68:いよいよバトルが始まるようです!



■ヴォルドック 26歳 狼獣人

■第490期 Bランク【風の塔】塔主



 ――カラァン――カラァン――



『はーい時間だよー! 準備はいいかなー! 始めるよー! 同盟戦ストルグ! 代表塔は【甲殻の塔】と【輝翼の塔】としての階層限定交塔戦クロッサー! 塔主戦争バトルスタートっ!』



 神の声で俺たちの攻撃戦力が転移門をくぐっていった。

 俺たちは【甲殻の塔】最上階に集まって宝珠オーブに手を置きつつ画面を広げる。


 玉座には俺の神定英雄サンクリオ、ディンバー陛下が笑みを浮かべて座っている。本来はタウロの玉座だがそんなものは関係ない。王が座るから玉座なのだ。

 壇下に俺たちは三人並びで、様子見しつつ指示出しだ。


 攻撃は総数百体を超える大部隊だ。陣容は以下の通り。



=====(★:固有魔物)


・総指揮官:セイレーン/S【風★】

・鳥部隊:ストームイーグル/B【風】、キラーオウル/C【暁闇】+鳥系魔物

・虫部隊:ミスリルヘラクレス/A【甲殻★】+虫系魔物

・精霊部隊:風精霊シルフ/C【風】+同族少数

・吸血鬼部隊:ヴァンパイア/A【暁闇】+ダンピール部隊


=====



 過剰戦力だとは思っている。少なくとも相手がDランクの塔と考えれば万が一の敗北もない。

 しかしこれは同盟戦ストルグだ。相手の最高戦力が揃っていることだろう。

 それを考慮して、高ランクの固有魔物まで投入したのだ。


 戦場が【輝翼の塔】というのも大きい。

 仕入れている情報では屋外地形の上、飛行系の魔物が多いらしい。

 それならば、特に俺の魔物は戦いやすい。ランク差も踏まえれば有利に戦えるだろう。



 おまけに【輝翼の塔】は二階層と三階層が連結されているらしいのだ。そこまでしか侵入を許していないのだが。

 飛行系の魔物を多用する塔に見られる塔構成ではあるが、この塔も類に漏れず使っている。


 となれば全七階層だったものが全六階層と同義になる。


 四階層以上でもう一度同じ真似をしているのなら全五階層だ。

 つまりランク差による攻略階数制限が全くの無意味になると。


 いずれにせよ【忍耐の塔】を攻略するより百倍マシ。

 今回の塔主戦争バトルに関して言えば、難易度は天地の差がある。


 向こうも相応の準備をしているだろうから油断はできないが、それでも期待の方が大きい。

 俺は自分の眷属に指示を出しつつ、部隊の出陣を見送った。



 一方、一階の転移門から侵入してくる敵戦力。

 並んだ俺たちの「はあ!?」という声が重なった。



「がははっ! よおし! 来たか!」



 機嫌がいいのはディンバー陛下のみ。

 敵の攻撃戦力は――三人の神定英雄サンクリオ、ただそれだけだったのだ。


 ここが普段の【甲殻の塔】だとして、たった一日で六階層から上を攻略するならばAランクパーティーでも無理だろう。

 規格外のSランク冒険者でも三人だけであれば攻略は困難に違いない。

 いくら英雄とは言え……いや、行けると踏んでいるから三人に絞っているのだろうが……。


 ジータに付いていける戦力が他にいなかったってことか?

 いや【女帝】のSランクもいるし、【忍耐】にも50,000TPで召喚した魔物がいるという話だ。

 下手すると【赤】もSランクを抱えていてもおかしくはない。


 そいつらは防衛戦力か? ならばこちらの攻撃戦力をもう少し厚くすべきか?

 しかし神定英雄サンクリオの力を見ないうちに戦力を削るわけには……。



 一瞬にしてぐるぐると思考が駆け巡る俺の背後で、ディンバー陛下が声を上げる。



「考える必要などないだろう。余があの三人を斃したのちに相手方に攻め込めばよい。此度の戦争は勝敗がつくまで終わることはないのであろう?」



 ……極論ではあるが正論だ。陛下が負けなければ勝つ。

 三人の英雄を同時に相手してどうかと言われると……いや、そんなことは言えないのだが。





■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 50歳 ハイエルフ

■第500期 Dランク【輝翼の塔】塔主



 塔主戦争バトル当日を迎え、シャルへの情報制限もほぼ解除した。

 アデルにも事前に相談したし、ドロシーにもバレたようなので昨夜のうちに話しておいた。

 さすがはドロシーじゃのう。シャルがちょっとアレなだけかもしれんが。


 自身にスキルが使われているとは言えぬが、こちらの戦術や戦力を隠し続けられるわけもないし、塔主戦争バトルが始まってしまえば向こうが対応できるとも思えぬ。

 おそらく画面を確認しながら指示出しと忙しいじゃろうからな。

 情報を集めつつ精査して指示を出し続けるというのは非常に困難なのじゃ。わしはそれをよく知っておる。



 そんなわけでわしの塔の最上階に皆が集まった時に、配置と戦術については簡単に説明した。細かいところはおいおいじゃな。



「まずはエメリーにこの紙を渡しておこう。向こうの情報じゃ」


「かしこまりました」


「エメリーさんはやっぱり攻め手なんですね。どんな情報書かれてるんです?」


「まあまあシャルロットさん、そちらはエメリーさんにお任せしましょう。あとでお教えしますわ。ジータとゼンガーさんにも攻めに回ってもらいますし」


「えっ、お二人も攻め手なんですか!? すごいですね、それは……」


「ええ。ですからわたくしたちはこちらで防衛戦力の配置決めを行いますわよ」


「わかりました」



 アデルは誘導が巧いのう。貴族の社交に通じるものがあるのじゃろうか。非常に助かる。

 さすがに【甲殻の塔】の全階層地図と全戦力を記した紙などシャルの視界に入れるわけにはいかぬ。

 それが覗き見されれば「全てを知られている」とバレるからのう。


 もうこちらにどの程度の戦力が集結しているかは把握できているかもしれぬが、その詳細までは分かるまい。シャルが把握できていないのじゃから当然じゃ。


 シャルの連れて来た戦力なんぞは丸裸じゃろうな。その持っている武器までは分からんじゃろうが。

 魔竜シリーズとか説明を受けなければ理解できないじゃろうし。



 そんなわけでシャルにはその存在が知られているであろう眷属とその配下のみに絞って集めさせた。

 クイーン三体というCランク塔主では規格外の戦力……のつもりだったんじゃが。

 まさか四体目のクイーンをすでに召喚しているとは思わなかった。


 本人曰く「ドロシーさんが秘密戦力を投入すると聞いていたので私も内緒で戦力をと思っていたのですが……」ということらしい。


 ドロシーの嘘を真に受けたのじゃな。まさか同盟内でブラフに掛かるとは思わなかった。

 まぁ嬉しい誤算ではあったのじゃが。



 もちろんアデルやドロシーにも戦力は出してもらっている。シャルのように隠す必要がない分、色々と相談しながら多めにな。


 ノノアに関してはどうしようかと思ったが――スライムと先日の塔主戦争バトル報酬しかおらぬからのう――何の力も借りないというのも逆に申し訳ないので十体ばかり準備してもらった。

 神造従魔アニマであるミミックスライムのペコの他に新たな眷属を創ったらしくてのう。そやつらには一仕事お願いした。



「ノノア、ペコはある意味ラスボスみたいなもんじゃから最上階にいてもらうぞ」


「は、はいっ! 分かりましたっ!」



 抱きかかえられて潰れそうじゃのう。己の神造従魔アニマを大事にするあまり殺しそうじゃな。


 ペコはいざとなった時、宝珠オーブに擬態してもらうつもりじゃ。

 最上階に上がってきた敵方の目の前に置き、ペコを狙ったところで隠れていた塔主五人が仕掛けると。

 まぁ最上階まで迫られたのならほぼ負けなのじゃが、イタチの最後っ屁というやつじゃな。奥の手は持っておきたい。



 攻めはエメリー、ジータ、ゼンガー爺で問題ない。

 なんならエメリー単騎でも大丈夫そうに思うが【風】の塔主のスキルも全てが判明しているわけではない。

 シャルからエメリーの情報が余計に流れているとすれば単騎で向かわせるのは愚策じゃ。


 おまけに【白雷獣】がおるからのう。あれはわしでも知っている歴史的な英雄王じゃ。

 セブリガン獣王国の何代か前の王じゃな。


 力を奉ずる獣人の国で、王が弱いわけがない。

 その歴史の中でも【白雷獣】ディンバー王は侵略を繰り返し、今現在の獣王国の領土を手に入れたという。しかも王自ら前線に立って。

 他国からは畏れられ、獣人には英雄と称される。それがかの神定英雄サンクリオじゃ。


 ジータと戦ってどちらが上なのかは分からぬ。時代が違うし、わしが二人の力を知っているわけではないからのう。

 しかしエメリーとゼンガー爺がいれば安泰じゃろう。心配するまでもないわ。



 というわけでわしは防衛の方を注視すべき。

 自分の塔で皆を戦わせるんじゃからな。下手な運営をするわけにはいかぬ。


 敵方の攻撃戦力はすでに把握しておる。

 しかし百体を超える部隊にSランクの魔物までいる。

 どう攻め込んでくるのか、どう戦うのか、それは実際に見てから判断するしかない。


 まずは様子見。とりあえず虫と鳥を向かわせてみるかのう。



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