第十三章 女帝の塔はBランクになりました!
249:女帝の塔、Bランクデビューです!
■セフロス 25歳
■Bランク冒険者 パーティー【九極幻想】所属
バベルの塔主総会が終わり、冒険者ギルドの中は早速とばかりにお祭り騒ぎになっている。
お目当ての塔のランクアップを受けて、というのもそうなのだが騒ぎの主な原因は″賭け″だ。
どの塔がランクアップするかを賭けるというよくある。半年に一度の恒例行事のようなものだな。
当然のことながら【女帝】率いる【
この一年で一番熱かったのがどの塔かと聞かれれば誰だって【
それくらい話題を振り撒いたし、ニュースを与え続け、人気を得続けていた。
これだけの戦果を挙げているのだからランクアップは間違いない。そう予想する者は当然多く、オッズもかなりの低倍率となっていた。
逆にランクアップはないだろうと予想する者もいる。それはキャリアがある冒険者ほど多い。
いくら戦果を挙げていようがまだ二年目には違いないし、二年目後期でBランクというのは過去に類を見ないものだ。
だからこそランクアップはしないだろうと、それもまた正しい意見だと思う。
実際に歴史的速度でSランクに上がった【黒の塔】でさえ、一年目後期でDランク、二年目後期でCランク、四年目前期でBランク、五年目後期でAランク、そして八年目後期でSランクとなったのだ。
普通、Bランクに上がるだけでも十年近くは掛かるとされ、そこから先に上がるのもまた長い道のり……というのが歴史に見るバベル塔主の在り方なのだが、【黒】のノワールはそれを何段飛ばしかで駆け抜けた。
八年でSランク到達というのは前代未聞の記録であり、並び立つ者など今後出て来はしないだろうと誰もが思っていたのだ。
ところがその記録を大幅に塗り替える可能性を持つ者が現れた。しかも複数塔――同盟で、だ。
【女帝】【赤】は二年目後期でBランク到達。
たった二年前ならば誰も信じないような記録であることは間違いない。
【忍耐】【輝翼】の二年目前期でCランクというのも【黒】を上回っているのだが【女帝】【赤】のせいで印象が薄くなってしまっているという異常事態。
だからギルドが騒がしいのも無理はないと、こういうわけだ。
ちなみに俺はランクアップしない方に賭けた。だから当たって浮かれている連中を遠目に睨みつけてやっているのだ。ちくしょうめ。
俺はパーティーで話し合い、次の目標を【女帝の塔】に決めた。
以前は【霧雨の塔】に挑戦していたし、そこを潰された恨みも多少はある。
賭けに負けた恨みも多少はある。それは否定しない。
だがBランクに上がったばかりの塔に挑むというのはBランク冒険者として当たり前の考えだし、今までさんざん話題になっていた【女帝の塔】を見てみたいという楽しみもあった。
もちろん【赤の塔】にも挑むつもりではいる。しかしまずは【女帝】だろうと足を運んだわけだ。
総会の翌日・翌々日を休塔日にしたらしい【女帝の塔】は営業再開するなり朝から満員御礼といった様子の賑わいを見せていた。
Bランクの塔ではなかなかお目に掛かれない光景だ。
Cランクパーティーもかなりの数いるのだろうが、俺たちと同じように物珍し気なBランクパーティーも大勢いた。
転移門をくぐり入ってみれば、そこは『帝都』の街並み。
聞いていたとおりに家々は密集し、真っすぐ伸びる大通りは何か所も通行止めで塞がれている。
はるか先に見える正面――二階層への階段付近の壁には『女帝の城』が描かれ、ここが城下町であることを印象付けていた。
なるほど、これが噂の【女帝の塔】か。
一階層の創り込みからして一味違った拘りがある。
普通、どの塔も一階層というのは『お披露目の場』だ。
自分の塔はこういう塔ですよ、こういう魔物を置いていますよ、ふるい落とされない人だけ攻略して下さいね、と紹介するような塔構成にするものなのだ。
それが【女帝の塔】の場合、『ここは女帝の城の城下街ですよ』とだけ強烈に押し付けて来る。
魔物がどうとか、挑戦者の選別だとか、そういうのはお構いなしだ。とにかくコンセプトを強烈に見せている。
これが平野やある程度視界の拓けた地形だったならば最初から魔物を見せることができるし、屋内迷路にするのであれば斥候能力がある程度必要であるとか、そうした塔の特徴を見せることができるのだが、【女帝の塔】はそういうことを考えないらしい。
ただ「街の中を探索して城に辿り着け」ということははっきりしている。
一歩間違えば観光気分になりそうだが街並みを模した迷路には違いないだろうから、そこにどんな魔物や罠が仕込んであるか……それは探索しながら徐々に見極めるしかない。
「よし、行くか」
「「「おう」」」
流れる人波に混じるように俺たちは探索を開始した。
大通りは進めないので必然的に家と家の間の脇道に入ることになる。
道によっては三人が横並びで戦えないくらい狭い場所もあるのだから困ったものだ。
脇道には無造作に荷物が置いてあったりと、良く言えば生活感を演出しているのだが、悪く言えば邪魔でしかない。
そういった影に隠れて罠が配置してあるのだからまた厄介なものだ。
この同盟には罠が得意な【忍耐】も含まれているから、そこら辺の入れ知恵なのかもしれないな。
おまけにその罠と合わせるようにして魔物が配置されている。
前方に見える魔物の群れを避けるようにして脇道に入れば罠があるだとか、魔物を斃し終わって一息吐いたところに罠があるだとか、空き家が蜂の住処になっているだとか……何と言うか非常に手が込んでいるという印象だ。
俺たちが巡っていたBランクの塔というのは大抵が『大味』なもので、まず魔物の強さを前面に押し出す場合がほとんど。
地形の妙や巧みな罠というのは後から付随する要素にすぎない。
それが『Bランクという″力″を有した塔』の在り方だと思っていた。
【女帝の塔】のように見栄え重視の地形とそれに付随する魔物と罠の組み合わせというのは非常に新鮮だ。
魔物にしてもDランクが多いが、Eランクの魔物も上手い事使っている。
先ほど言った蜂――ビーナイト(E)や荷物の影から強襲してくるシャドウ(E)、サキュバス(D)の部隊にいるカンビオン(E)などもそうだ。
Bランクの塔でEランクの魔物というのは雑魚扱いに等しいので、罠や地形と組み合わせて上手く使われることはまずないのだ。
そういった細かいところで【女帝】の手腕が光っている。
魔物と言えば、飛行系魔物も一つ驚きがあった。
俺が持っていた情報では【女帝の塔】の飛行系魔物と言えば蜂かフェアリー(E)しかいなかったのだが、ハーピィ(D)が飛んでいるのを確認した。
別段警戒が必要な魔物ではないのだが、空に注意を払った結果、足元の罠に嵌るという場合もある。決して油断はならない。
Bランクに上がり天井高が9mになったことも影響しているのだろうか。これならばハーピィも使えると。
いずれにせよランクアップしたことにより『Bランク仕様の塔』になっているのは間違いない。
俺たちは【女帝の塔】初挑戦であり、今日のところは感触を掴むに留めると決めている。
攻略は二の次だ。今は【女帝の塔】がどのようなものかを知ること、これが重要だと。
そのつもりでゆっくりと進んでいたのだが……
「うわあっ!!」「に、逃げろおっ!!」
と、前から一組のパーティーが走って向かってきた。それは俺も良く知るBランクパーティーだった。
何者かから逃げているのは分かるのだが、そいつらの後を追って来る者はいない。
一体なんだと、無理矢理そいつらを止めて事情を聞いた。一刻も早く帰りたがっていたようだが関係ない。情報のためだ。
「どうした! 何があった!」
「どけっ! 死神メイドが追いかけてくるぞ!」
「落ち着けっ! 誰も追って来てはいない! 死神メイドとはなんだ!」
「
騒ぎながらも結局は俺たちの横を通り過ぎ、やつらは入口のほうへと走っていってしまった。
置いて行かれた格好の俺たちは顔を見合わせた。
【女帝】の
四本腕の異世界人で、戦えなさそうな見た目にも拘わらず実際は侵入者のことごとくを殲滅すると。そんな噂は聞いている。
そのメイドが現れたってのか? 一階層で?
疑問に思う中、パーティーメンバーの一人が「そういえば」と声を上げた。
「【女帝】がCランクに上がった時にもそんな話聞いたぞ。一階層の外壁の風景画はメイドが直接描いてるって」
「えっ、そうなのか? あの正面の城とかも?」
「らしい。んで絵描き中のメイドにちょっかいかけると殺されるんだってよ」
何なんだそれは……いや、あいつらも言ってたな。絡んだヤツは全員死んだと。
そりゃ
挑戦者からすれば斃さなきゃいけない敵だし、挑む気持ちも分からないでもない。
一方で塔側からすれば防衛のための最後の砦みたいなものだろう。
そんなのに絵描きの真似事をさせるのもおかしいし、挑戦者がバンバン入ってきている営業中に一階層に配置するのもおかしい。
何なんだこの塔は……。
二年目らしからぬ見事な塔構成と、理解できない
俺たちはこれからどれほど驚かされるというのだ……。
「……これ、探索は継続……でいいのか?」
「……とりあえずな。メイドはちょっかいかけないと襲って来ないらしいし……」
「……じゃあ、まぁ……進んでみるか……」
その後、探索は遅々となったのは言うまでもない。
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