248:総会後の反応は人それぞれです!



■セリオ・ヒッツベル 23歳

■第499期 Cランク【審判の塔】塔主



「残念ながら抜かされてしまいましたね」


「何が残念なものか。やっと抜いてくれたかと言いたいところだね」



 後期の塔主総会が終わった直後、ルサールカミリアからそんなことを言われた。もちろんいつもの冗談だ。



 【彩糸の組紐ブライトブレイド】の面々は軒並み驚異的なランキング上昇を果たした。

 【女帝】が25位、【赤】が30位、【忍耐】が54位、【輝翼】が59位、【世沸者】が70位、【六花】が110位。

 【女帝】と【赤】がBランクに上がり、【六花】がDランクに上がったと。


 おおよそ考えていたとおりではある。それにしてもランキングが高いとも思うが戦歴を見れば納得せざるを得ない。


 僕の【審判の塔】は72位だったので五塔に抜かされたわけだ。あくまでランキングでは、だが。

 だが実質的にもそう大差ないと思う。

 ランク上では【世沸者】より上だが僕が戦ったとしてもあの『知力の塔』を攻略できるとは思えない。


 そもそもあの連中より下にいるほうが狙われるリスクが減るので、抜かされるのはむしろ大歓迎なのだ。

 あの同盟が狙うのはいつも「自分たちより上の相手」だからな。下剋上しか興味ないのでは、と思ってしまうほどだ。


 また以前のように塔主戦争バトル申請でもされたら堪らない。

 興味を失くしてもらったほうがこちらとしては気が楽だ。



 そんなことより僕は自分のランキングが上がったことのほうが素直に嬉しい。

 前回が98位で今回が72位。

 三年目でこの成績は十分に誇れる、というか出来すぎなほどに高い。


 それが一部の規格外な後輩のせいで薄れているわけだが、普通に見れば優秀な成績といっていいだろう。これ以上望むべくもないほどのものだ。


 僕は自分のペースで着実に塔を強くしていく。

 あの連中に目をつけられない程度に、だ。それが今の目標だな。



「私は色々と残念でしたね。せっかく作った塔章も見せず終いでしたし」


「仕方ないだろう、それは! 僕だけ飾っていたら目立つじゃないか! 堂々と見せられるものか!」


「では次回のお楽しみですか。今回すでに真似している方がちらほらいましたからね」


「ぐぬぬ……」





■ドナテア 42歳

■第484期 Bランク【色欲の塔】塔主



「おいおーい! 抜かされちゃったじゃーん! どうすんだよー!」


「どうもするわけないだろうが。何ならアンタ一人で文句言ってくるといいよ」


「そりゃごめんだね! ヒャヒャヒャ!」



 あたしの塔は32位から26位に上がったわけだが、まぁ順当なとこだ。

 むしろ下がらなかっただけマシってもんだね。


 んで、あたしの一つ上に【女帝】がいるわけだ。驚いた反面、当然かとも思う。

 まぁ【魔術師】やら何やら斃せばそこまで高くなるってことだ。真似したいとも思わないね。



 ランクの方もBランクに並んだ。【女帝】と【赤】もね。

 二年目でBランクってのは異常も異常なんだが、まぁあいつらならアリかな、とも思っちまうよ。


 おそらく【女帝】に関してはあたしの塔より格段に強い。

 Bランク最上位か下手すればAランク下位程度の実力を備えていると見ていいだろう。


 付け入る隙は圧倒的な経験不足くらいなもんだが……【世界】のレイチェルと繋がっているってのがまた厄介なところだね。


 あの婆さんはバベルの生き字引みたいな存在だ。

 誰より経験があり、バベルのことなら誰より知っているだろう。

 それが【女帝】の経験不足をカバーしているとすれば、もう弱点なんてあってないようなもんだ。



 だからもう極力近寄らないと決めた。

 敵とは見られたくないし、かと言って味方と言われるほど近づきたくもない。

 ほどほどに離れて目立たないようにしていたいもんだ。

 まぁ情報が入る程度には近くにいたいけどね。


 そういう意味じゃジータがあの店に来てくれてラッキーだね。

 魔法契約はされているだろうが、あわよくば何か零すかもしれない。

 出来ればあの店を気に入って、ちょくちょく来店してくれるといいんだがねぇ。


 ま、それは神のみぞ知るってやつか。どっかの神様にでも祈っておくよ。





■レイチェル・サンデボン 70歳

■第450期 Sランク【世界の塔】塔主



「ほら、レイチェル様、やっぱり塔章流行り始めてますよ。うちも取り入れましょうよ。今からデザインを考えないと半年後に間に合いませんよ」


「やりませんと言っているでしょう。落ち着きなさい」



 セラは相変わらずあの飾りが好きなようですね。

 派手に飾り付けるというのは見栄えはいいのかもしれませんが目立ちすぎて目の毒です。

 私のような老人にそのような感性を押し付けないで欲しいものですね。


 それはともかく彼女たちが無事にランクアップできたようで何よりです。

 シャルロットさんにアデルさん、そしてシルビアさんもですか。


 アデルさんはギリギリだったと思いますがね。CランクからBランクへの壁は高いですから。


 もしかしたら神様の計らいかもしれませんね。

 シャルロットさんとアデルさんを一緒にしたほうが面白いと。神様なら考えるかもしれません。

 だから前期でシャルロットさんをCランク据え置きにした可能性もあります。



 あのお二人は共に才能豊かな若い塔主。

 全く違う個性を持ちながら共にあることで切磋琢磨し、共にいるからこそ成長できる間柄なのだと思います。


 彼女たちの場合、同盟そのものがそういった集まりではあるのですが、その中でもお二人は特殊ですからね。

 だからこそ二人同じランクにいるということが重要なのですよ。



 ただここから先は分かりません。

 Bランクの塔となれば今まで以上に成長の差がでるはずです。


 Bランクの塔というのはCランクまでのそれと異なり個性がより色濃く出るものなのですよ。


 今までの塔構成とは全く違うものになる場合が多いですし、そこに限定スキルも絡んでくる。

 配置する魔物を、自塔の強みを十分に活かすために画一化する場合もあれば、逆に多種多様にする場合もある。


 塔主のやり方一つで幾通りもの塔が創造できる――それがBランクというものです。



 ですのでシャルロットさんとアデルさんの今ある″差″がより広がってしまう可能性は十分にあると私は見ています。


 シャルロットさんは【女帝の塔】の常識を一つ打ち破ろうとしている。それが成功となるか失敗となるかは分かりません。


 しかし成功となった時、もしアデルさんが足踏みをしているようであれば……一年後にはAランクとBランクで分かれてしまっているかもしれません。



 私としてはアデルさんに是非とも頑張ってもらいたいところですね。

 それはアデルさんの為だけでなく、シャルロットさんと、ひいては同盟全体の為にもなりますから。


 私はこれからもアドバイスなどをしつつ彼女たちを応援していきたいと思います。





■アレサンドロ・スリッツィア 63歳

■第472期 Sランク【聖の塔】塔主



 【雷光】が6位、【鏡面】が27位、【鋭利】が51位か。

 全体的に成長はしているが四塔というのは寂しく感じるものだ。

 せめてここに【純潔】がいれば20位くらいに入っていたかもしれぬな……まぁ悔いても仕方ないことではあるが。



 今回の塔主総会はそれなりに見所があった。

 異常とも言える新塔主の脱落者の少なさ。

 【猛獣】のAランク昇格などもあったわけだが……やはり一番注目されるのは【女帝】と【赤】だろう。


 二年目後期でBランクというのは私も聞いたことがない。それほどの成長速度だ。

 まぁこの一年半でヤツらが斃した面々を見てみればそれだけTPを稼ぐのも納得というものなのだが、それにしても異常に速い。



 その原因が【女帝】であり、神定英雄サンクリオの亜人メイドであるというのも分かっている。


 いかに神定英雄サンクリオだとしても異世界の亜人をのさばらせておく訳にもいかないのだが、それ以前にあの同盟はドワーフや獣人を抱えている多人種同盟というのが気に食わないところだ。


 その上、バベリオの民から支持が厚いというのもまた厄介なところ。

 本当にこの街の愚民どもは何を考えているか分からん。

 人間が世界を回していることなど誰にも明らかなはずであるのに、亜人ごときと同等に扱おうとする。


 これを戒めるためにもあの同盟には早々に消えて欲しいのだが……この先、どの程度の成長を見せるかによるか。

 こちらも色々と考えなければいけない敵が多いのだから。


 【反逆】同盟の残り二塔、4位に収まり続けている【緑】、9位まで浮上してきた【悪魔】、それと【女帝】同盟、差し当たってはこんなところか……。


 調査しつつ、会議しつつ、順番に考えていかねばな。


 我らの人間至上主義を絶対のものとするために――。




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