319:赤の軍勢はどんどん攻め込んでいきます!



■オーレリア・ブルグリード 43歳

■第488期 Bランク【黄神石の塔】



「なっ……! なぜヴァナラのほうに……!」



 十三階層へと到達した敵攻撃陣の動きに明らかな異変が生じました。

 対面にある十四階層への階段を目指し森の中を直進してくると思っていたのに、右端の壁に向かって進軍し始めたのです。


 向かう先にいるのは、本来十三階層の最終地点に配置している聖猿皇ヴァナラ(★S)の猿部隊。


 今まで一度たりとも順路を違えることのなかった敵攻撃陣がなぜ……。

 と考えた時、思い当たるのは一つしかありません。



「今も覗かれています! ランスロット、警戒を!」


「ッ……! そこかあッ!!!」



 ランスロットが斬りつけたのはわたくしたちの背後、その一角。

 わたくしにはどこに何がいるのかは分かりませんでしたが、ランスロットが斬りつけるのと同時に、小さい火の粉のようなものが飛び出したのが微かに分かりました。


 その火の粉は見た目にそぐわない速度で十四階層への階段へと向かって行きます。あれではランスロットも追いつけません。



「くっ……! 申し訳ありませんでした、オーレリア様。一向に気付けずにいるとは……なんと不甲斐ない」


「あれは魔物ですか? 諜報型限定スキルではなく?」


「おそらく魔物、それも【赤】の固有魔物かと思います。限定スキルが絡んでいるのかは分かりませんが」



 あれほど小さな魔物がいるとは……いえ、もしかすると眷属を小さくさせるような限定スキルかもしれません。

 できれば十四階層にいるモールドラゴン(★A)に迎撃させたいところですが、あの速度では無理でしょうか……。


 そう思いつつ画面を見ますと――



「!? 炎の鳥……! あれが正体ですか!」


「やはり固有魔物で間違いありません。つまり【赤】は二体とも固有魔物を投入してきていたと」



 十四階層へと下りた火の粉は、あっという間にその姿を変えました。大型の鳥の姿へと。

 そしてそのままモールドラゴンやロイヤルナイト部隊の上を通り過ぎ、十三階層へと飛んでいったのです。



「ヴァナラ! 十四階層から敵固有魔物の炎の鳥が向かっています! 敵攻撃陣に合流するつもりです! 注意なさい!」


『ヴォ』



 くそっ……! アデル・ロージットめ一体いつからあの固有魔物を潜ませていたのか……小癪な真似を。

 わたくしの背後から覗いていたのならば画面も見ていたということでしょう。ならば塔構成や魔物配置も分かるに決まっています。


 気付くのが遅すぎました。情報を与えすぎました。しかし――まだ終わっておりませんわよ。



「……ランスロット、何としても仕留めますよ。準備をしておきなさい」


「ハッ!」





■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



 気付かれましたか。これですぐに宝珠オーブを割るという手段はとれなくなりました。敵部隊を斃すしかないですわね。

 しかしよくぞここまで隠し通せたものです。クルックーには後で褒めてあげないといけませんわね。


 ランスロットにしても「どういう方法かは分からないが今も覗かれている」と分かってからクルックーを見つけるまでは相当な速さでした。


 おそらくは<気配感知>でしょうがエメリーさん程とは言わないまでも、集中すればクルックーに気付けるくらいの精度はあるということです。これは素晴らしい。やはり眷属に欲しいですわね。



「ジータ、クルックーがばれました。そちらに合流しますよ」


『あちゃあ、了解』


「クルックー、ジータたちと合流後は猿部隊に攻撃です。ただ敵の限定スキルで魔物にバフが入っているかもしれません。その際は回復に努めなさい」


『クルゥ!』


「パタパタも同様ですよ。魔法の扱いには気を付けるように。魔法部隊全体をまとめて下さい」


『かしこまりました』



 これでいいでしょう。森の中で猿と戦うというのは難しそうに思えますが、空の魔法部隊は厄介に違いありません。


 魔法自体が効かないか、跳ね返されるか、吸収されるか……あの限定スキルに何かしらの効果があるのは間違いありません。

 まぁそうなればルサールカ(A)はデバフを試したり、パタパタは<風魔法>で邪魔に努めたり、ブラッディウォーロックはバフに切り替えればいい。そこはパタパタにお任せします。


 前衛で猿と戦うのはジータとオルトロス(A)ですかね。犬も決して森で戦えないということはありませんから。

 回復も足りているので問題はないでしょう。


 ただ固有魔物のヴァナラというのだけは危険ですね。どのような能力を持っているのか分かりません。

 対するのはジータでしょうから、わたくしは全体を見つつ、なるべくジータに目を向けることにしましょう。





■ジータ・デロイト

■【赤の塔】塔主アデルの神定英雄サンクリオ



 猿には思っていた以上に苦しめられた。まぁもともと森が庭みたいなヤツらだからな。部隊で戦うのはキツすぎる。


 どうやら<黄神の加護>とかいう限定スキルは魔法耐性を上げるようなものだったらしい。

 想像していたものよりかはだいぶ弱くて助かったが、魔法部隊の攻撃がほとんど通らないと分かったんで、余計に苦労したって感じだ。


 まぁその分、バフやら回復やらがいつも以上に入るようになったがな。そこら辺はクルックーとパタパタの手腕だろう。上手い事魔法部隊を指揮したみたいだ。

 攻撃は無意味でもエイプウォーロック(B)の<土魔法>にはちゃんと魔法を返していたし、キラーエイプ(B)の足止めもできていた。



 問題は細身の大猿、ハヌマーン(A)。こいつは多少の<風魔法>も使う上<浮遊>で自分も浮きやがる。おまけに支給されてんのかアダマンタイトの棍で殴っても来る厄介な魔物だ。


 ルサールカの<重力魔法>が使えれば良かったんだけどな。残念ながら魔法は効かねえ。

 だからオルトロス(A)と俺で何とかしなきゃならなかった。まぁ物理防御が高いわけじゃねえから助かったが。



 さらに問題がヴァナラとかいう固有魔物。おそらくSランクだろう。

 こいつは一回り小さい猿だがローブと王笏みてえな豪華な杖を持っていやがった。


 まず動きが速すぎる。木の上じゃ無敵かと思うほどだ。

 攻撃自体は軽いんだが、どちらかと言えば魔法が多く、<風魔法><土魔法><神聖魔法>まで使ってきやがった。


 なるほど【黄神石】が専用の階層まで用意するわけだ。【黄神石】の魔物と毛色が違いすぎるし、そのくせ有能すぎる。


 何より猿部隊が<統率>されまくってるから尚の事たちが悪い。いいように連携されちまった。

 ただまぁ相手が悪かったな。どんなに速かろうがエメリーの姉ちゃんのほうが速いからよ。訓練様々だぜ。



 こっちにも被害は出た。八割方Cランクだが計十五体はやられたか。

 これで回復要員がいなかったらおそらくもっとやられていただろう。

 主がこの猿どもを召喚するようなら「森階層を創れ」って言わねえとダメだな。それくらい森の猿は怖えってこった。



 さて、気を取り直して俺たちは十四階層へと向かう。

 面子はもう割れている。


=====


 ランスロット(★S)1、地竜(おそらく★A)1

 ロイヤルナイト(A)5、ジェネラルナイト(B)15、ガードナイト(C)40

 アダマントゴーレム(S)3、クリスタルゴーレム(A)10、ミスリルゴーレム(B)30

 ミスリルガーゴイル(A)5、ガーゴイル(B)20


=====


 Sが4、Aが21、Bが65、Cが40。計130体。

 最初にゴーレム部隊と戦い、中ほどで地竜がやって来る。その側面をつくようにしてナイト部隊、上にはガーゴイル部隊だな。


 おそらくランスロットはナイト部隊の指揮官として地竜と共に戦う感じになるだろう。



 一方こっちは攻撃魔法が使えねえし、あの硬い連中と正面から戦うとなれば俺くらいしかいねえ。ブラッディナイトやオルトロスたちにも戦わせるけどな。そいつらはBランク相手がせいぜいだろうし。



『パタパタ、バフと行動阻害は任せますよ』


「はい!」


『クルックーもバフと回復です。味方を守りなさい』


「クルゥ!」


『ジータは全力で屠りなさい』


「ハハッ! 物騒な命令だな! まぁ全力でいかせてもらうぜ! 前は任せろ!」



 そうして十四階層での戦いが始まった。

 そこでようやく俺は、自慢の特大剣を背中の鞘に仕舞う。


 マジックバッグから取り出したのは――魔竜大剣。


 さあ、やっと出番だ。存分に使わせてもらうぜ!





■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



 アダマンタイトほどの硬さを持つ敵に対して、こちらの攻撃手段が乏しい。それは最初から分かっていました。

 ですのでレイチェル様やクラウディアさんにお聞きする以前に、同盟の皆さんに相談していたのです。どうしたものかと。



『んなもんエメリーさんの武器借りるしかないやろ。スフィーが借りてた特大剣があるやん』


「しかしあまりお借りして良いものではないでしょう? あれは敵が敵だからお借りしていたわけですし」


『今回もそんな敵なんじゃないですか? ねえ、エメリーさん』


『そうですね。あれで良ければお貸ししましょう。先にお渡ししておいたほうがいいでしょうね。ジータ様も振っておきたいでしょうし』



 そんなお言葉に甘え、結局その日にお借りすることにしたのです。それを入れる用のマジックバッグも用意しましたわ。

 ジータはそれから嬉々と振っていましたわね。おもちゃを与えられた子供のように。


 とは言え、こんな異世界産の武器をそう簡単にお見せするわけにもいきません。警戒されてどのような手をとられるかも分かりませんからね。


 ですので十二階層までは全体指揮。十三階層では自分の剣で戦ってもらい、十四階層でやっと出せると、そういうわけです。



 ジータはやっと暴れられるとばかりに最前衛に行きました。もう全体指揮は無理ですわね。

 そのまま一人でゴーレム部隊に突貫。まずは手始めとばかりにクリスタルゴーレムに仕掛けました。


 ……まぁ一撃で終わりですわね。仮にもAランク。ゴーレム部隊の指揮官ですのに。



『うひょお、すげえ! こんだけ軽いのにとんでもねえ威力が出やがる! クリスタルゴーレム一発かよ!』



 五月蠅いですわね。黙らせますか。

 と言いますかクリスタルゴーレムは胸部がひび割れて倒れているだけですわ。さっさとトドメを刺しなさい。

 エメリーさんじゃないんですから。一刀両断とかジータにできるわけないでしょうに。



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