271:それぞれに思惑があるようです!
■ファモン・アズール 35歳
■第493期 Bランク【轟雷の塔】塔主
「は? 【女帝】から
いきなりの同盟通信にてカラーダイス殿からそんなことを言われた。
【女帝の塔】から【空白の塔】に
『なぜ【空白の塔】を……? 理由が分かりませんな』
『ええ、あまりに不可解だったのでまずは相談をと』
「【女帝】から恨みを買うようなこともないですしね」
【女帝】というか【
少なくとも私たちの調べではほとんどの場合、そのどちらかが理由と言われている。
しかしカラーダイス殿は別に人種差別をしているわけでもなく、大商人として誰かを陥れるような真似をしているわけでもない。
実際のところは本国や裏ではやっているかもしれないが、身近にいる私ですら分からないのだから【女帝】が知る由もないだろう。
数ある塔の中でなぜ【空白の塔】が標的にされたのか……全くもって分からない。
しかも【
『まぁ普通に考えれば却下の一択でしょうな』
『やはりドミノ殿もそう思いますか』
「私もそう思います。いくらなんでも
確かに【
我々が狙いやすいランクにいて、尚且つ最も価値の高い塔はそこだろうと。
とは言え【女帝】との
【六花】が相手ならば確実に勝てるだろう。【忍耐】が相手でもいい勝負になるかもしれない。
しかし【女帝】は荷が重すぎる。それを受けるのは首を差し出すのも同じだ。
私の【轟雷の塔】ならば勝算はあると思っているが……それでも
いずれにせよ【空白の塔】では厳しい。
『分かりました。残念ですが却下するとしましょう』
『まぁ向こうがこちらに興味を持ったというのが一つの収穫でしょうな』
「そうですね。何かの切っ掛けになるかもしれません」
返す刀で【六花】に申請するというのもアリかもしれない。
ますます【女帝】に目を付けられることになるかもしれないが、向こうがこちらに着目しているということはこちらの申請を受ける一因にもなるからな。
これも相談してみようか。
■シャルロット 16歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
「あー、やっぱり却下されましたね」
「まぁそうなるのが普通なのではないでしょうか」
第一候補の【空白の塔】からの返答は却下でした。
ターニアさんに調べてもらったところ鳥系の魔物が多く、さらには天使までいたのですよね。
【女帝の塔】に必要な魔物を確保するならここしかないと狙ってみたのですが……残念です。
これで天使部隊も確保できたら飛行系魔物不足に加えて神聖魔法不足も解消できると思ったのですがね。そう上手くはいかないようです。
飛べる回復要員というのはやはり魅力なんですよね。
ドロシーさんを見ているといつも思います。ウリエルさんとかスフィーさんとか。
「まだ一塔目が断られただけですから気を落とさないで下さい」
「そうですよね。気を取り直して次の塔に申請してみましょう」
数撃ちゃ当たる、というと言い方が悪いですがまだピックアップしたCランクの塔はいくつもありますし、そのどれかが受理してくれれば御の字です。
それを繰り返して【女帝の塔】の戦力を増やすと。
召喚報酬だけでは一時しのぎかもしれないですが、今はそれで一応の完成形を目指します。
うーん……自分で言うのもなんですがバベルの塔主っぽくなってきましたねぇ……。
■ファモン・アズール 35歳
■第493期 Bランク【轟雷の塔】塔主
「えっ!? 今度は【氷海の塔】に!?」
【空白の塔】に申請が来たのが昨日のこと。
それを却下したと思ったら、今度はすぐに【氷海の塔】宛てに申請が来たらしい。
『最初から狙われていた、ということですかな。私の塔だけでなく我々の同盟が』
『ええ、そうとしか考えられませんな。【女帝】は我々を潰そうとしている。まずは私の【空白】、次はドミノ殿の【氷海】だと』
「なぜ【
それが不可解だ。
理由は分からないものの、私たちの同盟を狙うという意図は分かった。
しかし同盟を潰そうと言うのであれば同盟で当たるべきだろう。
なにも
まぁ仮に【
少しでも却下される可能性を減らすために
いや、それでも【女帝】から申請されたCランクの塔など普通は却下するだろう。
『我々は潰したいが【轟雷】とはやりたくないということなのでは? だから
『そんな安直に考えますかね、あの【女帝】が。……いや、戦歴はどうあれ実質は年若い街娘ですから浅慮であっても仕方ないのかもしれません。しかし……』
「ええ、どうしても穿って考えてしまいますね。何か裏があるのでは、と」
【女帝】シャルロットが元々ただの街娘というのはよく聞く話だ。
それが塔主に選ばれ、
周囲の同盟者にも恵まれ、それが規格外の戦果を得る一因となっている、と。
器や才があるのは分かっている。
しかし若年の塔主で経験が浅いのは紛れもない事実だ。
少なくとも策謀を巡らせる老獪な塔主ではないだろう。
貴族である【赤】の入れ知恵という可能性もあるのか?
それならば何かしらの策を持って私たちに仕掛けたということも考えられるが……ならば【女帝】単独で動かす意味が分からん。
やるとすれば【赤】自身で動くだろう。そのほうが申請も受理されやすいだろうし。
……考えれば考えるほど分からなくなってくるな。
『一先ず分かっているところをまとめましょう。【女帝】が【空白】と【氷海】を狙っていると』
『【轟雷】をどう見ているのかは不明。それと【
今現在の状況ではそれくらいしか分かっていない。
疑問点が多すぎるのだ。
却下するだけならば簡単なのだが私たちの同盟が狙われているという現状で、理解できない点が多いというのは不安要素しかない。
その一方で【女帝】が申請してきているという状況を美味しく思う部分もある。
最も価値のある塔が向こうから「戦いましょう」と言ってきているのだ。出来ることならば狙いたい。
しかし【空白】や【氷海】が相手するには厳しいし、私に申請してきているわけでもない。
「……いっそのこと【空白】と【氷海】、同時に
それならばまだ望みがある。
【女帝】はその二塔を狙っているのだし、こちらに希望が出てくる。
三塔が共に戦えるのであれば【女帝】であろうと勝ちは濃厚だ。
『それが出来れば苦労はないですが……そのような形式の
『
少し意外だったがカラーダイス殿もドミノ殿も前向きに検討しはじめた。
私としては申請もされていないのに横入するような真似だったので躊躇したのだが。
だがお二人もこれを「【女帝】を斃す機会」と捉えているのだろう。
狙いたい相手が首を差し出していると。
ここを逃してはいけないと思うのは商人の性だ。
「そうなると今後は【女帝】がそんな条件を受けるのかという問題が出てきます。明らかに不利になりますからね」
『そこは条文次第でしょうな。我々の腕の見せ所ですよ』
『商人としての交渉力ですか。まさか【女帝】を相手にするとは思いませんでしたがね』
双方共に妥協点を探るような戦い。その前哨戦で
互いに「これなら勝てる」と思えるような条文でなくてはそもそも戦場に立つことすらできない。
その中に勝算を得られる策をどれだけ張り巡らすことができるのかというのが鍵になる。
【女帝】に「これなら勝てる」と思わせることができるのか。
その裏をどれだけ突くことができるのか。
その為の条文はどのように作ればいいのか。それを考えなければ。
『まずはこちらに有利すぎる条文を作りましょう。そこから徐々に値切らせます』
『常道ですな。線引きはしっかりしておきませんと。損するわけにはいきませんぞ』
おそらく何度も条文を詰めるやりとりをすることになるだろう。
その中でこちらの有利性を徐々に薄めていき、【女帝】が妥協するラインを見極める。
その妥協点が私たちにとって有利性を保ったままであれば即ち勝ちだ。
【女帝】は自分が勝てるように値切ったつもりでも、実際はこちらに利益が出ていることになる。
では相談しつつ作ってみようか。
――【女帝】に高く買わせるための商品を。
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