法ですか」


「それだけでも不安が残る。【黄神石】にしても当然魔法のケアをしているだろうしな」



 【黄神石】のオーレリアからすれば、物理防御には絶対の自信があり、その上で魔法に対しても何かしらの手があっただろう。だからこそ【赤】を狙ったはずだ。

 【赤】の危険要素は火属性とジータ。そんなのは誰にでも分かることなのだから。


 逆に【赤】のアデルからすれば【黄神石】の防御力をどうにかできる自信がなければ、そもそも塔主戦争バトルは成り立たない。却下の一択だろう。


 つまり、どうにか出来る方法を持っているということだ。それが何かは分からないが……。



「【赤】の限定スキルは……おそらく違いますよね」


「可能性はある。ジータや自軍の魔物に対するバフとかな」



 新年祭の【狂乱】事件をどう見るかが重要だ。

 ゼーレの接触を防いだのがジータとメイド。そして限定スキルに関して声を上げたのが【赤】のアデル。


 まずゼーレが接触型の限定スキルを【女帝】に施そうとしたのは間違いない。

 それをどうやってメイドとジータは察知し防いだのか。


 単純に考えるならば【女帝】か【赤】が察知型か防御型の限定スキルを持っている。それを眷属に付与したか、眷属伝達して阻止させたか。



 ただミリアはこうも言うのだ。


「あのメイドならば常に周囲を警戒し、近づいてくるゼーレの背後をとるなど容易いですよ」と。


 僕には全く理解できないし、メイドの動きも目に追えなかったのだが、ミリア的にはそういう結論らしい。


 ならばジータが防いだのはどうなのかと。

 ジータならば防いで当然と見るべきなのか、それとも【赤】の限定スキルによるバフなどが付与されていたのか、だから防げたのか、と考えさせられるのだ。


 もしジータの″素″の能力で防いだのであれば、【赤】は別の限定スキルを持っている。

 持っていないということはないだろう。それは直後のアデルの言葉が否定している。ゼーレが限定スキルを使おうとしたと言っているからな。


 であればそれはどのような限定スキルなのか……何の確証も持てない。


 しかし仮にアデルがバフ型の限定スキルを持っていて、それをジータに付与していた場合。それならばゼーレの襲撃に咄嗟に反応したのも頷けるし、今回の塔主戦争バトルで【黄神石】の防御力を破った原因にもつながると思うのだ。



「随分と都合のよい予想ですね」


「こじつけているのは認める」



 だが限定スキル以外に何かしら自信の根拠となるものがなければ、そもそも申請は受理しないし、それが何かと考えても答えは出ない。

 であるならば『【赤】は対抗するための限定スキルを持っている』としたほうが分かりやすいのだ。


 しかし……【女帝】にしても【赤】にしても二年目にして限定スキルとは恐れ入る。

 それだけの戦果を挙げているのは間違いないが、その戦果を挙げるほどの戦いをして生き残っていることが異常極まりない。


 僕もいずれは限定スキルを手にしたいものだが……まぁしばらくは先の話だな。

 凡人は凡人らしく、じっくり塔運営をするしかないのだ。



「そんなことよりもシフォン様のお手紙はよろしいのですか?」


「おおそうだ! 連中のことなどどうでもいい! 伯母上のほうが重要だ!」



 なぜ選りにも選って伯母上が新塔主に選ばれるのだ!

 グリンラッド王国から出すにしてもいくらでも人選は出来ただろう! なのになぜ伯母上なのだ、神よ!


 伯母上は僕が幼少の頃から世話になっていたお人だ。

 誰よりも優しく緩やかで、その雰囲気は春の陽気を思わせるほど柔らかい。

 僕が塔主となってからも心配して手紙を送ってくれていた。


 そんな伯母上が502期の新塔主だと? できるわけないだろう!


 下手すれば侵入者を斃すことすら躊躇うかもしれん! いや恐らく躊躇うに違いない! そうなれば易々と攻略され殺されるだけだ!

 プレオープンなど何十回殺されるかも分からん! 死ぬより辛い目に会い精神が破壊されてしまうぞ!


 とにかく早くバベリオに呼び出さなくては……!

 僕の持っている知識を総動員して伯母上に叩きこむ! 完璧にレクチャーした上で内定式に挑ませなければ……!





■レイチェル・サンデボン 71歳

■第450期 Sランク【世界の塔】塔主



「どうやら勝てたようですよ」


「そうですか。それは何よりです。アドバイスなさった甲斐がありましたね」



 シャルロットさんにしては珍しく急ぎでアドバイスを欲しいということでしたからね。

 まぁシャルロットさんというよりアデルさんが焦っていたわけですが。


 おそらくアデルさんであれば時間さえあれば【黄神石の塔】を斃すための策を用意できたでしょう。

 しかし急ぐ必要があった。受理しないという選択肢が持てなかった。



 間違いなくシャルロットさんが原因ですね。

 【女帝の塔】はBランクに上がって早々に【轟雷】同盟を単独で斃すという快挙を成し遂げました。そして今度は【影の塔】を斃すと。


 これに焦らないアデルさんではないでしょう。身近であるが故に、シャルロットさんには負けられないと思っているはずです。


 それは一歩間違えれば慢心に繋がるのですが、そういった存在こそシャルロットさんに必要なものですからね。私は応援を惜しみません。



 なんとかアデルさんに勝って頂くために、私の知識をお貸ししましたが、それが実ったようで何より。

 まぁ私のアドバイスなど基本的なもので、誰にでも思いつくことばかりですけどね。もしかしたら全く別の方法で戦ったのかもしれないですし。それならばそれでいいのですが。



 アデルさんはおそらく硬い敵との戦闘経験が乏しかったのでしょうね。

 今までの敵と同じようにとはいかず、【英雄】ジータの剣では斬り伏せないかもしれない。それが不安に感じたのでしょう。

 まぁジータさんが斬れない相手のほうが珍しいですからね。力を持つが故の悩みです。


 とはいえ【黄神石の塔】にアダマンタイトの外殻を持つ魔物など、いても十体というところでしょう。

 一度に十体全てと戦うわけがありませんし、それが全てジータさんを上回る技量を持っているはずもないですしね。

 やろうと思えばいくらでもやりようはある、というわけです。



 バベルの塔主戦争バトルは個の力に着目されがちですが、まず考えるべきは塔と塔の戦いであるということ。


 部隊と部隊、軍と軍というものがあり、その中の一つの要素として個と個があるわけです。


 なにもジータさんお一人で戦うわけでもありませんし、ジータさんが敵わない相手であれば部隊でどうにかしようと考えればいいだけですから。何も難しいことはありません。



 しかしアデルさんはジータさんに依存していると。それはエメリーさんに依存しているシャルロットさんがいるから余計にそうなのでしょうがね。

 今後の戦いを見据えるならば、部隊として軍として塔として、どう動かすかを考えなくてはいけませんね。


 まぁそこまでお節介は焼けませんので、私としては期待するしかできません。

 また何かしらお教えできる機会があればその時に少しずつお話しましょう。


 本当は焦らないで欲しいものですが……シャルロットさんが走るのを止めませんからね……困ったものです。


 若者が生き急ぐのを見ているのは辛いのですよ。心臓に悪いですから。

 少しは落ち着いてくれませんかね? 年寄りは心からそう願います。




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