119:第二回、世界×女帝お茶会です!



■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



「お待ちしておりました、レイチェル様」


「ありがとうエメリーさん」



 前回と同じように『会談の間』でお待ちして、エメリーさんが扉を開けました。

 私はと言えばあの時とは比べられないほどリラックスしています。もう緊張はないですね。



「レイチェル様」


「うふふ、試してごめんなさいね。大丈夫ですよ。貴女はそのままで」


「……お気遣いありがとうございます」



 エメリーさんとレイチェルさんの謎のやりとりがありました。試すとは?


 私を置いてけぼりにしたままエメリーさんはささっと給仕をし、レイチェルさんと私だけが座って対面するという先日と同じような形になりました。

 お茶を飲みつつお話が始まります。



「それにしても大胆な策に出ましたね。『空城』を装い神定英雄サンクリオを狙い討つとは」


「当初は部隊戦を行うとただそれだけだったのですが、話し合っていくうちに煮詰まりました。クイーンたちが発信してエメリーが絵にしたようなもの。私はそれをまとめただけです」


「まさしく【女帝】のお仕事でしょう。それは普通の塔主では行えないことです」


「恐れ入ります」



 褒められるのは嬉しいですが私が何かやったわけではないので申し訳なくも感じます。うちは味方がすごいんですよ、と言いたいところです。



「向こうの攻撃陣が退かずに攻めて来るとしたらどうしていましたか?」


「その時は即座に潰します。各部隊の盾を前面に出しつつ魔法での一斉掃射、もしくはエメリーが突貫するといった形になったかと」



 相手が大部隊だと普通に戦って時間をかければかけるほど被害が大きくなりますから。なるべく迅速に殲滅させる必要があります。


 マグドリオさんの一番の悪手は退かせたあとに攻撃陣を『元の塔配置』に戻したことだったと思っています。

 魔物にとって戦いやすい戦場なのでしょうが、こちらから見れば大部隊が小隊になっただけ。各個撃破が容易になったわけですから。



「では神定英雄サンクリオが攻めて来なかった場合は?」


妖精女王ティターニアが後詰めになります。必要の際は残った配下と共に攻め入るでしょう」


「そうなるとそれこそ『空城』になるのでは?」


「Aランクが二体だけ残りますね。さすがに反攻されてSランクが来ればどうしようもありません」


「ええ、それが分かっているのでしたらいいでしょう」



 攻撃陣が壊滅、後詰めのターニアさんもやられたら大人しく負けるだけです。

 でもなぜかレイチェルさんのお眼鏡には適ったようで一安心。



神定英雄サンクリオはどのような方だったのです?」


「斥候……と言いますか隠密のスペシャリストだと思います。影に潜って素早く動く感じで」


「<影潜り>ですか。なかなか珍しいスキルですね。さすがは神定英雄サンクリオといったところでしょう。まぁ妖精女王ティターニアが相手では無理でしょうけれど」



 レイチェルさんはターニアさんの能力がだいたいどのようなものか分かっているのですかね。

 そりゃあ妖精の女王様ですから強いに決まっていますし、どんな能力かも想像つきそうですけど。



「しかしクイーンが小隊を率いての部隊戦というのは驚きました。ねぇセラ」


「ええ。この短期間で小規模ながら軍として機能していることに驚きです。感服いたしました、シャルロット様」


「統括指揮はエメリーがやっておりますので」


「まぁそうなのですか。単独戦闘がお強いと思いましたが指揮までとられるとは」



 私はエメリーさんを見ます。どうぞ喋って下さい。



「小隊単位ではクイーンに指揮を任せております。彼女たちの能力が大きいのは間違いありません」


「私も部隊を率いていますから分かりますが全体指揮は別物です。軍の形を成したのはエメリー様のお力なのでは」


「わたくしは生前、百人規模の侍女たちを率いておりましたし、戦う際は総隊長ではありませんでしたが部隊長として戦った経験もございますので」


「ごめんなさい、百人規模の侍女の集団で戦ってらした、ということ?」



 レイチェルさんもセラさんも困惑です。気持ちは分かります。

 そもそも侍女さんが戦うのが分からないですし、そんな侍女さんが百人いるのも分からないです。

 ともかくざっとではありますがエメリーさんからお話されました。



「なるほど驚きました。そんな世界があるだなんて。ますます異世界の神定英雄サンクリオが怖くなりますね」


「仮にわたくしと同じ世界の者だとして、その者が侍女の姿をしていなければ問題ないと思います。あとはどのような種族が召喚されても特別危険視する必要はないかと」


「エメリーさんのお仲間が召喚されないことを祈るわ」



 エメリーさんより強かったり速かったりする人がいるって仰ってましたしね。

 これだけ強くて「自分は種族的に戦闘に向いていない」とか「役割的にはサブアタッカー」とか言ってますからね。

 私には理解できないです。



「ああ、そうそう。召喚と言えばマモンは結局どうなさるの?」


「悩んでいます。というのもお手紙に書きました能力やスキルについて、知る為には召喚せざるを得ないのかもと」


「なるほど、それで私に聞いてきたのですね」



 これが今日の本題です。私としては。



「憶測も入りますが、私の調べではいわゆる大悪魔以上の存在――七大罪ヴァイスの悪魔や悪魔王などは全て<人物鑑定><アイテム鑑定>のスキルを持っていると思います。それに加え【固有スキル】も」


「<人物鑑定>、ですか? 初めてお聞きしました」


「人間で持っているとすれば塔主の【限定スキル】で似たようなものがあるか、くらいでしょうね。しかし高位の天使や悪魔ならば持っていることが多いです」



 そう言われて思わずセラさんを見ました。ニコッと微笑みを浮かべて……とんでもない美人さんですね、やっぱり。



「ええ、セラも持っています。エメリーさんは私の<世界を見渡す目>には反応しましたがセラの<人物鑑定>には反応しませんでした。つまりはそういうことです」



 どういうことです? エメリーさん、後ろで「なるほど」とか言ってますけどどういうことです?



「しかし情報の価値としては目安程度と私は見ています。仮に敵が使ったとしてもこれが戦況を変えるようなものではないと。まぁここに拘る塔主もいるとは思いますが」


「失礼しますレイチェル様、ステータスというのは宝珠オーブの表記と同じものですか?」


「そうですよね、セラ」


「はい」


「ではスキルなどは」


「もちろん含まれます。エメリー様が数多くのスキルを持たれているのも把握しております」



 はぁ~~、すごい世界ですね。私からすればとんでもない情報ですが、レイチェルさんからすれば特に出しても問題ないと。ステータスを見たり見られたりが当たり前の世界なのですね……。


 ……ん? つまりマモンはエメリーさんのスキルを知っていたのですね。


 それで<斧槍術>を奪われなかったということは、やはりスキルは奪えないということでしょうか。



「もうお分かりでしょうが、これは『防げるスキル』ではありません。知られていると思って行動すべきです」


「申し訳ありません、セラ様、もう一つお聞きしたいのですが」


「なんでしょう」


「こちらは<アイテム鑑定>でどうお見えになりますか?」



 そう言ってマジックバッグから魔竜斧槍を出しました。

 ……ん? セラさんが持っているのは<人物鑑定>では? <アイテム鑑定>も持っているのですか?



「【轟炎の魔竜斧槍】……すごいですね。聞いたことのない竜の素材ですか。それに<炎の嵐フレイムストーム>が放てるというのは?」


「どう使えば魔法が使えるのかは分からないということでしょうか」


「ええ。ただ魔石に籠められている魔法を放つことができるとだけです」


「ありがとうございます。ならばこれはどうですか?」



 次に出したのは当然、魔剣です。



「これは情報量が少ないですね。【魔剣グラシャラボラス】……魔力を籠めると『腐食』効果を纏う、と」


「ありがとうございます。ようやく納得できました」


「うふふ、そのご様子だとマモンの【固有スキル】にやられたのね?」



 私は納得できていないのですがね。

 ともかくそこからマモン戦についての説明が入りました。エメリーさんから。



 まずマモンはエメリーさんを<人物鑑定><アイテム鑑定>しました。

 そして【固有スキル】<強欲の掠奪>で【筋力】【敏捷】【魔剣グラシャラボラス】を奪います。


 これは魔竜斧槍の魔法がストーム系だったので弱いと判断されたのだろうと。いくら魔法が使える武器と言えども。

 仮に使われても自分には得意の闇魔法があるしどうとでもなる。そう思ったのだろうという予想です。


 【器用】を盗まなかったのは「S+とSを誤差だと思っていた」というのが有力です。

 【筋力】【敏捷】のほうが分かりやすく自分を強化し、相手を弱体化できますからね。


 そうして【魔剣グラシャラボラス】を手に襲いかかる。魔力を籠めて。


 当然エメリーさんは全力で逃げるので、マモンはやはり有効なのだと判断したのでしょう。この魔剣を畏れていると。


 で、結局は調子に乗って自傷。『腐食』の痛みで悶え苦しむ、と。



「確かにその『腐食』が自分に効くのか、それがどのようなダメージになるのかは分かりませんね」


「分かっていれば【器用】を盗んだのかもしれないですね。まぁたらればですが」



 と、セラさんとレイチェルさんは言います。



「エメリーさん、もしマモンが自傷しなかったらどうしましたか?」


「衰えた身体に慣れるまでは時間稼ぎに徹します。向こうがアジャストするよりわたくしの方が早いでしょうから」


「【器用】の差が歴然ですものね」


「慣れたなら接近戦で盾受けしながらカウンターですかね。それくらいしかできませんし」



 それくらいしかって……【筋力】と【敏捷】がエメリーさんになっている大悪魔を相手に、デバフが掛かっている状態で、そもそもやれることが異常だと思うのですが。

 これにはレイチェルさんもセラさんも苦笑いです。



「なるほど。ついでに【固有スキル】についても共有しておきますか。マモンの使う<強欲の掠奪>のように特に悪魔は厄介なスキルを持っていますからね。今後必要なのでしょう?」


「はい、是非ともお願いします」


「私は貴女が【強欲の塔】と戦うと知っても何も教えはしませんでした。それは勝つと見込んでいたのもありますが、経験して欲しかったのです。大悪魔がどのような存在なのかを」



 知っていたのなら教えて下さいよ、とは思いませんでしたが、レイチェルさんにはレイチェルさんのお考えがあったようです。



「大悪魔は総じて闇魔法が得意であり、膂力・速度・体力があり――まぁエメリーさんには遠く及ばないようですが――飛行することもできる。<人物鑑定><アイテム鑑定>で何が自分にとって危険なのか調べられる。それが共通項です。

 そして【固有スキル】にそれぞれ独特なものを持っている。これが一番の難点です」



 レイチェルさんもやはりスキルの存在が一番危険だと。

 【限定スキル】に通じるものがありますからね。



「私が知っている中で詳しく分かるのは【怠惰】。曖昧なものが【嫉妬】【憤怒】【傲慢】【強欲】です」


「【傲慢】……!」


「あくまで曖昧です。【強欲】にしても『相手の装備か能力を三つ奪う』くらいのものです。効果やら何やらは実際に戦ったエメリーさんの方が知っているでしょう」



 それでも知っていれば対処はできそうな気もします。

 エメリーさんの場合、最初から【魔剣グラシャラボラス】を出していなければ奪われなかったわけですから。



「まず【怠惰】、これは私が召喚権利を持っているので貴女が戦うこともないのですが」


塔主戦争バトルをしたのですか? 召喚は……」


「しておりません。悪魔は総じて神聖属性の魔物と反発します。貴女も召喚する際は気を付けたほうがいいですよ」



 ああ、これは聞いておいて良かった。

 マモンを召喚するかどうかも悩んでいたので相談するつもりだったのです。



「それで【怠惰の悪魔ベルフェゴール】ですが――」



 ここから悪魔に関するお勉強が始まりました。

 本当に為になるのでレイチェルさんには感謝しかないです。



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