228:魔術師の塔との最終決戦です!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
『一旦は防御を固めます。布陣は先ほどと同じように。しかし空は確実に勝てますのでそちらから一掃しましょう。ターニアとクルックー、お願いしますよ』
そのようなエメリーさんの指示が画面から聞こえました。
私もアデルさんもシルビアさんも、それに口出しなどしません。
敵はとにかく地上部隊が多く、空が比較的薄い。ウィッチクイーン(A)の部隊は確かに強いですし例によって魔法の威力も上がっているのでしょうが、それにしてもこちらの飛行部隊に分があると思います。
高威力魔法の斉射を受けるので防御や回復に回ることもあるでしょうが、それにしてもどれか一体が攻撃に回るだけで空は支配できるのではと。
制空権さえ握ってしまえば断然有利になります。
いくら敵が階段の上をとっていようが、アンデッドは飛べませんしね。それで勝ち目が見えるでしょう。
あとは空から魔法なり何なり撃ち続ければ、敵がどんな固有魔物だろうが関係ありません。
緊張感を持ちながらも、私はどこか勝算めいたものを見て――いえ、見すぎてしまっていたのかもしれません。
それはこれから戦闘が始まるというその時に起こりました。
最初の驚きは敵陣奥の階段に姿を現した人物を見て。
『ダウンノーク伯!?』
アデルさんの声が響きます。
塔主が自ら戦場に出るというのは【風】のヴォルドックさんもそうでしたし、【反逆】のダンザークさんも自ら敵の塔を攻略したと聞きます。珍しいとは言え、ないことではない。
しかし元々戦闘力のある塔主ならばともかく、ケィヒルさんはただの貴族――一応宮廷魔導士だそうですが――であるにも関わらず危険を冒して戦場に出てきた。
これは何かある、そう警戒するのも仕方ないことでしょう。
しかもその手に持つのはおそらく
ただの魔法触媒であるわけがありません。戦闘に役立つ何かしらの効果があるからこそ出てきたに決まっています。
より一層の警戒が増したところで敵の攻撃が始まりました。
まずはハイウィッチが空から魔法を放ちます。それはやはり見るからに威力が増しているようで。
こちらは
――というところで二つ目の衝撃がありました。
『<魔術結界>!!』
かすかに聞こえたケィヒルさんの声――それは明らかに限定スキルを使用するための怒号でした。
そのスキルによって何が引き起こされたのか。それは火を見るより明らかな変化です。
ケィヒルさんから発せられた幕のような
すると、その手、その杖から展開していた防御魔法が……一斉に消えたのです。
何が起きたのか理解するまで時間を要したのは攻撃陣の全員、そして画面を見つめる私たち全員も同じ。
一瞬の思考停止。身体の硬直。
そこに襲い掛かるのは魔力の高まった怒涛の魔法斉射。
――ドオオオォォォン!!
為す術もなく魔法攻撃に晒された自軍は見るからに被害を出しています。
その中でも一番最初に冷静になったのはやはりエメリーさんでした。
『ヴァルキリー、回復はっ!』
『ダ、ダメです! ユニコーンの魔法が使えませんっ!』
『ならば盾役と共に攻撃に回りなさいっ! 固まってはいけませんっ! 小隊単位で動きなさいっ!』
続いてジータさんも。
『クルックー! ウィッチ部隊を何とかしてくれ! 空は任せるしかできねえ!』
『ターニア、貴女もですよ! 飛行できる者は優先してウィッチたちに攻撃を!』
魔法が全く使えない――それは私たちにとって致命的と言える状況です。
それでも戦わなければ活路はない。だからこそ守りは最低限にしてとにかく攻撃を、とエメリーさんは指示を出しました。
クルックーもターニアさんも、他にもルールゥの部隊など多くは魔法主体の魔物です。アデルさんが隠し玉として用意したセイレーンもそれは同じ。
ターニアさんなどSランクの固有魔物であっても物理攻撃力はヴィクトリアさんたちと変わらないのです。
だというのに魔法が使えず物理攻撃を仕掛けるしかないと……。
私はたまらず声を掛けました。
「エ、エメリーさん!」
『お嬢様、あの限定スキルですがこちらの魔法だけでなくスキルも使用不能にする類のもののようです』
「ス、スキルも!?」
『<斧槍術>などの常時発動型は問題ありませんが<気配察知>などの任意発動型が使えません。幸いにしてステータスは無事ですが……くっ! アンデッドの闇魔法でデバフですか……!』
ケィヒルさんの限定スキルの詳細は分かったようですが、いかんせん強力すぎます。
とりあえずアデルさんたちと共有しましたが、魔法と任意発動型のスキルが使用不能になるということはもうステータスに頼った物理攻撃しか頼るものがないということです。
さらに敵軍はエメリーさんに集中して闇魔法を放ってきました。
行動阻害、状態異常、普通に攻撃魔法も使ってきます。
しかも魔力が高まった状態ですからいくらエメリーさんでも無傷とはいかず、ただでさえ多いアンデッドの猛攻を一人で受け続けているのです。
『おい姉ちゃん! 術者のケィヒルをヤらねえとマズイぞ! 俺が突っ込むか!?』
『そうしたいのは山々ですが……いえ、無理矢理にでもこじ開けましょう。わたくしが正面に行きますのでジータ様は離れて右翼からお願いします』
『おお!』
自分に攻撃が集中しているからこそ一人で前に出て皆を巻き込まないよう戦う。
本命の攻撃はジータさんに任せる。エメリーさんはそういった指示を出しました。
私は私で俯瞰画面を見ながらの指示を続けます。
「クイーンの皆さんは左翼から詰めて下さい! 部隊同士が近づきすぎないように! 先陣はナイトメアクイーンにお願いして下さい!」
『『『はいっ!』』』
「ターニアさんとウィッチクイーンはとにかくウィッチ部隊を! 最悪かく乱だけでも構いません! 止まらずに飛び続けて地上に攻撃させないことを第一に!」
『は~い!』
アデルさんも同じように指示を投げています。シルビアさんはシルバをジータさんのフォローに回しましたね。
とにかく一つの所に固まっていると魔法の餌食になってしまいます。
バラけて、小隊単位で動きながら戦うしかありません。
しかしそれはこちらの戦力を分散させるということでもあり各個撃破されやすくなるということでもあります。
ましてや相手はスケルトンナイト(C)程度ならばともかくリッチ(A)やネクロマンサー(B)などもいる。
リスクが大きすぎる、でもやらないわけにはいかない。そうした決死の攻撃をするはめになったのです。
魔法を無視した突貫は確かにアンデッドたちに近接攻撃が届くところまで辿り着きましたが、同時に多くの味方を失いました。
すでにヴィクトリアさん、ラージャさん、パトラさんの配下はほとんどおらずクイーンの独力で戦っているようなものです。
エメリーさんから貸与されている魔竜剣もありますし近接もできないことはないと。
強いて言えば高位アンデッドの闇魔法がエメリーさんに向いていることで戦うのは弱いスケルトン部隊のみということなのですが……とは言え数が多すぎる。
いくらクイーンが眷属となっていても、エメリーさんから訓練を受けていても、異世界武器を持っていても、Bランクの魔物には違いないのですから。
『キャアッ!』
『ヴィクトリアッ! くっ……! アスラエッジ、右のフォローに行きなさいッ!』
『サジタリアナイト、正面を守って! あたしが今回復薬を……うわあっ!』
『チッ! ふざけんじゃないわよこの骨どもがあッ!』
クイーンの皆さんは本当によく戦っていました。
魔法を失い、陣を失い、配下を失い……それでも残った味方と連携し、アンデッドの群れを次々に斃していったのです。
でも……それでも……。
『ヴィクトリアッ! ラージャッ!』
『かはっ……! ナ、ナイトメアクイーン……私たちの武器……お願いするわよ……あとは任せるわ……』
『パトラッ! くそっ……! 者共奮闘せよ! 絶対に負けるわけにはいかんぞッ!』
やがて地上に残るクイーンはナイトメアクイーンだけとなりました。
彼女は三本の魔竜剣を拾い、右手にラージャさんの魔竜斧、左手にヴィクトリアさんの魔竜槍を携えて戦い始めたのです。
眷属化していないとは言えナイトメアクイーンは近接戦闘が得意なヴァンパイアの女王。Sランクの固有魔物です。
その彼女が文字通りに暴れ始めました。
鬱憤を晴らすような蹂躙。それは見ていて悲しくなるような戦いでした。
空は空で厳しい戦いが続きます。
ウィッチクイーンに率いられた敵部隊は自由に魔法を放ち、こちらの飛行部隊はそれを掻い潜り、特攻してぶつかるしかできない。
本来の戦い方とはかけ離れた無謀な戦術は、味方の命を犠牲にしつつも確かに打撃を与えていました。
ターニアさんは攻撃力こそありませんが敏捷の高さは随一です。
その速度をもってダメージを与え続け、アデルさんのクルックーやセイレーンもそれに倣います。
私のほうのウィッチクイーンやルールゥなどは配下を動かしてそのフォローといった感じで戦っていました。
ウィッチ系統は魔力こそ高いですが敏捷も防御も高くはない。それは私がよく知っています。
だからこそ無謀な特攻が刺さったとも言えます。
被害は甚大でしたが、それでも何とか有利な状況を作り上げることに成功したのです。
しかし地上の戦いはどれだけ戦って、どれだけ味方を失っても、光明が見えませんでした。
エメリーさんの動きは見るからに遅く、手も動かしにくいのか思うように攻撃できていません。ギリギリで回避し続け徐々にしか進めない様子です。
一番攻めているのがジータさんですが敵の最後尾まではまだ遠い。
その最後尾にケィヒルさんと固有魔物のスケルトンの王、そしてエルダーリッチ(S)などが並んでいるのです。
魔法を使えない状態ではエルダーリッチどころかリッチすらも斃せるイメージが湧きません。そんなことはエメリーさんだって分かっているでしょう。
私もない頭を振り絞って考えていますが、打開策は全く見えませんでした。
どうしよう、このままでは……。
そんな私の焦燥を吹き飛ばしたのは――画面から聞こえたアデルさんの声でした。
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