320:赤の塔vs黄神石の塔、決着です!



■ジータ・デロイト

■【赤の塔】塔主アデルの神定英雄サンクリオ



 【黄神石の塔】十四階層。いよいよ最終決戦だ。

 とりあえず挨拶代わりにクリスタルゴーレム(A)を斃してみたが……なるほどこの剣は反則だな。


 【傲慢】同盟戦でもエメリーの姉ちゃんから魔竜短剣を借りたが、あの時は<風魔法>を使っただけ。剣として使ってみたわけじゃねえ。

 だが今回はちゃんと剣として使わせてもらう。だから俺の特大剣に合わせるように魔竜大剣を借りたわけだ。


 俺の特大剣とサイズこそ変わらないが、かなり軽い。扱いが全く変わっちまうんで俺も事前に素振りをしておいた。こんなもん本番でいきなり使えるもんじゃねえからな。


 で、実際に斬りつけてみりゃあいつも以上に威力が出ると。俺の常識で測れる武器じゃねえってこったな。

 そりゃあエメリーの姉ちゃんがあれだけスパスパ斬れるわけだぜ。



 クリスタルゴーレム(A)の周りのミスリルゴーレム(B)には適当に斬りつけておいて、あとはオルトロス(A)部隊とリザードキング(A)部隊に任せる。俺はさらに前に出た。


 空のガーゴイル(B)どもが邪魔だったから剣を横薙ぎにして<炎の破城矢フレイムバリスタ>を発動。舞い上がる雨のごとく炎の矢がガーゴイルたちを襲うが……まぁ邪魔くらいしかできねえな。

 空はパタパタたちに任せた。地面に落としてくれるようなら俺が斬ればいいだろう。



「全軍前に詰めろ! ジータを潰せ!」



 ランスロットとかいうヤツの声が響く。さすがに俺の事は放っておけないらしい。そりゃそうだ。

 中央にはデカイ爪の地竜。その両脇にロイヤルナイト(A)の部隊が並んでいやがる。

 ランスロットは地竜の後ろだな。そこに本陣と言うべき小隊が一つあった。


 俺は騎士たちを無視して地竜に突貫。そこに振りかぶるようにした爪が襲い掛かって来る。


 ガツン! といかにも重そうな音を立てつつ、俺は膂力でもって受け流した。

 その流れで地竜の顔面へと滑り込み――横一閃、地竜の両目を斬り割いた。



「ギュアアァァァアアア!!!」



 ったく、本当にとんでもない剣だな。相当硬いであろう地竜の外殻が何の役にも立たねえ。

 斬った俺もまさか両目が一気に斬れるほどとは思わなかった。まぁ斬れたなら良しだ。これで地竜はろくに戦えねえだろう。


 そのまま俺は地竜の顔面を蹴って跳ねる。身体を左側に向け、再度横薙ぎ。



「<炎の破城矢フレイムバリスタ>!」



 足止めにしかならねえけどな。とりあえず左の部隊は後回しだ。

 そして俺は右のロイヤルナイト(A)部隊に突貫。

 最前衛のガードナイト(C)を紙くずのように吹き飛ばし、続くジェネラルナイト(B)も一撃で薙ぎ倒していく。


 自分でもよく動くもんだと思うほどだ。完全に温まっているな。高揚して自分で笑ってるのが分かる。


 目の前の敵に集中しているのに階層中の敵味方の動きが分かるような感覚。これだから乱戦はやめられねえ。


 まぁこの剣のおかげもあるけどな。

 明らかに硬いヤツをこれだけ気持ちよく斬れるんだ。ハイになるのも仕方ねえだろ。



 右側のロイヤルナイト二部隊を潰すのにそんな時間は掛かってねぇと思う。まだ地竜は暴れているし、左側のロイヤルナイト部隊も迫って来てねえ。

 だから俺は最奥の部隊を狙った。ランスロットが率いる敵本陣だ。



「くっ……! 潰せ! ジータを足止めしろ!」



 出来る訳ねえだろ、ガードナイトごときでよ。今までの戦いを見てなかったのか、ランスロット?


 こりゃ相当混乱してやがるな。まぁそりゃそうだろうよ。ご自慢の防御力が何の意味も為さねえんだからな。

 俺にここまでの攻撃力があるだなんて思えねえはずだ。俺だってビックリしてんだからよ。


 しかしまぁ同情するほど俺は落ちぶれちゃいねえ。戦場に情けは無用だ。

 今もこっちの魔物は必至こいて戦ってんだからよ、俺は俺で仕事するだけだ。


 指揮官の首をとるのは俺しかいねえんだからな――そら行くぞ!!





■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



「パタパタ、ミスリルゴーレムはオルトロスたちに任せて、貴女たちはガーゴイルを狙いなさい。崩すのを目的に。落とせれば尚良しです」


『かしこまりました!』


「クルックー、貴方は回復とジータの補助ですよ。そこからでも<火魔法>は届くでしょう。左のロイヤルナイト部隊の足止めをしなさい」


『クルゥ!』



 本当に困った騎士団長様ですわね。指揮も放り出し、本隊を置き去りにして一人で突貫など。

 おかげでわたくしやパタパタたちが指揮をしなくてはなりません……帰ってきたらお仕置きですわね。


 ともあれジータのおかげで向こうの戦線が崩壊しているのも事実。

 下手に本隊を前進させるよりジータ一人で戦わせたほうが今はいいでしょう。ヘイトも稼げますしね。



 しかしあの剣はすごいですわね。エメリーさんほどの力がないジータでも、あれだけの攻撃力が出るのですか。

 ずっと借りていたい気持ちにもなりますが……まぁ持っておくには怖い武器でもありますわね。


 禁忌の魔法を常用しているようなものです。日常的に持ち歩けるのは常識の通じないエメリーさんくらいのものでしょう。

 その上、魔剣とかいう上位存在まで持っているのですから最早感覚がおかしくなってきますがね……。



『いい加減にしろ、ジータ! 貴様はここで止める!』


『やれるわけねえだろ、ランスロット! てめえのアダマンタイトなんか意味ねえんだよ!』



 おっと、もう指揮官同士の戦いが始まりましたか。……しかしジータのほうが悪人に見えますわね。相手が騎士っぽい騎士なので仕方ありません。ジータが粗暴なのは元からですし。


 ランスロットは全身をアダマンタイトの鎧で固めた純騎士という感じ。直剣と中盾ですわね。

 盾はどうやら神授宝具アーティファクトではないようです。鎧とセットに見えますし。


 アダマンタイトであれだけの鎧や盾を作るというのはドワーフ鍛冶師のスマイリーさんでも無理でしょう。今の世で作れる装備ではありません。

 それだけでもランスロットという魔物には価値がありますわね。益々自陣に欲しくなりますわ。



 戦闘のほうはわたくしの素人目で見ても、ジータの剣技のほうが圧倒しているように見えます。


 ランスロットも思っていた以上によく動きます。見た目に反して軽快で機敏。それでいてアダマンタイトの攻撃力と防御力を持っているのですから反則的だとは思います。

 しかし今はジータの力と剣技が上回っている。剣のおかげもあるとは思いますが。


 ランスロットもよく粘ってはいたと思います。少なくともロイヤルナイトの十倍は粘っていました。

 ですが今のジータは止められません。

 攻めたところで直剣をかち上げられ、強引に切り返したジータの魔竜大剣は、確かにランスロットの首を捉えました。



 それで終わりです。指揮官を喪った敵の軍勢はただの烏合の衆です。

 少なくとも自由になったジータを止めることなどできません。あとは掃討するのみです。



 そうして最上階へと階段を上がります。

 正面に見える玉座にはオーレリアが盾に隠れるように座っていました。あれが神授宝具アーティファクトですわね。



『――ふざけるんじゃありませんわ! わたくしの軍をよくも! アデル・ロージットなど貴族の恥! こんな輩に負けるなどあってはなりません! 許されませんわよ! ミッドガルド王国が黙っては――』


「五月蠅いですわね。クルックー、さっさと宝珠オーブを割りなさい」


『クルゥ!』



 盾で我が身を守るのならば宝珠オーブごと隠せばいいものを。

 まぁそのようなことが分からなくなるほど混乱していらっしゃったのでしょう。

 同情はしませんわよ? これはバベルの塔主戦争バトルなのですから。



『は~~いしゅ~~りょ~~! 【赤の塔】の勝ち~~!』



 ではごきげんよう、オーレリア様。

 ミッドガルド王国にはちゃんと報復して下さるようよろしくお伝え下さいませ。





 最上階の接収が終わり、攻撃陣が帰還しました。やはり最新式のマジックバッグを買って正解でしたわね。


 オーレリアは噂に違わず貴族らしい裕福な暮らしをしていたようで、色々と潤いましたわ。

 さすがブルグリード領は鉱山の街ですわね。宝石なども多いこと多いこと。少しノノアさんの所の宝箱用に寄付しましょう。



「それでランスロットは眷属化するのか?」


「そうですわね。わたくしとしてはしたほうがいいと思っておりますが、ジータはどう思います?」


「俺も賛成だな。役割的には俺と被るが同時に使ってもどっちかが総指揮でどっちかが前衛指揮になれる。単純に攻撃と防衛で分けたっていいしな」



 双方共に前衛の剣士。物理攻撃のみ。そして指揮ができると。

 ただ攻め気が強いジータに反してランスロットは守りがメインでしょうからね。使い分けはできるでしょう。



「ですわよね。わたくしもそう思います。力量的には?」


「問題なし。まぁ戦闘訓練は必要だがな。俺の訓練にもなるから一石二鳥だ」


「あなたのおもちゃにするつもりはありませんわよ。それと模擬戦なら模擬剣を使うように。『訓練の間』には連れていけませんからね」


「はぁ~~まぁそうだよなぁ……そこは妥協するしかねえか」



 眷属化はしますが外に連れ歩くのは躊躇われますわね。あまり手の内は見せたくありませんから。

『訓練の間』でしたら死んでも復活するので真剣勝負もできますが、【赤の塔】での訓練では無理ですからね。死なれたら困ります。


 ただまぁ魔物も訓練次第で強くなるというのは証明されておりますし――シャルロットさんの所が顕著なのですが――ジータが鍛えるということに異論はありません。是非ともお願いしたいですわ。



「これで眷属枠は残り一つか」


「一応【赤竜メテオノーラ(★S)】のために空けておりますけれどね。仮にも【赤の塔】の固有魔物ですし」


「ただ置き場に困る、と」



 おそらく大型の飛竜でしょうからね。【赤の塔】にも連結階層はありますが、大型飛竜が飛び回れるほどではないですし、防衛にしか使えない竜にTPを掛けるというのも少し躊躇われるのですよ。


 そういった理由でずっと後回しになっている現状なのですがね。

 今回もランスロットを優先して眷属化させますので、また後回しになるのですが。



「ヴァナラとかいう猿は? あれもなかなか良いと思うぜ」


「欲しいですわね。猿部隊をまとめて″森″に配置すべきでしょう。眷属化はしませんが」



 それでまた赤竜の召喚が後回しになると……何とも悩ましいものですわ。塔主というものは。



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