220:輝翼の塔が攻め込まれています!
■アデル・ロージット 18歳
■第500期 Cランク【赤の塔】塔主
【魔術師の塔】の軍勢は五階層の『紅蓮洞窟』を抜け、六階層『溶岩地帯』へと入っています。
第三陣として投入されたマンティコアたちはまだ合流していませんが気にするまでもありませんわね。
合流したところで誤差ですから。
六階層『溶岩地帯』、七階層『サンゴ草湿地』、八階層『血の沼地』、この三層が勝負所と踏んでいます。
屋外地形ですので<赤き雨の地>が使えますしね。
すでに気象は『常時濃霧』にしていますので敵方の足取りは非常に遅く、こちらは色々と仕掛けやすい状況にあります。
当初は『溶岩地帯』で濃霧などできるものか、水分が蒸発するのではないかと思いましたが、どうやら併用できるようで。
限定スキルだからなのか、それともバベルの塔だからなのか、自然の摂理が全く通用しないことに軽く恐怖しましたわ。
とは言え今は恩恵と捉え、その利を十分に享受するのみ。
ダウンノーク伯にはせいぜい苦しんで頂きましょう。
『溶岩地帯』は元々熱気と足元の悪さがウリの地形です。
溶岩は川のように流れ、溶岩池も点々としています。さらに地面はゴツゴツとして歩きにくい。
そこに火属性の魔物が襲い掛かるという塔構成ですわね。
本来ならばここのボスに
溶岩の中からラヴァゴーレム(C)、ロッククラブ(D)、クラッグキャンサー(B)などが襲い掛かり、地上にはファイアウルフ(C)、レッドボア(C)、ファイアリザード(B)などが闊歩するというのが通常の魔物配置。
今回は濃霧状態で尚且つ敵も強いということで、これらの魔物には足止めと削りを徹底させています。
遠目から魔法を撃つだけでも向こうからすれば「霧の中から突然撃ってきた」となるので十分な働きになりますしね。
それに襲い掛かるにしても狙い所を絞らなければいけません。
ネクロマンサー(B)とスケルトン部隊、ウィッチクイーン(A)とハイウィッチ部隊、ハイフェアリー(C)、この辺ですか。
リッチ(A)や高位精霊などはどうにも出来ませんから、弱いところから削る形にします。
ただ、配置している魔物はそのような狙いでも、配置
この子には濃霧に紛れて上空遠目から魔法攻撃してもらいます。引き撃ちのような感じで。
今回の防衛の環境――<赤き雨の地>を使えて、敵の飛行戦力が限られている状況というのはクルックーが最も活きるシチュエーションなのです。これを使わない手はありません。
そういうわけでクルックーには六~八階層で常に相手の先回りをして、逃げながら遠距離攻撃をするように指示をしています。
火魔法で範囲攻撃をするも良し、神聖魔法でリッチかエルダーリッチ(S)を狙うも良しです。どこを狙っても問題ありません。
地形と限定スキルを使った一方的な蹂躙……とまではいかないでしょうが、そこそこ削れるのは間違いないでしょう。
「すごいですね、これは……【魔術師】相手にここまで策がはまるとは……」
「この策でしか戦えないと言ったほうが正しいですわよ。これが【青】や【霧雨】であればクルックーだけで十分かもしれませんが、【魔術師】の軍勢が相手では壊滅など無理ですしね。足止めと削りしか出来ず、時間をかければ上層まで攻略されてしまいます」
エルダーリッチの存在とAランクの魔物が多いというのが厄介極まりないですね。
ジータやルールゥなどを入れても正面から戦いたくはない相手です。
これで【魔術師の塔】の防衛戦力の数分の一なのでしょうから恐ろしい話です。
逆に言えば、この程度の軍勢で凌げないようならそもそも【魔術師】と戦うべきではないということでしょう。
「今は地形とクルックーの攻撃に押されていますがしばらくすると慣れるはずです。七階層も濃霧とクルックーの攻撃は継続しますが、また別のアプローチが必要になりますわ」
「そこで私の魔物ということですか」
「主に
シルビアさんの戦力が一番活きるのは七階層の『サンゴ草湿地』でしょう。熱いところは苦手でしょうし。
そこで草むらに隠れてからの奇襲……というのがいいですわね。
わたくしの魔物では斃しにくい
「分かりました。では配置とタイミングは指示を頂ければ」
「ええ、お願いしますわ。今は戦況を見守りましょう」
苦境に陥った敵部隊がどのように立て直すのか、対策するのか、どう戦ってどう進軍するのか。
今はそれを確認しておきましょう。
■ザリィド 34歳
■第486期 Bランク【霧雨の塔】塔主
メイド連中が【霧雨の塔】に入り込んでしばらく経った。
一階層の転移魔法陣から六階層から探索開始。もうすぐ十一階層ってとこだ。
普通の探索に比べりゃ断然速いが【宝石の塔】の時と比べりゃ随分と遅い。
やはり面子が変わったことも関係あるだろうが、俺の塔が【宝石の塔】の何倍も優れてるってことでもあるだろう。
とは言え、罠を仕掛けても無駄だし、魔物を
メイド・爺・フェアリーのクイーンの三人が特に厄介だ。
メイドは言わずもがなだが、爺はどうやら魔法使いではなく神官らしいな。神聖魔法を使いゴーストどもを軒並み斃していく。
フェアリーのクイーンは四属性魔法と光魔法。やはり相応の魔法力を持っているみたいだ。
こいつらが前線に張っているおかげで足止めすらままならない状態。
ならばと少し離れた後続に突っかかってみたが、こちらはこちらで連携が上手い。
サキュバスクイーンとラミアクイーンが自分の配下とAランクの魔物を指揮して処理していく。
BランクのクイーンがAランクの魔物を操るのもおかしいし、それでこちらのBランクや、ましてやAランクの魔物まで斃されるのは意味が分からん。
アシッドナーガ(A)一体、ミストリザード(B)二体、ポイズンボア(C)五体の群れだぞ?
メイドたちに斃されるなら分かるが、なぜ後続にやられるんだ。
色々と試した結果、削るのは魔力に限定してそれ以外は邪魔程度に専念することにした。
その上で十三・十四階層でケリをつける。
ここで一気に叩くべきと判断した。
というのも先に【輝翼の塔】を落とす算段がついたからだ。
例の『樹氷雪原』をやっと抜け、最後の階層、三階層ぶち抜きの森まで進められたのだ。
フレスベルグ(A)の群れにいくらか数を減らされたが、ここさえ突破すれば即ち攻略したも同じ。
そうすれば
【輝翼の塔】の七・八・九階層は手前と左右が森で、中央と奥が平野となっている。
そこにいるのが固有魔物であろう白いドラゴンだ。これが大ボス。
他に戦力として残っているのは同じく固有魔物の白い大鳥、三・四階層にいるはずだったガルーダ(A)、あとはヴィゾフニル(B)くらいしかいないはず。
固有魔物二体が固まったのは厄介だがこちらにはSランクのスピリットレギオンとAランクが何体もいる。
戦力的に有利なのには違いない。
そう思って俺はさっさと攻略するよう、指示を出した。
階段を昇れば確かに聞いていた情報通りだった。目の前は森で、天井高は三階層分。
しかし森を進んだ先に変化があったのだ。知らない情報に直面したと言うべきか。
手前に広がる森の中央。そこには巨木が聳え立っていた。
周りの木々より明らかに太くて高い。しかも……幹は真っ黒で、葉は完全に枯れている。
画面で見ている俺にはただの枯れ木にしか見えなかった。
だがラミアクイーンからの眷属伝達で気付かされた。
こいつは――魔物だ。
巨大な枯れ木のトレント……! まさか三体目の固有魔物……!?
そんなバカな! じゃあ【輝翼】は
これのどこが二年目のCランクだ! これのどこが同盟の四番手だ!
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 51歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
数月前に【傲慢】同盟を斃し、わしは色々と塔と強化していったわけじゃ。
しかしその先の強化プランはすでに持っておった。
【砂塵】の報酬であるククルカン(★A)を召喚したいと。地上部隊の攻撃役が欲しかったからのう。
まぁ大きさ的に攻撃陣では使いづらそうじゃが仮にダメでも防衛陣での地上攻撃役で使いやすいと思っておったわけじゃ。
ところが【魔術師】同盟のことで慌ただしくなり、強化計画も崩れ、今回の
そこでわしはククルカンではなく、【死屍】の報酬であるネクロトレント(★A)を召喚することにしたのじゃ。
ククルカンは攻撃役じゃがネクロトレントは完全に守備役。
動きは遅いし、配置するにも天井高が必要ということで使いどころはわしの塔の防衛しかないというピーキーなヤツじゃ。
しかしその防御力はエメリーにして「今までの敵で一番硬い」と言わしめるほど。
だからこそTPを空にしてまでこいつを召喚したわけじゃ。
ちなみに今回の
置き場はブリングの手前の森しかない。
敵からすればこの階層で最初に接敵する魔物じゃから袋叩きにあって斃されてしまうかもしれん。
それでも足止めと削り要員としては十分すぎる働きが期待できる……使い捨てるには痛い出費じゃが仕方あるまい。
だがわしも好き好んで使い捨てる気はない。
敵がネクロトレントに気をとられ森に留まるようであれば、空からエァリスとブリングに襲わせる。
ついでに後ろからはシャルの軍勢――ヴィクトリア、ナイトメアクイーン、ウィッチクイーンが迫ってきておる。
それらが一斉に攻撃すれば敵を上下左右から包囲するも同じじゃ。
まぁネクロトレントも巻き込まれるかもしれんが、それこそただで使い捨てる気はないということじゃな。
死ぬならばせめて敵を道連れにしてくれと。わしとて塔主らしく、やる時はやるのじゃ。
敵方は確かに精強。Sランクが一体とAランクが十体ほどもいる。
Bランク上位の【霧雨の塔】とはかくも恐ろしい力を持っていると、それは間違いない。
しかしこちらの包囲が完成すればSランクが二体、Aランクが四体、そのうち固有魔物は四体じゃ。
地形の有利もこちらにある。これで負けるはずがない。
だからこそゼンガー爺とフィルフを攻撃陣に回したのじゃ。確実に守り切った上で神聖属性使いを攻撃に回さなければとな。
『フゥさん! ヴィクトリアさんたちが追いつきます!』
「あい分かった! ブリングとエァリスの攻撃に合わせてくれ! ネクロトレントを巻き込んでも構わん!」
『了解です!』
よし、【女帝】軍も間に合った。これで防衛は問題ない。
あとは攻撃陣に集中せねばな。
エメリーがいるから安心はしておるが、残る心配事は……ザリィドの限定スキルくらいかのう。
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