179:春風の塔は頑張っていたみたいです!
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 51歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
『神様通信
本日行われた
【煙水の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
正直みくびっておったのう、色々と。
やはりファムで覗き見するだけでは測れんことが多いと改めて思い知らされた。
わしもまだまだじゃのう。まぁ勝ったから良しとするが。
【煙水の塔】が五年目のEランクにしても弱いというのは分かっておった。
塔主としてのセンスがなく、だからこそEランクに甘んじておるのだし、だからこそ【霧雨】を頼ったというのも分かる。
自分でも理解していたのかもしれぬな。
理解した上で【春風の塔】を自分より下と見ておった。
そして追い込まれた状況になってやっと
とは言え腐っても五年目の塔じゃ。塔構成は以前の【春風の塔】よりはしっかりしておるし、魔物の数も差がある。
最高戦力はゴーゴンヘッド。さらに
どちらもCランクじゃが【春風の塔】の最高戦力もハイフェアリーのCランクなので、ランクが同じでも数で負ける。
わしはファムで集めたそれらの情報を見比べた時、六対四で【煙水】が有利だと思った。
大改装を経てTPの黒字が安定した今、一月か二月あれば逆に【春風】が有利になるかも、くらいかと。
ところがクラウディアの考えは違った。
わしとの相違点は大きく二つ。
一つ目はエレオノーラの
エレオノーラの持つ【拡散の魔力弓】というものは、自身の魔力を使って矢を創り出してそれを放てる代物で、しかも一発撃つと扇状に何本もの矢が一気に放たれるのだという。
これの利点は矢の消費を考えず、番える動作を必要とせず、魔力の限りに撃ち続けられるということ。
さらに命中率が高くなくても適当に撃てばどれかしらの矢に当たるということ。
戦闘力が皆無のエレオノーラじゃがエルフである以上、人間より多い魔力を持っておるし、弓を引いたことのないエルフなどいない。下手であっても一応は扱えるわけじゃ。
エレオノーラは塔主となってから【拡散の魔力弓】の練習だけはやっていたという。せっかく貰った
そのくせ塔の管理はできていないのじゃから何とも言えぬがのう。
ともかく、そのおかげでプレオープンの頃から最上階まで攻め込まれてもエレオノーラ自身で討伐できていたらしい。二回ほど失敗して
オープンしてからも一年ほどはそうやってギリギリ最上階で死守していたそうじゃ。
二年目以降は侵入者も激減してそこまで攻め込まれることもなくなったらしいがのう。幸か不幸か。
クラウディアはエレオノーラを【春風の塔】の防衛戦力として考えておった。わしは端から戦力外と決めつけておった。その差が大きい。
つまり防衛に関しては地形と罠で時間をかけさせることが出来るし、最終的にはエレオノーラ自身が斃せばよいと。
仮にゴーゴンヘッドと
それほどの弓とはのう……
二つ目の相違点は
これはもうわしとクラウディアの経験値の差じゃ。
仮にエレオノーラを防衛で使い、その分攻撃陣に魔物を回すとしても【春風の塔】の陣容で【煙水の塔】を斃すのは難しい。
わしならば相手が【春風の塔】の塔構成に攻めあぐねている隙に、最短経路の一点突破で最速の攻略を目指す。厚くなった攻撃陣で一気にのう。
しかしクラウディアのとった策は″完全なる遅攻″。
始めに行ったのは『自軍の魔物を全て自塔の上層に上げ、好きに攻めさせる』ということじゃ。こちらからは一切攻め込まなかった。
これは一般的な
相手からすれば時間をかけて、罠などを掻い潜り、やっと上層に行けたと思ったら大軍が待ち構えている格好となる。
ついでとばかりにエレオノーラが魔力弓を撃ちまくればそれで一気に瓦解する。
これでは攻め落とすのは困難と【煙水】は第二陣、第三陣と投入してきたがその悉くを打ち倒した。
【春風】側が【煙水の塔】に攻め込んだのは
精神的な消耗と寝不足で【煙水】ファルタム・ズーロはボロボロ。塔の魔物もまばらに残るのみ。
それでもエレオノーラは時間をかけてゆっくりと攻略していった。罠などで無駄に魔物を消費させないように。
そうして無事に最上階まで攻略と。
これはクラウディアの策もそうじゃが、それを実行したエレオノーラを褒めるしかない。よく粘った。よく耐えた。
最初から『この
それを焦ることなく行えたのは称賛に値する。
わしが情報を与えたことで感謝もされたが、わしからしても勉強になる部分が多かった。
特にクラウディアが授けた策――遅攻だけでなく罠の配置や魔物の布陣についても、さすがは二七年目のAランクと唸らせるものがあった。
おそらく今回出したもの以外にも色々と持っているはずじゃ。勝者で在り続ける為の数々の策を。
今度、わしのほうから相談してみても良いかもしれぬな。それもまた収穫じゃ。
さて、そうしたわけで無事に【春風の塔】の初勝利となったわけじゃが、同じ要領で次は【忍ぶ者】というわけにはいかない。
ランクは一つしか違わないが【煙水】とは明らかにレベルが違うからのう。
これこそ時間をもう少しかけて、塔運営を安定したのちに
それと気になるのは今回の
ザリィドがエルフを狙っている以上、このまま手を引くはずがない。
【煙水】は負けたものの、【春風の塔】の塔構成や戦力は完全に把握したはずじゃ。
それを活かして次は別の同盟塔に仕掛けさせる、となるじゃろうな。
【霧雨】同盟で残っているのはDランクが二つ、Eランクが一つ、Fランクが一つ。
出来ればEかFの塔がいいのう。【泥沼】か【死滅】。
【偶像】と【北風】を相手にするくらいなら先に【忍ぶ者】を斃したいところじゃがタイミングが微妙か……?
エレオノーラも忙しくなるのう。
こき使っているようで申し訳ないが、【霧雨】同盟の壊滅を狙うならばエレオノーラが一番適任なのじゃ。
ランクが低く、戦力もバレているという不利を利用しない手はない。
とりあえず今回の報酬でお手頃なAランクの一体でも召喚しておいてもらおうかのう。
まさかEランクの塔でAランクの魔物がいるとは思わんじゃろうし。
眷属化まではTPが足りんかもしれんが、とりあえず召喚だけしておくというのもアリじゃろう。
――という一連の流れについては同盟の皆で共有しておいた。
するとアデルがこんなことを言う。
『エレオノーラさんが戦うならばそれでもいいのですけれど、わたくしとしてはシルビアさんにも戦って欲しいのですよね』
「【霧雨】同盟とか? さすがに今の【六花の塔】では……いけなくもないか」
新塔主となったばかりじゃからどうかと思ったが、よくよく考えれば今の【春風の塔】より戦力的には上なんじゃよな。魔物の総数は少ないじゃろうが。
アデルとジータの監修も入っておるじゃろうし塔構成もEランク上位ではあるのじゃろう。
となれば【春風】よりも【六花】が適任か?
『でも【霧雨】はエルフ狙いやろ? 【春風】とは戦っても【六花】とは戦いたくないんとちゃうか?』
『どうでしょうね。新塔主でトップを斃したとなれば名声的にも大きいですしそれを報酬として受けることもありえるのではないかと』
『申請するだけならタダですしね。それで向こうが乗って来れば儲け物ですか』
『な、なんかシルビアさんが不憫に思えるのですが……』
シルビアはアデルに振り回され、エレオノーラはわしに振り回されておるな。
命を賭けさせているのじゃから申し訳なくは思うぞ? 絶対に勝ち戦にはするつもりじゃがのう。
向こうの出方次第ではあるが、エレオノーラの方から
となれば保険としてシルビアからも申請させておくべきか。それもアリじゃな。
【霧雨の塔】以外の同盟塔はすでに戦力も把握済みじゃ。
【春風の塔】から仕掛けるにはもう少し時間が必要じゃが、おそらく【六花の塔】ならば今でも勝てる。
「では、アデルにはそちらからもアプローチしてもらうよう言っておいてもらえるか?」
『分かりましたわ。上手くいきましたらフッツィルさんとターニアさんにお願いしますわね』
「ああ、分かっておる」『了解です』
よし、少しずつ【霧雨】同盟の瓦解が見えてきたのう。
あとに残る問題は【霧雨の塔】と【魔術師】同盟か。
それはアデルの国の動き次第、といったところか。長丁場になりそうじゃな。
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