425:同盟戦を終えて~輝翼編~



■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ

■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主



「ゼンガー爺は見ていてどうじゃった」


「素晴らしい勝利だった、というだけでは満足できないと?」


「そりゃそうじゃろ。課題の見えない塔主戦争バトルなんぞ何の意味もないわ」



 【空城】同盟との塔主戦争バトルは結果だけ見れば完勝と言ってよいじゃろ。

 しかしそれだけで終わらせては成長など出来ぬ。わしも、同盟もな。


 課題は必ず見つかるものだし、それを同盟全体で共有しておかねばならぬ。

 まぁあの五人はこの程度の勝利で驕るような連中ではないがのう。勝って良かった、で済ませるわけにもいかんのじゃ。



 今回、神賜ギフト禁止という条文のせいでゼンガー爺の出番はなくなってしまったが、だからこそ最初から最後まで画面で見続けることが出来た。

 普段と違う立場だからこそ見えるものもあるじゃろう。



「ほっほっほ、そうですな。今回はアデル様とシャルロット様に救われた、というところですかな」


「うむ、その見解はわしと同じじゃな」



 条文のやり取りの段階から今回の塔主戦争バトルに一番乗り気だったのがアデルじゃった。

 神定英雄サンクリオを使えないという条文を飲んででもこの塔主戦争バトルを成立させよう、早く斃そうという意思が見られた。

 アデルは「【節制】同盟戦を見据えて」とか言っておったが理由はそれだけではないじゃろう。


 メルセドウが戦争の危機にあるとして、ラッツェリアの出鼻を挫くには【空城】同盟を叩くべきじゃろうしな。

 それは【節制】同盟や【空城】同盟がアデルを狙うのと同じじゃ。

 本国での動きを有利なものとするために塔主戦争バトルで斃しておきたいと。



 おそらくそれ以外にも理由があると思っておる。とにかくアデルは様々な理由をもって「神賜ギフト禁止」を受け入れた。


 それに伴い塔主戦争バトルの作戦も決まっていく。

 つまり今回の塔主戦争バトルの勝因――策の根幹にあったのは常に前向きだったアデルのおかげと言ってもよい。


 ゼンガー爺が「アデルに」と言っているのはそのためじゃな。

 申請が送られてきたところから準備段階に至るまで全てに関与していたのがアデルじゃから。

 何なら【空城】同盟が申請する切っ掛けを創ったのもメルセドウでありアデルじゃからのう。今は感謝しておく。



 それとシャルじゃが、こちらは【女帝の塔】での防衛とハルフゥの指揮による貢献が大きすぎる。

 準備段階までの主役はアデルじゃが、塔主戦争バトルが始まってから攻守共に引っ張っていたのはシャルじゃろう。


 今回、防衛策のほぼ全てを立案したのがシャルじゃ。自分の塔を使うのじゃから当然とも言えるが同盟戦ストルグでここまで主導権を握るのは珍しい。


 【影の塔】戦で攻め込まれたことが活きている。

 あそこで色々と試したからこそ【女帝の塔】を大改装し、″塔主戦争バトルで有効な【女帝の塔】″を創り上げた。

 それに自信があったからこそ防衛を一手に担ったのじゃろう。



 わしやアデルもそれぞれの塔主戦争バトルで油を使った戦術を行ったが、それも発端はシャルが言い出したことじゃ。もっと言えば発端はレイチェル殿なのじゃが今は置いておこう。


 シャルは【女帝の塔】で油を使った策をやりたいと考えてはいたが、【白雷】戦でも【正義】戦でも結局使うことはなかった。

 だからわしらに試させ、今回の塔主戦争バトルでは絶対に作戦に組み込もうとしておったのじゃろう。


 実際、その戦果は見事と言う他ない。

 大部隊の地上戦力はほぼ全てがダメージを受けたし、それがあったから四階層でも油を使った時に敵部隊が余計に警戒したのじゃから。


 おまけに使った魔物は低ランクの者が数体だけ。油はTPで調達したじゃろうが必要経費と言えないほどに安い。

 それでC~Aランクの魔物に被害を出すのじゃから大戦果と言ってよいじゃろうな。



 今はその影も若干薄れたが、元々【女帝の塔】の下層は低コストで戦果を挙げるコンセプトを持っておった。

 今回の防衛、四階層あたりまでは正しくそれを実践していた。

 策を立案するクイーンたちの存在もあるじゃろうが、二年間で積み上げてきた経験が今回は形になっていた。わしはそう思う。



 五・六階層を決戦場にしたいと言い出したのもシャルじゃ。

 広く布陣できる階層がそこしかなかったわけじゃが、″階層移動″などもあるし、やろうと思えば上層を決戦場とすることも出来た。

 しかしそれもせず、四階層までで色々と試し、ある程度削れれば問題ないと″階層移動″も使わずにそのまま迎撃した。

 実際、四階層までで想定以上の戦果を挙げていたのじゃからシャルの考えは正しかったということじゃろう。



 それと攻撃面で言えばハルフゥの存在があまりに大きすぎた。

 わしら全員が同盟全体での戦力把握を出来ておらんというのが今回の塔主戦争バトルでの一番の反省点だったのじゃが、いざ魔物を配置しようとなった時、わしらは一抹の不安を抱えていた。


 【空城】同盟と戦うためには魔物の質が重要になる。

 必然、固有魔物が多くなる。つまり指揮官が過多となるのじゃ。

 全体の魔物構成を見てもその指揮官の配下ばかり。総数千体の九割以上が「無数の固有魔物とその配下」となるわけじゃな。



 同盟全体で固有魔物は二十以上にもなる。

 それが配置されれば確かに壮観と言うか「わしらも成長したなぁ」という気分にもなるのじゃが、客観的に見ればバラバラの寄せ集め集団にすぎぬ。

 役割も違う、戦い方も違う、移動続度も属性も全てがバラバラじゃ。


 防衛側は何とかなる。布陣して待ち構えるだけじゃからな。

 向かって来る敵を相手にするしかない。



 しかし攻撃側は問題じゃ。数百体のバラバラな集団。細かすぎる小部隊をまとめあげる指揮官が必要じゃった。

 神定英雄サンクリオがいない状況でそれが可能なのはハルフゥしかおらぬ。


 【女帝の塔】の部隊というのも個性豊かなクイーンがそれぞれの部隊を形成しているという特殊なものじゃ。

 部隊をまとめ群れの強さを誇るのがクイーン種というものじゃが、いくつかのクイーン部隊をさらにまとめるというのは本来、不可能に近い。


 じゃから【青の塔】や【霧雨の塔】【魔術師の塔】にしても多数のクイーン部隊を抱えておきながら他部隊との連携というのは見られなかった。


 そういった者たちをまとめるのは塔主か、塔主にほど近い神定英雄サンクリオに限られる。それは召喚された魔物の本能のようなものじゃ。塔の魔物は塔主の配下であると。



 【女帝の塔】にはエメリーという絶対的な存在がいる。

 異世界では個性豊かな侍女集団をまとめる侍女長という役職だったらしいが、それがバベルに召喚されても活きているということじゃな。

 <統率>や<教育>といったスキルも持っておるようじゃし、それも一因ではあるじゃろう。


 シャルはかねてよりエメリーに頼り切っている現状をどうにかしたいと考えておった。

 あまりに隔絶したエメリーという存在に依存しておったのじゃ。それはわしら同盟の面々も同様じゃが。


 塔主戦争バトルとなれば指揮・斥候・盾役・メインアタッカーと全てにおいて頭五つ分くらい抜けた力を持っておる。


 攻撃でも使いたいし防衛でも使いたい。しかし神定英雄サンクリオの本分は塔主を守ることじゃ。出来ることならシャルの隣から離さんべきじゃろう。

 シャルはそう考え、エメリーの代役としてクイーン部隊をまとめる総指揮官、ハルフゥの育成に取り組んだ。



 海姫ハルフゥは本来「海の魔物を部隊とした時の指揮官」じゃ。純粋なクイーン種とは違う。クイーン種は自身の下位種族しか<統率>出来ぬからな。

 その点、海の魔物というのは海の中にいる水棲生物、海鳥、浜辺などにいる海洋生物と幅が広い。

 それに加え神聖魔法使いという後衛に必ず配置される役職もあって、シャルは総指揮官に相応しいと思ったわけじゃな。


 とは言え、海の魔物とクイーン種の部隊というのは訳が違う。当然じゃがな。

 そこを補うためにエメリーの<教育>を施したわけじゃな。

 エメリーが直々に「【女帝】軍はこうしてまとめるのだ」と教え込んだ。

 塔主戦争バトルの経験も積ませ、実戦で使えるようにまで仕上げたのじゃ。



 今回の塔主戦争バトルではそれが活きた。

 固有魔物を寄せ集めただけのバラバラな集団で、総指揮官として君臨し続けた。

 【女帝】軍以上にまとめづらいであろうことは一目瞭然。わしらも総指揮官を置くこと自体、渋っていたほどじゃ。

 しかしシャルはハルフゥに一任し、ハルフゥはそれを為した。これは見事と言う他ない。


 攻撃陣全体に機会を与え、被害を最小限にし、勝利して見せた。

 それだけで満場一致の殊勲じゃろう。



 というわけで、一見すると完勝に見える【空城】同盟戦もアデルとシャルによってもたらされた勝利なのだと、そういうことじゃ。


 この勝利を無駄にするわけにはいかん。【節制】同盟戦を見据えればわしも戦力の強化を図らねばな。


 とは言えもうすぐ後期の塔主総会がある。

 そこで【輝翼の塔】はBランクとなるじゃろう。戦力的な不足がなければ、じゃがな。


 本当はそれを待って魔物を召喚したい。配置する階層がなければ召喚もしづらいからのう。

 固有魔物とその配下をまとめて揃えるには今の【輝翼の塔】では足りぬのじゃ。



=====


【人形の塔】パペットマスター(★A)、人狼王ガストン(★S)

【隠者の塔】陰魔シュルガット(★S)、シャドウデーモン(A)、デーモンナイト(A)、デビルプリースト(B)、デビルキャスター(B)、シャドウアサシン(C)等

【空城の塔】エンシェントヴァルキリー(S)、空竜フェンザウォール(★S)


=====


 ここら辺の魔物じゃな。まぁ空竜についてはなんとなく残っていたので取っただけじゃが。


 召喚したい第一候補はシュルガットの悪魔部隊。

 うちには神聖魔法使いが多いから相性は悪いかもしれぬが天使を抱えているわけではないからのう。十分に運用は可能じゃと思っている。


 あとはどの魔物も魅力的じゃな。

 現戦力とのかみ合わせを考えればエンシェントヴァルキリーを優先したいところではある。



 問題は塔主総会前に【節制】同盟と戦うことになった場合じゃ。

 そうなったら配置どうこうなど無視してとりあえず戦力補強を図るしかない。

 戦う時期ばかりはアデルにも分からぬからのう……神のみぞ知るというところじゃな。


 それがバベルの神ならば、あまり良い予感はしないのじゃが……。



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