299:同盟の皆さんで忘年会です!



■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主



 年の終わり。我々【彩糸の組紐ブライトブレイド】は営業終了後に【女帝の塔】へと集まった。

 一年の労いを込めて皆で食事会を行うということだ。


 広いリビングには所狭しと料理が並ぶ。これをエメリー殿お一人で作っているとすればいつから仕込んでいたというのか。

 この日ばかりはグラスに注ぐのも果実水ではない。高級なワインだ。

 おそらく【強欲】か【傲慢】か【魔術師】あたりから接収したものだろう。エメリー殿の家探しは半端ではないそうだからな。



 ちなみに【女帝の塔】にも宝物庫のようなものがあるらしい。

 斃した塔から接収したものを保管するための部屋だそうだ。シャルロット殿曰く「置き場に困ったので」と納屋感覚で作ったそうだが私はその中を見た事がない。


 しかし見ずとも想像はできる。おそらく金銀財宝の山だろうとな。

 なにせ斃した相手が金持ちばかりなのだ。そこから根こそぎ接収したとなれば相当なものだろう。



 ともかくこの日ばかりは普段酒を飲まないシャルロット殿やノノア殿も乾杯くらいはと用意されていた。



「ではアデルさん、音頭をお願いします」


「なぜか毎回わたくしがやるのが恒例になってきましたわね。まぁいいですわ」



 まんざらでもないらしい。アデル様の表情はそう物語っている。



「今年も一年、色々とありました。塔運営には苦労し、困難な塔主戦争バトルでは幾度も死を感じることがありました。まずは皆様が無事に生き残っていることをお慶び申し上げます」



 なんとも物騒な前口上。しかし本当のことだから困った話だ。バベルの塔主とは冒険者以上に″死″が身近なものだからな。



「とはいえ我々の塔も苦労をバネに発展を続けて参りました。シルビアさんが加入し、ランクも上げ、塔の力も同盟としての力も着実に成長しています」



 私からすれば幸運なことこの上ない。

 アデル様に目をかけて頂き、皆様に認めて頂いたからこそこの場にいられる。

 これでもし今も孤独に塔運営をしているとすれば、すでに死んでいてもおかしくはない。ただただ感謝だ。



「おそらく来年以降、同盟戦ストルグの機会は減るでしょう。しかし歩みを止めず、上を目指し、共に進んでいけるものと期待しておりますわ」



 表面化している敵で同盟となると【聖の塔】同盟と【節制】同盟くらいらしいからな。

 さすがにあれらの同盟と同盟戦ストルグなど出来ない。申請が来ても却下するだけだ。

 【聖】同盟などSランク2位の【聖の塔】とAランク6位の【雷光の塔】、どちらか一塔だけでも相手にならないだろう。



「では我々【彩糸の組紐ブライトブレイド】の今後益々の発展を願いまして、乾杯!」


「「「乾杯!」」」



 うん、非常に美味いワインだ。おそらく実家の侯爵家でも出ない類のものだろう。

 ドロシー殿やジータ殿はそれをガブガブ飲んでいるが……勿体なく感じてしまうのは私だけだろうか。



「せっかく美味しいワインですのに、もうちょっと味わって飲めませんの?」


「こういう時じゃねえとたらふく飲めないだろうが。これでも味わってるつもりだぜ」


「せやせや。ウチかていつもは自重してんねんから」


「ドロシーさん、いつも報酬の振り分けでお酒多めに渡してるじゃないですか」


「あんなんとっくにないわ。ドワーフにとっちゃ酒は水みたいなもんやからな」



 なんとも豪快なことだ。いつもTP不足に悩んでいるのはお酒に変えているからではないだろうな。

 ありえそうで困る。【忍耐】の塔主も酒ばかりは【忍耐】できないということか。



「明日のパレードで二日酔いとかやめて下さいよ?」


「どれだけ飲んだって二日酔いなんかしたことないで。まぁいざとなればウリエルに神聖魔法かけてもらうわ」


「大天使の無駄使いじゃなぁ」



 二日酔いの回復に大天使を使うのか……なんとなくウリエル殿に同情してしまう。



「あ、そういえば結局ドロシーさん、ウリエルさんはパレードに出すのですか?」


「うーん、悩んどったけどもう一年は我慢しようかなと」


「出すメリットも大きいですけど、今は出さないメリットもありますからね。そこはドロシーさんにお任せしますわ」


「まぁ相当な塔主にバレているじゃろうけどな。召喚済みなことくらい」



 おそらくドロシー殿がウリエル殿を召喚していることは周りの塔主にバレている。

 大天使は七美徳ヴァーチュの目玉だし、先んじて召喚したい固有魔物の筆頭だ。

 【忍耐の塔】は二年目だから普通ならばSランク固有魔物など召喚できるわけがない。

 しかし今までの戦績を見るに、召喚していて当然だろうとも思われているだろう。


 それを隠すことで『二年目で召喚できるわけがない』と勘繰る塔主と塔主戦争バトルしやすい、ということだろうな。

 【女帝】と【赤】の影に隠れて【忍耐】を弱いと踏んでくれるならば好都合と。

 つまりドロシー殿は来年も塔主戦争バトルを仕掛けたいと思っているということだ。



 しかしパレードに出すことのメリットは大きい。

 民衆の話題になって集客につながるのはもちろんだが、塔主や眷属が集まる中で<鑑定>が行えるのだから。

 高ランク塔主の抱えている眷属のステータスやスキルを覗けるというのはかなりのアドバンテージになる。だからウリエル殿を連れ出したいということだ。


 とは言え高ランク塔主は「覗かれても構わない」というスタンスで臨んでいるはずだ。

 レイチェル殿や【聖】のアレサンドロは堂々と天使を連れているし、【節制】のシンフォニア伯はよく分からない魔物を連れている。

 別に<鑑定>されても問題はないのだろうな。自信の表れなのかどうかは分からないが。



 そう考えるとウリエル殿を出して<鑑定>させたところで『情報は得られるが突破口にはならない』と言えるわけだ。

 実際レイチェル殿もステータスに関しては「情報の価値としては目安程度。戦況を変えるようなものではない」と言っているらしい。

 ドロシー殿もそこら辺を考慮して、だったら今年は出さないでおこうと判断したのだろう。

 あくまで塔主戦争バトルを仕掛け、受理されるのを優先したと。



「シャルちゃんは今年もエメリーさんだけなん?」


「そうですね。さすがに妖精女王ターニアさんとか見せたくありませんし。まぁファムで<魔力感知>はしてもらいますけど」


「アデルちゃんは?」


「わたくしもジータとフェニックスクルックーですわね。昨年と同じく」


「フゥは?」


「わしもゼンガー爺だけじゃな。<悪意感知>はできぬが<魔力感知>でどうにかするしかあるまい」



 私も事前に聞いたが塔主が集合するパレードで一番気を付けなくてはならないのが<限定スキル>だという。

 【風】のヴォルドックのように接触することで発動する限定スキルもある。

 レイチェル殿の<世界を見渡す目>のように実際に視界に入れることで発動するものもあるだろう。


 もし人混みに紛れて限定スキルをかけられるようなことがあったらたまったものではない。

 だからこそ警戒のために<悪意感知>や<魔力感知>といったスキルが重要になるのだ。


 もちろんシャルロット殿の<付与魔法>やフッツィル殿の虹竜アイダウェドブリングによる咆哮なども防衛策にはなるのだろうが、個々人でもなるべく予防しておくということだな。



「シルビアちゃんはどうすんの?」


「私はフェンリルシルバに加えてジャックフロストジャックを連れていこうかと」


「まぁそれが無難じゃろうな」



 シルバは民衆への顔見せと人気取りを兼ねて連れて行く必要がある。ジャックは<付与魔法>と<魔力感知>だな。Cランクの精霊種ならば見せても問題あるまい。

 <悪意感知>持ちでもさすがに氷貴精レーシーは連れていけないだろう。まぁ眷属にもしていないのだが。



「んでノノアちゃんは?」


「わ、私は……またフェアリードラゴンに変化させたミミックスライムペコですかね……。エンジェルスライムパルクは見せたくありませんし……」


「まぁそうでしょうね。これでパルクやヨグ=ソトースヨギィを連れて行くとなれば止めているところですわよ」


「ならまたファムの<魔力感知>とシャルちゃんの<付与魔法>で何とかする感じか」


「す、すみません、よろしくお願いします」



 パルクは護衛として優秀な能力を持っているらしいのだが、誰も知らないAランク固有魔物のスライムだ。

 これこそ<鑑定>されるわけにはいかないだろうし、隠しておいて正解だろう。ヨギィなど以ての外だ。


 しかし同盟に加入してからあのフェアリードラゴンの正体がミミックスライムと聞いた時は驚いた。

 あの時は冒険者ギルドでも話題に上っていたのだ。スライムしかいないはずの【世沸者】にフェアリードラゴンがいたとな。


 私とてまさかミミックスライムがそのような変化を出来るなど知らないし、それ以前に【世沸者】の神造従魔アニマは″普通のスライム″だと思っていたからな。

 今にして思えばFランクの魔物が神造従魔アニマになることのほうがありえないと思うわけだが。



 それから色々と話し込んだが、主に明日の打ち合わせという感じで終わった。

 私としては初めてとなるパレードだ。

 今までは塔主の乗った魔導車を眺めるだけだったのだが、今度は見られる側になるのだな……。


 なんとも気が重く感じる。

 色々と考えなければいけないこと、注意しなければならないことが多いのだが……それ以上にドレスを着て人前に出るというのがな……。



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