75:あとは最終決戦に臨むだけです!



■シャルロット 15歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



 【輝翼の塔】六階層の大ボス部屋。

 敵方、眷属三体を含む十八体の魔物と、こちらが眷属三体を含む三〇体の魔物。

 部隊同士がぶつかり合う最後の防衛戦は佳境に向かっています。



 始めは前衛を固めるゴーレム部隊にヴァンパイアとダンピールの部隊が襲い掛かりました。

 素早く力のある攻撃は脅威ですが、それでもゴーレムの壁は崩せません。

 しかしゴーレムの攻撃も避けるという攻防を続けます。


 一方でミスリルヘラクレス率いる虫部隊は空から後衛への攻撃。

 これは妖精と精霊の魔法攻撃によって遮られます。数の脅威は恐ろしい。

 しかもターニアさんの力によって強化されているのです。これではたった数体の虫部隊など物の数ではありません。


 その中でミスリルヘラクレスだけは別でした。

 魔法防御が高く飛行速度が速い。次々に放たれる魔法の弾幕を時に避け、時に当たりはするもののダメージが少ないのか執拗にターニアさんを狙ってきます。

 しかし――



『<炎の壁フレイムウォール><岩の堅固ロックコンジール>』



 セイレーンを相手にしていたターニアさんが杖をミスリルヘラクレスに向け、即座に魔法を連続発動。

 火魔法で突進を遮り、土魔法で動けなくさせました。敵の魔法防御の高さを感じさせないほどの速攻。

 ダメージの蓄積もあったのでしょう。ミスリルヘラクレスは地に伏したところでゴーレム部隊からの攻撃を受けて勝負あり。


 ターニアさんはそれを見る事なく、セイレーンに意識を集中させていました。


 おそらくは<並列思考>のスキルでセイレーンを相手にしながらミスリルヘラクレスへの対処を行ったのでしょう。

 <並列思考>はエメリーさんも持っていますが、それを使いこなしながら魔法を連発するのはさすがです。



「……反則ですわね。Sランクの固有魔物とはこれほどですの?」


「いやアデルよ、こんな芸当普通のSランクには無理じゃろ。下手すればジータでさえも完封できるぞ」


「シャ、シャルロットさん、ほ、本当に50,000TPだったんですか? たった?」



 ……名付け含めて100,000TPですが、私も思っていたより強くてビックリしています。

 でも素早さと魔法の特化という感じなので相性とかもあるとは思うのですが。


 得意な魔法にしてもセイレーンのような属性特化型ではないので押し負ける場面もありますし。

 それを『器用さ』と配下との連携で補っているようです。

 やはりクイーン系の魔物というのは配下がいてこそなのかもしれません。


 アデルさん、フゥさん、ノノアさんはそんな事を言いながら画面を見るだけですがドロシーさんはそうもいきません。

 この場にキラリン、ノーミンと二体の眷属を布いていますからね。



「ノーミンええで! そのままターニアの指示に従って補助や! キラリン! そこや! ヴァンパイアを蹴散らせ!」



 虫部隊を倒しきった後衛部隊がダンピールへの攻撃を集中し始めました。

 ヴァンパイアやダンピールは光魔法に弱く、その次に火魔法に弱い。

 フゥさんのハイフェアリーもアデルさんの火精霊サラマンダーもターニアさんの指示で次々に火魔法を放ちます。


 それでもヴァンパイアはAランクとして別格の動きを見せていました。

 ミスリルゴーレムも二体斃されました。

 しかし硬いゴーレムが簡単に斃せるはずもなく、魔法の連撃に晒され、足を止められたところにクリスタルゴーレムのキラリンが襲い掛かったのです。


 同じAランクの眷属。しかしダメージを負い足の止まったヴァンパイアと近接戦にもちこんだクリスタルゴーレムでは後者が断然有利だったようです。

 見るからに強烈なキラリンの一撃はヴァンパイアを吹き飛ばし、それだけで勝敗を決しました。



「よおし! よおやった! あとはセイレーンだけや! キラリン、もう一仕事頼むで!」



 残るは【風の塔】の眷属、Sランクのセイレーン一体のみ。

 セイレーンは指揮官らしく風魔法による味方の補助を主に行っていたように思います。もちろん牽制気味にこちらの陣に魔法を放ってはいましたが。

 それが部隊の減少と反比例するように攻撃にシフトしていきました。


 その圧倒的な風魔法は、時に壁を作り出し、時に刃のように斬り裂き、時に竜巻を発生させます。

 こちらの被害も徐々に増えますが、それを抑えるのがターニアさんの役目。

 同じ風魔法をぶつけたり、対属性である土魔法をぶつけたりと対処に忙しくなります。



 でも――それでも、私の素人目に見ても勝ちは揺るがないと思えました。



 要因はいくつもあります。

 一つはターニアさんの<並列思考>と配下が多数残っているという事実。

 おそらく一対一でもセイレーンの攻撃を凌ぐことくらいはできるはず。そこに味方が加われば後はもう単純に数が多い方が勝つと。


 もう一つは、やはりセイレーンと言えども一階層から六階層まで攻略を続け、部隊を指揮し続けたことにより消耗していたこと。

 疲労なのか魔力の減少なのかは分かりません。しかし本調子ではないのは確実でしょう。


 攻めるより守る方が容易い。それが塔主戦争バトルの常識だと聞いたことがあります。

 私は今までエメリーさんが攻めるという手しか使っていないのでその感覚がいまいち分からないところがありました。

 しかし今回改めてそれを目の当たりにした思いです。



「そこや、キラリン!」


「ターニアさん、やっちゃって下さい!」



 最後はキラリンがその巨体でセイレーンに飛び掛かり、強烈な一撃を与えたところにターニアさんの土魔法が炸裂しました。

 大部屋の床に消えていくセイレーンの身体。

 それを見て最上階の私たち五人は喜びを爆発させたのです。



「よっしゃー! よおやった! キラリン、ノーミン!」


「ターニアさん! お疲れさまです! ありがとうございます!」


「やった! 皆さんすごいです! 結局ペコの出番はなかったですけど……」


「ふう、ようやく一段落ですわね。なかなか痺れる戦いでしたわね」


「まだ終わったわけではないぞ。喜ぶのはゼンガー爺たちが終えるまでとっておけ」



 フゥさんがそう諫めます。すごい集中力ですね。

 確かにまだ喜ぶには早い。その通りです。

 私は気を引き締め直し、すぐにエメリーさんへと連絡をとったのです。




■エメリー ??歳 多肢族リームズ

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄サンクリオ



「向こうは片付いたようですね」


「みたいだな。詳しいことを聞きたいトコだが……まぁ後回しだな」


「ですな。様子からして大事なさそうですが」



 お嬢様から連絡が入り、防衛は成功に終わったようです。

 あまり心配はしていませんでしたがご無事で何よりです。


 前回もフッツィル様のお力に頼った部分がありますが今回はより顕著と言いますか。

 最初からずっとフッツィル様に頼りきりという感じですし、何よりフッツィル様ご自身が随分と張り切っていらっしゃいますからね。

 わたくしとしてはそれが非常にありがたいことです。



 お嬢様が敵のスキルの罠にかけられた。ノノア様がさんざん罵倒された。

 そういったものがフッツィル様の心に火をつけたのではないかと、わたくしは思っております。


 同盟に【彩糸の組紐ブライトブレイド】という名をつけ、左手に同じ組紐を結ぶ。

 どうやら塔主同士の同盟ではそうしたことをやらないのが普通のようですが、わたくしの経験上、形にした結束というのは間違いなくプラスに働くものです。


 強固な心は強固な身体を作る。

 お互いに認め合い、助け合う関係性は自分も周囲の者も強くするのです。


 それが塔主にとっての普通でないとするならば、お嬢様の周りには特殊・・な――わたくしにとっては普通・・な――方々が集まっているのでしょう。


 やはりお嬢様のお人柄なのだろうと。

 心優しいお嬢様の周りにはそれを尊重する人が集まる。

 わたくしにはそれが、お嬢様にとっての【女帝】像なのではないかと思うのです。


 そしてわたくしは侍女としてお嬢様の為にお力になりましょう。

 輝かしい未来をお傍で迎える為に。

 まずはそれを遮ろうとする不埒な輩に鉄槌を下さねばなりません。



 【甲殻の塔】の九階層。『砦』の塔構成ですが、順路としては連続小部屋のようなものです。

 ここまで来たからには寄り道など必要ありませんし、ただ前へと進むのみ。

 しかし通常配置されているであろう中ボス級の魔物もおらず……どうやら情報通りに大ボス部屋に集まっているようですね。


 わたくしはジータ様とゼンガー様と少し打ち合わせをし、軽く頷いたのちにその重い扉を開けました。



「ようやく来たか。待っていたぞ」



 大部屋の中央に立つのは腕を組みこちらに獰猛な笑みを浮かべる白獅子の獣人。

 豪華なプレートメイルに外套、手には爪付きの篭手。輝きを見るにどれもアダマンタイト装備でしょう。

 年齢は中年と初老の中間といったところでしょうか。しかしジータ様より体格がいいですね。


 【白雷獣】の異名を持つかつての獣王――この方がディンバー王ですか。


 そしてディンバー王を中央に広がるのは【風】の眷属であるフェンリルを中心としたエアロウルフ部隊。

 さらに前に【甲殻】の眷属であるガードナイトの部隊。大盾と短槍を持ったリビングアーマーのようにも見えます。

 総勢五〇といったところでしょうか。大部屋の半分を埋めるほどの軍勢です。



 さらに最後尾に異彩を放つ一体……いえ、一人・・

 特徴的な鎧と短剣を装備した狼獣人が見えました。

 間違いありません。【風の塔】塔主、ヴォルドックです。



 塔主自ら決戦の戦場に……?

 わたくしはチラリとゼンガー殿を見ました。コクリと頷きます。これはフッツィル様に確認して頂きましょう。



 通常、塔主が戦場に出ることなどありえません。

 仮に戦える力を持っていてもディンバー王やフェンリルがいる戦いについてこられる者など、それこそ神定英雄サンクリオ級くらいのものでしょう。

 万が一戦いの余波をくらった場合、死んでしまえば全てが終わりなのですから。


 それでも前に出てくるというのは意味があるはず。

 例のスキルに関連した何かでしょうか……。それにあの装備も気になります。


 未だ入口に佇む我々に、ディンバー王は続けます。



「そこのメイドよ、余の相手をしてもらうぞ」


「メイドではありません。侍女です」



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