227:青の塔との戦いに決着をつけます!
■ノノア 16歳 狐獣人
■第500期 Dランク【
「パルクッ!!」
私の画面は地上後衛部隊のディーゴと、ゼンガーさんのそばにいるパルクを中心に映されていました。
俯瞰視点ですしドロシーさんやフゥさんよりも気付きやすい立場にいたと思います。
それでも気付けませんでした――その″影″の存在に。
ゼンガーさんが自分の影に絡めとられるように身動きを封じられ、画面の端から別の影がものすごい速度で突進。
それが短剣を手にしたベンズナフさんだと気付いたのは、パルクがゼンガーさんの盾となって防いだ時です。
『フィルフッ!』
咄嗟に異変を察知し、指示を投げたのがフゥさんでした。ゼンガーさんの様子を見ていたからこそ出来たことでしょう。
パルクに防がれたことがショックだったのかベンズナフさんの動きは一瞬止まり、その隙を突いたのが
もしベンズナフさんがジータさんのような攻撃力を持っていたらパルクの防御は無駄になっていたかもしれません。
もしベンズナフさんが呆けていなければフィルフの攻撃も避けられていたかもしれません。
もしベンズナフさんが前衛としての近接戦闘に特化していたらフィルフ相手でも戦えたかもしれません。
ベンズナフさんが優れた
しかしそれは斥候技能と闇魔法に優れているというだけ。
正面からの一対一、それも接近しての戦いとなれば眷属となったフェンリルに分があるというもの。
いえ、それでも敏捷の高さがありますから逃げに徹すればフェンリルから距離をとることも可能だったかもしれません。
ですがその場所は私たちの陣の中央であり、周囲はディーゴやキラリンに囲まれている。
多少の距離をとってもフェンリルには氷魔法もある、となれば如何にベンズナフさんでもどうにも出来ません。
結局、フィルフの攻撃をまともにくらったベンズナフさんは他の魔物にも押しつぶされるように斃れたのです。
「ノノアちゃん! パルクは大丈夫か!」
「だ、大丈夫みたいです! と言いますかほとんど無傷みたいな感じで……」
眷属伝達から伝わって来るのは元気なパルクの声。
ゼンガーさんを助けられて喜んでいるようですが……身体を突き刺されて無傷なわけないと思うんですがね……どうなっているんでしょう、パルクの身体は。
『すまんノノア、助かった! ゼンガー爺も大丈夫そうじゃ!』
「よ、良かったです!」
『おのれ……油断はしていなかったつもりじゃがのう……これだからバベルの
「でも
『うむ、こっちはウリエルに抑えてもらっている間に雑魚の処理はせねばならん! エァリス、ゼンガー爺、フィルフ、頼んだぞ!』
私もディーゴとパルクにもうちょっと頑張ってとエールを送りました。
ベンズナフさんがいなくなればあとの脅威は青竜だけ。ドロシーさんの意見に私は賛成です。
もしかしたら覗き見以外にもう一つ限定スキルを持っている可能性も考えられますが、仮に持っていても内政型ではないかと予想しています。
それはコパンさんの商人としての気質もありますし、【魔術師の塔】とベンズナフさんという″力″をすでに持っている状態で、攻撃的な限定スキルをとるような選択はしないだろうと。
まぁどんな限定スキルが取得可能かは分かりませんのであくまで予想ですが、私たちはそのように考えていたのです。
実際それが正しいのかは分かりませんが、その後の戦いに驚かされるようなことはなかったと思います。予想外の限定スキルを使われるような展開には。
地上戦の有利は覆りませんし、空は拮抗した戦いが続きました。
ウリエルさんが単独で青竜と戦えば青竜のほうが有利だったと思います。
Sランクの固有魔物同士ではありますがウリエルさんは部隊を指揮して戦うのが本分ですし、青竜は単体としての強さが桁外れですからね。
とは言えウリエルさんは神聖魔法に加えて防御特化の大天使らしいですし、その周りには天使部隊もいればエァリスたち鳥部隊もいる。
部隊としての戦いならば劣るものでもない。
さらに地上からの支援も入るようになると。
ここまで来ると持久戦をしながら力押しのような感じになり、青竜の巨体は地に落ちることとなったのです。
十三・十四階層を壊滅させた私たちにまだ油断は許されません。
そのまま【青の塔】を攻略すべく最上階への階段に歩を進めます。
ゼンガーさんが一人先頭。少し離れてウリエルさん、さらに離れてフィルフとディーゴという布陣。
これはいつも限定スキルを警戒しながら最上階を攻略するエメリーさんの役回りをゼンガーさんに、ということです。
最上階の玉座の間、そこに座っていたコパンさんは頭を抱えて咽び泣いていたようでした。
嗚咽まじりの声――そこに戦う意思など見られず、ゼンガーさんを見ようともしません。
『精霊の御許の前で清らかなる安らぎを――』
ゼンガーさんは小さく祝詞を唱えると、遠目から<
コパンさんの身体が光と消え、そこで私たちはやっと息を大きく吐きました。
でも――それでもまだ終わりではありません。
「シャルちゃん! こっちは終わったで! そっちは!?」
『こちらはあと一階層です!』
『そちらは念の為攻撃陣を編成しておいてほしいですわ! まだ何が起こるか分かりませんから!』
『了解じゃ! 一階層で控えさせておくぞ!』
今から【魔術師の塔】に乗り込んでも追いつけない。
だからと言ってただ待っているだけというのもダメだと。油断できる状況ではないわけですね。
シャルロットさんとアデルさんの主力ほぼ全てを使って、それでも尚危険性を感じている。
一体【魔術師の塔】とはどこまで強い塔なのでしょう。
その最終決戦場となる十九階層はどのような……。
――私たちはその戦いを画面で見続けることになるのです。
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
エメリー殿の強さというものは模擬戦で見た時から感じてはいたが、いざ今回の
一体この人の本気というのはどれほどの高みなのだ、と雲を貫くような岩壁に思えて仕方ない。
斥候能力や指揮能力もそうなのだが私としてはやはりその戦闘能力ばかりを見てしまう。
まず敏捷が高くどの魔物よりも速く動く上に回避能力が高い。故に誰よりも速く敵陣に突っ込み、孤立しても尚、密集地帯で回避しながら戦うことができる。
その上、あの見た目に反して力が強い。
それはジータ殿の特大剣を受けていたことからも窺えるのだが、あの細腕にどんな腕力を宿しているのか不思議なほどだ。
そのおかげで回避せずともどんな魔物の攻撃も受けられるし、岩のような防御力を誇る敵でさえ容易く攻撃を通せるのだ。
ここまでですでに通常の
異世界製の装備がまた常識から外れているのだ。
あとで聞けば普通に見える侍女服も馬鹿げた防御性能らしいのだが今は省いておく。
まずは四本セットで使っていた黒いハルバード。魔竜斧槍と言うそうだ。
これは異世界の竜の素材から造り出した業物らしいのだがその硬さはアダマンタイトを超えるらしい。
それだけでもこちらの世界の私からすると反則に思えるのだが、その武器で魔法を放てるのだから最早理解に及ばない。
異世界の技術と言われればそうなのだろうが、私からすれば「
さらに驚くなかれ、その魔竜斧槍という異世界武器もエメリー殿のメイン武器ではないと言うのだ。
【魔術師の塔】十八階という土壇場になってようやく取り出した【魔剣グラシャラボラス】。それがエメリー殿専用の主武器なのだと。
見た目は魔竜斧槍と同じく黒いハルバードなのだが、画面越しに一目見ただけで私には怖気が走った。刃に纏わりつく闇の魔力を見たからだ。
聞けばその魔力の正体は『腐食』らしく、かすり傷一つ付けるだけで――実際には魔力に触れるだけでダメらしいが――生物ならばその身体は腐食に侵され、徐々に侵食し、確実に命を落とすような代物だとか。
振り回しているエメリー殿でさえ常に死の危険がある恐ろしい武器。それがあれの正体らしい。
アンデッドやアーマー系の魔物には効かないらしいが、そうであっても魔竜斧槍以上に攻撃力があるそうで、そこまでいくと私にはもう「とにかく理外の武器なのだな」としか思えない。思考を放棄するだけだ。
ともかくそうしたステータスの高さと理外の武器を兼ね備えているからこそエメリー殿は異次元の強さを誇っており、だからこそシャルロット殿やアデル様たちが全幅の信頼を寄せているのだと、この戦いを通して私は実感したのだ。
「それ以外にも百個以上のスキルがありますからね。それも強さの一因だと思いますけど」
「器用さのステータス値が常人の数百倍ですものね。だからこそスキルも覚えるのでしょうし魔剣も扱えるということなのでしょうが」
……という話をあとからお聞きした。私には最早溜息しか出ない。
いずれにせよ【魔術師の塔】十八階層という難所はエメリー殿の孤軍奮闘とも言える戦いぶりによって事なきを得た。
予想外の魔法の威力に晒され、質と量のある魔物の群れに襲い掛かられ、こちらは防戦一方の戦いを余儀なくされたが、エメリー殿はそれをこじ開けたのだ。その″力″で。
敵には固有魔物が二体もいたのだ。九尾の火狐と二首のドレイク。少なくとも一体はSランクだったと思われる。
しかし生物であるならば魔剣で傷一つ付ければいいと、エメリー殿は無謀にも見える特攻をしたのだ。
それを見て焦っていたのは私だけだがな。
シャルロット殿とアデル様は至極当然といった様子であった。エメリー殿ならばそうするだろうと。
そのような規格外の戦闘を目の当たりにした私は不覚にもこう思ってしまった。
「もうエメリー殿お一人いれば怖いものなどないのではないか」
「いかに【魔術師の塔】と言えどもエメリー殿の前には手も足も出ないのではないか」と。
すぐ後に私は自分を諫めることになる。
それは十九階層――最終決戦場と呼ぶべき戦いの場でのことだった。
そこは宮殿のように設えた階層であり、手前から奥に行くに従って緩やかな昇り階段のようになっていた。
柱は乱立しているものの見通しは良く、広々とした空間には違いない。
しかし最初から高所をとられている。嫌な感じのする薄暗い階層だ。
一階層分しかないので案の定、飛竜などの巨大な魔物はいないし鳥なども飛んでいない。
その代わりに幾体かのウィッチクイーン(A)が指揮するハイウィッチ部隊が制空権を握っていた。
階段の上部、前方に布陣している地上戦力を見れば、そこにいるのは――アンデッドの群れ。
さらにそれを指揮するエルダーリッチ(S)……【赤の塔】への攻撃陣にもいた最高位アンデッドの姿があった。
それで終わりではない。
エルダーリッチのさらに上段に位置する″王″がいたのだ。
王冠と外套、杖を手にしたスケルトン――アンデッドたちを束ねる″王″がそこにいた。
不死者の姿は当然のように恐ろしく私の目に映る。
寒気もするし冷や汗も流れる。
ただそれ以前に私の頭を占めていたのは一つだ。
――たしか魔剣はアンデッドには効かないのだよな、と。
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