405:メルセドウは大変なようです!



■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



『えっ、メルセドウって今そんなに大変なのですか!?』



 全く困った話ですわね。お爺様も元気すぎますし、陛下もここぞとばかりに張り切っておられるようです。

 メルセドウの内紛はわたくしの与り知るところではありませんのでどうにも出来ません。

 さすがにわたくしの方から「もうちょっと待って下さい」とも言えませんし。


 陛下からすれば貴族派を排したこの機にもう一手打とうという算段なのでしょう。

 それはメルセドウにとって大事なことと承知はしておりますが、少なくともお爺様くらいはこちらを気にして欲しいものですわ。



 中立派を査察するということは、必ず膿を出すと宣言しているようなもの。

 膿を持っていない貴族などほとんどいないでしょう。お爺様とて怪しいものです。

 いずれにしても中立派の貴族は首に剣を突きつけられた状態であると言えます。


 シンフォニア伯爵家、パッツォ侯爵家、カルトーレ子爵家、マーティム子爵家。【節制】同盟の四塔主のご実家も同様ですわね。

 特に中立派上位のシンフォニア伯と、次席であるパッツォ侯のお子様、デルトーニは大変でしょう。

 スーロン侯への害は直接関わってくる問題ですから。



『つまり【節制】同盟から仕掛けられるかも、ということか?』


「十中八九、塔主戦争バトル申請が来ますわね。その時期は読めませんが」



 中立派がこの状況を打破しようと思ったら、一番有効な手はわたくしを斃すことです。

 王国派筆頭、ロージット家のアデルを中立派が討った。その事実は中立派の後押しになりますから。


 しかし幸いなことに【戦車の塔】と【魔霧の塔】はランクアップしたばかり。【戦車】は特に塔が安定していないはずです。

 とても塔主戦争バトルなど出来る状態ではないでしょう。

 現状、戦うとすれば【戦車の塔】を使う交塔戦クロッサーなどは考えられません。

 やるならば今の戦力をかき集めての同盟戦ストルグ一択になります。



『んじゃあ却下すればいいんとちゃうの? 勝手に自滅するやん』


「その通りですわね。ですが向こうは是が非でも塔主戦争バトルを成立させようとするでしょうから、そうなると同盟戦ストルグの条文がこちらにとってかなり有利なものになるかもしれません」


『なるほど、好機と言えば好機なわけですか』



 こちらが却下し続けて時間を稼げば、中立派が危機を脱する手段も限られます。

 まず間違いなく中立派が痛手を負う展開となるでしょう。

 実家が危機的状況となった【節制】同盟は通常通りの塔運営など出来ますかね? わたくしは無理だと思います。


 メルセドウから離れた状態で貴族として家のことを考えなければいけないのですから、その心労は相当なものでしょう。

 もしかしたら実家が潰れる、自分が貴族ではなくなる、なんてこともありえますから。

 子爵家の次男・三男である【蒼刃】【魔霧】はそれほどでもないかもしれませんが、【節制】【戦車】は大変でしょうね。


 一年後、【節制】同盟が存在しているかも分かりません。もしかしたら二塔か三塔に減っているかもしれません。


 その間に我々は塔を成長し続けますし、【節制の塔】との差もどんどん縮まることでしょう。

 ですので時間はこちらに一方的に有利に働くのです。



 逆に【節制】同盟からすれば時間をかけてはいられない。

 何としてでも塔主戦争バトルを成立させ、わたくしを斃さなければなりません。陛下の剣が振り下ろされる前に。


 ならば同盟戦ストルグの条文をかなり不利なものにしてでも、とりあえず成立させて戦うしかありません。その上で勝つしかないのです。

 何ともご苦労の堪えないお話ですわね。わたくしも同情してしまいますわ。



「まぁ今は何とも言えませんわ。その時のために心構えだけはしておくと言うことと、わたくしの国がご迷惑をお掛けしますと頭を下げることくらいしか出来ませんわね」


『私も謝ります。メルセドウがご迷惑をお掛けして申し訳ありません』


『いえいえ、私もエルタート貴族が散々ご迷惑をかけているので……アハハ……』



 【節制の塔】は普通に戦って勝てる相手ではありませんのでね。

 勝てるタイミングを見極めて受理する必要があります。

 もし今回の一件でシンフォニア伯が首を差し出すような条文を出して来たら、それを逃すのも勿体ないでしょうし。

 その際は遠慮なく狩らせて頂きましょう。



 とは言え【聖】同盟からも申請は来るでしょうし色々と忙しくなってきましたわね。

 どちらも却下前提ではあるのですがいずれ戦うことは確実。

 ある程度の対策はしておかなければなりません。



 一番怖い限定スキルから考えてみますと、【節制】同盟がAABBの四塔ですから、大体六個前後。【聖】同盟がSABBの四塔ですから、大体七個前後持っていると予測できます。


 それだけあれば諜報型限定スキルの一つくらいは持っていそうに思えますが、少なくとも【聖】同盟は【女帝の塔】の戦力を把握出来ていないと思われます。だから【正義】に戦わせたのだろうと。

 まぁそれも【大軍師】のフェイクの可能性もありますから油断は出来ないのですが。


 いずれにせよ、不透明で戦局を大きく変える力を持つかもしれない限定スキルをそれだけ持っているというのは正直かなり怖いものです。

 【傲慢】の『強制平伏』や【魔術師】の『魔法使用不可』といったものが一つでもあればこちらにとって致命傷ですからね。

 対策を考えようにもどうにも出来ない部分もあるのですが、それでも考えておいて損はないでしょう。



 戦力に目を向けてみますと、【節制の塔】【聖の塔】【雷光の塔】の三塔が図抜けていると思われます。

 それ一塔で我々六塔に匹敵するのではないかと。考えすぎですかね。

 ですが【聖の塔】に関しては間違いなく我々六塔を合わせたものより上でしょう。


 これを打開するには局所的な戦力で対抗するしかありません。

 エメリーさんやヨグ=ソトースヨギィといった単体戦力ですわね。

 総合戦力で負けていても結局は強者同士の一対一になるのですから。バベルの塔主戦争バトルというものは。



 敵戦力として確定しているのは新年祭のパレードで見た眷属ですわね。


 【聖】同盟には二体の大天使がおりますし、それでなくても【聖の塔】は神聖属性特化の塔ですから多くの天使や聖獣がいるものと思われます。

 【雷光】は雷・光属性特化、【鏡面】は騎士系・アーマー系が多く、【鋭利】は剣士系、斥候系が多いと聞きます。

 【聖】同盟は属性的な偏りがあるものの一応バランスを整えている印象ですわね。



 一方で【節制】同盟ですが、まず【節制】のシンフォニア伯がパレードに連れていた魔法使いのような魔物が分かりません。

 【節制の塔】の目玉と言えるSランク固有魔物は【節制の天使ミカエル】のはずです。

 それは周知の事実であるのにわざわざ他の眷属を連れてくる理由が何かしらあるはずなのです。


 同盟塔に目を向けますと、【戦車】は騎士系と獣系、【蒼刃】は騎士系と風・水属性、【魔霧】は魔法使い系と風・水属性。かなり偏っておりますわね。

 ただ同盟戦ストルグで戦うことを考えれば、偏っているが故に編成しやすいという利点もあります。

 【蒼刃】の最高戦力と【魔霧】の最高戦力を同時に戦わせても干渉せずに連携がとれる、なんてこともありえますから。



 あとはもう塔構成やら何やらは、侵入者の情報に頼るしかありませんわね。

 それで得られる情報も下層のものか、せいぜい中層くらいまででしょうけどないよりはマシです。



「とりあえずは自塔戦力の強化を図るというのが一番でしょう。早くに解決したいとも思いますけれど焦ったら負けますわ」


『地道な塔運営か。なんとももどかしいもんじゃのう』


『あの連中と戦う前にどっかとバトってガツンとTPが手に入ればいいんやけどな』


『そ、早々都合よく相手なんかいないですからね……』



 高ランクの塔を有していて、戦えそうな状態にあり、申請しても受けてくれそうな同盟ですか。

 考えられるのは【黄】同盟か【悪魔】同盟といった最近話題の同盟と、他には【空城】同盟などがありますわね。


 【空城】同盟はABCDの四塔同盟でラッツェリア公国の貴族関係者が集まっている同盟ですわね。

 【空城の塔】がAランク16位ということで飛び抜けてはいるのですが同盟全体で見ればあまりパッとしないと言いますか、目立たないと言いますか……いわゆる名塔もないですしね。

 非常に地味であまり話題にも出ないような同盟だと思います。狙い所と言えば狙い所ですわね。


 【黄】同盟は【橙の塔】がまだ未熟ですから戦えないでしょうし【悪魔】同盟は……わたくしの中では最も気味の悪い同盟です。正直あまり戦いたいとは思えません。



 【悪魔】も【風水】もそれ一塔で完成されている塔のはずです。だから長年に渡り同盟を結ばずAランクにまで上り詰めたのですから。

 人種も出身も違う塔主二人、塔の特色もまるで違います。

 手を組むのには何かしらの理由があるはずですし、それがなぜ今、と考えても答えなど全く出ません。


 怪しいですわね……今まで特に意識していなかったのに同盟を組んだ途端に怪しくなりました。

 おかげで今ではわたくしの中で【黒】と同じくらい理解不能という位置づけですわよ。


 まぁあそこは無視に限るでしょう。あれの対策を考えるより【節制】同盟と【聖】同盟のことを考えているほうがよほど建設的ですから。

 一先ずはわたくしも【赤の塔】の運営に注力しておりましょう。

 どうせすぐに慌ただしくなるのですしね。



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