383:【忍耐の塔】vs【針葉樹の塔】始まります!
■ドロシー 25歳 ドワーフ
■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主
――カラァン――カラァン――
『時間だよー、二人とも準備はいいかなー?』
「はい」『はい』
『じゃあ始めるよ!
神様の号令で
ウチは隣に立つウリエルと共に画面を見つめる。
申請が来てから色々と相談もしたし、ウチはウチであれこれ考えた。
こう来たらこうしようみたいなのを一通り考えて、まずは″見″から入ることにした。
そうして転移門の様子を見てみれば――。
「すんなり入って来よったな」
「随分と攻め気がありますね。自塔での戦いを優先しないとは」
単なる先遣部隊じゃないのは一目で分かる。なんせその陣容が――。
=====
弓使いの固有魔物(?)1、天使(おそらく★A)2
ブライトイーグル(B)10、エアリアルクロウ(D)50
=====
Aが1、Bが10、Cが30、Dが50、固有魔物が3……計94体。
弓使い以外は浮遊と飛行という尖った編成の攻撃陣やった。
色々と不可解な点がある。
地上部隊が弓使い一人ちゅうのはおそらく【忍耐の塔】の罠を警戒してのことやろ。
それにしても壁役もいないし、斥候も物理攻撃も足らん。まさか弓使いだけでどうにかするつもりなんか?
それと数が少なすぎるし弱すぎる。こんなん「固有魔物頼りですよ」と言うてるようなもんや。
エメリーさんクラスなら一人でBランクの塔も攻略できるかもしれんけど……。
いや弓使いがSランク固有魔物なら
せやったら攻略を弓使い一人に任せて、天使や飛行部隊はそのサポートに留めると、それも可能かもしれん。
そのまま一階層を攻略し始めた敵攻撃部隊を見ていたけど、案の定、弓使いを一人突出させたような布陣をしていた。
どうやら弓使いは斥候系魔物らしく<罠察知>も<気配察知>も持っているらしい。それはすぐに分かった。
おまけに弓の射程が長く、狙いも正確で、見るからに威力が高い。
ああ、これはSランクに違いないな、とウチが思うには一階層分も必要なかった。
「ウリエル、あの弓使いを<鑑定>しときたいんやけど出来ると思うか?」
「やれと仰るのであれば是非もありませんが、【青】の時よりも難しくはなると思います。空に逃げてもおそらく射貫かれますから、防御しながら下がるという感じになるのではないでしょうか」
「なるほど……三階層でガーゴイル(B)に守らせながらやってみるか。危険と判断したら近づかんでもいい」
「承知しました」
シュルクエールはこの弓使いに全幅の信頼を寄せているはず。間違いなく【針葉樹】の最高戦力やろ。
この魔物を召喚したから次々に『天使の塔』に申請し、
だから【忍耐の天使ウリエル】がいるウチや格上の【聖樹の塔】なんかにも勝負を仕掛けられたに違いない。
さてどうする。弓使いは探るとして、このまま防衛前提でいていいものか。
仮にあの弓使いがスカアハ並みの斥候能力を持っていたとしたら、【忍耐の塔】の罠はほとんど無意味や。
『<罠察知>殺し』や『分かっていても進まざるを得ない罠』なんかもあるけど、地上部隊が弓使いだけならほとんど被害もないやろ。
足止めにしたって少数精鋭でほぼ飛行部隊やし、ただでさえ早い行軍速度が多少遅くなる程度しか見込めん。
六階層の
であれば階層移動のできないスクイッシュドラゴンは隠しておいて、フワリンは七・八階層に集めておくか。
九階層のウリエルと
これで八・九階層の『大広間』には巨兵ティターン(S)とウリエル部隊、フワリン部隊、キラリン部隊が揃う。
問題は
向こうが完全防衛策に出るんならそれに加えてウリエルとフワリンの部隊も組み込むつもりやったけど、互いに攻め込む感じならスフィーとパルテアに任せようと。
ただ弓使いが相当強いSランク固有魔物となると……安全に行くべきかもしれん。
敵の主力が★S、★A、★A、Aという感じで、八・九階層に集めるウチの部隊が★S、S、A、Aという感じ。
そこにスフィーとパルテアが入れば万が一にも負けん。
弓使いが斥候職として優秀すぎて、尚且つ行軍速度重視の編成やったのが誤算やったな。
これじゃあ互いに攻め込んだとしても攻略速度で負けてまう。ただでさえ向こうはBランクで全十五階層やし……まぁ連結階層が多いから行けるかなーと思ってたけど。
「スフィー、パルテア、防衛策にするわ。部隊を『大広間』に布陣させといてくれ」
『了解』『ヘルキマイラとリザード部隊はどうしますか』
「それは一階層に隠したままでいい。攻撃に使うからな」
『承知しました』
「フワリンとキラリンも『大広間』で戦うで。フワリンはスクイッシュドラゴンを迷路のほうに隠しといて」
『ん』
ちゅうわけでこっちは完全防衛策に変更や。【忍耐】は【忍耐】らしくな。
◆
敵攻撃陣は順調に【忍耐の塔】を攻略していく。
やっぱり罠はほとんど意味がないけど、自動的に発動するような罠は<罠察知>でも回避不能やし、後衛や飛行系魔物を狙った罠も発動することがあった。
最前線で斥候一人ちゅうのはいくら強くても限界があるちゅうことやな。色々と収穫になる。
でも数が少ないから嵌ることも少ないし、回復役の天使がおるから数を減らすことは出来ん。毒も無意味や。
やたら遠くの敵まで発見してはすぐに弓で殺すし、下層におる低ランクの魔物じゃ近づくことも出来へん。
そうしてすいすいと攻略していくのをウチはずっと観察しとった。
三階層『湿地』。敵が草むらで視界が悪くなっているところを見計らって、ウリエルは空から近づいた。護衛にガーゴイル(B)を二体並べて。
【青の塔】と戦った時にも
ベンズナフも凄腕の暗殺者っぽかったけどな。ウリエルはそれより怖く感じたっちゅうことや。
実際その予感は当たった。
弓使いが見つけたのか飛んでいる天使が見つけたのかは分からない。ウリエルの存在はかなり遠い時点でバレた。
弓使いは即座に二本の矢を射って、まずは壁役となっていたガーゴイルを即座に殺す。
しかも正確に胸を射貫いとる。ゴーレム系の急所であり、一番硬いはずのそこを矢一本で。
クラウディアさんも言うてたな。ゴーレム系を斃すなら急所を斬るではなく突くような攻撃が望ましいと。
それが今画面の中で展開されているわけやけど……どんな矢やねん! どんな攻撃力やねん! と突っ込みたくなる。
ガーゴイルかて硬質の岩みたいなもんやぞ? それが矢に貫かれるという事実に頭が痛くなる。
護衛を喪ったウリエルはそれでも前に出た。
<鑑定>の出来るギリギリまで近づき、あとは盾で防ぎながら即座に後退した。
さすがは防御特化の大天使……やと思ったけど、飛び回るウリエルの翼に一発くらっていたらしい。ホンマにどんな精度やねん。
傷自体はウリエルが自分で回復しとったけど、改めて危険な存在だと分からされたな。
<鑑定>出来たのは弓使い一人だけ。本当は天使も見ておきたかったけどさすがに無理やった。それにしても大手柄やけどな。
名前は【聖弓姫アタランテ】というらしい。
ステータスは器用・筋力・敏捷の順で高く、体力と魔力が低い。Sランク相応といったところ。つまりSランク固有魔物で確定やな。
スキルは斥候系スキルと弓スキルが多く、一応神聖魔法も使えるらしい。
【聖弓姫】ちゅうくらいやから使えてもおかしくはないけど、魔力の低さを見るにそっちはおまけみたいなもんじゃないかと思うとる。
「おそらく<気配察知><鷹の目>で索敵し、<精密射撃><一点突破><狩人の心得>あたりを使って攻撃しているのではないでしょうか」
「他にもよお分からん弓スキルがあるのが不気味やな。ティターンが一撃で斃されたら洒落にならんで」
「しかし弱点も分かりやすいですから、戦い方次第で確実に勝てます」
いつになくウリエルが力強い。一撃喰らったから逆にやる気に満ちてるみたいや。
弱点は近接やろうな。遠距離はアタランテの本分。そこでの勝負やと攻撃速度と攻撃力で不利になる。
しかし近づいてしまえば防御力もないし、敏捷もそれほど高くない。
せやからどうにかして近づければ……ってとこやな。
「ウリエルとパルテアを組ませるか」
「はい、それが一番確実かと」
最硬のウリエルと最攻のパルテア、ウチの二枚看板を当てる。これが考えうる最高の形や。
アタランテさえ斃せば【針葉樹の塔】を斃したのも同じやろ。それほどの魔物や。
【忍耐の塔】の全力をぶつけたる。その上で【針葉樹の塔】を攻め落としたるわ。
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