190:シルビアさんも悩ましいみたいです!
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
『神様通信
本日行われた
【浄炎の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
「はあ?」
突然の通知は完全に『寝耳に水』のものだった。
私の同期、その中でも最も有力視されていた【浄炎の塔】がいきなり消えた。
あの【荒天の魔女】ダリアを擁していた塔が、だ。
しかも相手はアデル様も加入している【
アデル様が同盟塔の情報を私に漏らすことなどほとんどないから、私が知るのは冒険者時代に耳にしていた噂程度だが、それでも【世沸者の塔】がいかに特殊な塔かは知っている。
武力を用いない『知力の塔』。
その謎解きギミックは秀逸にして鉄壁。侵入者の最高到達地点も未だ二階層とかそんなものだろう。
Dランクの塔らしからぬ堅牢さはアデル様にして「Sランクの侵入者でも攻略は不可能」と言わしめるほどだ。
しかし今回の相手は【浄炎の塔】……というより【荒天の魔女】ダリアと言った方がいいだろうな。
過去に二回も
ダリアは生前、亡国の宮廷魔導士長に就いていたという。
戦闘力はもちろんのこと、頭も相当切れるだろう。馬鹿やコネで就ける地位ではない。
とは言え
さすがの【荒天の魔女】であっても厳しかったということだろう。
ただ【世沸者の塔】がどう勝ったのかは気になる。
ダリアが攻撃陣――謎解きをしたのだろうと想像はつくが、【世沸者の塔】側も【浄炎の塔】を攻略したはずだ。
【浄炎の塔】にダリアがいなくとも、そのダリアが監修した塔構成と魔物がある。防衛力は相応だろう。
武力を持たないという噂の【世沸者】がいかに攻略したのか……。
気になった私はアデル様に祝辞のお手紙を送るついでにお会いする約束をとりつけた。
翌日、さっそく『会談の間』でお話をお聞きすることができたのだ。
「【浄炎の塔】の最大の弱点はそのダリアですわ」
「えっ……」
「もっと言えば最大戦力にして塔運営の頭脳である
いきなりそんな話から始まった。
【世沸者】がいかにして勝ったか。その要因は【浄炎】とダリアにあると。
「ダリアは良くも悪くもバベル、塔主、塔運営、そして
「はい。
「その優秀さ故、ダリアに頼り切ってしまったというのがエキルの間違いですわね」
それはエキルを責められない、私はそう思う。
右も左も分からない塔主となって何でも知っている英雄が傍にいれば頼るのが普通だろう。
しかしアデル様はそれがそもそもの敗因だと仰る。
「ダリアとて知らない事は多い。レイチェル様でさえ知らない事は多いと仰るのですから、たった二回の経験などないも同じです。まぁ新塔主からすれば確かに豊富な知識なのですがね」
「それは確かに……知れば知るほど分からなくなるという感覚がバベルにはあります」
「ダリアは自信家で好戦的な性格です。しかしエキルはそんなダリアの考えを全面的に尊重してしまったわけです」
知らないとは言わない。知らなくても己の力で打開できる。そういう思考か。
ダリアほどの力と頭があればそれで何とかなっていたのかもしれないな。
過去二度の敗北がどのようなものだったのかは分からないが。
「ダリアはまず【六花の塔】を潰したかったはずです」
「……やはり目の仇にされましたか。しかしそれならば私に申請すればいいのでは」
「却下されると思ったのでしょう。それか単純にランキングなどで勝るために据え置いたのかもしれませんわね」
塔のランクや後期のランキングを気にする性格か。
よくいるタイプと言えばそれまでだがダリアがそうだったのかは分からないな。
「それで【世沸者の塔】を狙う意味がまた分かりませんが」
「それこそ【六花の塔】以上の戦果を狙ったのでしょう。【六花】は【死滅】を斃して早々と三連勝ですし、一つランクが上で一番人気と言えば【世沸者の塔】を選ぶのも分かります。今最も価値のあるDランクでしょうから」
それは否定しないが、いくらなんでも【世沸者の塔】は……自信家にしても暴挙と思えるがな。
【
まさか下調べしていないはずもないし、それでよく勝てると踏んだものだ。
「【世沸者の塔】を見くびっていたのは間違いありません。おそらく持っていた情報は同盟で一番弱いだとか、スライムばかりだとか、謎解きが難しい以外はネガティブなものばかりだったでしょうし」
「それでも戦歴があります。【風】同盟や【傲慢】同盟が
「我々はどうしても【
「そ、そんな……!」
「卑下するつもりはありませんわよ?
ダリアが情報を集めようと思っても「同盟で最弱」という印象が真っ先に上がって来るというわけか。
何しろ情報を与える側がそう思っているのだから。
そこからどれだけ深掘りできるか、だろうな。それは情報の入手手段と経験がものを言うだろう。
「ダリアにとって【世沸者の塔】は未知の塊みたいなもの。今までの
「知力勝負の塔など五百年の歴史でもないでしょうからね」
「それだけではないですわ。我々の昨年の戦績も信じられないでしょうし、Dランクの【世沸者の塔】が想定以上の戦力を持っていることも信じられないでしょう。ダリアは『どれほど強くても二年目のDランクの塔ならばこれくらい』という物差しで測っていたはずですから」
なるほど。それが『ダリアの経験が弱点』といった部分か。
どういった流れで、どれほどのスパンで、どれだけ強大な敵を打ち倒したのか。印象が存在しない。
だからこそ過去の経験で判断する。
普通のDランクの塔であればボスはBランクの魔物。どんなに強くてもAランクの魔物が一体とBランクが数体程度か。
私の冒険者としての経験ならばそう考えるな。
ところが実際はそれを上回る戦力を保有していると。あの武力を有しない【世沸者の塔】が。
「我々の同盟は他とはおそらく違いまして、
「えっ、貢献度によって差をつけるのではないのですか」
「ええ。【傲慢】同盟の時は二〇万近くのTPが入りましたわよ。もちろんノノアさんにも」
「なっ……! に、二〇万……ですか」
同盟内で均一な戦力など存在しない。必ず貢献度の差はあるはずだ。
強敵との
同盟とはそういうものだ。利用しあう関係性。
【世沸者】は鉄壁の防御力を持っているからこそ【
市井の噂ではスライムとせいぜいがフェアリードラゴン。
それに【千計】から得られた戦力を加味しても、とても【傲慢】同盟と戦える戦力ではない。
しかし二〇万ものTP報酬を得ているとすれば、Aランクの魔物を何体も持っていておかしくはない。下手すれば固有魔物を召喚し、眷属化している可能性すらある。
そんなDランクの塔などあってたまるか……と私は思ってしまったのだが、おそらくダリアも同じ気持ちなのだろうな。
「同盟とは不平等なもの、二年目のDランクの塔の戦力はこれくらい、そういった過去の経験による固定観念があったのでしょうね。そこに自信家で好戦的な性格を付け加えれば、ダリアが【世沸者の塔】を狙った理由にもなりますし、同時に敗因にもなりますわ」
「せめてもっと情報を収集しておけば……」
「どうでしょうね。それで申請を取りやめることはできますが、いざ仕掛けるとなっても戦力の把握までは出来ませんわよ。おそらくわたくし達の保有している戦力は想像の数倍でしょうし」
そ、それは……きっと私の想像の数倍でもあるのだろうな。
【傲慢】同盟を斃した戦力に加え、報酬で五塔ともに二〇万ものTPを得ているとすれば……ちょっと想像がつかない。
CランクやDランクでいるのが詐欺に思えるほどだろう。
これでまだ二年目とは……末恐ろしい。
アデル様の近くにいる私の環境は思っていた以上にありがたいものなのかもしれないな。
「まぁ何を考えても実際に事は起こり、そして【浄炎の塔】は消えたと。その事実は変わりませんわ」
「そうですね……」
「これで501期は【六花の塔】の一強となりましたわね」
「それは……どうでしょう。【星の塔】や【月の塔】が黙ったままでいるとは思えませんが」
「力を得るには時間が掛かりそうですけれどね、あの二塔は」
例えダリア要する【浄炎の塔】が消えてもまだ501期には
歴史的価値を見るだけでも油断はできないのだが……どうやらアデル様は色々と掴んでいるらしい。
どこまで目耳が広いのだ、この御方は。それが恐ろしくも感じる。
「ただまぁ今後【六花の塔】がより注目されるのは間違いないですわ」
「はい、心しておきます」
「そこでご相談がありますの」
相談? アデル様が私に改まってそんな事を仰るとは……またどこかに
「シルビアさん、貴女【
…………はあ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます